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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

番外編その1

 一日の最後の授業が終わり、HRを経て部活が始まるまでの、ほんの僅かな時間。
 普段なら美術準備室で一人寂しくボーッとしているところだが、今日は少々状況が違った。昨日から付き合う事になった女性の姿も、共に在るのだ。
 一昨日には――いや、昨日の朝にはまだ一生徒に過ぎなかった存在。もちろん普通の生徒よりは親密だったし、憎からず思ってはいたが、他人からすれば誰もが意外に思う相手だろう。
「さあ、どうぞ」
「ありがとう」
 礼を言って、麻巳の差し出したコーヒーカップを受け取る。
 お世辞にも上手いとは言えない腕前。いくら練習しても、何故か何かしら失敗する。しかし、それでも誰かが俺の為だけに淹れてくれたものの温もりに勝る物などあるわけが無い。
「どうしたんですか?」
 案の定、今日もコーヒーは無駄に苦い。それでもいつになく幸せな気分で啜っていると、麻巳が不思議そうに尋ねてきた。
「ん? ……どうって何が」
「何、と言われましても……。ええと、何となく昨日までと違うというか」
「昨日までは退屈だった時間で、今日は幸せに浸れてるんだ。だから、何となく雰囲気が違うんだろう」
 優しく笑いかけてやると、麻巳は不意を衝かれた様に驚いた顔をして、それから上気した頬を隠すように俯いた。いつも凛として美術部を切り盛りしていたやり手の部長とは思えない、初々しい反応にこちらの胸まで熱くなる。
 ――昨日、俺は麻巳と恋人になった。彼女からの告白を受け入れ、そのまま行くところまで行った。だというのに、今日は揃ってこんな反応をしている。
 順序がアベコベだと我ながら呆れるが、不慣れな者同士なのだから仕方ないだろう。二人の性格を考えれば、むしろ昨日の展開こそおかしいくらいだ。
 昨日までは当たり前だった麻巳の制服姿も、今日は一段と映えて見える。人間、気の持ちようで見えるものも印象が違ってくるという事か。絵描きの端くれとして分かっているつもりだったが、改めて強く意識したのは柳の裏切りがあって以来――いや、もしかすると更に遡って霧の告白を断って以来かも知れない。
 どちらにしろ、今まで俺の目を通した世界はそれだけ濁っていて、麻巳のお陰で輝きが取り戻せたという事だろう。
「……どうした?」
 自分の考えに耽っていた俺は、ふと麻巳が表情を歪めているのに気付く。声を掛けると、麻巳は一層渋面を作り、涙目で答えた。
「にぎゃい……うぅ……」
「ははは」
「笑い事じゃないですよ、もう。どうしてこうなんだろう……」
 どうやら淹れた本人には、愛情補正は効かなかった様子。確かに正統な評価をすれば、このコーヒーは飲めたものではない。
 ブツブツと愚痴っている麻巳は、見ているだけで可愛くて抱き締めたくなってきた。どうせ二人きりだ。俺は感情に抗わず、唐突に立ち上がって麻巳に近づく。
「えっ、あ、あの……ぅむっ……!」
 やや強引な口付け。それでも麻巳は抗わない。苦い味わいと、やや刺激的なコーヒーの香りが鼻腔を擽る。
 俺は調子に乗って舌を捻じ込んだ。しかし、そこで強めに胸を押されて中断する。
「……駄目、ですよ」
「どうしてだ?」
「ここは、神聖な、部室、なんですから……」
 麻巳は耳まで真っ赤にして俯き、目を合わせようとしない。そんな調子で言われても、収まる訳がなかった。有無を言わさず、彼女を強引に引き寄せる。
「きゃっ」
 強引に立たされながら俺の胸に飛び込んできた麻巳は、小さな悲鳴を漏らした。
「昨日の今日だぞ? ……一杯までした訳でもないし」
「そっ、それでも駄目なんですっ!」
「それに、正確には部室じゃないだろ。鍵だって閉めてる。問題ない」
「屁理屈ですよ、それ」
「知ったことか」
「そんな、ずるっ……んっ……!」
 再び唇同士が触れ合い、今度こそ麻巳の口内を貪る。多少身を捩るようなところはあっても、さっきのように明確な拒絶は無かった。
 許しを得た事に勢いを得て、麻巳を強く抱き締める。胸板で柔らかい膨らみを感じながら、耳元にそっと囁いてやった。
「下……自分で捲って見せてくれないか」
「なっ、何を言ってるんですかっ!?」
 こういう直接的な事を言うと、反応が面白い。だから、恥ずかしくともあえて言いたくなる。
「み、見るだけですよ……? こんな場所で、その先は無いんですから」
 結果までは求めないつもりだったが、もちろん叶えられるに越した事は無い。
「ああ。分かってる」
 嘘だ。どう考えても半端に我慢など出来る訳が無い。しかし、麻巳が望むならと俺は素直に頷いた。
 それに、後で自分からその気になってもらうのも、それはそれで楽しみである。
「じゃ、じゃあ、その……」
 控えめに押し返されて、俺は抵抗せず身体を離した。
「い、いきますね。本当に、見るだけなんですからね……?」
「もちろん、そのつもりだ」
 即答してやると、麻巳は決意の表情で小さく頷く。
 そして、恐る恐るスカートの裾に手をやり、ゆっくりと持ち上げた。
Sketches and company(ブタベストさん)

「……おい」
「なんでしょう?」
「お前な」
 やられた。俺は先程までの恥ずかしい台詞を思い出し、麻巳がその全てを素面で聞いていた事に頭を抱えた。
「ダメージでかすぎるぞ、こんちくしょうめ」
「当たり前じゃないですか。学校で、こんな恥ずかしい事、ブルマでも穿いてなければしませんよ」
 色めいた空気を霧散させつつ、麻巳はアッサリとスカートから手を離す。
 ――なるほど、さすがはやり手の部長様(元)である。昨日の今日で、俺がそういう気を起こすのも見越していたという訳だ。
「お仕置きなら、帰ってからいくらでも。お好きなように」
 爽やかスマイルでそんな事を言われては、諦めるしかない。――と思っているのだろうな、麻巳は。
 コイツは用意周到で気が回るくせに、時々大ポカをやらかすのだ。
 今回の場合は、ブルマなら男が欲情しないという思い込みがそれだ。
「なあ麻巳」
「はい?」
「この作戦、失敗したらどうなるんだ?」
「そうですねぇ……」
 顎に手を当て、優雅な仕草で考え込む。
 こういう時に不思議な上品さが滲むのは、しかし両親の躾が行き届いているからではない。放任主義なあの家で育った結果がこれなのだから、きっと生まれながらの性質なのだろう。仮に魂の波長とでも言っておく。
 ――そんな事より、放っておくといつまでも真面目な顔で考え込んでいそうだ。そろそろ助け舟を出してやる事にしよう。
「失敗した場合、大変な事になるよな」
 思いもよらなかったのか、麻巳はそうですねと素直に納得する。
 俺はといえば、そんな無邪気な反応が可愛くて、逆に劣情をそそられた。
「じゃあ、大変なことにするか」
「え……」
 腕を掴み、強引に抱き寄せる。
 嫌がるかと思えば、麻巳は腕の中であたふたと慌てているだけで、突き放したりはしなかった。
「だっ、駄目だって言っているじゃないですか……」
「実は麻巳も、結構その気だったりするんじゃないのか?」
「そ、そんなことは」
 語尾が聞き取れないくらい小さく萎んだ。
「一晩で随分エッチな娘さんになったもんだな」
 やれやれ、といった風に言うと、麻巳はムッとして反論してきた。
「そりゃ完全に否定は出来ませんよ? 大好きな人に迫られて、嬉しくない筈が無いんですから」
「……お、お前な」
 開き直ると逆に押しが強い。麻巳らしいのだが、急に態度を変えられるとこちらまで戸惑う。
「でも、やっぱり学校は神聖な場所なんです。その中でも、私にとって美術室は特別なんですから」
「その特別な場所を、さらに特別にするのも良いな」
 どうせ口では敵わない。ならば別の手段で塞いでしまえとばかりに、麻巳の唇を奪う。
 あまり時間は無い。部員達が集まれば、麻巳まで居るのに顔を出さないのでは不自然である。静かに、素早く行為を済ませなければ。
 ――と。脳内で簡単なプランを纏め上げた瞬間である。意外すぎるものが視界に飛び込んできて、俺は慌てて麻巳から身体を離した。
「どうしたんですか?」
 何か自分が悪い事でもしたのかと、麻巳の瞳は不安げに揺れている。
 そんな彼女の目の前で、その背後に向けて指差してやった。そこに横たわる人物を見て、さすがの麻巳も絶句する。
「……どうしたもんかな、これ」
 自覚のある呑気な性格を持ってして、この事態は慌てるに値した。
 美術部部長は美術室と準備室の鍵を持っていて、それは先日まで麻巳の役目だったが、今は代替わりして田丸ひかりになっている。
 その現・部長がぶっ倒れている光景を目撃して、やっと失念していたその事実を思い出すという間抜けっぷりに、俺たちはただただ自身に対して呆れるばかりだった。



 新入生として四月から入学する者たちの指導は、概ね麻巳が面倒を見て。
 現在の一年生と二年生は、悩んでいる者を見つけて俺が簡単なアドバイスをする。
 何年も続いているかのような自然な光景。実に理にかなった役割分担。静粛ながら熱を帯びた空気が美術室を満たし、あっという間に二時間ほどが過ぎた頃。
「……すみません。遅れました」
 美術室の扉が開き、二年生で現部長の田丸ひかりが姿を見せた。やや生気の薄れた顔色をしていて、足元もゆらゆらと頼りない。
「もう大丈夫なのか?」
「はい。あの、ところで、上倉先生……?」
「なんだ?」
「竹内ぶ――先輩とは、仲良しですよね」
 まだ部長でない麻巳が呼び慣れないのか、田丸は言い間違えそうになってから慌てて言いなおした。俺は僅かに苦笑する。
「ああ。まあ怒られはするが、気安い仲とも言えるからな」
「そういう意味ではなくて、その――」
「ん?」
「な、なんでもないです」
 麻巳と比べて率直とは言い難い田丸は、歯切れの悪い言葉を残して自分も絵を描く準備を始めた。
 それからさらに数時間が経ち、部長も含め全ての部員が帰宅した頃。
「何とか誤魔化せました、よね?」
「ああ。多分な」
 俺と麻巳は二人きりで、ホッと胸を撫で下ろす。
 ――あの後、田丸を二人で保健室に運ぶと、俺たちは保険の先生に『廊下で倒れていた。貧血ではないか』と報告しておいた。
 田丸が寝言で『美術部が……廃部に……』などと繰り返し呟いていたものだから、もちろんそれについても適当に誤魔化しておく。こういう時、揃って嘘が下手な俺たちはかなり怪しい人に見えただろうが、幸いにも保険の先生は大らかで細かい事には拘らず、何とかなった。
「しかし、これはもう誤魔化しきるしかなくなったな」
「いつまでですか……?」
「ほとぼりが醒めるまでだ」
「いつです、それは」
「ええと……」
 俺が言い淀むと、麻巳は不機嫌そうに腕を組んでそっぽを向いた。
「だから学校では駄目だって言ったじゃないですか。もう、絶対の絶対のずぅえぇったいに禁止なんですからね!?」
「ああ。すまなかった……」
 俺が頭を下げると、麻巳も疲れたような溜め息を漏らすだけで、それ以上の追求はしなかった。
 強く拒絶しなった自分にも責任はある、と考えているのだろう。今のは怒ったというより、念を押しただけだ。勢いが余っているのは、まあ性格的なものだからして。
「とにかく、明日からは普通のイチャイチャも禁止ですからね」
「……いや。むしろ、しばらく来ない方が良いんじゃないか」
「そんなの嫌です。せっかく卒業してお休みなんですから、そういう時間は自由に使いたいじゃないですか」
 嬉しい言葉だが、余計な面倒事が増えるのも事実。にやけていいのか苦笑していいのか分からずに、中途半端な表情を見せると、麻巳は拗ねたように鼻を鳴らした。
「浩樹さんがどんなに嫌がっても、私はしつこいですから少しも離れませんよ。後悔したって、付き合い始めた時点でもう手遅れなんですからね」
 別れ話に挟まれた言葉なら、背筋が凍ったかも知れないが。
 不機嫌になってもなお寄せられる好意に、俺は今度こそだらしない顔になるのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/10/30(木) 20:34:21|
  2. 中編

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