「はぁ、はぁ、だめだ、こんなの……まずいよ……」
いくら止めても、二人は止まらない。ベッドで縛り上げられ、身動きできない俺のあそこを、競い合うように舐めあっている。
「ん……こうへい君……いや……なの……?」
「こーへー……すなおにならなきゃ、お姉ちゃん怒っちゃうぞ……?」
俺は何度も何度も駄目だと、そう言い続けている。
「こーへー、嫌とは言えないんだね」
うぅ。バレてる。
「いいよ、素直じゃないけど嘘は吐けない誠実なこーへーに、お姉ちゃんからのご褒美」
そしてかなでさんは、服を脱いで俺の上に――
「……っ!?」
唐突に目が覚めた。寝間着が汗でじっとりと重い。
良いところで――もとい、危ないところで目が覚めた。事実は無いとはいえ、陽菜に対して罪悪感を覚える。いや、もちろんかなでさんにもだが。
ともかく今日は家族サービスといこう。まずは朝の挨拶は目一杯の笑顔で。
「ん……?」
起き上がろうとした俺は、そこでやっと気付く。隣に寝ている誰かに。
布団を被ってはいるものの、この家には俺と陽菜しか住んでいないのだから誰なのかは考えるまでも無い。覗いている頭髪の色や髪質だって、間違いなく陽菜のそれだ。
今日は家族サービス。先日、本物のヨメになったばかりの陽菜。ここに寝ている。
凄く、丁度いい。
「陽菜……?」
軽く肩を触りながら、声を掛けてみる。熟睡中のようだ。いつも早くに起きて朝食と弁当を用意してくれる、出来すぎなヨメの彼女にしては非常に珍しい事である。しかし、陽菜といえど人間。そんな日もあるさ。
「優しく起こしてやらないとな」
俺は再び布団にもぐりこみ、背後から優しく抱き締める。柔らかい。小さい。でも、陽菜は局所的には非常に大きくて……。
「――あれ?」
控えめな性格には不釣合いなほど豊かなはずの膨らみが、何故だか今日は、非常に小さい。無いわけではないが、体感的には普段の半分くらいか。
一日で萎んだ? そんな馬鹿な。
俺は慌てて起き上がり、布団を引っぺがしてそこらに放り捨てた。
で、そこに寝ていたのは陽菜にそっくりな女の子。
「いやん♪」
離れて暮らすようになって髪を伸ばしたかなでさん。普段はポニーテールで差別化しているかなでさん。今は陽菜のお気に入りの寝間着を着ていて、髪も下ろしているから全然見分けがつかないかなでさん。
だが、俺には分かる。これは間違いなくかなでさんだ。
だって、小さかったし。
「こら、こーへー」
ズビシッ、と強烈なチョップを額に食らう。
「――本気で痛いです、かなでさん」
「こーへー、今失礼なこと考えた」
「すみません」
「よしよし」
撫でられた。
そんなこんなで懐か楽しい空気に浸っていると、パタパタと廊下を走る音が近づいてくる。
カチャリと、ドアを開ける瞬間だけは慌てていない陽菜が、寝室に入ってきた。瞬間、呆けた顔になる。
「ふたり、とも、何をしているの……?」
「いいいいや、これはその、あの、かなでさんが居て、それで……」
「あちゃあ。もう言い逃れは無理みたいだよ、こーへー」
「なに有りもしない事をカミングアウトしてるんですか!?」
「事実があろうと無かろうと、この後の結果は変わらないのだよこーへー君」
えっへんと胸を張るかなでさん。いや、あの、勘弁してくださいホント。
「こ、孝平君、本当に。本当は、お姉ちゃんと……?」
怒ったり、泣いたりしたらまだ分かりやすかったのに。
陽菜はといえば、不思議そうに首を傾げて聞いてくるのみだった。
それに対して、かなでさんが大仰に何度も何度も頷いてみせる。
「ごめんね~、ひなちゃん」
「ううん、いいの。お姉ちゃんが幸せなら、それで」
陽菜は場違いなくらい晴れやかな笑みを浮かべた。
「孝平君も、お姉ちゃんと幸せにね」
そう言い残して、陽菜は寝室を出て扉を閉めた。
「ちょっ……どどどどうするんですかかなでさんっ!?」
「どうするもこうするも、こうなった以上は責任とってもらわないと」
「いや何もしてないですからホントに! そもそもどうなったってんですか!?」
「む。こーへーはお姉ちゃんでは気に入らないの? 見た目はそっくりなのに。やっぱり胸か。男はやっぱり胸なのかっ!?」
「そんな事はありません。かなでさんは綺麗で明るくて優しくて魅力的な女性です――けどっ!」
「じゃあ、何が不満なの?」
「陽菜じゃないからに決まってるじゃないですか!」
「私に幸せになって欲しくない?」
「なっては欲しいですけど、」
「じゃあこーへーが幸せにしてね♪」
飛びつかれて、ああもうなんか悪い事したっけ、と人生全部が走馬灯のように脳裏を駆け抜けていく。
というか、かなでさんを説き伏せるより先に、陽菜を追いかけるべきではなかっただろうか。
となると、俺は既に致命的な選択ミスをしてしまった。
この判断は俺自身が下したもので、かなでさんに罪は無い。俺が選んだ未来こそ、この瞬間なのだ。
しかし諦めるべきか? ――否。戦わなきゃ現実と。
「かなでさん」
「ほへ?」
俺はベッドの上だという事も忘れて、かなでさんの肩を掴んで、正面から彼女の大きな瞳を強い視線で射抜いた。
「申し訳ないんですが、俺は陽菜だけを愛しています。だから、ごめんなさい」
「う、うん……」
「きっと、この状況は俺の責任もあるんです。だから誰も責めません。でも、俺だけの力で状況を打開するのは難しいと思うんです」
「そ、そうかも、ね……」
かなでさんは目を逸らして、生返事を繰り返している。
かなでさんにとっては、辛い言葉かも知れない。だとしても、いやだからこそ、俺は真剣に向き合わなければならな――
「そろそろ終わりにしようよ、お姉ちゃん。孝平君が可哀相だよ」
その時、そう言って部屋に入ってきた陽菜は、怒っているどころか申し訳なさそうに項垂れていた。
陽菜の話を要約すると、かなでさんが朝早くやってきて、ちょっとした悪戯をしようという話になったらしい。
「ひなちゃんへの愛も確かめられて、孝平の面白可愛い姿も見られて、一石二鳥!」
駄目だ駄目だと思いつつ、お姉ちゃん流話術が本気で発揮されれば強力な免疫を持つ陽菜とてその気になる事もある。かくして、事は実行に移されたのだった。
「……というわけなの。ごめんね、孝平君」
陽菜は、時々ズルイ。
こんな顔で謝られて許さずに居られる男が居るだろうか。男女の壁すら越えてくる破壊力だった。
もちろん、本人にそんな気はさらさら無いだろう。失敗そのものが少ない陽菜は、こんな顔を見せてくれる機会そのものが少ないのだから。
「まあ、いいさ。陽菜の珍しい顔も見られたんだから、俺にも役得はあったという事にしておくよ。それに、悪いのはかなでさんだろ」
「あ、あはは、あははは。ごめんね、こーへー、ひなちゃんも」
「ううん。私も乗っちゃったんだから、同罪だよ。本当にごめんね、孝平君」
出来心というのは誰にでもある。
俺だって、夜の営みでは色々と意地悪だったりするのだから他人の事は言えない。
「まあ許してもらわないとね。わたしが胸を揉みしだかれたのは本当だし」
かなでさんがポロッと漏らした一言で、正常に戻りつつあった寝室の空気が一瞬で凍りついた。
「……あれ? あれれ? なんかちょっと怖い顔になってませんか陽菜さん!?」
「そんなこと無いよ? 私、今、凄く楽しいの。面白くて面白くて、笑いが止まらないの」
確かに笑っている、陽菜の表情。
しかし、その笑みを向けられている俺の背中には、理由の分からない汗が滝の如く噴き出してくるのだった。
その後、陽菜は特別何を怒るでもなく冷たくなる訳でもなく、気にしないでと言い続けていたが、いつの間にか俺の秘密コレクションから姉モノと貧乳モノが残らず消えていた事だけは付け加えておく。
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- 2009/02/04(水) 01:05:19|
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