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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

第五話



 ~~~~~7月12日~~~~~


 珠津島において、個人宅として東儀本家を越える規模の敷地を有する建築物があるとすれば、ここを置いて他に無い。
 自らの所有物である大邸宅も、伽耶にとっては気紛れに散歩をする庭でしかなかった。離れの和室に閉じこもり、生涯の殆どをそこで過ごしてきた。宝の持ち腐れと呼ぶにも余りに無駄に過ぎるというものだが、尊い存在は多くを無駄にする事で自らを定義付ける。それは無駄のためにこそあり、立派に無駄という役に立っているとも言えた。
 ――いつでも出来る、と考えれば先送りにしてしまう。それは永遠を生きる吸血鬼ならばより顕著な性質で、総大将たる伽耶もまた例外ではなかった。むしろより強くその傾向がある。
 この屋敷の事は、住んで日の浅い瑛里華より知らない。全て人任せだった。せめて、最後に何かをしようと考え抜いて、思いついたのは身の回りを把握すること。それは自らが『尊い』ものである為の『無駄』を否定する作業にも感じられた。
「……ん?」
 散歩の途中、ふと視界の隅を何かが横切った。
 探してみるのも悪くは無いが、見つかるのはせいぜい鼠の一匹が良いところだろう。折角良い気分なのだからと、伽耶は気にしないことにした。それにもう不要になる屋敷だ、新たな主を迎えるならそれも良いだろう。
 ――征一郎にはしばらく屋敷に近づくなと言い渡し、代わりに三日後、伊織と瑛里華を寄越すようにと伝えてある。二人を永遠たる運命の呪縛から解放した後、自らをも解放する。それで全てが終わりだ。
 三日間、殆ど寝ずに歩き回った伽耶は、自分の屋敷を全て把握しきってそれなりの満足感を得た。最後の作業は、本当のところ何でも良かった。ただ、小さな何かを成したのだという実感が欲しかったのである。
 約束の刻限までまだ間があるが、伽耶は住み慣れた離れへと戻ることにした。足取りは思いの外重い。まだ未練があるのかと、そんな自分を笑い飛ばす。
「あたしも、大して変わらぬな」
 人間は極端に死を恐れる。それを愚かと笑い、恐れぬ東儀の者達もまた、伽耶は同じように蔑んできた。
 それは自らに降りかかることの無い災厄であり、だからこその余裕から生まれたもの。たとえ相手が吸血鬼であろうと――子供達が反逆しようと、万が一にも自らを脅かす存在になど成りはしないという絶対者の奢り。
 百獣の王に敵は無く、だからこそか自らの種族で殺しあう。
 人間は万物の霊長だと奢り、やはり自らの種族で殺しあう。
 そして、一個体で完結する絶対者は――そう名乗ったのならば、種族ではなく自らがそれを行おう。
 どの生物にも等しく『死』があるように。
 吸血鬼もまた、不老であろうと不死ではない。死に難い身体と、壊れやすい心を持つ、いつかは死なねば狂う不完全なる者。
「愚か、愚かなり。ふふ……。まさか自らにこの言葉を……な」
 母は逝った。
 父も逝った。
 悲しい別れは、自分が置いていかれる別れは辛い。桐葉と別れるのは、辛い。
「お前も辛いと思ってくれるなら、良い。お前の幸せのためにあたしは消え――その悲しみを、最後の八つ当たりとさせてもらおう」
 その悲しみすら、いつかは愛する者によって癒される。
 伽耶はそう考え、そして願った。



 久々に風呂にも入り、禊ぎを済ませた。
 もはや香を焚く必要など無く、それを用意する人間も居ない為に、住み慣れた離れはまるで別の建物のように澄んだ空気で主を迎える。
 長く、無限かと疑うほど果てしなく並んでいる和室は、その全てが複製品のように寸分違わぬ姿を晒していた。襖は全て開け放たれていて、伽耶はただ進むだけだ。最奥部にたどり着くと、最後の襖だけを閉めていつもの定位置に座る。
 臭いは違うというのに、目に映るものは何も変わらない。それが、やはり今の気持ちが気紛れでしかないのではと考えさせるので、伽耶は御簾を用意した。少しでも昔どおりの、恐ろしく憎たらしい母であろうという意地でもある。
 それから、黒猫の使い魔を使った暇つぶしもせずに、ただじっと子供達の到着を待った。
 ――果たしてそれは何時間後だったか。時間の感覚も鈍り始めた頃になって、ようやく千堂兄妹は襖を開けて母の前へと姿を現した。
「遅かったな」
 伽耶は部屋に入ってすぐ正座した二人に、優しく声を掛ける。思えばそんな事すら、それぞれが幼き日以来の事だった。
「母様……」
 娘の声を聞くのも最後か。そう思うと感慨深いものがある。
 憎まれる為だけにあった家族の時間。それが、こんな形で役に立つとは皮肉なものだ。子供達には、寂しいと感じさせずに済む――。
 別の形ではあるが、子供達のためだった行動が最後に目的を果たすのなら本望。伽耶は本心からそう思っていた。悲しむのは、そう、桐葉だけで良い。一人だけでもこの存在の事を思ってくれるのなら――。
「今日、呼び出したのは他でもない。お前達に折り入って話がある」
「私は、人間にはなりません」
 母が本題を告げる前に、その娘は決意の表情で宣言した。伽耶は御簾の向こうで驚きに目を見開く。
「母様は勘違いしています。私は、母様を――」
「お前だな、伊織」
 瑛里華の言葉を遮り、伽耶は御簾の向こうで座るもう一つの影を睨みつけた。
 しかしその影は――何十年もまともに話しもしなかった為にすぐには気付かなかったが、よく見れば少し小さい。
「貴様、何者だ……?」
「まさか、本気で忘れたとは言わないでしょうね」
 女の声。伊織ではない、が――それ以上に鮮明な記憶が呼び起こされる。
「……何故、だ。もう二度と関わらぬと言ったぞ」
「私は直接聞いていないし、一方的に言われただけで了承するとは思わない事ね。……貴方なら知っているでしょう、私は他人の話をあまりよく聞かないのよ」
 切れ味鋭く、感情が希薄な声質。それでいて凛として耳に心地良い、それは。聞き覚えを云々する程度のものでは断じてなく。
 全てを決意した、幸せになって欲しいと願った、世界で最も大切な者。もう、見ることも無いはずだった、別れは済んだはずの――。
「桐葉っ……!」
 伽耶は自覚も無いまま、その名を喉が焼け付きそうなほど熱く吐き出した。
 今すぐに御簾を切り裂き、飛び掛りそうになる。その後、抱き締めるのか、襲い掛かるのかは分からない。そんなものは、どちらでもいい。とにかく、早く、あれを、あたしのものに――。
「なんっ、だ、今のは……っ!?」
「吸血鬼特有の衝動。貴方ならば、真っ先に紅瀬桐葉に反応するのは当然の事だ。まさか初めてとは言わないだろう?」
 二人に続いて現れた影。その声は、今度こそ息子のものだった。
「衝……動……?」
「だからこそ眷属を作るんじゃないか」
「なんの、ことだ。吸血鬼は、眷属を作れと、父様が……」
「……はは。そうか。俺たちの事が理解出来るはずもない。どうやら、母上は衝動を持たないらしい。それが今になって発動した理由は知らないが、それこそ変化した証かも知れないな」
 伊織は正座する二人の間をすり抜け、伽耶の隠れる御簾の前まで歩み寄る。
「それならそれで、ハッキリしていい。俺もようやく気持ちが定まったよ」
「や、めろ。くるな。きさま、なんのつもりで……」
 胸が苦しい。視界に霞がかかる。伽耶は畳の上に倒れこみ、御簾の向こうの影を苦々しく思いながら見上げた。
 伊織は乱暴に御簾を掴み、力任せに引きちぎる。適当に放り捨ててから、改めて母を見下ろした。
「母上。貴方の思う通りにはいかない。俺たちは、自らの道を自分で決める。独りよがりな決定は、もうたくさんだ」
「……あたしは、ただ、おまえたち、の、ため……に……」
「分かっているさ。最初から、全て一貫してそうだった。だからといって、そんなもの、誰が納得する?」
「瑛里華も、同じ考え、か……?」
 霞む視界の向こうで、瑛里華が顔を伏せたまま頷いている。
 輝く雫が一つ、畳を濡らした。泣いている。瑛里華が泣いている。あたしが泣かした。ああ、あたしも、泣いている。
 せっかく決めたのに。子供達を幸せにしてやろうと、決めたのに。それすら許されぬほどに罪深いのか。そうだ、当然だろう。格好付けて消えるなど、この化け物に誰が許すというのか。強制排除以外を認める義理など、どこにもありはしない。
「伽耶」
 いつの間にか、桐葉が立ち上がっていた。己が主へと歩み寄りながら、ゆっくりと口を開く。
「……貴方の一番の間違いは、家族を作りながら一人で在り続けたこと。いつも、自分ひとりで全てを決めて、疑いもしなかったこと。変わったようで、今もそれは同じだった。そういうことよ」
 伊織は穏やかな笑みを浮かべながら退き、母と長きに渡り二人きりで過ごしてきた女に全てを譲った。軽く頭を下げながら入れ替わり、桐葉はそっと親友を抱き上げる。
 桐葉の膝の上に乗せられ、衝動の根源に触れた事でより強まった『渇き』に翻弄されながらも、伽耶は必死で抗った。理由など二の次で、自分が自分である為には負けてはならぬと、心の中で何かが叫んでいる。
 ――初めて、知った。子供達がこれほどの苦しみを跳ね除け、人を愛したという事を。
 それを、自分が何も知らずに潰していたということを。
「くっ。ふふ。愚か、愚かなり……。実に、愚かよな……」
「そうね。……200年以上もしつこく間違えたままで、最後の最後までそれを続ける辺り、本当に筋金入りの愚かしさだわ」
 何の事だ。――そんな一言を紡ぐ力も最早残らぬ伽耶の口中に、不思議な温もりに満ちた何かが広がった。
「喜びなさい。貴方の子供達は……そして私も、自らの意思で受け入れたわ。貴方と共に歩む永遠を」
 身体の隅々まで満たされていくもの――渇望した暖かさに全てを委ね、何も出来ぬまま全てが終わる事を諦めながら、遠く響く親友の声にだけ意識を傾ける。
「……それがなんであろうと、受け取る者次第。呪いとなるか祝福となるかは、私が、私たちが決めることなのよ」
 もう言葉の意味を受け取れるほどの思考力は残っていなかった。しかしそれでも、小さな吸血鬼は満足気な表情のまま、闇の底へと意識を沈めていった。



 静かな曲調のクラシック。しかし、それにそぐわぬ恐ろしいまでの大音量。うるさいどころか、耳が痛いくらいだ。
 音量を小さく搾りながら怒る瑛里華と、怒られる伊織。呆れたようにため息を吐く征一郎と桐葉、あうあうと喧嘩する兄妹の間で目を回す白に、それを保護しつつ仲裁に入る孝平。
 ――いくらなんでも程がある。なんと気の利かぬ連中か。寝ている者が居るのだ、少し考えれば分かるだろうに。
 だがそれ以上に鬱陶しいのが、
「ほら、お姉ちゃん。いい加減にしないと怒られるから」
「え~。だってだって、頬っぺたもちもちして可愛いのに」
「見た目は小さいけど、千堂さんのお母さんなんだから。失礼は駄目だよ」
「……失礼は貴様もだ」
 陽菜が飛び上がりそうになりながら目を向けると、ソファーの上に寝かされた伽耶は瞼を開けていて、まだ目覚めきっていない虚ろな目で天井を眺めている。
「何事だ、騒々しい」
「おお。起きた起きた♪」
 伽耶の覚醒を確認するや、かなでは部屋中を駆け回り、飛び跳ねて、体中で歓喜を表現する。無礼講だからと見守っていた陽菜だが、窓を開けてアパッチの雄たけびを始めた所で姉を止めに入った。
「母様」
 悠木姉妹と入れ替わりに近寄ってきた瑛里華が、母の傍らに膝をつく。
「ここは修智館学院。母様が家族のために作ったその、一番高い……そして私が人としての幸せを知った場所です」
 なんだこれは。あたしは死んだのでは、殺されたのではなかったのか――。
 状況が掴めず困惑の表情を浮かべている母に、瑛里華はゆっくりと頭を下げた。
「母様の決意を無駄にして、ごめんなさい。でも私、人間になれなくてもいい。ただ愛されたかっただけだから。母様に、母親でいて欲しかった。きっと母様と同じ、誰でも持っている当たり前で一番大切な、世界に存在を許される『たった一つの絆』が欲しかっただけなの」
「折角のチャンスだぞ。要らぬと申すのか」
「もちろん人間には憧れるわ。でも、母様とどちらを取るかと問われたら、私は一瞬だって迷わない」
「つまり、あんたの決意は最初から間違っていたのさ。ここに、少なくとも存在を望む娘が居るんだから。一人で勝手に突っ走るからこうなる。母娘で、その猪突猛進なところは良く似ていて、実に微笑ましいがね」
 途中から割って入った伊織に、伽耶は鋭い視線を向けた。伊織はそれを、笑顔で容易く受け流す。
「……貴様、何故そこまで知っている」
「吸血、眷属、呪術に使い魔。全て、吸血鬼の嗜みだ。最後の、一番重要なのに限って知識が無いのがネックだったが、それを知るさるお方がつい最近、丁度良く新しいのを作ってくれたんでね。身近に仕える者の協力さえあれば、これこの通り」
 伊織の身振りに応えて床を這い現れたのは、小さなハムスターだった。そこから大いに覚えのある魔力を感知すると、伽耶は痛烈に舌打ちする。
「策を巡らせるって意味では、俺の方が実戦経験豊富って事さ。征の扱いも、ね」
 今度は征一郎を睨む伽耶だが、彼はそれより先んじて膝をつき、頭を垂れた。
「申し訳ありません。私は見ての通り頭が固い故に。伽耶様の為とした事ですが、お怒りならば如何様な罰も……」
「馬鹿を言うな。これ以上恥を晒せるか」
 ふん、と腕を組んでそっぽを向く伽耶。何とも感情的な、見た事も無いほど可愛らしい――それこそ人間のそのものの仕草で、降伏宣言に等しかった。
 やっと、望む未来が訪れたという実感が広がる。感情の膨張が臨界を越えると、瑛里華は母に抱きついた。
「こ、こら、瑛里華。何をするのだ。皆が見ているではないか」
「……一人で消えようなんて、そんな寂しい事、もう言わないで。ずっと、母様には私が……兄さんも……居るから……」
「瑛里華……」
「ふっ……うぐっ……ひくっ……」
 嗚咽を繰り返す娘を抱き締めながら、そっとその背を撫でてやる。一撫でする事に――愛を与える毎に、逆に愛されていると実感出来る。もっと愛したい、包み込んでやりたい。これこそ本当の母性なのかと浸りながら、伽耶ははじめての感覚に抗わず身を任せた。
「良かったわね、伽耶」
「ああ……」
 250年を共に歩んだ親友の言葉に、伽耶は素直な笑みを返した。



 母が娘をあやしている微笑ましい光景が続いている間に、他の者達は残りの準備を急ピッチで進める。
 ――そもそも、伽耶の選んだ『最後の日』は彼女の誕生日である。桐葉の誕生日では失敗したので、みんなでリベンジを誓い合っていた。その準備も進んでいたのだが、伽耶自身の起こした騒動によりスケジュールは滅茶苦茶、状況が変わった事で計画に変更の必要も生じ、当日の日が暮れた今でも、まだ全ては終わっていなかったのである。
 そんな中、今度は力ずくでも連れ出そうと文字通り人間離れした三人が千堂家へ赴き、最大の戦力を失った事で戦況は更に悪化。だからこそ、悠木姉妹がこの場に居るのは大変な助けとなった。
 今年――2009年の7月12日は都合良く日曜日であり、陽菜を介して島の外の大学へ通う姉のかなでにも珠津島へ戻ってもらった。そこで全てを話し、理解を求めた。
 瑛里華と伊織が吸血鬼で、桐葉が眷属で、千堂兄妹の母親が今までどれだけ酷い事をしてきたか。二人は最終的に全てを受け入れてくれて、
「許すとか許さないとかは、千堂さん達が考えることだよ。私達は、何も言う事は無いと思うの」
「うん。ただ、お友達のお母さん。それ以外には、何も無いよ。だからそんな顔しないで、えりりん」
 それは吸血鬼という化物を――瑛里華自身をも、だから何だと、人かどうかではなくただ友達なんだと、そう笑い飛ばす優しい言葉だった。
 これにはいよいよ瑛里華も覚悟を決めざるを得ず、幼い頃に封印されていた陽菜の記憶を開放する。それすらも受け入れ、親友に戻った二人は涙を流しながら抱き合った。
 ――さらに四半刻ほどで室内の装飾やら料理の準備やらも何とか終わり、随分かかってやっと泣き止んだ瑛里華から開放された伽耶は、事の経緯を聞いて感心した様に悠木姉妹を眺める。
「……なるほどな。随分、思い切ったものだ」
 陽菜は緊張して畏まっているが、かなではうずうずしながらも何とか大人しく耐えている状態だ。
 祭の準備が整い、その両手には八つの特大クラッカー。両手塞いでどうするんですかと呆れ返る孝平に、かなでは、
「と~ぜん口で引っ張るっ!」
 ――と胸を張っていた。早くぶっ放したいらしい。
 そんな気持ちは一目瞭然なので、伽耶は何を思ったか自嘲気味に笑みを零す。
「ふっ……。とんだところに、大層な大物が居たな」
「うふふふふ。イエイエ、それはお互い様というものデスヨ母上殿」
「否定はしないんだ……」
 隣で疲れたように零す非常に一般的人類であるところの妹は、そのまま孝平の方を向いて、申し訳無さそうに謝罪した。
「ごめんね。普段ならお姉ちゃん、ああ見えて礼儀とか凄くちゃんとした人なんだけど……」
「祭の気分だし、可能な限り盛り上げて欲しいってお願いを果たしてくれているんだろう。あれで律儀な人だからな」
「そうそう、そういうこと。うん、だから早く初めマショウ!」
「少しは落ち着き給えよ悠木姉。肝心のケーキと、もう一人の参加者がまだじゃないか」
 伊織が何とか宥めた所で、人を超えた者達が同時にピクッと動きを止める。
「どうやら、そのもう一人が来たようね」
 珍しい事に桐葉が率先して動き、足音が監督生室の前で止まった所で、ノックされる前に扉を開いた。
 そこに立っていた人物――シスター天池は大きな箱を胸の前に抱えている。彼女は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに表情を引き締めて室内に一歩踏み入った。
「こんばんは。千堂さんのお母様――いいえ、伽耶さん」
 彼女は神に仕えるものとして相応しい、澄んだ表情をしている。そこには憎しみも悲しみも、装った優しさも無いままに。
「その節は、母がお世話になりました」
 驚愕に目を見開き、緊張に全身を硬直させた伽耶に向けて。
 シスターは聖職者に相応しくあれと胸を張りながら、ゆっくりと頭を下げた。
「い……おり……。き、さま……正気か……っ!?」
 被害者でありながら頭を下げる女性を後回しにしてすら、伽耶は息子を振り返った。
 混乱しきった伽耶が絡み合った感情に翻弄され、複雑怪奇に表情を歪めているのを見ても、その息子である伊織は『人間らしくなったじゃないか』と内心で喜びながら、あえて突き離す。
「必要なのですよ、母上。貴方に、本当の意味で理解して頂くには……ね」
 ――そして。その笑顔だけは、紛れも無く本心からのものだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/12(土) 22:42:12|
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