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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

HAPPY DAYS(桐葉SS)

 生徒会も九月一杯で実質引退し、自由になった放課後を二人きりで過ごす事が多くなった。
 いつも一緒に居るとなれば、常に甘い空気で満たされた時間を過ごす訳でもなくなってくる。桐葉が一人ですればいい事――例えば読書――でも一緒に居たがるので、同じ部屋に居ても別々の事をしていたり、という状況も最近では珍しくない。
 一緒に居るのに、それぞれ自分の時間を過ごす。それだと一人に比べ寂しさが増すのは、どうやら俺だけらしい。今日も桐葉は、平気な顔で本にだけ集中している。
 俺の存在を気にもかけず黙々と本を読みふける桐葉だが、一応声を掛ければ無視される事は無い。ただし、あまりしつこいと迷惑そうな顔もされる。悪戯なんてすると、今は読書中、と睨まれたりもする。もちろん、度が過ぎればフリーズドライの再来だ。最近は人当たりが柔らかくなったとはいえ、逆に俺にだけは遠慮なくそういった視線を向けたりもするのだから、嬉しいやら厳しいやら、である。
 それぞれの時間を過ごすなら、やはりそれぞれの部屋で一人になるのが一番なのだろう。余計に寂しいだけならそれでいいじゃないか、とも思う。しかし、生憎と離れたくないのは俺も一緒だった。
「なあ、桐葉」
「……なに?」
 呼びかけてみると、桐葉が無表情な顔ごとこちらに視線を向けてくれた。
 迷惑そうな響きは無い。彼女はあらゆる事に無頓着に見えるが、実は細かなルールがある事を俺だけがよく知っている。
 この場合は『仏の顔も三度まで』だ。何らかの諺が当てはまる場合は大抵そうだから、慣れてくれば分かりやすい。特別な用が無くても、構って欲しいという理由だけで声を掛けるのは、その回数だけ認められている。いや、確認した訳ではないが、いつも決まって同じ回数で怒るのだ。
「……懲りないなぁ、俺も」
「そうね」
 意味が通らないはずの呟きに、桐葉は淀みなく返事を返す。
 一言だけで、特に用が無い事を察したのだろう。或いは、最初に声を掛けた段階でバレているかも知れない。
 だが、ルールはルール。こう見えても、桐葉は実に律儀な奴なのだ。何があろうと、簡単には例外を認めない。特に、自分に対しては。
「もういいかしら?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「構わないけど。……まずは用件を聞きたいわね」
 かれこれ一時間、俺は桐葉に無視されていた。その間、ずっと彼女の真剣な顔を観察し続けていた。彼女もそれを分かっていて、この素っ気無い対応である。
 愛情が薄れたのだろうか。そう疑いたくなって、慌てて否定する。
 律儀であると同時に、一途な桐葉である。それは絶対に無い。というか、もしそうなら毎日殆どの時間を俺に引っ付いている意味が分からなくなってしまう。
 きっと猫と同じなのだろう。見える範囲にはいつも居て欲しい。でも、甘えるのとそうでないのとは自分が決める。その上で、彼女の場合は無条件の安心感がマイペースぶりに拍車をかけているのだ。
 安心感、つまり俺に愛されている、捨てられたりはしない、媚を売る必要が無いという絶対の自信。
 逆に言えば、点数稼ぎのような事はされたくないとも取れる。何もしてくれなくても、ただ共にある時間だけでも自分の気持ちは変わらないと。
「……それじゃ寂しいんだよな、俺は」
 勝手に色々考えていた最後の結論だけが、またも口を衝いて出てしまう。
 それだけで何処まで察したのかは分からないが、桐葉は呆れたように息を吐いて、読んでいた分厚い本を閉じた。
「つまり貴方は、私に構って欲しいのね」
「む。いや、まあ……」
 認めるのもどうなんだ、男として。しかし、俺はすぐに思いなおした。
 桐葉がこんな風に聞く時は、構ってあげましょうか、と訳すべきところである。一年超の付き合いを経て、俺もそのくらいは分かってきた。
 きっかけはこちらの態度であるとしても、彼女の性格からして、構いたくなったからこその発言であるはずなのだ。思った事も言わないが、思いもしない事はもっと言わないのが紅瀬桐葉なのである。
 となれば、ここで突っぱねると拗ねられてしまうかも知れない。事は慎重を要する。
 彼女の気持ちを察し、自分が折れて見せるのも男の甲斐性だろうか。確か、千堂先輩が似たような事を言っていた気がするし。うん、つまり正解はこうだ。
「構ってくれないと、拗ねるぞ?」
 言いながら腕を組み、頬を膨らませながらそっぽを向く。
 桐葉はどんな反応を見せてくれるか。照れて赤くなるのか、仕方なさそうに装って乗ってくるか。
 しかし期待しながらちらりと覗き見ると、桐葉はフリーズドライも通り越し、見た事もない蔑みに満ちた目をこちらに向けていた。なんというかこう、人間ではなく汚物を見るような――。
「きもちわるい」
 ぐさっ。
「そういうセンスの無い悪ふざけ、千堂先輩に似てきたわね」
 ごふっ。
「今日はもう帰ろうかしら。変な影響は受けたくないし」
 言いながら、桐葉は一瞬の逡巡すらなく即座に立ち上がり、扉の方へと歩いていく。思いっきり早足なのがトドメだった。
「まっ、待ってくれ!」
 俺は慌てて呼び止める。彼女は背中でそれを聞きながら、一応は動きを止めてくれた。その時にはもう靴を履き終えて、ドアノブに手がかかっている。早すぎなのは、きっと人間の全力疾走より早く歩いていたからだ。
「頼む。頼むから。いや、悪かった。この通りだから」
 もはや男として、なんて考えは木っ端微塵である。ただただ必死に土下座し、床に頭をこすり付けた。
 そのまま十数秒が過ぎ――。
 気付くと、桐葉は土下座を続けていた俺の傍らに音も無く移動していた。
「その、ごめんなさい」
 殊勝な言葉に、俺は驚いて顔を上げる。すると、彼女にしては珍しく申し訳なさそうに項垂れていた。
「反応が面白いから、少し調子に乗りすぎたわ。ちょっとした悪ふざけのつもりで、だから、その……」
 何が言いたいかは分かったが、どうしても彼女の口から聞きたかった。
 吸い込まれそうなほど透き通った瞳を、訴えかけるように見つめる。すると、普段クールな彼女の頬に僅かな朱色が乗った。
「……分かっていて、そういう態度を取るから。たまには仕返しをしたくなるのよ」
「いいから、言ってごらん」
 この気持ちは、きっと隠す必要なんて無い。素直に欲しいと言った事なら、本心から求めている事なら、きっと彼女は何であれ俺の望みを叶えてくれるのだろう。
 それを証明するように、目を逸らしたくなるのを必死で堪え、俺の顔を真正面から見つめながら、彼女は言った。
「もう……いいえ。最初から怒ってなんていないから。仲良く、しましょう……?」
「じゃあ、抱き締めていいかな」
 もう我慢の限界だった。言葉にも、少し焦りが滲んでしまった様に思う。だが、今となっては些細な事だ。
 心からの望みを吐露した俺に、彼女も素直に応え――って、
「何故にそこで考え込む?」
 彼女が頷き、抱き合って、キスを交わして、そしてそれ以上の行為にも及ぶ。そのはずだったのに。
 俺の言葉は聞こえていないらしく、桐葉は深く考え込んでいる。
「なあ、桐葉……?」
 もう一度呼びかけてみると、ようやく彼女は顔を上げてくれた。
「ねえ、孝平。貴方、私と『なにか』をしたいのよね?」
「あ、ああ……」
「でも私は本を読みたいの」
「それも、尊重したいとは思うよ。しかし、どうしても全ての時間をそれぞれに過ごすというのは――」
「良い方法があるわ」
 桐葉は得意気に身を乗り出して、活発そうな笑みを浮かべている。こんな顔も出来るのか、と見惚れている俺の腕を掴み、強引に立たせる。
 されるがままの俺は、今度は壁に寄りかかるように座らされ、股を大きく広げられた。
 何をするつもりだ。いや、やはり俺の望むようにナニをしてくれるのか。
 僅かに期待した俺の目の前で、桐葉こちらに背を向けながら股の間に座った。もちろん、着衣のままで。
 そして、座った傍から読書を再開してしまう。
「なんなんだ、これは」
「いいのよ、抱き締めていても」
 意味が分からず困惑する俺に、桐葉は僅かに振り向きながら付け足した。
「私を本を読みたい。貴方は、私を抱き締めたい。私もそれを拒絶する意思はない。なら、これで解決でしょう?」
「読み終わるまで抱き締めていろ、ってことか?」
 それも悪くは無い。むしろ非常に宜しい。
 しかしだ、あそこまで盛り上げといてそれはないと思う。また明日からそうしよう、というのであれば大賛成なのだが。
「今日のところは、とりあえず読書は終わりにしないか?」
「今、いいところなのよ」
「あとどれくらい、いいところなんだ?」
 桐葉は僅かに考えてから、思いなおしたように部屋の隅に積み上げられた本に目を向けた。
「あと四冊ね」
「それ残り全部だろ!?」
「全部面白いのよ、このシリーズ」
「何故そこまで知っている!?」
「六回目だから」
「じゃあ全部覚えてるだろ!? いいじゃないか俺との甘い一時を優先してくれても!」
「そういう気分ではないのよ」
 話は終わったとばかりに、桐葉は本を開いてさっさと読み始めてしまう。
 もちろん、俺の開いた足の間で。俺に、重くならないよう僅かに体重を預けながら。
 ――繰り返すが、彼女は簡単には例外を認めない。
 今はそういう事をしないと決めてしまったのだろうか。
「……なあ、桐葉」
「なにかしら?」
「これ、やっぱり抱き締める以外はちょっかいかけちゃ駄目なんだよな……?」
「ある程度は認めるわ」
 やはり三回、という事だろうか。
「ちなみに、今の会話は一回目だから」
 冷たく言い放ち、彼女は再び読書に耽る。

 据え膳を逃がした俺は力なく項垂れながら、しかし一方でアッサリと諦めてもいた。
 何しろマイペースな彼女が、今だにそれを貫く相手は俺と瑛里華会長(元)くらいなものである。
 そんな幸せをじっくり噛み締めつつ、抱き締める彼女の体温と僅かに鼻腔を擽る芳香とで自分を慰める俺なのだった。





 ~ Another View 紅瀬桐葉 ~

 最近、孝平が私を置いて一人で外出する事が多くなった。
 二人だけの時間を、読書に費やす私に愛想が尽きたのだろうか。いや、私は常に彼の様子に注意を払っている。本気で怒っているなら、私に愛想を尽かすほど怒っているなら、それを見逃すはずが無い。
 もしその時が来たら、私はきっと形振り構わず彼の気を引こうとするだろう。その時、私はまた別の自分に出会える。それもまた楽しい。彼と居ると、そうした発見に溢れた日々に出会える。
 しかし、と僅かに湧き出る不安。やはり物事に絶対という事は無い。現に私と彼が自由に日々を過ごしていること自体、本来なら絶対に有り得ない事だ。
 それなら、と膨れはじめる不安。本当に、彼の不況を買う事を、私はしていないと言い切れるだろうか?
 ――珍しく自分の事を考えたからだろう。そこでふと、ある事に気付いた。
 それならば納得がいく。彼の、いや彼らの考えそうな事だ。きっと、私にだけ秘密で準備をしているのだろう。
 気付いてしまった事に、僅かな罪悪感と失望感を覚えた。だが、それもいい。何でも楽しもう。彼から、そう学んだから。
 知らないフリをして、その日を待ちわびるのもまた悪くない。
「あと、二週間……。長いようで、きっとあっという間ね」
 窓から星空を見上げながら、私は独り言を漏らしたという事実に驚く。
 人が居ても無口だった自分が。変われば変わるものだ。
 自覚は無いが、きっと一晩の別れすら耐えがたい程に彼を求めているのだろう。心も、そして身体も――。
「今更一人になんて戻れないわね。こうも変えてくれた責任、取ってもらうから……」
 もう一度、目の前に居ない恋人に向けて呟く。今度は意識して漏らした言葉だった。
 当日が楽しみ。でも、それ以上に待ち遠しい明日。貴方の顔を見られる、その時を夢見て。
 私は今日も一人寂しく、冷たい布団に身を預けるのだ。明日の貴方の温もりを、より深く感じるために。

 ~ Another View End ~





 11月21日は桐葉の誕生日である。恋人である俺は、もちろん一番に祝ってやらねばならない立場だ。
 彼女自身は誕生日という日にそれほど拘りがある訳ではないだろう。しかし、難題の解決という形で祝おうとするなら、そのモチベーションを得るには俺にとってこの日を逃す手は無いのだった。
「なあ、桐葉」
 もはや日常となった光景。俺の部屋で、俺の腕の中で、抱き締められながら読書に耽る黒髪美人が無言で振り向く。この角度でだけ分かる事――数日前に気付いたばかりなのだが、彼女の頬のラインが気分によって少しだけ緩くなったり、逆にシャープになったりする。それによると、今日の桐葉さんはすこぶる機嫌が良いらしい。
 俺は安心して言葉を続けた。
「明日は誕生日だよな」
 不思議そうな表情を返され、苦笑しながら付け足す。
「桐葉の誕生日だぞ。覚えてないのかよ」
「……忘れていたわ。大丈夫よ、思い出そうとすれば思いだせるから」
 それを人は忘れているという。何処まで自分に興味がないんだこの子は。
 こんな事ではいけない。いい機会だ、一度説教をしてやろう。
「いいか桐葉、自分を好きになって、もっともっと好きになれるように努力する。すると、他の人からも好かれるようになる。それが人間ってもんだ」
「私は眷属よ」
「俺は人間だ」
「……それは、貴方がそうして欲しいという意味でいいのかしら」
「もちろんだ。俺は桐葉をもっと好きになりたい。だから、そのための第一歩として自分の誕生日を忘れず主張するくらいになって欲しい」
「仕方が無いわね。貴方がそうして欲しいなら、そうしてあげるわ」
 途中から前を向いたまま振り返ろうとしない。しかし、隠そうとしても耳が赤くなっているのでバレバレだ。そういう時の表情を見せてくれれば、もっと好きになるというのに。
 お願いすれば振り向いてくれるのだろうが、こういう桐葉を眺めているのもたまにはいいだろう。俺は現状維持を選択した。
「で、今年は貴方が何をしてくれるのかしら」
「いいことだよ。桐葉に、幸せをプレゼントしてやる」
 言いながら抱き締めてやると、背中越しに口付けをねだられる。
 読書中に話しかけて、行為が発展する事は実に珍しい。俺は喜んで、全力を持ってリクエストに応えるのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/11/21(金) 01:16:54|
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