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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

第三話



 白と別れてから一時間近くが経過し、孝平たちはようやく監督生棟へ到着する。その間に何があったのかといえば――まあ、確認するまでもない。
 ついでだからと可能な限り搾られて、朝より一層干乾びた感のある孝平の姿は哀愁漂いまくっているが、恐らく同情する男はこの世に一人も居ないだろう。
「大丈夫?」
「ああ。むしろ、幸せだから気にするな……」
「そう」
 あっさり納得して前を向きなおす桐葉。なんかこう、ちょっぴり物足りなくはないですか。
 弱っているせいかいつもより構ってもらいたい心境なのだが、孝平はその言葉を何とか飲み込んだ。これだけ遅れてしまったのだから、更に時間を無駄には出来ない。
 ともかく入り口の扉を開け、階段を上がり、二階の監督生室の中に入る。すると、
「やあ、待っていたよ。随分お楽しみ――いやいや、ともかくよく来たね」
 伊織が意味深な半笑いで迎え、難しい顔をした征一郎の姿もある。だが、この部屋の現在の主役であるべき会長の姿が無い。
「千堂さんは来ていないのね」
 桐葉が確認すると、伊織が無言で会長の執務机の向こう側へとテクテク歩いていって、そこに蹲っている人物の襟首をむんずと掴んで引き上げた。
「これのことかな?」
 伊織が襟首掴んで掲げ持ったままの瑛里華を指差して言うと、彼女は顔を真っ赤にして小さな悲鳴を上げ、そして兄をぶっ飛ばして再び机の影に隠れた。あまりに焦りが勝ちすぎたのか拳の威力はいつもより大きく劣るらしく、伊織は窓から打ち上げられる事もなくにやにやしながら顎を擦っている。
「こ、こんにちは、紅瀬さん。支倉くんも」
 身を隠したままで、目だけを机の上に出しながら二人を覗きこむ瑛里華。まるでモグラタタキのモグラだった
 しっかりサングラスを装備した怪しい風体の孝平からは何も見えないので、状況はよく分からないのだが、会話と物音から予想くらいは可能である。――過剰に警戒されると、仕方ないとはいえちょっぴり凹んだ。
「千堂さん」
「な、なにかしら?」
「その様子だと、話は聞いたのね」
 瑛里華は誤魔化すように視線を泳がせた。
「え、ええと。聞いた、といえば聞いた様な……」
「話したよ。そりゃもうじっくりねっぷり、予想も交えて面白おかしく。事実もまあ、3割くらいはあるんじゃないかな」
 あっはははー、と気持ちよく笑っている伊織の傍らで、彼の妹はぶるぶると怒りに震えだした。
「それホラ話でしょうがこの馬鹿兄ーーっ!!!」
 ぶち切れた瑛里華によってぶっ飛ばされた伊織は、征一郎が完璧なタイミングで開けた窓から、今度こそ快晴の空へと打ち上げられていった。



 瑛里華が伊織から聞いた話によれば、
「支倉君は常時発動型超強力透視能力者になったので、間にデカイ机でも挟まないと裸に見えちゃうぞ☆(テヘ」
 だそうで、どっか吹っ飛んでいった事はこの際誰も気にしないことにした。
「さて、じゃあ話を始めましょうか。とりあえず見えないのね、そのサングラスだけで」
「ああ。相手の姿が見えなければ何も見えない、らしい」
 孝平が答えると、瑛里華は難しい顔をして考え込んでしまう。
 その間に征一郎が何やら荷物を持ち出してきて、机の上に広げた。
「ヘッドマウントディスプレイと小型カメラだ」
「……屁っトマトですプレイ?」
 ボケにしては寒すぎる天然。ウケない天然キャラってどう生きればいいんだろうか。
 ――言った本人以外が総じて固まっているのを見て、自分がおかしな事を言ったとようやく気付いたのか、桐葉も何処と無く落ち着かない様子を見せる。
「つまり、小さなカメラで映した映像を、リアルタイムで目の前の小さなテレビに映す装置――ですよね、東儀先輩」
 なんとも可哀相な気がして、孝平は真面目腐った顔で補足した。
 桐葉はやはり首を傾げるが、征一郎はズレた眼鏡の位置を丁寧に押し上げながら頷く。
「効果があるかはともかく、何とか手に入ったので持って来たのだが」
「いいんじゃない? 私も今、似たような事を考えてたし。そんな装置があるとは知らなかったけど」
 瑛里華が興味深そうに見慣れない装置を弄っている。しかし効果がどうあれ、当の孝平にしてみればサングラスより無理のあるアイデアだった。
「登校も授業もコレ付ける、というのは見た目的にちょっと。それに電池が持ちませんよ」
「ふむ。言われてみれば、確かにな」
「授業にだけでも使えないかしら」
 ちなみに当然というか、装置の意味がよく理解出来ない桐葉は蚊帳の外である。
「それなら試してみればいい。ほい、支倉君」
 文字通り突然現れた伊織が、背中越しに孝平のサングラスを持ち上げながら目の前に一枚の写真をかざした。
 そこには一人の少女が映っている。ウェーブのかかった美しい金髪、その左右を飾る控えめなリボン、そして肌も露わな――。
「いい加減にしなさいよっ!!!」
 ずどんがこんどがんばきんずぎゃん、ぼかぼかぼかぼか、ずごっ、ひゅるるるるる――。
 伊織の行動を瞬時に察した瑛里華は、これまた目にも止まらぬ早業で写真を奪い取って握りつぶし、忘れずに孝平のサングラスを元の位置に戻した後、一瞬で豪華過ぎるコンボを決めて馬鹿過ぎる兄を再び窓から打ち上げた。梅雨晴れの空に綺麗な放物線を描き、伊織はまたも監督生室から強制退場を余儀なくされる。
 一瞬で何発殴られたのかはともかく、吸血鬼たる瑛里華が肩で息をしているのだから、相当な威力だったことだろう。伊織といえど、さすがに今度こそしばらく戻って来ないはずだ。
「……で、どうだった」
 それに安心したのかはともかく、直前のやりとりなど無かったかのように冷静そのものの表情で尋ねる征一郎。
 孝平は残念そうに――極めて嬉しいものを目にしたのだが、それを表に出さないようにと努力しながら首を振った。
「たぶん、肌色でした」
 思いっきり見た事は、可能な限り隠せたらいいなぁとか。そう思いながら微妙な言い回しを模索するのだが、彼は肝心な事を忘れていた。
「あのね、支倉くん」
「なんですか、瑛里華会長」
「――貴方、誤魔化すなら相手は私じゃないでしょう?」
 言われてやっと、隣に立ったままハイテク機器の話に置いていかれていた愛しい人を思い出す。何となく背筋が寒いのは、どうやらすぐ隣で殺気を放つ人が居るかららしい。
 サングラスのお陰で何も見えず、目を合わせられない事に、今日初めて感謝する孝平なのだった。



 伊織が孝平に見せた写真は、瑛里華本人が改めて確認すると最初から裸の写真だった。いつ撮ったのか、何のつもりなのか、まったくもって謎である。
「まったくもう。あの人、相手が母様だともう少しシリアスになると思ってたのに」
「……確かにな。考えてみれば、普段どおりに悪ふざけ、というのは違和感がある」
「そ、それはともかく、写真でも全裸に見えるのかどうかを確認しましょう。早く、一秒でも早く」
 桐葉の視線でチクチクと精神を削られていく孝平は、何とか話を前に進めて誤魔化したい様子。ふむ――と数秒考え込み、征一郎は携帯電話を取り出した。
「俺でも構いはしないのだがな。一番問題が無いのは自分の姿だろう?」
 言いながら、パシャリと一枚。瑛里華と桐葉を孝平の後ろ側へと移動させてから、征一郎は孝平にサングラスを外させる。
 携帯電話の小さな液晶画面に映った自らの姿を確認し、孝平は重々しくため息を吐いた。
「どうなの?」
 瑛里華が尋ねると、孝平はつい反射的に振り向こうとして、桐葉に後頭部を掴まれる。つい先刻、白と会った時と殆ど同じだ。少しは学習しろよ――と、孝平は自らの愚かさを呪った。
 ギリギリギリ――と頭蓋が軋む音が聞こえた気がしたが、必死に気のせいだと自分に言い聞かせつつ、とにかく実験に集中する。やはり、何度見ても結果は変わらなかった。
「駄目だ。人間だと認識した時点で裸に見えるらしい」
「そうか。それを見越してかはともかく、そもそも本物の透視能力ではないのは、考えようによってはより厄介なものかも知れん。見えるものが同じならば、嘘であろうと真であろうと問題点は変わらないからな」
「となると、やっぱりサングラスは外せないのね。――ところで紅瀬さん、私はいいからそろそろ離してあげたら? もちろんサングラスを元に戻してからだと嬉しいんだけど」
 やきもちでおかしくなっている桐葉を眺めながら、瑛里華は苦笑している。
 桐葉は自覚無く恋人の後頭部にアイアンクローをかましていたらしく、一瞬キョロキョロしてから慌てて手を離し、そのまま背中に隠した。
「誤魔化しても……いや、支倉が構わないなら俺は構わんのだが」
「何のことかしら」
 あらぬ方向を見ながら言った桐葉の額には、珍しく冷や汗が滲んでいる。
「いや、いいんですよ東儀先輩。俺、嬉しいばかりで涙まで滲んでますし」
 見えている訳ではないのだが、孝平は自然と桐葉を弁護していた。
「痛すぎて患部に触れることも出来ずに、頭抱えて蹲ってる人の説得力って……ある意味凄いわね」
 困った状況だというのに普段以上に日常的な二人を見守りながら、瑛里華は眩しそうに微笑んでいた。



 散々議論を重ねたものの、まともなアイデアなど簡単に出るはずもなく。
 夕日が沈む頃には当事者の二人も今日のところは諦めて寮へと帰り、征一郎は伽耶の元へ行くと言い残して監督生室を去り、瑛里華が一人残って今日何も出来なかった生徒会の仕事を少しでもと処理しているところへ、ようやく伊織が戻ってきた。
「どこで油売ってたの? 後が怖いから生徒会の仕事を手伝えなんて間違っても言わないけど、支倉くん達の相談くらいは乗ってあげて欲しいわね」
「いやぁ、愛が痛い」
 伊織は妹の言葉を無視して、まだ痛むと言わんばかりに首をコキコキと、これ見よがしに鳴らしている。
「――無いわよ、そんなもの」
 一瞬たりとも視線を向けず書類整理に追われながら、瑛里華は淡々と切り捨てた。
 以前なら当たり前のようだったやりとりは、遠く昔の出来事のようだ。今はもう風来坊と化した兄が気紛れにふらりと立ち寄った時にしか味わえない感覚に、瑛里華はふと懐かしさを覚える。
「身体は、大丈夫……よね?」
 感傷的な気分になって、瑛里華は仕事の手を休めた。相手が吸血鬼では冗談のような言葉だが、ふとそれを不安に思い、確認したくなったのだ。
 そんな彼女の兄はといえば、それを受けておや、と意外そうな顔をするものの、すぐに嬉しそうな素直そのものの笑みを浮かべる。
「家族の絆。いいねぇ、うん。実に良い」
 一瞬信じてしまいそうになるが、この人は自分をどうにでも見せられるのだと思い直し、瑛里華はため息を漏らす代わりに伸びをして、長く続けた仕事で凝り固まった体を解した。
 その瞬間、まるで部屋の主が隙を見せるのを狙ってでもいたかのように、伊織が飛んでいった時から開け放たれたままの窓から心地良い風が飛び込んで来る。書類が何枚か飛ばされるが、兄妹は無言で風よりも早く動き、それらを机の上に重ねて戻した。
 その時には既に窓も閉まっていて、伝統ある監督生室には再び格式高き静寂が訪れる。
「……兄さん」
「なんだい、妹よ」
 はて、何を聞きたかったのやら。瑛里華は自らに問いかけながら、先ほどの会話の中で話題に上った『違和感』について思い出した。
 それほど拘るわけではない。兄は見てのとおり気紛れで、深く考えるだけ損だ。そうは思ったのだが、折角だからと聞いておくことにした。
「兄さん、母様の話なのに随分おちゃらけてたじゃない。……征一郎さんが、私もだけど、少しおかしいって思ったのよ」
 もはや会話も片手間に戻し、瑛里華は仕事を再開しながらだった。それゆえ、伊織の表情の変化には気付かない。
 伊織は僅かに目を細めて、遠い目で窓の外の、暮れたばかりの空を見上げた。
「いいじゃないか。所詮、戯れだ。今度こそ本当にそうなら、特別何もする必要は無い」
「……え?」
 瑛里華が気になって顔を上げた時には、伊織はもう笑顔を作っていた。
 ――まだまだ未熟と自覚する妹の目から見ても、それは明らかな作り笑顔。しかし、深く追求する事を拒絶する何かがあった。
「あの人にしては、やる事が面白すぎるだろう。このまま乗るのも面白い。単にそう思っただけさ。兄のいつもの気紛れだよ、我が愛する妹どの」
 口調だけは普段どおり軽薄そのもの。しかし、その後の他愛無いやりとりの間にも伊織は物憂げな空気を纏い続け、瑛里華を白鳳寮へと送り届け別れるまで、ついに変わる事が無かった。



 百年は変わらぬまま、淀み続けた空気。香の焚かれた和室は、その主の様に永遠に変わらぬものかと錯覚しそうになる。
 唯一つ変わったものがあるとすれば、その主だった。
「ぷっ……くくっ……くっくっく……」
 必死な桐葉。嫉妬する桐葉。怯える瑛里華。白も、征一郎も、普段と違う顔を見せてくれた。
 伊織だけは少々おかしな気がしたが、行動が笑えるのだから不満という訳でもない。
 まさに思惑通り。望んだままの、それ以上の一日が、もうすぐ終わろうとしている。
「楽しいな、いやまったく」
「それは、なにより……」
 伽耶が誰にともなく呟くと、傍らで彫像の如く控えていた征一郎が口を開いた。
 その存在をすっかり忘れていた伽耶だが、悦に入っていたのを邪魔された事に不快感は無く、むしろ新しい玩具に大いに興味を示し、妖艶なる笑みを向けた。
「貴様は面白くなさそうな顔をしているな?」
「……そんなことは」
「嘘を吐くなら本気で吐け。お前なら、あたしを騙すなど造作も無かろう」
 征一郎は答えず、表情も変えない。騙せとの命に、誤魔化しという答えを返したのだ。
 騙すは不忠也――。実にこの男らしく、それを不快に感じた事も過去にはあったが、今の伽耶は更なる愉悦に浸るのみ。
「お前からはどう見た。桐葉も、あれで楽しそうに見えたがな」
「なんとも言えません。ただ、不幸であるようには感じませんでしたが」
「煮え切らない奴め。まあよいわ。ふふ……」
 この歳でも既に長く仕えている征一郎が過去に覚えの無いほどの上機嫌で、伽耶はずっと笑顔を崩さない。これを素直に喜んで良いものか、はたまた腹を探るべきなのかと彼が内心で悩みぬいている間にも、伽耶の表情はふと翳った。
「あやつは幸せなのだな」
 一瞬、何事かと思った。しかし、此度の遊戯は誰が対象であったかを思い出し、征一郎は桐葉の事だと思い至る。
「それは、そうでしょう」
 堅物と自覚のある征一郎といえど、樹の股から生まれた訳ではない。誰が見てもそうであろうと、それだけは自信を持って断言出来た。
 現に桐葉は以前に比べて自然な笑みを見せるようになり、他の人間との交流も、積極的ではないものの拒絶する事は減った様に思える。
「あたしと居るよりも、ずっと幸せなのだな」
 愛するものと、死が二人を分かつまで共に歩むと誓い合った。それ以上の幸せが、この世にあるなら見てみたい。自分には到底有り得ぬこと――。
 喉まで出掛った肯定の言葉を、征一郎は寸前で飲み込む。
「幸せ、なのだな」
 独り言のように繰り返す伽耶は、もはや傍らに控える男にすら意識を向けていない。それに気付き、征一郎は会話相手の役目が終わった事を察して、再び空気の一部へと戻る努力をした。
「あれが一人で幸せを満喫しているというのは、何故だろうな。不思議と心が……」
 伽耶は黙ってしまい、俯きよく見えない表情からもその真意を窺い知る事は出来ない。
 だが、彼女に大きな変化が起きていることだけは、長く傍に仕えたからこそ征一郎には感じられ、またそうあって欲しいと願った。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/08(火) 21:18:50|
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