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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

第七話


「伽耶……っ!」
 今にも飛びかかりそうなほど殺気を帯びた視線が、小さな吸血鬼の総身を貫いた。
 しかし親友からの熱すぎる視線を涼しい顔で受け流しながら、伽耶はにやりと笑う。
「ふふ。今日はしてやられてばかりだ。最後くらいは、主導権を握るのも良かろうよ」
「貴方は自分が何をしたのか分かっているの!?」
 普段ではまず見られないほど激昂する桐葉。他の者達も一度はホッとしかけたが、孝平が血を飲まされたと聞いて平静では居られない。
 ――吸血鬼の血を飲むということは、眷属になるということ。
 不老となり、強力な再生能力を得て、人知を超えた能力の数々を得る。
 その代償は味覚と、強制睡眠と、そして。
 永遠に、主への絶対服従――。
「孝平を、どうするつもり……?」
 絶望はしていない。それどころか、まだ信じようとする気持ちを持ち続けている。
 それは、桐葉と二人きりで永き時を彷徨ったからこそ、概ね察せられた。その優しさに――どこまで自分を甘やかすつもりかと、伽耶は呆れにも似た感情を抱く。
「どうもしないさ。今晩のあたしに嘘は無いよ」
 ならば自力で思い至れと、伽耶は故意に遠い言葉を選ぶ。
 桐葉も当然のようにそれに気が付き、頭をフル回転させるが、思いつく答えなど最初から一つしかなかった。
「……私のために? 私が、彼の人としての幸福を奪ってまで、自分の幸せを願うと思うの?」
「いいや、思わぬな。そうするくらいなら、お前は今からでもあたしを殺すだろう」
「分かっているなら……っ!」
 今にも飛び掛り、刺し違えてでもとの決意が伝わってくる。
「眷属になどならぬよ」
 そんな桐葉に、伽耶はさも当然というように言った。
「は……?」
「だから、眷属にはならぬと言ったのだ。不老にはならず、力も得ず、再生もしない。強制睡眠も味覚異常も無く――もちろん絶対服従などという事も、無い」
「ということは……横恋慕?」
 かなでが突拍子も無い事を呟き、陽菜が慌ててその口を塞ぐが遅かった。
 伽耶は俯きながらぶるぶると震えて――そして、腹を抱えて大笑いした。
「伽耶っ……! 真面目に答えなさい!」
「いや、すまぬ。そんな趣向も悪くはないが、生憎と趣味ではないよ」
「そんなことは聞いていないでしょう!?」
 必死な桐葉と、遊び半分という風な伽耶にはテンションに決定的なズレがあり、どうにも噛み合わない。
 周りの者もどうしたものかと悩んだが、そんなもの、長年仕えて扱いに慣れた人間にとっては簡単な話だった。
「伽耶様」
 凛とした声が響き、それだけで伽耶の大爆笑はピタリと止まる。
「……なんだ、征一郎」
「皆が答えを求めております。いい加減、お戯れはそのくらいで……」
 小さく唸り、伽耶は周囲を見渡した。すると一同の視線が、さすがの吸血鬼といえどちょっぴり痛い。
「あいや、すまぬ。さすがに羽目を外しすぎたか」
 伽耶は居住いを正し、真面目な顔で桐葉に向き直った。
「この身に満ちた血液はな、ごく少量ならば免疫力を高める程度の効果しかない。故に己が口中を噛み、その流血を唾液で薄めた後、飲ませた。不老や再生、体力の向上には眷属化が伴うが、量さえ間違わねば病を退けるだけなのだ。そもそも吸血鬼とは医療目的の研究から間違いで生まれたものなのだろう。いかな優れた薬と言えど、量が過ぎれば猛毒。それと変わらぬ」
「じゃあ、俺達の血も正しく使えば万能薬って事か」
 伊織の言葉に、伽耶は残念そうに首を振った。
「そもそも、吸血鬼とは失敗作なのだ。そしてあたしは、自分で言うのもなんだが、より正確に言えばその吸血鬼から偶然で生まれた奇跡の進化体、或いは完全体。こんな効果はあたしの血でしか現れん」
 ここまで聞いて、桐葉もやっと僅かながら緊張を緩めた。
「あたしは多くの命を奪ってきた。お前達が何と言おうと、簡単に許されようとは思わぬ。今でも死んで詫びるが筋だとの考えは変わらん。……が、吸血鬼としての能力や、この血は多くの者を救えるだろう。少量とはいえ強すぎる薬だ、こやつは以前に血を見た時に不思議なほど適合すると分かったが、いわばそれは例外に近く、本来は合わぬ人間が多い。それ故に、誰にでもという訳にはいかぬが……」
「それでも凄いわ、母様」
 瑛里華が我が子の成長を喜ぶ母親の様に瞳を輝かせる。伽耶はそれを喜ぶでもなく、不服を申し立てるわけでもなく、ただ複雑な顔をした。
「……瑛里華、褒めるなら東儀だ。あたしは遥か昔、戯れであやつらの提案に乗っただけのこと。東儀の者達がその命を差し出し、実際にあたしの血を飲んで実験した。全ては、その結果で得た知識なのだ」
「それは良しとしましょう。……でも、まだ聞いていないわ。孝平にその血を飲ませて、貴方はどうしようと考えたの?」
「生きてもらう」
 既に敵対的な意思は感じないものの、まだ僅かに苛立ちを滲ませる桐葉に、伽耶は簡潔過ぎる答えを返した。
「もう少し分かりやすく話してもらえないかしら」
「だから、桐葉には幸せになってもらうのだ。力ずくでもな」
「……免疫が高まるという事は、病にかからないだけでなく、長期的には細胞劣化を促進する有害物質が蓄積されない事も意味する。つまり、支倉は健康に長く生き、それだけ紅瀬とも長く暮らせるのだ」
 言葉の足りない伽耶をフォローするように脇から解説を加える征一郎だったが、しかし伽耶は否定するように首を振った。
「少し違うな。……二人には、分かれてもらうつもりだ」
「何故?」
「こやつのためだ」
 問うた桐葉に答えながら、伽耶は孝平を指差す。
 いきなり話を振られて、呆けながら自らを指差す孝平に、伽耶は今度こそ頷いて見せた。
「あと80年も生きれば、親しい者達の死に目にも会えよう。それまで確実に生きるための力を与えた。しかし、そうさな。40か50か――そんな歳になれば、いずれ桐葉の容姿を化粧で誤魔化すにも限界が来るだろう。その頃には別れ、一人で余生を過ごすがいい」
「いや、俺は全てを捨てて桐葉と最後まで……」
「先刻、貴様が自分で言ったのだろう、全ての者と別れないのが理想だと。――たとえ貴様が何年生きようと、いずれ桐葉か他の者達か、そのどちらかを捨てる時が来る」
 軽く睨まれて、孝平は教師に叱られた悪戯小僧の様に小さくなった。
「なに、しばしの辛抱だ。全ての絆が終わりを迎えるまで、一人で余生を過ごせば良い。そして、お前が全ての友人知人を看取り、満足した時。――この吸血鬼の親玉が、きっと貴様を殺してやる。ただし、社会的にな」
「なるほど。つまり、天寿を真っ当してから眷属になれって事か」
 生まれ持っての性格故か、いちいち回りくどく話す伽耶の言葉を、その話には大いに納得したらしい伊織が一言で翻訳する。
 一同大いに頷くが――しかし、それが正しいのかはやはり、個人の道徳観によるものだ。自然に孝平へ、そして桐葉へと視線が集まる。
「もちろん、あたしは命令などする気は無いが、信用出来ないと言われても反論のしようが無い。それだけは信じてもらうしかないが――」
「……が?」
 面白がるような表情で先を促す伊織。
 互いに策謀家の母と息子は、生まれて初めて同じ企みで通じ合い、悪そうな笑みを交わした。
 ――つまり、伽耶は自分の考えに加えて、伊織の悪巧みに乗る事にした。
「知っての通り、あたしはこの場の誰より欲深く、身勝手だ。信じられないというなら、全て力ずくになるな?」
 怖い事を言いながら、もう限界と言わんばかりに伽耶は堪えるような表情になる。その息子もまた、似たような顔をしていた。
 こいつらやっぱり親子だ。根っからの悪人だ――。孝平はそう心の中で断言しつつ、やはり笑いたくなった。
 桐葉も二人の意図は分かっているようで、当て付けるようにここ数日で一番の溜息を漏らした。そして、今や恐ろしい計画の一部となってしまった愛する男を振り向く。
「孝平」
「……なんだ?」
「貴方が決めて」
「いいのか? 俺が眷属になる事だけは、桐葉は絶対に許さないはずだろ」
 答えはもう、分かっていた。だからこれは、形だけの確認。
 孝平は最初から、本当なら桐葉と永遠を生きたいと思っていた。ただ、それが彼女の負担になるならと諦めていただけだ。
 本当に大切な答えを、彼女はもう、その心の中に芽生えさせている。
「嬉しかったのよ。伽耶の言葉が、行動が。……決意が」
「頭ごなしに否定出来ない、か」
「私は、貴方が眷属となる事を拒絶してきた。それは、私が眷属であることは不幸だと思っていたから。でも、今はもう、どちらなのか自信が無くなっているわ……」
「……少し、妬けるな」
 二人の絆の強さに、それは孝平の本心から漏れ出た言葉だった。
 伽耶もまた、同じように嫉妬を感じている。だが、そう感じる程に桐葉が幸せなのだと思えば、同時に嬉しくも感じていて、その感情のまま表情を崩した。
「ならば貴様も永遠に生きよ。あたしに、存分に見せ付ければ良いではないか」
「……いいでしょう。貴方の気遣いを感謝し、そして全面的に受け入れます」
 それは確かに孝平の口から出た言葉で――。
 しかし同時に、素直じゃない恋人が遠まわしに口にした言葉でもあった。
「信用するのだな、このあたしを。虐殺者である、このあたしを」
 やっと望む言葉が得られたというのに、伽耶は急に真顔になって再度の確認を行う。
「貴方は桐葉の親友で、幼馴染みで、そして瑛里華会長の母親だ」
 今度こそは自分の言葉を返さねばならない。孝平もまた考える必要など無く、既に心の中に生まれている言葉をありのまま紡いでいく。
「それだけでもう、信頼度十分ですよ。それにどっちみち、力ずくなんでしょう?」
「そうだな。ふっ……ふふ……」
 やっと笑った伽耶を前に、
「それも含めて、感謝します」
 同じように笑いながら、孝平は言葉と共に手を差し出す。
「桐葉を間に挟まずとも、これからは直接の友人と思っていいんですよね」
「無論だ。あたしはお前を友人として、恩人として……何があろうと全力で力になる」
 伽耶も孝平に応え、二人は固く握手を交わした。
「もちろん、あたしが困ったら真っ先にお前の助けを求めよう。それでいいな?」
「ええ。どんな苦労も喜んで受け入れますよ」
「……言ったな。その言葉、必ず後悔させてやる」
 邪悪に歪められた口元は、昔のような背筋の凍るものではなく、悪ガキの負け惜しみのようで――。
 とりあえず握られた手が物凄く痛い事には、早速後悔させられる孝平なのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/16(水) 21:39:01|
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