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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

味覚訓練

 日本人の味覚が優れていたのも過去の話、今や若者を中心に味覚の異常を訴える者さえ多くなっている。西洋風の濃い味付けや化学調味料が原因らしい。
 そんなニュースの特集内容をかなでから熱心に説明された孝平が、翌日の放課後に桐葉を連れ込んだのは、生徒会役員としての信用でアッサリ使用許可を得られた家庭科室だった。
「薄味のものを食べて訓練すれば、桐葉の味覚も少しはマシになるんじゃないかな」
 そう言って孝平が用意したのは、色々な食材と調味料。選んで少しだけ味を付けて食べる、訓練と言ってもシンプルなものだ。調味料の中には唐辛子もある。
 無駄だ、と切り捨てる事も簡単だったが、桐葉は無言のまましばらく悩み、そして食塩の瓶を手に取った。
「食材はどうする?」
 オススメはゆで卵らしい。しかし、桐葉はそれを指し示す孝平の指を掴んだ。そして、そこに塩を振る。
「……お、おい」
 慌てる彼の目の前で、塩味の付いた指は桐葉の口中へと導かれた。
 傍から見ればシュールな光景だが、当の孝平にしてみれば好いた女性のそれである。指に伝わる生暖かさと湿り気に、いけないとは思いながらもついつい指先に神経を集中してしまう。
 何の反応も無い事に安心したのか、桐葉は上目遣いにちらりと孝平と視線を合わせてから、口内の指を音を立てて吸い始めた。さすがに正気に戻った孝平は慌てて引き抜く。
「ど、どうだったんだ……?」
 桐葉は無表情で黙っている。どことなく不満そうだが、ここでの無言は非常に気まずい。
「お、美味しかったのか?」
 どもりがちに尋ねられると、桐葉は薄く笑みを浮かべ、狼狽える恋人へ流し目を送りながら言った。
「ええ、とても」
「じ、じゃあ次を試すぞ。ええと……」
 何となく目を逸らしたくなって、孝平は机の上の調味料をガチャガチャと弄る。
 桐葉はその間、黙ってその作業を見つめていた。
「これならどうだ」
 沈黙が居た堪れなくなり、孝平は適当に掴んだ瓶を突きつける。そうしてみてから確認すると、それは胡椒だった。
 塩といえば胡椒。調味料界で1~2を争う人気者であり、何より辛味もあるので桐葉向きだ。偶然とはいえ、ある程度の説得力はあった。
「何でも構わないわ」
 桐葉は孝平の手から胡椒の瓶を奪い取ると、有無を言わせず彼の指に振りかけた。
「や、やっぱりそうなるのか……」
「当然でしょう」
 一言だけ答えて、桐葉は再び孝平の指を銜える。爪の間に入り込んだ粒まで丁寧に舐め取って、胡椒が完全に無くなっても止める気配が無い。
 くすぐられるような感触、恍惚とした表情、熱を帯びた吐息。情事の真っ最中みたいな恋人の様子に、さすがの孝平も理性が吹き飛びそうになる。場所を考えれば非常にマズイ行為にまで及びそうで、彼は慌てて指を引いた。
 しかし、桐葉は素早くその腕を掴んで逃がさない。
「もう胡椒なんて残ってないだろ!?」
「ほほははへほ、ひゅうふんひほひひぃは」
 このままで美味しい、といったところだろう。言葉ではなく、熱を帯びた瞳からそう感じ取る。
「お前な。これは何かのプレイじゃなくて、訓練なんだぞ?」
 孝平が呆れたように溜め息を吐くと、桐葉は嬉しそうに微笑みながら口を離した。
「いいのよ、これで」
「なんでさ」
「いいから、お願い。それとも嫌?」
 口数が少なく、感情を押さえがちな桐葉がこれほど正直におねだりしてくるのも珍しい。もちろん嫌な筈も無いので、孝平は仕方なく指を差し出す。桐葉は嬉しそうに指しゃぶりを再開した。
 ――訓練の話はお流れになりそうだが、そんな事はいつでも出来る。今日の所はお互いの味でも確かめあおうと、孝平といえど恋人の分かりやすい誘惑の前には抗えず考えを翻すのだった。



 桐葉は大昔に、味覚を取り戻そうとした事があった。それは主の思いつきによる余興。鬼ごっこと同じ、暇つぶしのゲーム。
 それは1年や2年の話ではなかったので、既に味覚を取り戻そうとしても無駄なのは嫌というほど知っている。だが、世界で唯一愛する人が自分のことを思ってした提案は嬉しかったし、真実を語って彼をガッカリさせたくはなかった。
 味覚が戻る事は無いとしても、せめてこの甘い時間が少しでも長く続いてくれればと願う。
 それに、真面目に方法を考えるとしても、より味覚に集中する方が訓練になるはずだ。この250年で試していない方法があるとすれば、もう愛欲を絡めた行為くらいしか思いつかない。
 ――今までになく『味』を意識しながら行為を続けていると、何となくだが、彼の味が少しずつ分かるような気がしてきた。
「どうした、急に笑って」
「なんでもないわ。ただ、本当に美味しいと思って」
 男性の肉体の一部を舐めながら、なんて事を言っているのか。100年どころか1年前からでも想像のつかない、はしたない姿。
 そんな自分を想像するだけで、自然にこみ上げてくる笑いに抗えない。
「ふっ……ふふふふ……っ」
「お、おいおい。涙ぐんでまで笑うような事があったか? その体勢で笑われるのは、男としては結構ショッキングな出来事なんだが」
「ごめんなさい。でも違うのよ。幸せすぎるから、それがおかしくて」
「……よく分からんが、つまり悪い意味ではないんだな」
「ええ。それだけは間違いなく」
「ならいいや。俺も笑うよ」
「なにに対して?」
 んー、と孝平はしばらく考え込み。
「今の桐葉が可愛くて、きっと今の俺は有り得ないくらい崩れた顔になってる」
 言われて改めて確認すれば、確かに物凄いデレデレした表情だった。
 桐葉は更に笑い、孝平はそれに釣られて笑い、桐葉は更に――と繰り返し大きくなっていく。

 ここが家庭科室だと思い出した頃には、笑い声に誘われて修智館学院の良心とも呼ぶべき人物が現れ、二人に等しく謎のシールを貼り付けていったのだが、それはまた別の話である。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/10/28(火) 00:13:21|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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