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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

告白  ~第一話~

 今日は祝日で、一部を除いて学校は休みである。もちろん、部活やその他の事情で登校する教師も生徒も少なくないが、幸いにも今日のところは俺には関係が無い。のんびりと昼頃に起き出してきた俺は、身体をソファに埋めながらボーっとテレビを眺めていた。
 昨日の出来事を頭の中で思い返しながら、何ともいえない気分になる。正直、憎からず思っている相手でもあるわけで、嬉しいと思う気持ちも無いわけではない。しかし、残念というか失礼ながらというか、状況はひたすらに面倒だった。
 このことをアイツに言うべきか言わざるべきか、一通り悩みはしたが。当然、黙っておくことにする。
 ――昨日の放課後、部活も終わった後のことだ。美術部の顧問である俺は、美術準備室に引き上げ、帰り支度をしていた。
 そこに一人だけ残っていた生徒が顔を見せる。美術部の部長を務めるそいつは、どうやら俺と二人きりになるタイミングを見計らっていたらしい。
 その女生徒は、秘密で書き上げたという、自分の思いの全てを叩きつけた絵を持って来た。上倉浩樹を――つまりは俺を描いた絵である。それを渡しながら、真っ直ぐに俺の顔を見つめ、真剣な面持ちで言ってきたのだ。
「先生のことが好きです、恋人になってください」
 最初は何の冗談かと思ったが、いつもいい加減な俺を叱り飛ばす奴が、一方的に言い放った後には顔を真っ赤にして走り去ったのだ。返事はまたの機会でいいです、などと言い残して。さすがに冗談だとは思えない。
 何とか傷つけないように断りの返事をしなければならないのだが、相手が顧問を務める部の部長ともなれば色々と気を使う必要もある。
 電源の入ったテレビから垂れ流される、グラサン掛けた怪しげなおっさんのトークは念仏のように無意味な言葉の羅列となって耳を素通りしていた。俺は視線を天井に移しながら、どうしたものかと考えを巡らせる。
 まあ、考えているようで思考はおよそ回転しているとは言い難い状態ではあったが。そんな俺の視界に、突然影が差した。
「昼間から何をしているんですか?」
「うぉあっ!?」
 寝転がるのに近い体勢だった俺は、驚いて上体を起こした。ソファのうしろ、俺の顔を真上から覗き込んでいた相手は、頭をぶつけそうになり慌てて避ける。
 文科系のくせに、相変わらず身軽な奴だ。大学行って二年目だというのに、まだまだ若さがはちきれんばかりに元気そのものである。
「危ないじゃないですか」
「そりゃこっちの台詞だ。いきなり綺麗な顔を出すな、飛びつきたくなるだろうが」
 顔をあわせるなり手加減無しの褒め言葉。彼女は更に重ねようとした文句を飲み込み、初々しく頬を染めた。――いつまでもそんな反応をしてくれるものだから、こちらも時々、ついからかいたくなるのである。
「で、どうしてここに居るんだ? 迎え入れた覚えはないぞ」
 尋ねながら服装や髪形をチェックする事も忘れない。順番が逆だが、まあ細かい事はいいだろう。視線の意味は伝わったらしく、しかたないんですから、と満更でも無さそうにぼやかれる。こういうやりとりは、照れくさいながら実に悪くない。屋外では絶対にやらないが。
 なんでも、稀に綺麗に着飾っても褒めるどころか気付きもしない俺に対する抵抗として、根底のイメージから大胆に変身して見せるので毎日まずはチェックするよ~に、ということだそうな。こいつは大学に入学してからというもの、それをしっかり有言実行している。そして、今日はどうやら控えめな日らしく、眼鏡をかけて髪を下ろし、後頭部で結ばれた控えめな色のリボン――ただしサイズは特大である――も良いアクセントになっていた。
 髪をまとめて眼鏡をかければ敏腕なんたら。髪を下ろして眼鏡をコンタクトに変え、ヘアバンドにカジュアルな服装で快活な感じに。自然に流した髪型のままヒラヒラした服を着ればお嬢っぽく。まあ器用に化けるもので、内面的にもそれぞれの素養を持ち合わせているコイツは、服装に影響されてか挙動や言動も多少変わるのだった。
 迷惑とは間違っても言えない、極めて目に嬉しい習慣である。
「ドアホンも押しましたし、合鍵で入った後もずっと声を掛けていたんですよ。というか、私は褒められているんでしょうか。何となく微妙な感じですけど」
 とりあえず最初の褒め言葉が適当だった事はバレバレだったようだ。それでも照れる辺り、実に褒め甲斐のある奴である。
「美人なのは本当だぞ。それとリボンがよく似合ってる。固いイメージぶっ壊すのには悪くないな、そういうのも」
「固いですか、やっぱり……」
 む、褒めたつもりが落ち込んでしまった。どうにもお世辞というのは難しい。
 ご機嫌取りのつもりなど無く、本当に思った通りの事を言っているはずなのだが、どうやら俺には女性の喜ぶ言葉を吐く才能は無さそうだ。
「ええと、その、なんだ。本当に本気で可愛いと思ってるぞ?」
「そこまで必死になられると、逆に胡散臭いですよ。……もういいです。期待した私が馬鹿でした。あ、それと褒められたのは嬉しかったので+3点、内容がイマイチなので-1点ですね。もう少し頑張りましょう」
 得意気に人差し指を立てながら、教師のような口調で言う。だが騙されてはいけない。こいつの場合、本当に傷ついてすぐに切り替えただけなのだ。だから、次からはもっと頑張ろう、と心の中で誓いを立てる。
「それで、本題なんですけど」
 彼女はソファの脇にバッグを置くと、前に回り込んで俺の隣に座った。
 ――彼女、と言って差し支えないだろう。親も公認の中であり、婚約したわけでもないが、将来はそうなるだろうと思えるくらいの仲だ。
 考えてみれば、コイツはここに居るはずが無い。休日は大抵、実家の喫茶店を手伝っているはずなのだ。
 俺の顔色を伺っただけで疑問を察したのか、俺の愛する人は――竹内麻巳は話し始めた。
「帰りにはいつもうちに寄るはずなのに、昨日は来なかったじゃないですか。連絡も無いし。電話も繋がらないし。翌日が休みだから明日来るのかな、と思ったら午前のうちに顔を見せない、電話も無い。こちらから電話をかけても、やっぱり繋がらない」
 スラスラと出てくる言葉は、怒ってはいるが怒りきれていない、といった語調だった。何も無くてホッとした、といった感情が大半を占めているらしい。
 ここまでくれば、誰かさんに鈍感大魔王などと呼ばれた記憶のある俺にも大体は飲み込めた。
 予定通り顔を見せず、一向に連絡の付かない俺の身を案じてコイツはここに居るというわけだ。要らんと言われても頑なに続けている実家の手伝いを休んでまで、である。
 昨日から考え事をしていた俺は、周囲のことに注意を向けられないでいたらしい。昨晩から何度か電話が鳴っていたとしても、確かに気づかなかっただろう。
「誰かさんは、自分の事にはひたすら無頓着ですから。放っておくと、もう心配で心配で。そのうち腐乱死体が発見されでもしたら、一生のトラウマになっちゃいます」
 言いながら目端に涙が浮かぶ――ことがあっても不思議でない内容だったが、実際のコイツはワザとらしいニコニコ笑顔で上目遣いに言ってくる。からかってるだけなのは明白だったので、俺も適当に返した。
「俺は孤独な老人か。ご近所付き合いもちゃんとやってるぞ」
「主に私が、ですけどね」
「う゛……」
 積極的に人付き合いを広げる傾向の無い俺の私生活は、麻巳と付き合いだしてから徐々に改善されていった。主に鬼教官の手により、半ば以上強引に。本人の意思など介在する余地も無く。
 教師たるもの自らが手本でなければなりません。私生活の中でも、積極的に地域社会の一員としての自覚をですね――などと最近頭がますます寂しくなってきた教頭に負けず劣らずの有難いお話を、長々と力説され。その後、説教よりは自由にさせた方が楽か、という結論にたどり着き現在に至る。
 今や上下合わせて3フロアの住人全てが親密な付き合いであるが、その殆どが、このマンションの小さな地域社会における部外者に過ぎない竹内麻巳を介してというおかしな話になっていた。もはや俺は、一人身のまま尻に敷かれていることがご近所さんに露呈してしまっているわけである。
 ちなみにご近所さんには、老若男女問わず麻巳の実家である喫茶店『やどりぎ』の常連客になっている者も少なからず居る。マメに地図入り割引券など配って宣伝している辺り、見た目と違い意外とちゃっかりしている奴なのだった。
「で、そろそろ本題に入りますけど。何があったんですか?」
「何の話だ」
 聞かれて、俺は即座にとぼけてみせる。とっくの昔にそうすると決めていた。
「とぼけるなら、せめて私の目を見て言ってください」
 出来るものなら最初からそうしている。んなことしたら秒で気付かれる。
 しつこく俺の視界を追いかけて身体を動かす麻巳に、俺も半ば意地になって何度も視線を逸らし続けた。
 麻巳が先ほど怒りを収めてくれたのは、心配がより大きかったからで。その心配からくる攻勢は、どうあっても諦めてくれそうにない。
「話せないようなことなんですか?」
「そ、そういうわけでは……」
「なら、なんですか?」
 狭いソファの上で、俺は何とか逃れようと後へさがっていくのだが、その度に物凄い勢いで身体を寄せられて、遂には逃げ場を無くした。
 とうとう身体を密着させながら、俺の顔のすぐ下から心まで覗き込むようにして、力を込めてこちらの目を見つめてくる麻巳。逃がさないという決意表明のように拘束された腕は、柔らかいものが当たっているにも関わらず、気持ちいいというよりは離して欲しくてたまらない。
 麻巳は物凄く一途な性格をしていて――時に、悪く言えば物凄くしつこくて、諦めが悪くて、強情で――。
「……む」
 目つきが一層鋭くなる。しまった、心を読まれたか。
 それでもなんとか誤魔化そうと悪あがきを続ける俺に対し、麻巳はこちらの腕に抱きついた体勢のまま、唐突に何かを悟ったように疲れた溜息を吐く。
 いつの間にか水滴が頬を伝う俺に、彼女は疑問ではなく断定の調子で言った。
「……女ですか」
 何の反射行動か知らないが、図星を指された俺は体がビクリと震えた。恐るべきは女の勘か。
 もちろん見逃すはずの無い彼女は、コメカミにくっきりとした青筋を浮かべ物凄い力で俺の腕を締め付けてきた。その間、明らかに作りものの笑顔が俺の顔を見上げている。
 明らかに現実の斜め上を突っ走ってる感じの妄想が彼女の頭の中には渦巻いているのだろう。しかし浮気しているわけでもないんだ、うろたえる必要は無い。俺は自分に言い聞かせながら、努めて冷静に言った。
「いや、勘違いするな。そんなヤバイ話じゃない、断じてちがっ……って痛い、イタッ、やめ、やめてお願いゴメンなさい包み隠さず話しますから!」
 腕を捻じ切られそうなほど身の危険を感じ、俺は慌てて謝り倒す。ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……と呪文のように唱え続けて十数秒。
 少しは気が晴れたのか、ようやく腕の締め付けが弱まった。俺は涙目になりながらも、与えられたチャンスを必死に掴み取る思いで話し始めた。
 現在の美術部部長に、部活後に告白を受け、その断り方を考えていたのだと、詳細な経緯まで残らず話す俺。情けないやら恥ずかしいやら、ついでに半分は相手方のプライベートでもある事柄を洗いざらい白状することに罪悪感も感じつつ。
 生きた心地のしない時間は、それでも微妙に流れてくれていた。ようやく俺が話し終えると、麻巳はやっと俺の腕を開放してくれる。
「……それで、何で隠そうとしたんですか?」
「あんまり気持ちの良いことじゃないだろう、お互いに」
「そうでしょうか。センセイとしては、気分が良かったんじゃないですか?」
 竹内麻巳が上倉浩樹を呼ぶ時、浩樹さん、というのが正しい形だ。堅苦しい口調で上倉先生、と言うのはちとヤバイ感じ。今回のように、冷たい口調でセ・ン・セ・イ、などというのはまだ未知の領域だが、明らかに今までよりも遥か上の危険度だった。
 しかし、さすがの俺も簡単に引き下がるわけにはいかない。二人の関係に亀裂が生まれかねない事態なのだ。
 せめて骨だけは残してくれることを祈りつつ、俺は深々と頭を下げながら言った。
「すまん。今回は全面的に俺が悪い」
「今回『は』って言いますけど。こういう時って、大抵はセンセイが悪いじゃないですか」
 いや、殆どの場合俺が折れてやってるだけじゃないか。
 ――もちろんそんなことは心の中でしか言わない。現実の俺はひたすら低姿勢なのだった。
「しかし悪いと思うのは隠してたことであってだな。生徒に告白されたこと自体は、とりあえず麻巳さんにはとやかく言えんと思うのですがご再考をお願いします」
 ソファに額を擦り付けたまま言う俺。麻巳も痛いところをつかれたらしく、小さな呻き声が漏れる。
「ま、まあいいでしょう。顧問として真面目にやっているとも取れますし」
 逆の時にお前に告白されたんだが――というのも、もちろん心の中でだけの叫びである。
「と、とにかく明日にはちゃんと断ってきてくださいね」
 急にそっぽを向いて言う麻巳さんは、何だか怒っているというより――
「はいはい。有難いものを頂きましたんで、しっかり務めを果たして見せますとも」
 俺は大げさに胸を叩いて請け負った。

 付き合いだして一年と数ヶ月。我慢と忍耐の人が初めて見せる嫉妬の感情と、そんな自分に恥じ入る姿を見てしまっては、もう誤魔化す余地など全く無いと覚悟する俺なのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





第二話
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/09/01(月) 01:20:28|
  2. 中編

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