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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

告白  ~第二話~

 翌日。
 さっそく告白の返事を返そうと意気込んでいた俺だったが、自分からアクションを起こす必要は無かった。
「お話があります」
 現部長は、他の部員たちが下校するまで絵を描き続け、美術室から最後の一人が去った後でそう切り出してきた。言い難そうに、しかし懸命に、先日の告白の答えを聞きたいと言ってくる姿を見ていると、もう一度思いを告げられている気分になる。
 ――俺と麻巳が付き合っていることは分かっていたはずだ。それでも告白し、しっかりと答えを求めてくる。そんな誠実で強い思いに、俺はほんの少しでも面倒だと思った自分を恥じた。
 高校時代の自分は、こんな強さを持てなかった。その結果、麻巳との今があるのだから全てを否定するつもりは無い。それでも、今向けられている思いに俺が抱くべき感情は、真摯な答えだけであるべきだ。
 傷つけることは分かっていたが、それでも言葉は率直でなければならない。最高の答えは最初から埋まっている。間違ってない答えなんて無い。ならば、自信を持って言える言葉など有り得ない。
 せめて半端な気持ちを残さぬようにと祈りながら、俺は感情を交えず事実だけを言った。
「俺には恋人が居る。彼女を愛している。だから、藤浪の恋人にはなってやれないんだ」
 言葉をぼかす補足など不要。謝罪の言葉も無い。それが礼儀だと、俺は思った。
 果たして彼女は、分かっていた答えを改めて受け止め――って、なんで呆然としてるんだ?
「あたしとあんなに仲良くしてたのに、他に女が居たって言うの!?」
 しばらく微動だにしなかった藤浪は、とんでもないことを喚きながら再起動した。
 仲が悪いとは思わんが、語弊のある言い様はやめて欲しい。エリスの代わりだ、なんて言って引っ付いてきたのは藤浪の方だ。俺はやめろと何度も――いや、それ以前に。
「なんで疑問系なんだ。麻巳と付き合ってる事なんて誰でも知ってるだろ」
「誰と誰と誰よ! ……っていうか、よく顔見せてる元部長の、あの竹内麻巳先輩!?」
「あ、ああ。言って無かったか?」
「言ってたら告白なんてするわけないでしょうが!」
 当然だが、物凄い剣幕だった。
 そもそも藤浪朋子はかなりの癇癪持ちではあるのだが、出会った当初に比べてずっと大人になってきた昨今である。部長としての責任感も手伝ってか、本気で怒っているのはかなり久々の事だ。
「悪かった。勘違いだ。しかしお前、エリスには聞かなかったのか? アイツは見事に全部知ってるぞ」
「聞いてないわよ!」
 本当に噛み付きかねない勢いで詰め寄られながらも、俺はエリスの気持ちも分かる気がした。
 自分でもあまり触れたい話題ではないし、藤浪の気持ちを知っていたら、なお言い難いだろう。それに、親友とはいえ身近に居るわけではない現状では、切り出す機会も少ない。
「責任転嫁してんじゃないわよ。全部あんたがいい加減だからでしょうが!」
 確かにそうだ。言ったつもりで忘れてた、なんてのは昔から少なくない駄目人間の俺にしても、さすがにこれは洒落になってない。
 文句を全て受け入れよう、と覚悟を決めた。何時間続くか分かったもんじゃないが、今日はとことんまで付き合ってやろう。
 そう思った矢先、藤浪は急に大人しくなった。どうしたのかと俯いた顔を覗いてみると、必死に涙を堪えている様だった。
「……知ってれば、こんなに育てないってのよ」
「すまん」
「……今更どうしろってのよ、こんな気持ち」
「言い訳の一つも浮かばん」
 震えながら必死に泣き出しそうな気持ちを抑えつけている健気な少女に、もはや俺は何も言ってやれなかった。
 今更気付く俺はどうしようもない大馬鹿野郎だ。怒鳴って怒りを叩きつけて――というのは、彼女なりの優しさだったのだ。そうして頭の上がらなくなった俺と、明日からは、いつもとほんの少し違うだけの関係を続けていける。そう思ったのだろう。
 最後までもたなかったのは俺のせいだ。俺が気付いてもっと怒らせるようなことを言ってやれれば良かった。
 もう付き合いも長いというのに、まったくもって情けなさすぎる。いまだに理解し切れていないのか、藤浪朋子という少女のことを。
 優しく素直で純粋で、それを表現することが非常に不器用な生徒。時折無茶なことを言って甘えてくるし、教師をからかって遊ぶし、イーゼルで思いっきりぶん殴ってきたりもするが、それら全ては親愛の情を向けるが故のこと、じゃれる猫の甘噛みに過ぎない。現に、人見知りをするから初対面の相手には別人のように大人しいのだ。
「あたしが先に告白してたら……?」
 俺は首を横に振った。
 正直に言えば、分からない。しかしその答えは間違っている。勿体無い、などと思ってはいけない。
 俺は先ほどの決意を思い出す。この問いは、答えをぼかす補足に過ぎない。
 必要な正直は一つだけ。受け入れるのか、断るのか。受け入れる筈が無いのだから、答えは全て否定であるべきだ。
 自分を掻き抱いて震えている藤浪が戦っている相手は、紛れも無く俺だった。それでも、抱きしめてやりたい衝動に駆られる。もちろん間違った行為だ。
 麻巳に悪い、という気持ちもある。しかし一番は藤浪のためだ。余計な衝動に負けて、余計に混乱させ、傷つけてはならない。
「分かった。諦める。……ありがと」
 藤浪は顔を上げないまま、それでもしっかりと言った。
 賢い奴だ。俺の答えは、真意まで伝わってしまったらしい。
 いけないと思いながらも、俺は目の前の少女を放置し続けることに限界を感じていた。
 それが間違いの始まりだと知りながら、俺の手は藤浪の頭に伸びる。
「ごめんな」
 そのまま優しく撫でてやる俺の前で、藤浪はますます辛そうに震えていた。



 入学後、さらに一年遅れて入部してから絵を描き始めた藤浪は、技術的に大きく劣る。それでも部長になったのは、前部長の田丸ひかりが強く推したためだった。
「私では役者不足でした。竹内先輩とも相談したんですけど、部長は上倉先生の扱いが上手い人がなるべきだと思うんです」
 平然と言ってのけた田丸だったが、あれだけイーゼルぶん回しといてよく言えたもんだ。今思えば、俺へのやんちゃ過ぎる仕打ちは麻巳に匹敵するものがあった。誰より尊敬していた竹内先輩の後を継ぐ――と、真面目なアイツは入れ込みすぎていたのかも知れない。
 まあ、そんな経緯で部長に就任した以上、いつまでも俺を放置しているわけにもいかなかったのだろう。あれから藤浪は部活に顔を出さなかったが、それも数日のことだった。部長としての責任感もあってか、週が変わると美術室に顔を出す。
「今日もご指導宜しくお願いします」
 普段ではなかなか見られない、畏まったお辞儀をしながらの一言。どう接すれば良いものかと俺はそれなりに悩んだのだが、どういうわけか向こうはケロリとしていた。それで全面的に安心出来た訳でもないが、せっかく藤浪が用意してくれた接し方を、俺も受け入れることにする。
 そうして、いつもの面子が揃い、賑やかながらも静かな部活動が始まり、そして終わった。
 それぞれに道具を片付け、部員たちが一人また一人と帰宅する。最後の部員が去ったと同時、一人残った藤浪は、部活中の上機嫌を綺麗サッパリ捨て去った。
 般若の形相で俺に歩み寄ると、そのまま手加減無しで平手を打った。俺は甘んじてそれを受ける。
 藤浪は、抵抗しない俺を面白く無さそうに眺めた後、今度は怒鳴った。
「せめて彼女が指輪の一つでもしてれば気付いたってのよ、この甲斐性なしーっ!」
 手加減無しの声量である。俺は鼓膜が破れそうだという以前に、さっき帰ったばかりの部員に聞こえてやしないかと余計な心配をしていた。
 それでも耳が痛いのは事実なので、耳鳴りのする耳を押さえる。そんな俺に藤浪は、先ほどまでの怒りは微塵も残さず消し去り、ため息混じりに言った。
「少しはスッキリしたわ。一応、許してあげる」
 そのまま踵を返し、画材の片づけを始める。
 部活を休んでいたのは、単に気まずいからではなく、どう決着をつけるか考えていたわけか。
 何ともまあ、成長したもんだ。絆を結ぶことにすら臆病だった奴が、今やそれを維持することに誰より貪欲なのだ。
 ここは遠慮するところではない。そう思い、俺はふざけた口調で言った。
「お前も根はいい奴なんだよな。大人しくしてりゃ可愛いんだ。最近は人付き合いも上手くなったし、俺なんかより良い相手がすぐに見つかるさ」
「ふん。あたしはいつでも可愛いわよ。それに、そうね。まずはあんたより良さそうな男を探すわ」
 藤浪はそこで言葉を切り、纏めた荷物を持ち上げてから、冗談めかして言った。
「苦労しそうだけどね」
 最後には笑顔で去って行く藤浪は、伝統ある美術部の部長に相応しく颯爽としていて、男の俺から見ても格好よかった。それこそ麻巳にだって負けてない。
「教え子があれだけ成長してるってのに、俺は何をやってるんだかな」
 後頭部をガリガリと掻きながら、藤浪に言われた言葉を思い出す。
 確かに、言われてみれば至極ごもっともであった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





第三話
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/09/06(土) 00:13:01|
  2. 中編

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