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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

第二話



 ~~~~~翌日~~~~~


「ふ、二人とも……今日も仲良し、だね」
 登校の途中、後ろから小走りで追いついてきた陽菜が、孝平の顔を見た途端どこか呆れの混ざる表情で言った。それに対し、桐葉は自信を持ってこくりと頷き返す。
 そんな彼女が腕を抱え、身を寄せながら歩く孝平の表情にはゾンビ並みに覇気が無い。いや、この場合精気と呼ぶべきか。
 それもそのはずで、孝平は昨晩数時間に渡ってひたすら精を搾り取られた結果、最早一滴の絞りカスも出ない干乾びる一歩手前の状態だった。天国状態も度が過ぎれば拷問、という事もある。
 一晩でやつれた姿は昨日休んだ事への説得力を持たせるには十分であるものの、そのためだけと考えれば明らかに行き過ぎだ。
 本来の目的は『妄想する気力も無くす』ことで『全ての人間が裸に見える』症状を克服する、ということであったのだが、徒労に終わった事は既に朝のうちに桐葉の全裸で確認済みである。
 ではどうして孝平は外に出られたのか――いや、それを桐葉が許したのかだが。
「ところで、その、孝平君……?」
「なるべく触れないでくれ。自分でも似合うとは思わないんだ」
 今朝、卒業した元・生徒会財務の東儀征一郎の使いの者が、桐葉に頼まれていたものを渡しに白鳳寮を訪れた。それが現在孝平の目を覆うサングラスである。このサングラス、遮光性能は抜群なのだが、最高すぎて何も見えない。そもそも伊達眼鏡を塗りつぶしたものなので、サングラスと呼べるかどうかも怪しい代物なのだが。
 これをかけた孝平を、密着して歩く桐葉が先導する。どうしても登校すると言い張る孝平に対し、何も見えないなら妥協してもいい、というのが桐葉の言い分だった。
「そ、そうかな。そんなに悪くも無い……と思うよ、うん」
「お世辞ならやめてくれ。余計に凹むから」
「あ、あははは……」
 否定せず、陽菜は誤魔化し笑いを浮かべた。
 そんな訳で陽菜を前にしても何とか平静を保つ孝平ではあるのだが、視界を塞ぐものが眼鏡である以上は限界もある。上下左右は僅かに視界が確保されており――。
「――いでっ!?」
 突如、脇腹に激痛が走った。孝平は慌てて目を瞑り、何も見ていないと必死で自分に言い聞かす。
 実際には陽菜の膝辺りまでが見えていたのだが、それくらいなら何とかセーフ。残念とは思わない。きっと、絶対、助かったのである。もし見ていたら、どっかの金髪兄貴よろしく打ち上げられる可能性すらあるのだ。眷属とはいえ桐葉とて人外、ただの人間である孝平が宙を舞ったらどうなるかは推して知るべしである。
「どうかしたの?」
 不思議そうにしている陽菜に愛想笑いで誤魔化す孝平は、サングラスの下で固く目を瞑っていて。
 その隣で考平と腕を組み身体を密着させている桐葉は、頑なに他人事のような澄まし顔を崩さないのだった。



 教室は異様な空気に満たされていた。
 孝平の似合わないサングラスが原因――というのは朝のホームルームまでの話である。それも時々抑えた笑い声が聞こえる程度だったが、今はそんな生易しい状況ではない。それどころか、孝平のサングラスの事など一時間目の授業が始まって以降は完全に忘れ去られていた。
「あ~、じゃあここをはせくr――」
 がたんっ、と大きな音が響く。教室中の意識が窓際最後列の席に集中するが、直接視線を向ける者は誰一人として居なかった。
 面食らった教師だけが何事かと立ち上がった本人――桐葉を見るが、物凄い殺気と共に睨まれると慌てて視線を逸らす。
「私が答えます。問題を」
 切れ味鋭く簡潔な言葉に、しかし教師はぶるぶると首を振った。
「いい、いいから。すわれ。な?」
 桐葉は無言で頷いてから席に着く。教師はそれ以後、他の生徒も含め、問題を出したり不真面目な生徒を注意したりしなかった。
 これがもう四時間続いているのだ。同じ教室で授業を受けている他の生徒達は、桐葉の殺気に当てられてごく一部を除き胃をキリキリさせながら昼休みになるのを心待ちにしている。既に腹痛で三人が戦線離脱し保健室に運び込まれたが、状況は一向に改善しなかった。
 ――この状況、もちろん放置されていた訳ではない。二時間目が終わり休み時間に入ると、誰かが耐えかねてシスター天池を呼んだのだ。そこで何一つ改善されなかった理由こそが最大の問題である。
「紅瀬さん」
「何か?」
「教室の空気が悪いと助けを求められたのですが……」
 席に座って前の授業のノートを吟味しまとめなおしていた桐葉である。シスターはそのノートを覗き込み、絶句した。本気で教育者な彼女としては、そうせざるを得ないほど素晴らしい光景だった。
 教師の喋った内容まで残らずビッシリと書き込まれたノートと、そこから現代の若者にあるまじき達筆で重要な部分だけを抜き出しまとめられたもう一冊のノート。そのまま教科書にしてもいいくらいの、いっそ教科書なぞ捨てた方が良いくらいの出来栄えである。
 そもそも桐葉の様子がおかしいのは、サングラスのせいで何も見えずに過ごす孝平をフォローする為だ。孝平が教師に質問されるのを防ぎ、授業内容はノートにしっかりまとめておく。
 愛する者の為。そう考えれば、繁殖期の母熊に例えると近いかも知れない。
 何事かと首を傾げながら見上げる桐葉を、感極まったシスターはその豊満な胸で抱き締めた。
「ついに、ついに分かってくれたのですねっ!」
 ここで、遠巻きに耳を澄ませながら期待していた生徒の半数がこける。
 桐葉は一瞬迷惑そうな顔をしたものの、シスターは抱きついている為、それに気付かない。その間にも桐葉はその明晰なる頭脳をフル回転させ、優先順位を吟味し終えると、全く感情の篭もらない棒読みで言った。
「先生のご指導の賜物です」
 そして残り半数の生徒が天を仰ぐ。クールなキャラに似合わないVサインがシュール過ぎる光景を一層助長していたが、そこにツッコミを入れる余裕のある者など居なかった。
 こうして午前の授業は、残りも全て地獄の釜の中で行われる事が決定したのであるが、
「紅瀬さん、今日はなんだか楽しそう」
「ぐがぁ~……」
 事情を知っている孝平の他にも、呑気に微笑んでいる陽菜と、桐葉のお陰で快適に爆睡を続ける司だけは蚊帳の外だった。



 昼休みに食堂へ行くと、桐葉(とオマケで孝平)が座るテーブルの周りは誰も座らなかった。
 繁殖期の熊の様な状態は気軽に解除出来るものではないのか、それとも再びONにするのが難しいのかはともかく、一日の授業が全て終わるまではいつもの静かな紅瀬桐葉にお目にかかるのは難しそうである。
 もちろん、そんな二人の周りどころか同じテーブルに気にせず座れるツワモノも、中には居るわけなのだが。
「私は構わないんだけど、先生たちが少し可哀相だったかな」
 気遣う様な陽菜の言葉にも気にした様子は無く、桐葉は淡々と魔王狸じょせふぃ~ぬ――かなでが対きりきり用に残していった究極兵器、単に真っ赤な『たぬきそば』だが構成要素の3割がハバネロだ――を無言で啜っている。
「つーか、そもそもなんだそのサングラス」
「……お前、今更そこに触れるのかよ」
「もう散々弄られたのか?」
「逆だ。誰もそれどころじゃないんだよ」
「へぇ。まあ俺は寝てたからよく分からんが。一応、礼は言っておくべきかね」
 桐葉は箸を置き、上品に口元を拭うと、
「結構よ」
 そう言って真っ赤なスープを飲み始める。食べ方がいつもより豪快な気がするのは、きっとお腹が空いているからだろう。緊張状態だったのは他の生徒達ばかりではないらしい。まあ当然ではあるが。
「八幡平君が注意されなかったのって、まるであれだよね。核の傘とか」
「はは。となると紅瀬の傘か。しかし俺がそんなもんに入ってたら、優しい彼氏に蹴り飛ばされそうだな」
「当たり前だろ。司といえど、桐葉と相合傘なんて絶対に許さん」
 孝平が陽菜や司と馬鹿話をしている間も桐葉は黙々と食べ続け、一番に食べ終わると無言で二杯目をおかわりしに行った。
 桐葉が歩くと人の波が見るからに割れていく。陽菜は我が事の様に困った顔になり、司は見物に徹するつもりのようで興味深そうに眺めていた。
 そんな、周りの様子など一切気にせずいつも通りのマイペースを貫く桐葉を見ていると、何故か和んでしまう孝平なのだった。



 胃潰瘍の患者は二桁に届きそうなものの、何とか死人だけは出さないまま、誰もが待ち望んだ放課後がやっと訪れた。授業が終わり開放される時は毎日望まれる瞬間なのだが、これほど渇望された日も無いだろう。
 被害者の会――本気で結成された。活動内容は支倉・紅瀬両名に思う存分ラブラブしてもらいクラスの秩序を守ることらしい――からすれば諸悪の根源であるところの二人は、HRが終わってすぐに教室を飛び出す。
 生徒会の活動は休みにして、寮に戻り二人で対策を練る事も当然考えたのだが、三人寄れば文殊の知恵とも言う。白はともかく瑛里華は頭脳明晰で発想力もあり、何より伽耶の娘で吸血鬼なのだ。状況を知っているはずの伊織と征一郎も来ている可能性があるので、ともかく監督生室には顔を出そうと桐葉が提案し、孝平も二つ返事で了承した。
 そして、再び朝の様に身を寄せ合いながら監督生棟を目指す二人は、長い長い階段の下で立ち止まる。
 この頃には桐葉の様子もすっかり普段どおり落ち着いていた。辺りに人気が無いので孝平もサングラスを外す事を許され、久々の開放感に浸りながら監督生棟へと続く階段を並んで上り始める。
 だが、サングラスが無いという事は呪いが有効化されるという事でもあり――。
「何というか、かなり危ない事を考えてしまうんだが」
「なら、こちらを見なければいいでしょう」
「ああ。なるべく、そうする……」
 僅かに頬を染めながら言った桐葉に、孝平も頷きを返してなるべく足元だけを見ながら歩く。
 不自然な沈黙が続いた。
「……」
「……」
「……なぁ、桐葉」
「なに?」
「そこの草むらで――」
 桐葉は孝平を無言で睨み、そして深い深いため息を漏らす。
「じょ、冗談だよ」
「――でしょうね。半分くらいは」
 うぁ、バレてる。孝平は階段を転げ落ちてでもこの場から消えたい衝動に駆られた。
 しかし実行に移した所で、桐葉は瞬時に追いつき受け止めて、何事も無かったかのように『大丈夫?』と尋ねてくるだろう。ただの恥の上塗りである。
「なんだかなぁ……」
「どうしたの?」
「いや。想像したら凹んだ」
 項垂れながら言った孝平の様子があまりに情けないからか、桐葉は僅かに表情を緩めた。
「今、笑ったか?」
「ええ。貴方があまりにも『珍奇な人』で、それでもなお愛しいから。……こんな姿を見ても『可愛い』と感じる自分を自覚したら、笑うしか無いでしょう?」
 あまりに直接的な想いの告白に、孝平は言葉を詰まらせた。普段が表情の薄い桐葉であるから、ほんの少し感情が漏れ出しただけでも、人目を憚らず衝動的に抱き締めたくなるくらい可愛い。
 しかも見た目は全裸のままで、野外で、周りに誰も居ない状況で。その上で我慢しろというのは明確に拷問でしかなかった。
「……なあ、桐葉」
 再び脇の草むらを見ながらボソッと言った孝平に、桐葉は重苦しく芝居がかったため息を吐いた。
「どうしても、したいのね」
「ああ」
「昨晩、あれだけしたのに」
「別腹だ。――ってのもおかしいか。こういう場合、なんて言うんだ?」
 都合よく目の前に250歳超の文学少女が居るので聞いてみる。
「知る訳が無いでしょう。というか有るの、そんな言葉が?」
「さあ」
 会話に意味は無い。お互い、照れ隠しだ。
 草むらに連れ込んで、あれやこれや。その直後に監督生室。何となく後ろめたい気はするものの、盛り上がった気持ちは抑えられない。
 逸る気持ちは身体を動かし、孝平の手は草むらに入るまでもなく桐葉の豊かな膨らみに伸びていた。桐葉も抵抗せず受け入れ、見えない服の感触と、その下の柔らかな膨らみに孝平が至福を実感する、まさにその直前。
「せんぱ~いっ!」
 階段の遥か上から、白の声が聞こえた。孝平は慌てて桐葉の胸から手を離し、反射的に階段の上を見上げ――
「……ぐほっ!?」
 見上げようとして、桐葉の反射的な――かなり洒落になってない―― 一撃で草むらへの単独飛行を決行する羽目になるのだった。



「下がコンクリートなら死んでたぞ」
「貴方が悪いんでしょう」
「仕方ないだろ。声を掛けられたら振り向くのは自然な反射行動だ」
「原因はどうあれ、結果の責任は取るべきよ」
「出てないだろ、結果は」
 孝平の傷の手当てのために立ち寄った礼拝堂。殆どがかすり傷程度だったので、治療そのものはすぐに終わったものの、聖母像に見守られながら二人の不毛な言い争いは果てしなく続いていた。
「あ、あの……」
 少しも感情的にならず、静かに議論するように口論をする二人に挟まれて、白は申し訳無さそうに仲裁を試みる。
「わ、私が悪かったんです。すみませんでした……」
「どうして謝るの?」
 桐葉が努めて優しく尋ねると、白は縮こまって、
「本当は昨日、兄様に支倉先輩にはしばらく会うなと言われたんです。でも、理由は教えてくれません。せめて本人から話を聞きたくて、待っていたのが……いけなかったんです……」
 孝平の小さな負傷が申し訳ないらしい。白は沈んだ表情で、目尻には僅かに涙が滲んでいた。
「……いや、大したこと無いよ、本当に。桐葉とも会話を楽しんでいるだけというか、少なくとも喧嘩している訳ではないし。そもそも、瑛里華会長が伊織先輩を文字通り『打ち上げる』のとくらべれば可愛いもんだ」
「可愛い、ですか」
 思いもよらない単語だったのか、白はきょとんとしている。
「そうだ。可愛いんだ。桐葉は可愛い。だから一発くらいはOKなんだ。な?」
 孝平が確認するように振り、サングラスの隙間から覗くと、桐葉は呆れたようにため息を吐いていた。どことなく不自然さが臭うのは、きっと照れ隠しだからだろう。少なくとも孝平はそう思う事にした。
「というわけで、白ちゃんは気にしなくていいんだ」
「……はい」
 渋々といった感はあるものの、白は頷く。孝平もそれで良しとした。
「でも、東儀先輩の言う事は聞いておこう。しばらく俺には近づかない方がいい」
「それは、どうしてですか?」
 白も今度は簡単に頷いてくれなかった。吸血鬼の話を知っている白になら、真実を話しても問題は無いはずなのだが――内容が内容だけに何となく話したくないし、征一郎が黙っていたのだからと言い訳もしたくなる。
「伽耶とゲームの最中なのよ」
 孝平が考えあぐねている間に、桐葉がため息混じりに言った。
「お、おい……」
 桐葉は孝平の肩に手を置き、無言で制す。その目が、任せておけと告げていた。
「知ってのとおり、相手が相手だから平和なものではないわ。今回の場合――」
 もったいぶる桐葉、緊張に音を鳴らしながら唾液を嚥下する白、ただただ黙って聞いているしか無い孝平。そして、
「女性が近づくと、ある一部分が反応して大変な事になるのよ」
 桐葉がその『一部分』に視線を向けながら言うと、その視線を追った白は驚きに変な声を発しながら固まってしまった。



「わっ、わたしっ、応援してますからっ!」
 必死に声を張り上げ二人を送り出す白だが、その声援は孝平のか弱い――少なくとも隣を歩く桐葉よりは――心臓を、より深く抉るだけだった。
 ちなみに例の一部分、まだ先ほどと同じく半端に『反応』したままだ。白と会う直前のやりとりを考えれば、健全な男子高校生としてはむしろ正常ではあるのだが。
「嘘は言っていないわ」
 間接的には確かに伽耶のゲームはそういうことなのだが、孝平にしてみればあんまりにもあんまりだった。
「いや真実過ぎるだろいくらなんでもっ!?」
「全裸を見られるかも知れない、なんて伝えて欲しかったの? 言葉は濁したつもりだけど」
 果たしてこれは、真実を全て伝えた場合と比べ、多少なりともマシな結果だったのだろうか。濁ったのは白との関係だけではないのかと、そう思えてならない孝平なのだった。
「それで、どうするの?」
「何が」
 やさぐれてぞんざいな返事を返す考平に苦笑しながら、桐葉は彼の『一部分』を控えめに示し、
「まだ落ち着かない様だから」
「……この流れでそれを言うのか?」
 孝平が何を怒っているのか、桐葉にはよく分からないらしい。不思議そうに首を傾げている。
 そんな仕草がまたどきりとするほど美しく、どうにも我慢が出来そうに無い為、孝平もついには観念して『あの丘』へ寄ることになるのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/06(日) 20:38:43|
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