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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

手取り足取り

 それぞれの兄や姉がこの学院を巣立って行ったのも、もはや過去の出来事である。
 孝平達が最上級生になって数ヶ月が経ち、季節は夏を迎えた。今や自分たちが後輩に道を譲る時期も近いが、他の部活や委員会と違い、生徒会の世代交代は一向に進んでいなかった。その理由はもちろん、絶対に漏らしてはならない秘密を抱えていることである。
 リスクを最小限に抑えるためには、万が一、千堂瑛里華会長の秘密がバレたとしても説得に応じてくれる可能性の有りそうな、そして信用出来そうな口の固い人間を選ばねばならない。
 人選は困難を極め、生徒会の後継者候補達がようやく監督生室に呼び出された頃には、文化祭の準備が始まる夏休み直前になっていた。
 この時期から瑛里華は、輸血パックを監督生棟に置く事は止め、毎朝欠かさず自室で血液を補給し、午前中のうちに寮へ帰ってしまう。誰より早く来て丸々三人分以上働いて帰るとはいえ、普段は文字通りの百人力な突撃生徒会長殿である。穴埋めは残りの生徒会役員や新人達に任されるのだが、その指導をする孝平や白の負担は大変なものだった。
 ――もちろん、二人に過剰な負担を強いる事を瑛里華が受け入れたのには相応の訳がある。
「孝平くん」
 監督生室に現れた陽菜が声を掛けると、
「陽菜、よく来てくれた! 本気で神か仏に見えるぞ!」
「あはは。大変、みたいだね……」
「見ての通りだ。夜のうちに妖精さんが少しは進めてくれてるんだが、生徒会長が体調不良で無理出来ないんじゃ限界がある」
 孝平の言葉に、指導を受けていた女生徒が不思議そうな顔をしている。――これは、予め決めてあった設定だった。
 瑛里華は夏を前に体調を崩したので無理はさせない。夜のうちに頼んである助っ人が(実際には瑛里華が朝のうちに超人的パワーで)仕事を進めてくれている。事実はどうあれ、表向きはそういうことだ。
 そして、夏休み中はあまり活動の無い美化委員から強力な助っ人が来るのも予定通り。
 陽菜は美化委員以外にも姉から受け継いだ寮長としての雑務もこなしているし、恋人の孝平が所属する生徒会には頻繁に出入りして手伝ったりもしていたから、殆どの仕事をこなしてくれる。指導にしたって、孝平や白よりも分かりやすく人当たりも柔らかい。教師に向いているのではと思う程だ。
 瑛里華は陽菜の事を特別視している嫌いがあるが、それとは別にかなり信頼されてもいる。下手をすれば孝平と同等かそれ以上に。
 瑛里華が自らの仕事量を減らすのを承諾したのは、つまりそういう事である。
「とりあえず……私は何をすればいいのかな?」
 普段なら仕事を見つけて、これをやっておくね、と声を掛けてくる陽菜だが、さすがに十人からの人間が無秩序に動き回る中で瞬時に状況を掴むのは難しい。
 孝平は急ぎの仕事や今の状況、既に使える新人とまだまだな新人の顔を思い浮かべてみる。せっかくの人材、適材適所といきたいところだが、そうも言っていられない状況があった。
「指導を頼みたいところだが、今日のところは白ちゃんを手伝ってやってくれ」
 孝平が指差す先を見て、陽菜は初めて白が居た事に気が付いた。
「はうぅ~」
 陽菜が生徒会室へやって来た時、礼儀正しいお嬢様の白が挨拶の一つもしなかったのはおかしな話だが、書類に埋もれて目を回している光景を見れば納得である。他の事には見事に意識が向いていない。孝平が全体の指示をしながら指導をしているので、高度な判断が必要な仕事は殆ど白に回されてしまうのだ。
 しかし、そこまで没頭出来るのは成長した証だろう。去年の今頃はサポートがせいぜいで、頼りない印象が強かったというのに。陽菜は母親のような心境で微笑んだ。
「じゃあ、また後でね」
「ああ。頼む」
 一言だけ答えて、孝平は女生徒の指導へ戻る。二人が目の前で会話している間も、書類の処理を進めている彼女はなかなかに優秀そうだった。
 ――陽菜としては、もちろん孝平と肩を並べて同じ作業をしたい。大切な人と苦労を共有するのは、甘い一時とはまた別の、僅かながら瑛里華を羨ましいと感じてしまうほど望ましい状況だ。
 胸を高鳴らせながら想像したりもした。生徒会の手伝いは大変だと分かっていても、陽菜は心底から今日という日を楽しみにしていた。
 ただ、こうやって別々の作業をする事も分かってはいた。
 きっと、想像するような素敵な時間もあるに違いない。だから笑顔を崩してはならない。大変な役目を必死でこなす大好きな副会長さんを、少しでも助けてあげなければ。
「白ちゃん、手伝うよ」
「あああ、せんぱいです。お願いします~……」
 頼れる先輩の顔を見てホッとしたのか、白は力尽きたように崩れ落ちた。
 陽菜は最初の仕事として、まずは書類に埋もれる小さな財務係を救出し、リラックス効果のあるハーブティーを淹れてやるのだった。



 一日目が過ぎ、三日目が過ぎ、十日が過ぎて、二週間が過ぎる。
 ――その間に、陽菜が孝平と肩を並べる機会は一度として無かった。当然である。一番仕事の出来る二人が、揃って同じ仕事をするなど非効率だ。
 仕事が終われば二人きりになれるが、やはり疲れからかいつも甘い時間は短く終わった。本当は規則に反するから、真面目な二人としては基本的にそれぞれの部屋に帰って寝る事になり、恋人同士の時間はなかなか持てない。
「はぁ……」
「大丈夫か、陽菜?」
「え、あ、うん。大丈夫だよ」
 書類整理に追われながら、漏らしてしまった溜め息を、指摘されて始めて意識した。自分でも気付かないような事に気付いてもらえたのが嬉しくて、硬直していた表情が多少和らぐのを自覚する。
「少し顔色が悪いな。倒れられちゃ困る。休んでくれていいぞ」
「本当に大丈夫だから」
「遠慮しなくていい。遠藤とか間崎とか、かなり慣れてきた奴も居るし。初めの頃と違って人数分楽になってるだろ?」
 その二人が僅かに顔を上げる。二人は揃ってVサインを作った。無口なものの意外にノリのいい二人だが、そんな事より、陽菜はこの二人が誰より長い時間孝平の指導を受けていた事が気になっていた。
「……そうだね。少しだけ、休ませてもらおうかな」
 だから仕方なくそう答えたものの、内心は複雑だった。
 溜め息は別の事が理由だし、顔色はその悩みから最近寝付けない事が多いだけ。疲れてなんていない。
 仕事が大変だ、なんて思った事も無い。何より、休めと言っている孝平自身だって殆ど休んでいない。
 だが、今はそれ以上に押し問答になる方が嫌だった。孝平は善意からの行動を引っ込めない。それは美点だと思うから、否定するような事はしたくない。
 ともかく、少しでも頭を冷やして来るべきだろう。
「外の空気を吸ってくるね」
 強がりの滲む笑顔でそう言い残し、陽菜は逃げるように監督生室を後にした。



 陽菜が去った直後、孝平はちょいちょいと袖を引かれて振り向く。
「あの、支倉先輩」
「……ん?」
 振り向いた先には何も無かったが、やや視線を落とすとウサギの耳のような二房の髪を頭の両側に纏めた可憐な姿が目に飛び込んでくる。
「白ちゃんか。なんだい?」
「先輩も休んできてください」
 白は畏まって、真剣な眼差しで孝平を見上げた。
 僅かながら気圧される孝平だが、すぐに立ち直って反論する。
「何を言っているんだ。瑛里華会長が居ないのに、副会長の俺まで休む訳にはいかないよ」
「でも、陽菜先輩が可哀相です」
「だから休ませたんじゃないか」
「……先輩が辛かったのは、そういう事ではないと思います」
「いや、しかし……」
「それに疲れているのは支倉先輩の方です。今日はもう休んでください」
「だから、そういう訳にはいかないよ」
「でないと、私も一切休めません」
「そ、それは関係が……」
「あります。私は何度か無理矢理休まされました。でも、もう休みません。支倉先輩が倒れている間に、私が休んでいただなんて、そんな事は絶対に嫌です」
 見上げる眼差しが、更に真剣味を増す。
 背は小さいままなのに、孝平の目に今の白は大きく映った。自分が引退した後の生徒会、これなら心配は要らないだろう。そう思うと、肩がふと軽くなった気がした。
 孝平は、そこで初めて気付く。自分が来期生徒会の為に全てを用意しなければと、その為に時間が無いからと焦っていた事に。
 次の生徒会は白たち後輩のものである。自分がでしゃばる筋合いなど無いのだ。
 ただ自分の全力を、最後のイベントに注ぎ込めば良い。
 そして、日程を考えれば自分が休む余裕は既にあるし、新しい生徒会役員も殆どが自分の仕事をこなせる様になっている。
 思い出されるのは元・会長の千堂伊織。事ある毎に大変な仕事を押し付けてくるので孝平も苦労させられたが、それによって成長を促されもした。無茶だと思う事もあったが、程度は違えど短い学生生活の中で複雑な仕事をこなせるまでになるには、きっとあれで良かったのだろう。もし失敗していたとしても、その時は恐らく全力でフォローしてくれていたはずだ。――最悪、伊織が放置しても征一郎や瑛里華が何とかしたはずである。
「……お言葉に甘えて、少し休ませて貰うよ」
 まだまだ未熟。偉くなったと錯覚して、何でも自分がやらねばと考えるのは愚かだ。ここは任せよう、頼りになる後輩達に。
「あっ、ありがとうございますっ!」
 嬉しそうに、目尻に涙まで溜めている白に、孝平は苦笑した。
「どうして白ちゃんが礼を言うんだい?」
「そうでした。ええと、行ってらっしゃいです」
 どうやら陽菜を追いかける事は、彼女の中で決定事項らしい。
 ――もちろん、それを否定などしない。
「じゃあ、行ってくるよ」
 大盛り上がりで送り出す新生徒会の声援を背に、孝平は陽菜を追いかけて監督生室を後にした。



 不自然なほど陽気な笑顔を貼り付けて、陽菜は寮に続く並木道を一人歩いていた。
 誰も居ないのに、何も無いのに、それでも笑顔。笑う角には福来る、という事で実践してみたのだが、そろそろ限界だった。
 ふと立ち止まり、視線を地面へ落とすと陰鬱な内心が表情を侵食し始める。そうなるともう、止められない。
「孝平くんのばか……」
 直接、本人に言えばいい。何でも受け止めて、包み込んでくれる。
 でも大変な時期に負担になるのではと思うと、踏み切れなかった。
「私だって……女の子なんだから……」
 仕事だと分かっている。彼に邪な気持ちなど微塵も無いと、信じてもいる。
 それでも面白くないし、羨ましい。止めて欲しいし、自分にもして欲しい。
 ――生徒会の新人には、女生徒が多かった。白はマシになったとはいえ人見知りなところはあるから、きっと孝平が気を利かせたのだろう。
 そんな彼女達に、手取り足取り指導する二枚目で優しく仕事の出来る支倉副会長。伊織や征一郎が卒業した今、彼女らにとって校内屈指の人気を誇る素敵な先輩である。
 もちろん態度に見せるほどミーハーな生徒を選んだりはしていない。誰もが真面目に作業をしている。だが、孝平に好意を寄せる者が分からないほど、陽菜は鈍くなかった。この点だけは、孝平の半分くらい分けてもらえば幸せかも、と思う。
「私にも、教えて欲しいのに――」
「何をだ?」
 陽菜は突然背後から声を掛けられ、驚いて振り向く。
 そこには困り顔の孝平が、所在無さげに佇んでいた。
「こ、孝平くん!? どうして……」
「声をかけても気付かないからさ」
「そうじゃなくて、その、生徒会のお仕事は?」
「白ちゃんに怒られたんだ。休めって。随分しっかりしてきたし、もう任せられると思って、そうしてきた」
「そうなんだ……」
 上下する肩が、汗ばんだ肌が、彼が恋人を探して走り回っていた事を教えてくれた。最初は驚きに跳ねただけの心臓が、今度は別の意味で強く鼓動を繰り返す。
「それで、何か分からない事でもあるのか?」
「え、ええと、その……」
「ちょっと思いつかないな。陽菜は何でもそつなくこなすし、俺の方が教わることが多いからな」
「そ、そうかな。そんなこと、無いと思うけど……。孝平くんの方が、ずっと凄いよ。千堂先輩から受け継いだ生徒会で、立派に活動を認められるなんて」
「現・会長が張り合って物凄い気合だからな。付いて行くだけでやっとさ」
「千堂さんが無茶を出来たのも、孝平くんのサポートのお陰だと思うな」
「陽菜に言われると、少しは自信が持てるよ」
 ははは、と不自然に笑い合って、そのまま気まずい沈黙に突入する。最近、二人の間に微妙なズレが生じていた事を、やっと共通の問題として意識した瞬間だった。
 踏み出さなきゃいけない。白が優しい気遣いで作ってくれた、貴重な二人だけの時間なのだから。
 でも、一度飲み込んだ言葉はなかなか出てこない。
 そんな陽菜の気持ちを知ってか知らずか、孝平は優しく陽菜の肩に手を回し、
「部屋へ行こう。話したい事があるだろ?」
「……うん」
 本当に大事な時は、ちゃんと力を貸してくれる。こうして気持ちが繋がっていると意識させられる度に、愛情を再確認出来る。
 陽菜は胸に点った暖かい気持ちを大切に抱き締めながら、促されるまま孝平の部屋へ向かうのだった。



 部屋に到着すると、まずは陽菜が二人分のハーブティーを淹れて、それから本題に入る。
「私は、して欲しい事も、してあげたい事も、なかなか言えない臆病な子なの。孝平君みたいに、何にでも挑戦して、成功しても失敗しても笑えるような、そんな人間になりたい」
「それで悩んでたのか?」
「ううん、ちょっと違うかな。お話出来なかったのが、そういう事で……」
 突然こういう事になったので、まだ頭が落ち着かない。無理矢理にでも整理しようと、リラックス効果のあるハーブティーに口を付ける。仄かな香りが鼻腔をくすぐり、ふぅ――っと一度息を吐き出すだけで、丁度良く力が抜けた。
「私はね、孝平くんが好きなの」
「あ、ああ……」
 分かりきったことだ。初めてでもない。しかし面と向かって言われると、まだ照れがあるのだろう。言った陽菜も同じだった。
 それでも、勇気を奮い立たせて言葉を重ねる。
「私は孝平君が好きだから、他の女の子と近づくだけで、胸が痛むんだよ」
「……そ、そうか。そういえば、最近は、そういう事が多かった、かな」
「うん。生徒会の仕事を教えるのに、手取り足取り。必要以上に優しい声だし、少し悩んでいるとすぐに気が付いてアドバイスをするし、教えるのに時々身体が触れて赤面したり――」
「よ、よく見てるな」
「孝平くんの事は、意識しないでも目で追っちゃうから」
「それは分かるよ。俺も一緒だ」
「き、気が合う、ね……」
「そうだな。恋人、だしな」
「う、うん。そう、だよね。そうなんだよね……」
 一瞬甘い空気になりかけたが、そこでふと陽菜の表情が翳る。
「私もね、だから、教えて欲しいの」
「何を?」
「何でも良かったの。ただ孝平君と一緒に何かをして、優しく教えてもらったり、したかった。こんな我侭、大変な時に何を考えてるんだろうって、ずっと思ってて、それで悩んでいるうちに寝不足にもなって――」
 落ち込む陽菜の隣に移動して、孝平はその細い肩をそっと抱いてやる。
 ここまで言葉を重ねてきた陽菜が急にもじもじしだしたので、それだけで分かってしまった。
 その理由は簡単。孝平も、同じだったからだ。実は毎日、頭の中はその事で一杯である。
「何でも、いいんだよな?」
「う、うん。最初はね、普通の事を考えてたの。でもね、でも……その、ずっとご無沙汰だと、言い難いんだけど……」
「いいんじゃないかな。自然な事だと思うよ」
「そうかな? 孝平君は、はしたない子だって、思わないかな?」
「少しだけな」
「あうぅ……」
 陽菜はしょんぼりと俯いてしまった。
 孝平はそんな恋人の額に触れるだけの口付けを贈る。陽菜の表情はそれだけで華やいだ。
「拒絶されるより、受け入れてくれる方が嬉しいよ」
「……これはこれとして、後で別にしてくれないと駄目だよ?」
「分かってるさ。手取り足取り。でも、まずはそれ以上の事をしよう」
「うん。教えてくれれば、何でも、その、してあげるから」
「そりゃ楽しみだ」
 恋人達は再び互いの口を塞ぎあい、それだけで満足せずに身体を重ねあう。
 久々な事も合って、この日は大変な盛り上がりとなるのだった。

























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/10/05(日) 00:39:58|
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