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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter 2-3

 あれから数日後。
 その日一日、私は上機嫌で過ごしていた。昨日、例の眼鏡がようやく手元に来たのだ。
 あまりに緩んだ顔をしているので、席の近い友人が不審がって様子を伺ってくるが、私は何でもないの一言で押し通した。
 特に秘密にすることでもないけれど。一応、約束は約束だし。先生に見せるまでは、クラスで披露するわけにはいかない。
 ともかく午前の授業は光の速さで過ぎ去り、あっという間に昼休みになった。
 お弁当と眼鏡ケースを手に取ると、すぐさま教室を出る。道中、新しい眼鏡にかけかえながら、私は美術準備室へと向かった。


 準備室の前まで来ると、丁寧に呼びかけて反応が無いことを確認し、私は扉に手をかけた。
 案の定、鍵はかかっていない。
「失礼します」
 しっかりと礼をしてから中に入ると、上倉先生は机に突っ伏して居眠り中だった。午前の最後の時間に授業が無いと、大抵こんな感じである。
 近頃の先生は、不真面目なりに部活にもそこそこ顔を見せるようになっていた。加えて、今日の私はすこぶる機嫌がいい。
 いつもならお説教タイムとなるところだけれど、今日のところは多目にみてあげよう。
 そう決心すると、私は先生に近づき、優しく揺すって起こしてみた。
「せんせ~。おきてくださ~い。もうお昼ですよ~」
 何度も何度も、ゆっくりと声を掛けながら、私は先生が目覚めるのを辛抱強く待った。
 やがて数分が経つと、先生はようやく薄目を開けて、緩慢な動きで頭を上げる。
 僅かに目を腫らした先生は、寝起きの掠れた声で言った。
「あ~、なんだ、部長か。悪いな。寝ちまったらしい」
「いえいえ、いいんですよ。お疲れなんでしょうし。お仕事ご苦労様です。
 それより、その……」
 私は一歩退いて手を後ろに組むと、わざとらしい咳払いを一つ。
 そしてそのまま黙り込む。さすがに少し気恥ずかしくて、僅かに視線を逸らしてしまった。
 期待と緊張とに胸を高鳴らせながら、しばらくそのままで居ると。
 先生は探るように謝ってきた。
「すまん。俺が悪かった」
 褒められることが確定していたはずの出来レース。思わぬところで起こったクラッシュに面食らって、気づけば私は間抜けな声を上げていた。
「……は?」
「なんか知らんがご立腹の様子で」
「なんの話ですか?」
 さすがに声にドスが効いてくるが、それに気づいた私は、さらに剣呑さを上乗せしながら言った。
「な・に・か、気づきませんか? 気づきますよね? ほら、何かあるでしょう!?」
 私が必死に詰め寄ると、先生は同じだけ後に下がる。
 相手がさがる以上の勢いで迫りながら、私はすがりつく様に言った。
「本気で何も無いんですか?」
「ん~、え~、あ~、ちょっとまて。そうだな。確かあれは……」
 必死に無意味な言葉で時間を稼ぎながら、焦りに焦って思考を巡らせ。
 遂に辿りついた答えを先生は言った。
「よく似合ってるぞ」
 やっと満足し、期待したのも一瞬だった。
「そのリボン」
 その瞬間、私は自分の中で致命的な何かが切れる音を聞いた気がした。
 異様なまでに陽気な声が、自然と口から漏れてくる。
「そーですねー。確かに今日はリボンしてますねー。眼鏡に合わせて少しだけお洒落に、なんて思った私が馬鹿でした」
 顔も努めて笑顔。ただし、感情はこれっぽっちも篭もっていない。目だけは物騒な光を宿しているはずだ。
 私の迫力に押されて、先生はすでに背中が壁に付いていることすら気づかず、必死でさがろうとする。
「そうだなよく似合ってるなその眼鏡可愛いぞ素晴らしいぞ最高だ!」
 無駄に足掻きながら捲し立てる先生だったが。
 すでに時遅く、いまさら褒められても私の心には波風一つ立ちはしなかった。
「ありがとうございます」
 歌うように言いながら。私は陽炎の如く揺らぐ足取りで、部屋の隅まで移動する。そこには折りたたんだイーゼルが纏めて並べてあった。
 それを一つ一つ、ゆっくりと確認していく。笑顔で、怪しい笑い声を漏らしながら。
「な、なにをしていらっしゃるので!?」
 震える声で尋ねる先生に、私はいたって平然と答えた。
「丈夫そうなのを選んでるんです。備品を壊したりしたら大変ですから」
「こ、壊れるような事はしない方が良いと思うけどなぁ」
「しないで済めばいいんですけどね~」
 怯える先生の目の前で、私は淡々と作業を進めていく。
「なあ、おい、俺が悪かった」
「ええ、そうですね」
「いい感じじゃないか、その眼鏡。本当だ、本当に」
 口を開くほどに、私の神経が逆撫でされていく。それには全く気づかない先生は、挙句の果てに、
「可愛い眼鏡だなと……」
 この期に及んで眼鏡単体を褒めるとは。敵ながら見事。
「あ、ありました♪」
 私は『一撃入魂』などと物騒な四字熟語が添えられたイーゼルを見つけると、やっと先生に振り向いた。


 その後、哀れな美術教師がどのような最後を迎えたのか。
 それは当事者のみぞ知る、である。






























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/01/27(土) 00:52:40|
  2. 第二話

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