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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

二人のバレンタイン(麻巳SS)

 恋人同士になって一年弱。美大に通う麻巳が、2月14日には撫子へ来ると言ってきた。
「楽しみにしててくださいね」
 麻巳の、はにかむような笑み。その意味するところは、鈍感大魔神と異名をとる浩樹といえど気付かぬ訳が無い。
「何のことだか分からんが、そうさせてもらうよ」
 とりあえず惚けてみせたものの騙せたとは思えない。しかし麻巳も心得たもので、ただ意味深な笑みを浮かべるのみだった。



「竹内先輩!」
「う、受け取ってください!」
「私もっ!」
 贈る側のはずの麻巳は、バレンタインデー当日の放課後に美術室へ顔を出すと同時に山のようにチョコを受け取ることになってしまった。
 可愛い後輩が慕ってくれるのを無碍にするわけにもいかず、愛想笑いを浮かべながら退散し、美術準備室へと全てのチョコを運び込む。手伝ってくれた現部長の田丸ひかりが自らもチョコを渡してから美術室へ戻ると、麻巳は入れ替わりで準備室へやってきた浩樹にだけ疲れた笑みを零した。
「どうしましょうか、これ」
「食べればいいじゃないか。モテモテで羨ましい限りだぞ?」
 本音では『貴方も同じくらい貰っていたでしょうに』と返したいところだが、浩樹の受け取ったチョコについては見ないことにしたい。
「女の子にモテてどうするんですか」
 普段の麻巳なら文句の五つくらいは口にするところだが、今日はじゃれ合い程度であっても言い合いはしたくなかった。らしくない控えめな反撃に、浩樹の表情が探るようなそれになる。
「男にモテたいのか?」
「そ、そういう揚げ足を取るような事をですね――」
 慌てて反論しようとした、その時だった。
 浩樹はやや強引に、麻巳の口へと指を突っ込む。驚いたものの、麻巳はそのままそれを味わってみた。
 もちろん指を、ではない。指はすぐに引き抜かれた。口内に残されていた小さな箱型のそれは、とっても甘くてほんのりと苦みが香る。この時期の日本国において最も売れ行きがいい洋菓子。
「……あまい」
 単純に美味しかった。もぐもぐと口を動かし、じっくり味わう姿勢の麻巳に浩樹は得意気に胸を張った。
「ほれ、男にもモテたぞ。ちなみに全て原材料から作った、愛情たっぷりの特別製だ」
「あ、ありがとうございます……」
 普段はあまり恋人らしい言葉を聞かせてくれない人だから、麻巳はこういう時どう反応していいか分からなくなる。畏まっている麻巳の様子に苦笑しながら、浩樹はおもむろに手を差し出した。
「で、麻巳からは何も無いのか?」
「え、えっと、その、ですね……」
「察する所、手作りに挑戦して失敗したか」
「うぅ……」
「……それ、持って来てないのか?」
「え、えーと……」
「両方出せ」
「両方?」
 こう見えて、竹内麻巳は用意周到かつ小心者である。十中八九、失敗した時のためにと市販品も用意しているはずだと浩樹は睨んでいた。
 案の定、渋々といった体で麻巳が取り出したものは二つ。
 一つは、コンビニでも売っているような安い板チョコ。
 もう一つは、箱から手作りされたトリュフチョコ。
「私も原材料から作った、んですけど……」
 麻巳の実家は『腕の良い』マスターが趣味で運営する喫茶店である。父親に頼めば、日本では入手し難いカカオ豆もかなり質の良い物が手に入る事だろう。
「好きな方を貰ってもいいかな?」
「ど、どうぞ……」
 もちろん材料がどうあれ料理勘が絶望的な麻巳が作るのでは不安どころか期待するだけ野暮ってものだが、それでも浩樹は迷わず手作りチョコを選択した。麻巳は、それを不安そうに見ている。
「いいんですか。絶対、後悔しますよ……?」
「怖い事言うなよ」
「だって、つまみ食いした父が大変なことに……」
「大変って、どうなったんだ……?」
 麻巳は答えず、代わりに暗い顔になりながら視線を逸らした。
「なんか言えってばおい」
「……食べるんですよね?」
 念を押されると、更に怖くなる。固めたはずの決意が揺らぎそうになったが、浩樹は慌ててそれを立て直して何とか頷いて見せた。
「本当に、食べてくれるんですよね?」
「男に二言は無い」
「じゃあ、その、口を開けて目を瞑ってください」
 こうなると半分破れかぶれだ。浩樹は素直に目を瞑り、言われたとおり口を開いて待ちの姿勢。
 やがて、口に柔らかい感触が触れた。反射的に目を開くが、一瞬だけで慌てて閉じる。
 麻巳はチョコを、口移しで食べさせたのだった。手で食べさせられたのなら、それを上回る『恋人らしい行為』を、といったところか。実に負けず嫌いな麻巳らしい。
「ど、どうですか?」
 恐々と聞いてくる麻巳。しかし、浩樹は頭が真っ白になってしまい、チョコの味など全く分からなかった。
 それでも暫く味わってみる。どんなに不味くても覚悟していた。
 しかし、気付くと程よく甘苦い味が口の中一杯に広がっている。
「……美味いな?」
 上品で高級そうな香りが鼻を抜けた瞬間、浩樹は思わず感想を口にしていた。
「どうなってるんだ?」
 不思議そうに呟いた浩樹の様子を眺めながら、麻巳は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「浩樹さんが一杯貰いすぎなんです。その上、私までたくさん貰っちゃって……。つまり、渡すのを失敗していただけなんです」
「騙したな……?」
 笑いを堪える様な表情で、それでも文句の一つも言ってやろうとした浩樹だったが、芝居でも怒り続けるのは難しかった。麻巳が、当然のように二つ目のチョコを口に含んだのである。
「口を開ければいいのか?」
 コクコクと、嬉しそうに頷く麻巳。浩樹は文句を全て飲み込んで、素直に口を開いた。
 再び口移しでチョコを味わう。――だが、今度は先ほどと少しばかり様子が違っていた。
「ぐぉ……っ!?」
 浩樹は悶絶した。ただただ濃いとしか言い様の無い苦みがいつまでも染み出てくる。無理矢理に飲み込んではみたものの、口から喉にかけて苦味がへばり付き、いつまでも消える気配が無かった。
「不味い手作りチョコを美味しいと言って食べてもらうのも、お約束の憧れなんですよ?」
 ということは、このチョコはわざと苦すぎるものとして作ったらしい。――或いは、それを隠れ蓑にした本当の失敗作の可能性もゼロではないが。
「お、お前な……」
「どうですか?」
 有無を言わさぬ笑顔で、麻巳が問いかけてくる。
 浩樹は言葉に詰まり、数秒の後、ガックリと肩を落としながら言った。
「う、美味いぞ……。凄く、美味い……」
「まだ一杯ありますから、好きなだけ食べてくださいね♪」
 それは果たして美味いのか不味いのか。どうあれ進まねばならぬ、と決死の覚悟を決める浩樹なのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/02/13(金) 23:52:36|
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