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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

彼女が来ない理由(麻巳SS)

 駅前の広場でベンチを占領して、もう一時間になる。
 そのうち三十分は約束より早く来た自分が悪いので構わない。残りの三十分だって、初デートのドキドキワクワクの見返りと考えれば、まあいいだろう。
 ――つまり、浩樹は怒っている訳ではないのだった。そわそわが半分で、残りはただただ心配ばかり。
「何かあったのか……?」
 いかにも約束より早く来そうな麻巳の性格を考えると、そう考えざるを得ない。
 三十分前に着いた浩樹だが、それでも一時間くらいは前に来ていた麻巳に怒られるのを想定していたのだ。定刻通りだと物凄く待たせそうで、つまり相手が麻巳だからこそ早く来たという状況。
「電話……も、催促しているみたいだしなぁ」
 何事も面倒そうに生きている浩樹だが、人並みに見得くらいはある。
 ここは大人の余裕を見せてやらねば。そう感じる程度に歳の差もあり、元教え子という立場もあり。
 とはいえ、何かあったとしたら放っておけない。そろそろ我慢も限界だった。
「仕方ないな……」
 懐から携帯電話を取り出し、アドレス帳を開くまでもなく最新の履歴から電話をかける。
「やっぱり、何かあったのか」
 呼び出し音が鳴り続けるものの、一向に出ない。ついに留守番電話へ転送されて、怒ってないから電話くらいくれよ~、とワザとらしく泣き言のような一言を入れておく。
「さて、どうしたもんか……」
 自宅、或いは友人関係か。美術部関係やいつもの面子など、何人かの電話番号は知っている。だが、かけるとなると恥をかかせたりするものだろうか。そもそも付き合っているという情報はどこまで流れているのかも謎である。
 新しい煙草に火をつけて、腕組みしながら悩んでいると、携帯電話が鳴り始めた。二つに折り畳まれた本体を開くと、液晶画面にはご本人プロデュースによる『愛しの麻巳ちゃん』との表示。慌てて着信ボタンを押す。
「もしもし」
 呼びかけてみるものの、返事は無い。改めてもう一度、と今度は名前で呼んでみる。
「麻巳か……?」
「……ぅっ……」
 返事の代わりに呻き声のようなものが聞こえた。
「おい……麻巳……?」
「……う……ひくっ……うぅっ……」
「麻巳さ~ん?」
「う゛~っ」
 泣いてる。マジデナイテル。ナシテ。――まさか襲われた!? 可愛すぎるから!? デートでおめかしし過ぎた!?
「今どこに居るっ!?」
 浩樹の頭の中では、とんでもない妄想がグルグルと回っている。
 話にならない麻巳から何とか場所を聞き出し、慌ててそこへ向かった。


 急いでその場所――とある階段の下までたどり着くと、下から二番目の段に腰掛けた麻巳は責めるように浩樹を指差し、まずは怒った。
「遅いっ!」
 言い方はどこか芝居がかっていて、ついつい笑ってしまいそうになるが、浩樹はとりあえずご機嫌伺いという事で頭を下げておく。
 泣いていると思って来て、最初に想像していた通りの事を言われて――。まあ、怒っても良いところかも知れない。だが、とてもそんな気にはなれなかった。
「ああやって大変そうにしておけば、すぐに来てくれると思ったんです」
「そうだな」
「でも、簡単に女の涙に騙されてるようじゃ、浩樹さんもまだまだですね」
「そうだな」
「……聞いてるんですか?」
「そうだな」
「もう」



Sketches and company(ブタベストさん)



 最後は麻巳も気付いたようで、照れ隠しのような響きがあった。
 ――レモンイエローのインナーとスカートの上に、白のワンピース。色合いは明るいながら派手という程でもないが、落ち着いた――悪く言えば地味な色合いを選びがちな麻巳にしては珍しいチョイスである。
「ふぅむ……」
 だがそれ以上に、エリスどころか朋子や可奈が選びそうなフリルたっぷりの可愛らしい衣装は、パッと見た瞬間に何事かと思う程だ。もっとも、普段を知っていればこそ驚きは大きいが、そうでなければただ見惚れる者が大半であろう。普通の女の子なら街中を歩くには浮きそうな格好だが、さすがにメイド服を着慣れているどころか平気でそのまま買出しに出るお嬢さんは別格だ。実に完璧な着こなしっぷりである。
「むぅ……」
 普段の麻巳は凛としていてどこか二枚目的な雰囲気を持ち、浩樹からすればそれも魅力的だとなるのだが、本人は今日くらいそれを払拭したかったらしい。学校でもしっかり者のイメージ定着に一役買っている眼鏡をコンタクトに変えて、しっとりとした長い黒髪も自然に流している。それでも装飾品は大人しいデザインのイヤリングだけで、麻巳らしい控えめな印象を残してもいた。
「ぬぐぐぐ……」
 ほんのり乗せただけのメイクも彼女の若々しい魅力を引き立てるには必要十分で、全体に華美に過ぎる事も無いが、だからこそバランスには苦心したはずである。素朴で極めて普通なお嬢さんといった装いは、そういった姿をなかなか見せない人間の場合、これがまた侮れない。惚れてから日の浅い男が相手なら尚更である。
 ――浩樹が百面相しながらじっくり堪能していると、
「ふふふ。どうやら、気に入ってもらえたみたいですね」
 それまでジッと見られるに耐えていた麻巳は、満足そうに微笑む。上品な笑みはどこぞの令嬢といった風で、浩樹はまたドキリとさせられるのだった。
「ところで浩樹さん、お店で始めての時に私を口説きましたよね?」
「それは忘れてくれ……」
 本人にしてみれば過去の汚点である。拝むように言った浩樹に、麻巳は苦笑した。
「いいじゃないですか。嬉しかったんですよ。それに、だから今日はこうなったんです」
「……うん?」
「あの服を、そのまま着てデートという訳にもいきませんから」
「へえ。つまり、今日の服装はあれの延長って訳か」
「どうにかあのイメージを持ち出せないかと思って、母と相談しながら作ったんです。最終的には、髪型とコンタクトと可愛い路線でって程度になっちゃいましたけど」
 見惚れている浩樹の視線を受け止めながら、麻巳は誇らしげに胸を張る。
 言われてみれば、なるほど細部の構造は似通った部分が多々あった。本人は大して似ていないと言うが、素人の浩樹から見ても十分に共通したイメージを感じられる。あの服を普段着にアレンジし直すなど素人技とは到底思えないが――確かにあのお袋さんならば可能だ。そもそも、あの複雑な構造のメイド服すら同一人物の手によるものである。
「それで。どうですか? まだ言葉で感想を聞いていないんですけど」
「どう、と言われてもな」
 改めてまじまじと見ながらはぐらかす浩樹に、麻巳はムッとして可愛らしく上目遣いに睨んだ。
「駄目なんですからね。ここは、大切な場面なんですから」
 もっと女心を勉強しなさいとは、付き合うことになってすぐ言われた言葉。
 これには浩樹も、すぐに諸手を上げた。
「いや、参った。降参だよ。凄く可愛いし、それによく似合ってる。本気で時間が止まったかと思った」
「そこまで褒められると、なんだか胡散臭いですね。いつもがいつもなだけに……」
「嘘じゃない。惚れ直した。いつもの姿も、ううむ……?」
 浩樹は何を思ったのか、突然麻巳の後頭部に手をやり、髪を集めてポニーテールを作る。そして、目の前に片側だけわっかを作った。
「おお、やっぱりだ。学校での姿でもよく似合うぞ」
「今は、似合いませんか……?」
 不安そうな顔をされて、浩樹は慌てて手を離した。
「もちろん、新しい姿を見せてもらえるのは嬉しいよ」
「本当に?」
「ああ」
「改めて聞きますけど、今の姿は、どうですか……?」
「少なくとも落ち着かないな」
「あう……」
 ガックリと肩を落とす麻巳に、浩樹は思わず笑ってしまいそうになった。明らかに勘違いしている。
 浩樹は落ち込んでしまった麻巳の顎に手を当てて、やや強引に上を向かせた。それから、瞳を真っ直ぐに見つめる。
「ドキドキし過ぎる、って意味だよ」
 傍から見たら笑える位に臭い芝居だが、麻巳がそういった状況に流されやすい性質だからこそ、浩樹も反応が見たくてついついやってしまうのだ。案の定、麻巳はほんのりと頬を染めている。
「いつも、こんな格好されたんじゃ身がもたない」
 更に追い討ちをかけると麻巳は茹蛸のようになり、慌ててそっぽを向いた。
「い、いいです。信じてあげます」
 わざとらしく付け足すのは照れ隠しか。こういうのは、分かって欲しくてそうしているのかも知れない。微笑ましくて、ついつい和みかけるが――。
「で、何があったんだ?」
 急に真剣になった浩樹に、麻巳は不意を衝かれて小さく呻く。
「だ、だから浩樹さんは騙されたんですよ」
「理由が無いだろ」
「ちょっとからかってみたくなった。……それだけです」
 確かに浩樹は騙しやすい人間かもしれない。そんな自覚も多少はある。
 しかし鈍い鈍いと二十年以上も言われ続けた浩樹と言えど、電話口の様子から恋人の危機を察する程度の感覚は持ち合わせているつもりだ。あの時は、明らかにただ事ではなかった。
 現に、麻巳は目尻がちょっぴり赤く腫れている。
「ともかく、どこか他へ行こう。いつまでもそうしていたって仕方ないだろ」
 隠したいなら仕方ない。今のところは騙されておこう。そう考えた浩樹だったのだが、ふと気付く。麻巳は、何故か立とうとしないのだ。母親と作った自慢の衣裳を見せ付けるときも、立ち上がって一回転くらいはしそうなものなのに、座ったままだった。
 第一、そんな手間のかかった大事な服で地べたに座るなど有り得るだろうか。潔癖症までいかないとはいえ、平均よりずっと綺麗好きな麻巳が――。
「その、もう少しここでゆっくりしませんか?」
「何故に」
「ええと、つまり。――そうだ、もったいぶるほど有難みが増すってものです」
「もう十分に有り難いよ。そんなとこ座ってると丸見えだしな」
「――っ!」
 麻巳は慌ててスカートを抑える。
「みっ、見たんですか!?」
「ああ。つむじがハッキリ見えたぞ」
「……何の話ですか。もう」
 麻巳は疲れたようにため息を吐いた。
「いや、でも実際の話な。……お付き合いしている立場としては、他の男が通りかかる前にとっとと移動したいんですがね」
「その心は?」
「見惚れるのは俺だけで良い」
「街中を歩いても、見られますよ?」
「一瞬くらいなら許してやる」
 クスクスと嬉しげに笑う麻巳は――しかし、それでもやはり立とうとしなかった。
「……ふぅむ。なんか本気で見てみたくなったかもな」
「か、かもって……」
 有限実行もたまにはいいだろう。浩樹はひょいっと座り込み、正面から麻巳をローアングルで見上げる。目の前に足があり、膝丈のスカートはかなり危ない眺めだ。
「じー……っ」
「な、なんですかそのワザとらしい効果音はっ」
「じぃぃぃぃぃーーーーっっ」
「目に力を入れたって、何も見えたりしないんですからねっ」
 などと言いながら、麻巳はより真剣に閉じた足に力を籠め、スカートを抑えている。
 もちろん麻巳が心配するようなものは見えない。しかし、代わりにヒントくらいは掴めた。
「だっ、駄目なんですからねっ!」
「ん?」
 いつの間にやら真剣になり、からかっていたのをすっかり忘れていた浩樹である。麻巳の必死な声に、ふと顔を上げた。
「そ、外でそういうのは駄目なんですっ! 親しき仲にも礼儀あり、なんですからっ!」
 やれやれ、と浩樹は内心でだけ嘆息しながら、それでも座り込んだままで、そ知らぬ顔をして見せた。
「なら、立てばいい」
「うぅ……」
 苛めすぎたか。麻巳は泣きそうな声で呻いた。
 ――となると、どうやら本決まりか。
 浩樹が気付いた事というのは、麻巳がハイヒールを履いている点だった。
 加えて、普段なら食って掛かってくる場面でも、大人しく座り込んだままで押し自体も弱い。これは、かなり弱気になっているという事だ。普段は強気で意地っ張りの麻巳がそうなるのは、大きな失敗をやらかした時と何かに悩んでいる時だけである。
 そして、麻巳はあまりハイヒールというやつを履かない。それを今日は履いている。そして、ここは階段の下。
 立てなくなる失敗、慣れないハイヒール、そして階段。導かれる答えは一つだ。最早、考えるまでもない。
「……まあ、麻巳が言い張るならいいさ」
 あまり苛めるのも可哀相だ。浩樹が立ち上がりながら言うと、麻巳は驚いたように顔を上げる。
「その代わり、ちょっと目を瞑れ」
「はい……?」
 不思議そうに小首を傾げる麻巳。衣裳も相まってドキッとするほど可愛らしい仕草だが、浩樹は誤魔化すように不自然な咳をして、それからもう一度念を押す。
「だから、目を瞑れ」
「まあ、いいですけど。そのくらい……」
 麻巳はほんのり頬を染めながら、上向き加減で僅かに唇を突き出す。何を期待しているかは明白だった。
 浩樹もそうするつもりではあったものの、そうあからさまに期待されては意地悪してみたくもなる。
「えっ!?」
 左の瞼に口付けてやると、麻巳は驚いて目を開いた。
「もう片方もだ。早く瞑れ」
「でも、え、あれ?」
「……こいつで誤魔化されてやると言ってるんだ。早くしろ」
「は、はいっ」
 慌てて目を瞑る麻巳。
 望む行為ではなかっただろうに、それでも胸を高鳴らせながらカチコチになって目をギュッと閉じている姿は何とも微笑ましい。
 抱き締めてやりたくもなろうものだが、ともかくまずは公約を果たさねばと浩樹は右の瞼にキスをした。
 そのまま素早く額にも口付け、鼻の頭にもオマケをくれてやる。
「……んっ……!」
 驚いた麻巳が目を開け口を開こうとした瞬間、浩樹はその唇を強引に塞ぎ、それから強く抱き締めた。
「これだけは言っておくぞ。本気で心配したんだからな」
「は、はい。それは、その……ごめんなさい……」
「じゃあ誠意を見せてくれ。俺の言う事、一つでいいから何でも聞く。いいな?」
「……は、い……」
 麻巳は顔を赤らめながら頷く。その脳裏に浮かんでいるのは、果たしてどのような桃色時空なのかと想像しつつ、
「じゃあ命令だ。俺におんぶされろ」
 俺は更に、予想外の言葉にぽかんとした表情の麻巳まで堪能するのだった。


「どうせだから、このまま両親に挨拶でもしてもらいましょうか」
 背中の麻巳はえらくご機嫌だった。
 細身で背も高くない麻巳だが、それでも人一人担ぐとなれば結構な重さだ。浩樹は虚弱なインドア派なので結構キツイのだが、見栄と気遣いと両方で虚勢を張り、元気よく声を張り上げる。
「何を言うか。これから家に連れ込んで、身動き出来ないのを良い事にあれやこれやと好き放題にしてくれるわっ!」
 無論、その前に医者へ行くのは言うまでもない。あくまで悪乗りの会話である。――のだが、
「そ、そうなんですか……?」
 それは麻巳も同じだろうに、期待するように漏らした。
「期待するなっ。冗談だ、冗談っ!」
 日が浅いとはいえ既に恋人同士なのだから構わないはずが、浩樹は何となく焦ってそれを否定した。
「わ、分かってますよ。当たり前じゃないですか、そんなの」
 麻巳も慌ててそう言って、それから暫く妙な沈黙。顔を見られないのをお互いに感謝しつつ、残念にも思いつつ――。
「なあ、麻巳」
「……」
「麻巳?」
「はっ、はい、なんですか!?」
「いや、そのな。何と言うか、こういう場合の定番というかお約束というか、なあ?」
「……ええと?」
 ピンと来ないようで、麻巳は疑問を返す。
 さすがに言い難い。が、言った後の反応が見たい一身で、浩樹はその言葉を口にした。
「胸があまり当たってないぞ。遠慮してるんじゃないのか?」
「なっ、何を言ってるんですかっ!」
「いや、苦労して重いもん運ぶんだからそのくらいの役得は――」
 ごつん、と大分本気で後頭部を殴られた。そのまま10発近くもぽかぽかと叩かれるが、一回ごとにみるみる弱まっていく。
「もう、ばっ、馬鹿なんですから……っ!」
「ははは。冗談だよ、冗談だってば」
 多少は痛い思いもしたが、麻巳の照れる様子が堪能できた。おんぶも含めて、見返りとしては十分だ。
 胸の感触は――まあ、多少は残念だが家に返れば堂々と触れる事だって出来る。今は本当に満足して、
「あの、その、ですね……」
 ――満足しようとして、その直前。背中に柔らかな感触が押し付けられる。
「お、おい」
「どうですか。き、気持ち、いいんですよね……?」
「その。気持ち良いというか……」
 言葉を選んでいると、背中から麻巳の落ち込んだ様子を感じる。
 浩樹は慌てて言葉を付け足した。
「そ、それ以上だ」
「……よく、分からないんですけど。喜んでいいんでしょうか」
「たぶん、な」
 子供みたいに無邪気に喜び、ますます強く抱きついてくる麻巳の柔らかい感触と暖かさを感じながら。
 これは逆に礼をしなければ釣り合わなくなってきたな、と真剣に考える浩樹なのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/08/02(土) 00:16:38|
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