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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

第四話



 ~~~~~数日後~~~~~


 色々な事があった。
 被害者の会が本格的に活動を開始したり、彼らに助けを求められた瑛里華が桐葉の授業態度を改めるべく乗り込んできたり、様子のおかしな孝平をしきりに心配する陽菜は意外に鋭く誤魔化すのに手を焼いたり、教室内の空気がどうあろうとひたすらマイペースに一日中爆睡ぶっこいてる男も居たり、こんな時でも容赦の無い桐葉の『強制睡眠』が大事件を巻き起こしたり、勉強に熱心どころか鬼と化した桐葉にそれはそれで構いたがるシスター天池を振り切ったり、水泳の授業だけはどうしようもなくて散々迷った挙句に桐葉が苦し紛れに当身を食らわせてしまい孝平が本気で死にかけたり、抗えずお茶会が始まる流れとなってサングラスが外れてしまうハプニングがあったり、孝平は毎晩睡眠不足だけでも倒れそうなほど搾り取られ続けて日に日にやつれていったり、その他いくらでも問題は起きた。この上、もしかなでが在学中だったらいつ窓から奇襲をかけられるか分からず、時には悪戯でサングラスを外されたりもして、孝平の安息の時間は完全に失われていた事だろう。
 とにかく騒動には事欠かず、孝平にも桐葉にも深刻に悩む時間を許さない。仕舞いにはこの状況を日常として受け入れ始めたある日の朝、孝平の視界は唐突に正常なものへと戻っていた。
「……何かの前触れ、という事もあるから」
 そう言い残し、桐葉はこの出来事の初日にそうしたように伽耶の下へと向かった。
 彼女はどこか楽観的になっていた自身を初めて自覚し、大いに悔いていたが、孝平は特別不安を感じていない。むしろ何となく寂しい気さえしたのだ。――いや、オス的な意味ではなく。
「迷惑ではあったけど……。何というか、伽耶さんと遊んでいる感覚というのは新鮮だったよな」
 今も孝平には危機感が薄かった。そうでなければ、桐葉を一人で行かせたりしない。何となく、これは本当に遊びだったのではないかと考えていた。
 もちろん、全ては想像の域を出ない。考えるだけ無駄だ。だからといって、登校するにはまだ早い。さてどうしたものか、と自分に対して考える振りなどしながらベッドに倒れこむと、何かを潰したような違和感があった。
 孝平が慌てて身を起こすと、そこには黒猫――二代目ネネコの姿。にゃあと可愛い鳴き声でも聞けたなら、或いは和めたのかも知れないが、
「まあ、座れ」
 数日振りだというのに、やけに懐かしく響く声はやはり尊大そのもので。
 孝平は床に置いたクッションの上に正座し、ベッドの上で偉そうに踏ん反り返る黒猫を見上げた。
「元々な、解除式など組み込んではおらぬ」
「……はい?」
「解除の方法など、最初から無かったと言っているのだ。籠めた魔力が尽きればそれまで。逆に言えば、それまでは誰にも解けぬ。お前達は踊らされていた、と。そういうことだ」
「ええと、じゃあ、これで……終わりなんですか、本当に」
「なんだ、まだ物足りぬか? 桐葉の邪魔はあったにせよ、身近な女子は一通り見たというのに」
「……それはその、ハプニングというか。それに所詮妄想でしょう、全部」
「確かにそう言ったな、このあたしが。当然ながら証明する手立ては無い」
 じゃあ嘘だったのかと焦るでもなく、孝平は冷静に頷いて見せるのみ。
「ふん。これでは遊び相手としても不足だ。面白くもない」
「そうですか? 俺はこの数日、凄く楽しかったんですけどね」
「……ただの助平だろう、それは」
 孝平はあえて否定せず、はははと軽く笑って後頭部を掻き、照れ笑いを浮かべる。
 実際にその通りでもあろうが、馬鹿にされたはずの言葉にも何故か蔑む色を感じなかったのだ。
「良いのか。今後、貴様を助平と呼ぶぞ?」
「視覚情報云々はともかく、桐葉との人には言えない色々を思えば否定は出来ません」
 ネネコの向こう側で、伽耶は拗ねたように鼻を鳴らす。
「何故、貴様なのかと考えたこともある。――が、それで良かったと今は思うよ」
 きょとんとする孝平を前に、黒猫の姿を借りた吸血鬼は構わず続けた。
「だが、遊び相手としてはやはりつまらん。桐葉も毒されて、本当に面白くない奴に成り下がった。もう興味も無い。今後、関わる事は二度と無いだろう」
 それは孝平が初めて聞く、伽耶の優しい声だった。しかし、だからこそか、その言葉に抜き差しならない何かを感じる。孝平は腰を浮かせかけるが、それより先にネネコはぴょんと一飛びしてベッドの上から消えた。
 孝平も慌ててベッドを回り込むが、もうそこには何も居なくて、ふと顔を上げれば黒い影はいつの間にやらベランダの手すりの上に移動していた。窓を開けた形跡は――無い。
「永遠ではないとはいえ、桐葉の事は任せよう。限りある命、どうか大切にな」
 穏やかですらある声は意味深に響き、人の身である孝平にはどうする事も出来ない身軽さで黒猫は外へ飛び降りる。
 慌ててベランダに飛び出て外を確認した時、そこにはもう何者の痕跡も残ってはいなかった。



 千堂邸へと続く森の小道を急ぎ足で進んでいくと、途中で意外な人物に待ち伏せされていた。
「やあ、紅瀬ちゃん。……こんな所に何の御用かな?」
 桐葉は立ち止まり、声を掛けてきた男を見やる。
 道沿いの樹に背を預けて座っているのは、嫌になるほど見慣れた金髪の吸血鬼。妹と同じエメラルド色の瞳は普段のような薄っぺらい笑みすら浮かべずに、その真意を覆い隠していて、対面する者に非常な警戒を促す。
 状況も手伝ってか、気付けば桐葉は必要以上に強く睨みつけていた。
「この道の先なんて、一つしか無いでしょう」
「もちろん知っている。だからこそ、何の用かと聞いているんだ」
 よっこらせ、と年寄り染みた掛け声と共に立ち上がり、伊織は桐葉の行く手を遮るように立ちはだかった。
「無駄だよ」
 伊織は何の表情も浮かべぬままで言った。その目は、ただ静かに桐葉を見据えている。
「……どういうつもりかしら」
 250年に渡り人を見てきた桐葉だが、相手も100年の時を人の目から逃れ続けた吸血鬼である。その表情から真意を探る無駄を悟り、素直に尋ねた。
 桐葉が話を聞く気になったことで、やっと伊織も僅かながら表情を緩める。
「あの人は何も喋らない。俺や征になら分からないが――少なくとも君にだけは、絶対に何も語りはしないだろう」
 自分は知っている。教えてもいい。伊織の目はそう語っていた。
 ただし、もちろん無料でとは言っていない。
「内容次第ね」
 桐葉が諦め混じりに言うと、伊織は途端に満足そうな笑顔を見せる。
「思ったより簡単に乗ってきたね」
「本当は、自分でも分かっていたのよ。伽耶が変だということ、どうせ何も語らないだろうということ」
 何か行動を起こさねばと、ここ数日は常に考えていた。だがついつい日常にかまけて後回しにしていたのだ。
 今思えば、伽耶との『遊戯』が真の意味で『遊戯』であったことなど、200年以上も昔の記憶である。だからこそ、無意識に一日でも長く楽しみたいと思っていたのかも知れない。
 ――桐葉は感傷的な思考を振り払い、目の前で癇に障る笑顔を浮かべている男へと意識を戻した。
「貴方を相手にした方が、余程可能性はある。……そういうことでしょう?」
「ああ。君にとっても、あの人にとっても、俺や瑛里華、もちろん支倉君や征にだって、俺の提案は悪い話ではないはずだ。ただし急ぐべきだろう。今すぐでなければ、俺もこんな気持ちはすぐに吹き消してしまうかも知れない。気紛れっぷりは母親譲りだからね」



 屋敷の最奥部で黒猫の使い魔から意識を切った伽耶は、重苦しく息を吐き出した。
「伽耶様……」
 傍らで控える征一郎は、未だ事態を計りかねていた。今回、伽耶は最初から誰にも危害を加えるつもりは無かったように思える。
 本気で二人の仲を認めたとしても、それならば放置しておけばよかった。わざわざ自らの存在を知らしめるような、今回の事件を起こす必要など無い。逆に反対するならば、こんな手温い手段の筈が無い。
 だというのに事態は起こり、進み、そして収束した。
 本当にただの気紛れ、戯れかと問いたい。しかし征一郎には、どうしてもそれが出来なかった。
「どうした。聞きたいなら言葉にしてみせろ。或いは、今ならば、相手がお前ならば……。そのような気分なのだがな」
 促されようと、どうしても喉まで出かかった言葉が形にならない。しばらくはじっと彼を眺めていた伽耶も、飽きでもしたのかすぐに態度を変えた。
「それにしても、実に愉快であった。小僧にはああ言ったがな、本心ではあやつら、実に優れた道化よ。――のう征一郎、貴様も少しは笑ったらどうだ」
 時を逸してしまったと後悔する征一郎に、あくまで尊大であろうとする伽耶の言葉は続く。いつになく饒舌だが、無理に喋っているようにも見えた。
「ふん、相変わらず面白みの無い奴め。東儀とは、つまりこのあたしを楽しませる為にあるのだろうが」
 征一郎はただ無言を持って答えとする。実際、ただ喋っているだけで伽耶に本格的な言葉のやりとりをしようとする意思は感じられなかった。
「……まあよい。貴様は、初めからそのような種類の『道化』であったからな」
 それは当たり前のこと。征一郎がとっくの昔に受け入れた運命。だというのに、この人はどうして今になって悲しげにそれを確認しているのか。
「あたしは酷い事をした。しかしあやつは――桐葉は、それでもなお求めてくれている。記憶を全て取り戻し、二人だけだった時間がどれだけ大切なものかを知って、それでもなお支倉孝平を選んだあやつは、まだ千堂伽耶をも欲してくれるのだ。自ら誕生会など開き、このあたしに祝って欲しいと願うなど――ふふ、なんとも欲張りな奴よな」
 あたしは何を。何を望み、何をやっているのだ――?
 問いに対する答えを探していた。伽耶は、この数日でそれをやっと見つけた。
 光に満ちた世界。そこで幸せに包まれたかつての親友と、その思い人。あまりにも、自分からは遠い世界。
 一日を、彼らを眺めるのみで過ごし。そこに、怒りも嫉妬も、負の感情は湧いてこなかった。
 生まれた感情は全てへの諦めと、桐葉が幸せに過ごす事への感謝。200年以上も忘れていた、暖かな感情。
 だが、その時はどれだけ輝いて見えてもまやかしだと、伽耶は知っている。自分が生きている限りは半端な結末しか残らない。
 皆が幸せになる方法を考えてみた。何の事は無い、自分が邪魔なのだ。
 子供達から『吸血鬼』としての永遠を取り除いてやり、自分が世界から退けば、桐葉すらも眷属の運命から開放される。東儀も、その呪われた義務から解放される。
 自分は要らない。誰にも望まれない、今では自分すらも望まない。不要な命。
 どうせ250年、ただ生きていただけだ。強く執着した訳でもない。永遠と思われた絆も――桐葉も、去っていった。
 もう未練など有る訳がなかった。ならば良かろう。関わった全ての者が望むように、全て終わりにすると決意した。
 征一郎は困惑するのみで、伽耶の本心にまで至れずにいる。心配はしているが、それだけだ。それでいいと、伽耶は思う。頑固で固定概念に縛られ、だからこそ誰からも戻る場所として頼られる男。冷たいようで暖かく、ただ誰かを支えるのみの無駄な人生、優しすぎる故の愚者。自分もそんな愚かさに随分助けられたと、今は認められる。
 ――幕引きの時は自分で決めよう。それがせめてもの、島に潜む化け物として生きた250年分の意地だ。
 三日後を『その日』にしようと、伽耶は密かに心に決めた。

 知ってか知らずか。
 伽耶が選んだその日は、奇しくも彼女自身が両親に強く望まれ、有り得ぬ筈の奇跡によって、この世に生を受けた日である。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/10(木) 01:38:10|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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