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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

エリスちゃんと麻巳さん

 今日はフランスから一時帰国したエリスが一晩泊まる事になっている。数日前、突然決まった事だ。
「予定は予定ですから」
 などと言い張った麻巳も、事前の約束通りうちに泊まるつもりだ。
 エリスがフランスへ留学する直前に、色々な意味でライバルとなった二人だ。何事も無いはずがない。
 俺は一触即発の夜を乗り切り、果たして無事に朝日を拝めるのだろうか……?



 ――などと要らぬ心配していたのも、エリスが到着する直前までだった。
「ま、また大きくなったわね……」
「そういう麻巳さんも、随分大きくなってますよ」
「貴方に言われると、微妙に喜べないわ……」
「大丈夫ですよ。まだまだ、お兄ちゃんが大きくしてくれますから♪」
 到着して我が家の玄関を開けるなり俺に抱きつこうとしたエリスは、直前で阻止しようと待ち構えていた麻巳の目の前でピタリと止まり、つつつ――と飛び掛る直前の体勢のまま後退ると、自分の身体を臭ってから『風呂だ風呂だ』と喚き始めた。相変わらず自由な奴である。
「まずは長旅で溜まった汚れを洗い落として、綺麗な姿で改めて抱擁を交わしたいの」
 当然敵意むき出しの麻巳に対し、エリスはにこりと微笑み、
「もちろん三人で、ね♪」
 意図が分からず狼狽える麻巳だが――まあ、言葉どおりなのだろう。コイツにとって、既に俺も麻巳も同じくらい再会を喜ぶべき相手なのだ。
 そして、エリスはそのまま動揺しっぱなしの麻巳まで引っ張り込んで、裸の付き合いを始めたのである。
 アイツは俺の妹分とは思えないほど社交的な性格をしているが、それでもまさか、かつての恋敵を相手にしてまでこうも親密に振舞うとは思わなかった。
「ねえねえ、麻巳さん」
「なあに?」
「触ってもいいですか?」
「……なっ、何を言いだすのいきなりっ」
「楓子先輩はよく触ってたじゃないですか」
「あれは無理矢理で……。その度に怒っていたでしょう!?」
「満更でも無さそうな気がしましたけど」
「そんな事はありませんっ!」
 本人は気付いているだろうか。麻巳はすっかりお姉さん口調である。そもそもノリやすい質なので意外ではないが――無意識なんだろうな、きっと。
「お~い。バスタオルと着替え、ここに置いておくからな」
 あまり長居すると誤解される。俺はさっさと用を済ませる事にした。
 もちろん二人とも裸を見たことくらいはあるのだが、どちらにもそれを疑われてはいるだろうが、それでも改めて確認されたくはない。
「あ。待ってお兄ちゃん」
 まして、
「どうせだから、久しぶりに一緒に入ろう♪」
 ――まして、そんな事は論外である。
「なっ……ど、どういうことですか浩樹さん!?」
 明らかに二人セットでからかわれているだけだというのに、麻巳が律儀に取り乱している。俺はその場に座り込んで頭を抱えた。
「……何年前の話だ。お前、実は波風立てに戻ってきたんじゃあるまいな」
 二人が仲良くしてくれるのは喜ばしい事だが、それはそれだ。一方的な情報を持つエリスは、麻巳がああいう性格をしているのもあり、立場がどうあれ手強いのである。
「えへへ~。冗談冗談♪」
「まったく……って、おいっ!?」
 ぶつぶつ言いながらも立ち去ろうとした俺の目の前で、浴室の扉がゆっくりと開かれた。
 湯気の向こうに微かに見えるのは、悪戯っぽい笑顔を浮かべるエリスと、口をパクパクさせている麻巳。
 エリスは横向きで胸も隠しているが、麻巳は無防備に裸体を晒している。
「冗談を二回言ったから、冗談が冗談。なんちゃって」
 てへっ、と舌を出すエリス。――こ、こいつフランスで何を学んできやがったんだ!?
 いや、そんなことは後回しでいい。より重大な問題が発生した。
 エリスの向こうで、麻巳が無言のままプルプルと震えている。
「いつまで見てるんですか、このスケベっ!」
 すこ~ん、と麻巳の投げた風呂桶が見事額に直撃し、俺はアッサリと視界を暗転させるのだった。
 ――せめて言い訳をさせてもらえるのなら、俺が見惚れていたのは新鮮な印象のエリスではなく、普段から見慣れている麻巳だったのだが。本人に信じてもらえるかどうかは、また別の話である。



 風呂から上がると麻巳の愛情料理を三人で食べて、そのままリビングで寛ぎつつ互いの近況を語り合う。
 時間は瞬く間に過ぎ、どうやら就寝の時間かといった頃、エリスがまた無茶を言いだした。
「せっかくだから三人で寝ちゃいましょう♪」
 俺と麻巳は揃って抗議するのだが、最終的には麻巳も自分が真ん中ならばと渋々承諾し、いつになくハイテンションなエリスに押し切られてしまった。
 そして、リビングでのそれよりはゆったりとした会話を続けながら、さすがに日中の疲れもあってウトウトとし始めた頃。
「お兄ちゃん、寝ちゃったかな……?」
 夢の中なのか現実なのか分からない。遠くから、エリスらしき声が聞こえてくる。
「みたいね。まったく、いつもは目つきが悪いのに眠っていると……」
「子供みたいに無邪気で、抱き締めたくなるんですよね」
 エリスが懐かしむ様に呟くと、むっ、と麻巳が小さく唸った。
「大丈夫ですよ。取ったりしませんから。未練なら、いくらでもありますけどね」
「あ、あのね……」
 あまりにあっけらかんとしたエリスに、麻巳は上手く言葉を返せないらしい。
「私だって大変だったんですから。今だって、お兄ちゃんには抱きつきたいんですけど……麻巳さんは嫌ですよね、やっぱり」
 という事は、到着早々の抱きつき未遂は途中で思い止まったという事だろう。機転を利かせて別の理由まで用意して――。
 なるほど、エリスもああ見えてしっかり成長している様である。
「そりゃ、まあ……。多少は認めるつもりだけど、限度はあるでしょうね」
 自分の事こそよく分からないものだ、と麻巳は痛いほどよく分かっている。探り探りといった感じではあるものの、出来るだけ素直に答えた。するとエリスは晴れやかに笑い、
「だから、簡単な解決策を思いついたんです」
「解決策……?」
「ええ。つまり、お兄ちゃんに甘えられないなら、お姉ちゃんに甘えればいいんですよ」
「初耳だけど……。エリスちゃん、お姉さんも居たの?」
「もちろんです。目の前に、綺麗で優しくてしっかり者の姉が一人居ます」
 麻巳が半信半疑で自分を指差すと、エリスは嬉しそうにコクコクと頷く。
「いいですよね?」
「……そう、ね。浩樹さんに抱きつかれるよりは、いいかな」
「やったぁ。お許しがもらえた♪」
「あっ、こ、こら……!」
 エリスは麻巳の胸に顔を埋める。困り果てる麻巳だが、それでもどこか嬉しそうでもあった。
「えへへ。わあい、お姉ちゃんだ♪」
「もう……」
「私、嬉しかったんですよ。麻巳さんが、エリスちゃんって呼んでくれて」
「……あ。そういえば、いつの間にかそう呼んでいるわね。鳳仙さんも」
「はい。麻巳さん、でいいですよね?」
「もちろん」
 いったん身体を離し、麻巳を至近距離から見つめるエリス。しばらくして、二人は小さく笑い合った。
「だから麻巳さんも、呼び方は変えないでくださいね」
「そ、そうね。えっと……エリスちゃん」
「はいっ。なんですか、麻巳お姉ちゃん?」
 可愛らしく言われて、おかしな衝動が生まれたらしい。麻巳はエリスの顔を、今度は自らその胸に寄せて抱き締めた。
「私も一人っ子で、妹が欲しいなんて思った事もあるから。慣れなくて不思議な感じだけど、悪くないわね」
「家族が増えるって、色々な形があるんですよ。私とお兄ちゃんだって、厳密には兄妹じゃないですし」
「ええ。そうね……。これからもよろしくね、エリスちゃん」
「こちらこそ……おねが……すぅ……くぅ……」
 言い終わる前に寝息が聞こえてきた。疲れていて、緊張して、それでも頑張っていたのだろう。麻巳と仲良くしようというのは天然ではなく、きっとエリスなりにこれからの自分の在り方を考え抜いた結果だったのだ。
 やがて、安らかな寝息は二重奏となって俺の耳を優しく撫で始めた。
 感動の場面を見逃さずに済んだのは幸運だったと思う。隣で眠る二人は、まるで本当の姉妹のように仲睦まじい。何度見ても嬉しさがこみ上げてくる。それはそれで大変結構なのだが、
「……眠れん」
 俺はその時になってようやく、目が冴えて全く眠れなくなっている事に気付くのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/10/14(火) 00:35:26|
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