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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter 2-2

 私は美術部の部長を任される以前から、ずっと上倉先生を見てきた。しつこく追いかけていたのも最初からだったりする。
 不本意ながら怒ってばかりいる状況は、部長になってからだけれど。
 ともかく部活に出てもらおうとあらゆる手を尽くし。結果として、先生がその場で咄嗟に考えたことくらいは結構分かるようになった。
 尊敬してやまない捻くれ不良教師との会話も慣れてくれば何とかなるもので、部活に出る、という言葉自体は意外と引き出すことが出来る。だからこそ、先生は私と会う前に逃げようとするのだが。
 だというのに、私はいまだに先生の言葉に騙される。何故かと言えば、その場で咄嗟に出た生返事などすぐに忘れる頭脳の持ち主、それが上倉浩樹という人間だからだった。
 言葉が本気だと信じられても、言った事が間違いないという信頼だけは決してさせてもらえない。全くもって教師にあるまじき、である。
 今も眼鏡を選ぶのを手伝うと言ったのに、いつの間にか姿をくらませている。変わりに選んでくれているのは、彼とは似ても似つかぬ可愛らしい妹分だった。
「これなんかどうですか?」
 楽しそうに眼鏡をとっかえひっかえしていた鳳仙さんが、唐突に一つの眼鏡を差し出してくる。
 自分でも身に付けて鏡の前で色々な表情を試して遊んでいたのだが、この子は大層な美少女なのだ。よほど奇抜なものでなければ、どれも彼女の美貌を一層際立たせていた。
 そんな彼女が選んだのは、縦が極端に短い横長の眼鏡だった。
 色は暗い青系で、知的な印象のデザイン。生徒というよりは教師、教師というより学者、といった風情がある。
 確かに悪くはないかな、と思い私は身に付けて鏡に向かってみた。
「んー……。確かに似合うかも知れないけど。もう少し可愛い感じの方がいいかな」
 カッコイイけれど、近寄りがたい感じ。ただでさえ堅物部長のイメージが先行している状態なので、少しは和らげたい気もする。
「じゃあじゃあ、こっちはどうですか?」
 微妙な反応を見せる私だったが、それでもめげずに鳳仙さんは続けて様々な眼鏡を持ってきた。
「ちょっと奇抜すぎるかな」
「これは?」
「ファンシー過ぎない? 私のイメージにはちょっと合わない気がするけど」
「じゃあこれ」
「サングラスみたいなのはちょっと……。学校で使うのよ?」
 結果的には否定の言葉ばかり並べているが、ちょっと変わったものばかり選んでくるので楽しかった。
 鳳仙さんが選んでくる眼鏡を、否定はしつつも端から全て試していると、彼女は唐突に言ってきた。
「私、竹内部長のこと尊敬してるんです」
「え、そ……うなの? それは嬉しいけど。
 でも身近で敬う人といえば、上倉先生じゃないの?」
「もちろん、お兄ちゃんは大好きですよ」
「いやだから……」
「ん?」
 鳳仙さんは疑問の表情で、可愛らしくく小首を傾げている。大好きな兄と、大人であり指導者である人物を尊敬する、という意味が繋がらないらしい。
 この子は意外にしっかりと自分を持っている。だというのに、上倉先生のこととなると完全に思考停止してしまうのだった。鳳仙エリスという人間に対して、私と先生とでは真逆の評価がなされているのはそのためである。普段からチャランポランな人の妹分は、そんな兄の目の前でだけ欠陥が伝染でもしてしまうのだろうか。
 もっとも、絵の才能については万人が認めるところであり、評価が食い違うことは殆ど無い。
「もういいわ」
 疲れたように言って、私は経験から不毛であると分かっている会話を早々に打ち切った。
 上倉先生については話が通じない事も多々あるが、素直で可愛い後輩を私は気に入っているし、正直なところ彼女がここに居てくれたのは幸運だったと思う。先程まで居た彼女の兄貴分は「ああ」だの「うん」だの、適当な生返事しかしないし。
 こういった方面では、あの人は特に使えない。あんなのとデートをしなければならない女性が居るとしたら、なんて不幸なのだろうと同情したくなる。
 あれで生徒には不思議と人気があったりするのだが、本人にはあまり自覚も無い様子で。勝手に振られたと思って諦めたり、という事は昔からあったかも知れない。ちょっぴり気にはなるけれど、さすがの私も面と向かって聞くほど不敬ではない。
 ちなみに鳳仙さんは、勝手に消えた先生を探していて。見つけて現れた時は大層ご立腹であったのだが、事情を話すとアッサリ納得してくれた。
 相手が私だったから、ということだろうか。部長なら安心安全大丈夫、と。
 信頼されているのは嬉しいが、同時に女性としてはどうなのだろうとも思う。変な心配をされても困るけれど、それもなんか悔しい。
 その後もしばらくは、色々な眼鏡を試してみる。しかし、どうも決め手に欠けるものばかりで。
 そろそろ少しは妥協して買ってしまおうか、と私が思い始めた頃。鳳仙さんが一つの眼鏡を手に興奮気味に言ってきた。
「これ、凄く似合うと思うんです!」
 大げさな反応だったけれど、彼女の手に有る眼鏡を見て、私も一目で気に入った。
 小さなまん丸のレンズに、丸みを帯びたフレーム。薄ピンクの色合いが見事にマッチしていて、可愛らしい中にも落ち着いた雰囲気を内包したデザインだった。
 実際にかけてみて、鏡を覗き込んでみると、別人のように可愛らしい娘さんがそこに居た。私は一瞬で納得し、クリスチャンでもないのに、こんな素晴らしいものに出会えた幸運を神様に感謝したい気分だった。
「うん。完璧。これにするわ」
 興奮気味に私は言った。


 その後、値札を見て絶句する私だったけれど。
 悩んでいる姿を見て、店員さんが上と掛け合い、いくらか値引いてくれた。
 手持ちは足りたけれど、かなりの予算オーバー。それでも私は上機嫌で、鳳仙さんと並んで店を後にする。
 眼鏡屋さんを出た辺りにある休憩所で、私たちは上倉先生のことを話していた。普段の怠惰な様子とか、今回もさっさと消えてしまった事とか。
 そうしてしばらくすると、噂の当人が現れ、陽気に声をかけてきた。
「終わったみたいだな。で、首尾はどうだ?」
 あっちはあっちでお楽しみだったらしい。誇らしげに見せてくる二つのビニール袋には、小さなぬいぐるみがいくつか入っている。
「そちらは良かったみたいですね」
 これ見よがしにそっぽを向く私だったが、先生はいつもの事だとでも思っているのか、大して気にもとめない。
「俺が居ても邪魔にしかならないだろうに。良いのが買えたんだろう? さっきまでは上機嫌だったじゃないか」
 言いながら、安っぽいクレーンゲームの景品を適当に私たちに押し付けてくる。
「わあ。お兄ちゃん、ありがとう」
 満面の笑みで無邪気に喜ぶ鳳仙さんとは対照的に、私は断固拒否した。そんな安い物で買収されてたまりますか。
 日頃の不満も込めて、私は不機嫌を隠そうともせず言った。
「先生の顔を見たら台無しです。気になるなら逃げ出したりしないでください」
「まあそういうな。謝ってやるから。すまんかったな。
 ほれ、どんなの買ったのか見せてみろ」
 過程はともかく結果には興味があるらしい。先生は分かり安すぎる適当ぶりで謝罪すると、そんなことを言いながら、ビニール袋を私の頭の上に置いた。
 不安定なためすぐに落ちそうになった袋に、私は慌てて手を添える。床に撒き散らしたりしたら、ぬいぐるみが可哀相だ。
 咄嗟の行動だったが、それによって受け取ってしまったことに気づき、私は先生に叩きつけるように返す。先生は大げさに身を翻し、それを避けた。
「……なんのつもりですか」
「そりゃこっちの台詞だ。何でそこまで殺気が篭もってるんだ!?」
「自業自得じゃないですか」
「せめて否定しろ!」
 さらに二度、三度と不毛な攻防を続けてから、私はようやく諦めた。
 貰って困るものでもないし、先生に任せておくと埃を被るか捨てられるかという運命しか想像できない。それではあまりに哀れだ。
 私は身を引くと、受け取る事にしたプレゼントを大切に抱えながら話を戻す。
「確かに眼鏡は良いのが買えました。でも、元々先生には関係の無いことです」
「そう邪険にするな。悪かったよ。本当に反省してるんだ。ホントだぞ?
 プレゼントだって渡したじゃないか。遠慮なく喜んでくれていいんだぞ」
「普通、迷惑の謝罪としての品を、当の本人が有難がって受け取れとは言いませんよ」
 言いながら袋の中身を一つ手に取り、間近に見る。それは『らいおん』のぬいぐるみだった。
 百獣の王とは思えない丸っこい身体に、抵抗の一切無い柔らかい感触。タテガミは量感のある綿を色づけしたもので、申し訳程度に飛び出している尻尾がまた情けないことこの上ない。しかし、つぶらな瞳で見つめ返されると、その全てが愛嬌に変わった。
 実際に触ってみて、そういえば最近はこういったものを購入していない事を思い出す。
 少なからず嬉しいという感情が湧き上がってきたが、ここで甘い態度をとると先生の教育衛生上よろしくない。
 立場が逆だとはこれっぽっちも考えず、私は不満タップリに言った。
「こんなの、遊んだ結果たまたま手に入っただけじゃないですか。どうしてそう、万事が万事いい加減なんですか」
「そうは言うけどな。女の子二人のショッピングに、俺が何をどう介入しろとゆ~のだ、お前さんは」
 情けないことを胸を張って堂々と言う先生だったが。
 大の男のそんな様子が可愛いとでも思ったのか、鳳仙さんは早速ぬいぐるみをいじりながら、笑顔で言ってきた。
「卑屈にならなくてもいいのに。お兄ちゃんは居てくれさえすればいいんだよ。もちろん、少しは構ってあげるよ?」
「なんでお前に哀れみを受けにゃならんのだ。
 そんな事より、意地悪しないで見せてくれてもいいんじゃないか。
 そうだ、明日は部活に出るぞ。絶対だ。これならいいだろ」
「それは当たり前のことで、条件に出すようなことではありません」
 教職どころか成人男性とはとても思えない先生の様子に、私はだんだん意地を張るのが馬鹿らしくなってきた。
 先程は逃げ出したとはいえ、そこまで気にされるというのも、満更でも無かったりするし。
 そもそも、良い買い物が出来たので、私は上機嫌であるはずなのだ。いつも通りに怒っていては、それこそ台無しになってしまう。
 私は折れることにして、声を和らげて言った。
「謝られてもどうにもなりませんよ。見せないんじゃなくて、見せられないんです」
「レンズが無いままじゃ、仕方ないですもんね」
 鳳仙さんが後を継いで言うと、先生は見るからに落胆した様子だった。
「……なんだ。そうなのか」
「凄くお似合いで、可愛かったんだから。お兄ちゃん、残念だったね」
「そうだな。本当に残念だ」
「部長のことそんなに気になるんだ」
 えらく素直に返す先生に、鳳仙さんは膨れっ面になる。大げさに拗ねてみせても可愛いのだから、本当に末恐ろしい子だ。
「そんなに見たいなら、もう少し早く戻ってくればいいんです」
 何だかんだ言いながら悪い気はしない。上機嫌で言う私に、膨れっ面でじゃれ付いてくる妹分を適当にあしらいつつ、先生は言った。
「なんなら店に戻ってだな」
「そこまでしなくても、受け取りが済んだら見られますよ。学校で使うための物なんですから」
「言われてみれば、それもそうか」
 やっと納得したらしい先生に、私は念を押すように言った。
「一番に見せてあげますから。楽しみに、しててくださいね」
「ああ。そうさせてもらうよ」






























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/01/17(水) 23:55:54|
  2. 第二話

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