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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

第一話



 ~~~~~数ヵ月後~~~~~


 夜。
 理由もなく目が覚める程度、多くはないにしろ特別珍しい事でもない。だが、自分の眠るベッドの縁に着物姿の金髪幼女が腰かけ、我が物顔でくつろいでいるとなれば話は大きく違ってくる。
「かっ……!?」
 驚いて名を呼ぼうとするものの、力みすぎて言葉にならなかった。
 月明かりも無い真闇、僅かな星の光だけが差し込む部屋の中で、血のように紅い双眸だけが輝いている。姿はハッキリ見えなくとも、その瞳は――見据えられた時の感覚だけは、鮮明に心に刻まれていた。本能的な恐怖と共に。
「ふん、恐怖に言葉も紡げぬか。嫌われたものだな。……まあ、当然ではあるが」
 目の前の人物は、言葉だけを聞けば不機嫌そのものであろうに、孝平の目にはどこか楽しげに映った。だが、この相手がこれまでに行ってきた数々の所業を思い出し、文字通り血の気が引いていくのを実感する。
 ――桐葉と伽耶の絆は深い。仲良くやっていければ、と思うのは本心だ。
 しかし、同時に恐れはどうしても無くならない。普段は別の思いで覆い隠しているだけだった。いわばやせ我慢に過ぎず、だからこそ不意打ちは勘弁願いたい。
「……会いに来てくれたんですか」
 何とか気持ちを落ち着けてみせた孝平だったが、しかしそれでも伽耶は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「やはり、あたしはお前が嫌いなようだ」
「それならそれでいいです。でも桐葉は……」
「黙れ。お前に発言を許した覚えは無い」
 真紅の瞳に睨まれ、やっと持ち直した心臓が恐怖に縮み上がる。鼓動が止まったように感じたのは、果たして本当にそうなったのか、或いは意識が一瞬飛んだのか。――そんなもの、どちらでもいい。
「許してもらう必要はありません」
 胸の辺りを掴み、自分の命を守るように意識を集中しながら、拍動を一回ずつ確実に数える。自分が生きていると確認して、何とか平静を装うことには成功した。恐怖を感じないのではなく、押し殺して、それ以上の勇気で立ち向かう。桐葉の自由を勝ち取った、あの時と同じ様に。
 孝平の様子を眺めていた伽耶は、感心したように目を見開いた。そして表情と身に纏う空気が、同時に僅かながら弛緩する。
「そうだな。そうでなければな。ふふっ……。喜べ、最悪の選択肢は消しておいてやる」
「最悪、というのは」
「聞かないのが身のためだ。その単語はな、あたしの口から聞くだけで人は耐えられん。まあ貴様は前例もある、試してみるのも面白かろうが……」
「遠慮させて頂きます」
 孝平が慌てて言うと、伽耶は口端を吊り上げて邪悪極まる笑みを見せた。
「よい。では本題といこうか。……今日はな、貴様と遊びに来た」
「……は?」
 呆ける孝平の額に、小さな指が突き刺さりそうな勢いで飛んでくる。衝撃に鞭打ちどころか首が捻じ切れそうに感じたが、何とか命だけは無事なまま孝平はベッドに横たわり、そのまま朝までぐっすりと眠った。



「……へい……ぅへい……」
 遠くで誰かが呼んでいる。うるさいな。この天国のような世界から追い出そうというのか。ふざけるな、俺はずっとここに――。
「孝平っ!」
 今度は耳元で叫ばれて、痛みにも似た刺激で一気に覚醒する。
 飛び起きて傍らを見ると、そこには夢の中でも会っていた愛しい人の姿があった。
 そうか。昨日は泊っていったのか。しかし、なんというか。
「まあ、嬉しいハプニングである以上は文句を言う義理は無いんだが」
「何を言っているの? ……それより、大丈夫なのかが知りたいのだけど」
「うん?」
「昨夜。来たでしょう」
「っ!?」
 まだいくらか目覚めきっていなかったらしい脳細胞が、今度こそ残らず活性化した。
「昨晩、伽耶の気配を感じて飛び込んで来たのよ」
「そうだ。額を指で突付かれて、その衝撃で昏倒して……それで、どうなったんだ?」
「私が聞きたいわ。とにかく私に分かることは、伽耶が現れて窓を割って貴方の部屋に侵入したことだけ。でも、貴方は何の異常も無く寝ているし。それどころか、情けない顔で幸せそうな寝言ばかり呟いているから、とりあえず目覚めるまで様子を見ていたのだけど」
「寝言? 何を言っていたんだ?」
「聞かない方がいいわ。貴方、窓から飛び降りかねないから」
 桐葉は真っ赤になって顔を逸らした。それだけで、ジャンルだけは察せられる。
「いかがわしいことか?」
「とても」
「桐葉のこと、か?」
「名前は出ていたわね。……私のものも」
 言葉尻に少しだけ怒りが滲む。状況が状況だけに自重してくれているのだろう。わざわざ掘り返して嫉妬の炎に身を焦がしてもらうのもある意味魅力的ではあるのだが、状況が状況だけに孝平としても自重するしか無い。
「それで、何もせずに帰ったという訳も無いのだけど。……本当に、変わったところは無いのね?」
「ああ。特別何も、俺の身体は……」
 と、そこでふと気付く。
 自分の身体に異常が無いのは、まあ気付いていないだけかも知れない。時限式かも知れない。まだ断定は出来ない、のだが。
 今現在の状況で言うならば、むしろ、おかしいのは――。
「なあ、桐葉」
「何か思いついたの?」
「いや、そうじゃなくてだな。昨晩は泊ってない、よな?」
「ええ。だから慌てて貴方の部屋へ飛び込んできたのよ」
「とすると、来てからわざわざ服を脱いだのか……?」
 その時の桐葉の表情こそ『珍奇』以外の何物でもなかった。
「つまり、裸なのは何故かと聞いているんだが」
「は――だか?」
 孝平は素直に頷いた。それと同時に視線は下を向き、色々と危ないので――今はそれどころではないので、その気にならないようにと慌てて視線を逸らす。
「ええと、つまり、だな。最初は泊っていって昨晩のままかと思っていたんだが……つまり、透けてるとかでもなくてだな」
「今も、全部、見えて……いるのね?」
「あ、ああ」
 ようやく理解したのか、桐葉の顔が次第に赤みを帯びていく。さりげなく大事なところを隠すが、後ろを向いたり怒ってあっち向けみたいな事は一切言わない。
「その、いいのか……?」
「仕方が無いでしょう。どういうつもりかはともかく、伽耶の仕業なのだから」
「じゃあ、見てもいいのか?」
「見えてしまうのは仕方ないとしても……。特別、見るべきではないと思うわ」
「見てるだけだって」
 先ほど、考平は確かに見てはいけないと考えたばかりなのだが、桐葉の初々しい反応を見てしまうとつい苛めたくなる。こればかりはどうしようもない。何しろ病気みたいなものだ。
 桐葉は困ったように視線を泳がせるが、最終的には仕方無さそうに頷いた。
「そこまで言うなら、見ても構わない、けれど……」
「その先は無い、だろ? 分かってるさ」
「……今はまだ、よ」
 どうにも最近、桐葉はサービス過剰な気がしなくも無い考平である。先日もあれやこれやのコスプレをご披露してもらったばかりだ。
 かくして考平たちは、十分ほど我慢したもののすぐに限界を向かえ、それどころでは無いはずなのに体を重ねる。それから桐葉は伽耶の下へと文字通り窓から飛び出していった。



 紅瀬桐葉が千堂伽耶に会いに行くのは、今度の鬼ごっこ開始後ではあの時以来二度目だった。
 桐葉は千堂兄妹に協力を仰ぎ、その母親が自身の主であるかを確かめに行き、そこで自分の生き方を決めたのである。孝平と共に在ろう、と。
 あの時は、そしてその後の出来事を通して伽耶とはもう関わらないと決めたはずだった。しかし、望まずとも記憶は戻っていく。二人で過ごした日々、離れていてもなお互いしか無かった250年。その全てを無視し続けるのは人の身には無理がある。
 肉は人で無くとも、やはり中身は変わらず脆弱なまま。心は、孝平を得てもなお貪欲に主を求め続けていた。だが、昔とは僅かに違う思いが混ざる。
 優しい気持ち。自分は幸せで、だから一番の親友にもそうあって欲しいという、極めて単純でいてどうしようもない気持ち。自分が幸せになればなるほどにその思いは膨れていくが、それでも孝平との日々を捨てるなんて出来ない。
 二者択一だと思い込んでいた桐葉に、ある日孝平は当たり前のように言った。
「我侭で、欲張りでいいじゃないか」
 全部を手に入れるために努力する。それが人であるならば、そう在ろうと彼は言った。全ては手に入らずとも、途中で諦めるよりはよほど納得出来るはずだと。
 受け入れた彼女は、ただ静かに頷きを返す。決意の表情で。
「本当に『珍奇』な人ね……」
 思い出すだけで、自然と笑いが漏れた。少なからず緊張していたらしい体から、程よく力が抜ける。
 殺し合いすら覚悟していた。命令を受ける事も、それを跳ね除けることも覚悟している。完全に決別する事もまた、覚悟している。だが、死ぬこと、命令に従うことだけは許容しない。それだけが絶対。だからこその緊張。間違っても失敗など許されない。
 失敗するという事は、そのまま考平とのあまりに早い永遠の別れだけでなく、彼の人生を実際に終わらせる意味にさえなりかねないのだ。
「風呂嫌いは相変わらずの様ね。――吸血鬼なのだから、ここまでしなくとも普段の代謝は少ないでしょうに」
 長い長い和室を進んでいくと、襖を開ける度、香の匂いが強くなった。皮肉を口にしながら、恐らく最後であろう襖に手を掛ける。
「やっと来たか。随分かかったな」
 聞くだけで心が揺れそうなくらい懐かしい声を聞きながら、襖を開ける。すると、御簾を取り払って姿を晒したままの伽耶が、可笑しそうに侵入者たる桐葉の姿を眺めていた。



 桐葉が飛び出して行ってから時計を見ると、ちょうど昼休みの時間だった。
 今日は平日で授業もある。自分のせいでサボらせてしまったことに、孝平は強い罪悪感を覚えた。
 桐葉は確かに教師から見れば不真面目な生徒であろう。それは仕方ないとしても、強制睡眠によって否応無く出席日数がヤバくなるのだから、これは非常に宜しくない。後で教師に事情を――色々ごまかしつつ――話して、何とかしてもらおうか。二人で補習、というのも悪くない気がした。瑛里華と白に生徒会の仕事を押し付ける事になるが、この際仕方ない。
 ――この非常にどうでもいい思考は不安を消し去る為のものだ。実際、桐葉を一人で行かせる事には少なからず抵抗がある。しかし、女子生徒に会ったらどうするのかと言われてはぐうの音も出ない。誤魔化すさ、と言ったら多分ただでは済まなそうだし。生徒会副会長の立場で女生徒の裸を見放題、なんて極楽を味わうのは夢の中以外では許されない事なのだ。いや、きっと役職は関係ないが、法律的にも多分マズイ気がするし。
「仕方ないさ。ここは信じて待とう」
 ――と、やっと堂々巡りの思考が落ち着いてきた頃、来客があった。ドアを叩く音に飛び上がりそうになる。
 昼休み、とするとお茶会の面子がお見舞いにでも来たのかも知れない。陽菜かも知れないし、かなでさんかも知れないし、瑛里華会長かも知れないし、白ちゃんかも知れないし――。
 いかん、いかんぞと思いつつ身体は勝手に扉へ向かう。覗き窓から外を、なるべく上の方だけしか見えないように覗こう。そうしないと、相手を確認しないと誤魔化す事だって出来ないじゃないか。放置してもベランダからかなでさんが飛び込んでくるかも知れないし、今は窓が無いからそれが一番困るのだ。そういやさっきベッドの上で色々していた時、窓のこと考えてなかったな。
 ――真上の部屋の住人が数ヶ月も前に卒業した事すら思い至らぬほど動揺したまま、考平が急にそんなことを思ったその時。ドアの向こうから声がかけられた。
「お~い、孝平。見舞いで学食のヤキソバ買ってきてやったぞ。ちゃんと紅しょうが抜きだ」
 ホッとしたような、ガッカリしたような。ともかくドッと疲れた。
 相手が男でも全裸を覗き見るような行為はやはり好ましく無いのだが、この際構わんだろう、風呂で何度も見てるし。そう自分を納得させ、開錠しドアを開ける。
「お、生きてたな」
 気軽にそう言う司を見て、やっぱり裸なのでゲンナリする。しかし、それで済めばまあ良かった。
「支倉君、大丈夫そうですね。朝から起きられない状態だと紅瀬さんから聞いていたので、私も心配していたのですよ」
 その人の姿を見た途端、孝平は胸で十字を切り、生まれて初めて本気で神に祈った。
 懺悔と、感謝と、両方で。
 何というか、神の祝福有ってこその実りであると、そのように思ったのだった。
「おっ、おい、孝平!?」
「支倉君!?」
 あまりにも突然。それは文字通りの奇襲、或いはブービートラップ。
 修智館学院の敷地内ではおよそこの上は無いであろうスーパーボディを目の当たりにして、孝平は昇天――もとい卒倒したのだった。



「なかなか面白い趣向であろう? ふふ……。呪術の類いは本来、吸血鬼の嗜みだからな」
 どういうつもりかと問う桐葉に、伽耶はいつになく上機嫌で答える。
「もう、孝平に手を出すつもりは無かったはずでしょう?」
「そのつもりではあったがな。いや、今もそれは変わらん……が、いずれにしろ気紛れに過ぎぬ。心変わりは、貴様らとて覚悟の上だろう」
「……やはり、何か別の目論見があるのね」
 探るようだった桐葉の目付きが鋭いものに変わる。それを牽制するように、伽耶は乱暴に扇子を閉じた。
「なに、ほんの余興に過ぎぬ。思いついたらやらぬではいられんかった。そう深く考えるものではない。伊織が思いつくイベントとやらと、そうは変わらん」
「何がしたいの、貴方は?」
 伽耶が微塵の邪気も返さぬので、桐葉は拍子抜けして緊張を解き、代わりに疑わしそうな視線を返す。
 そんな反応が物珍しいとでも言うように、伽耶はやや大げさに笑った。
「思惑通りだよ、ここまでは。この後、どう転がろうと困る事態というものでもないがな。色々と企むのも存外、悪くない。伊織の気持ちも分かろうというものだ。母としては貴重な体験……そう思うだろう、貴様も」
「さあ。私は誰かの親になった経験など無いもの。分かる訳が無いでしょう」
 桐葉は普通に答えただけだというのに、伽耶はまた大げさに笑う。眷属となり、鬼ごっこを始めてから200年を越える記憶の中で一度も見た覚えの無い表情に、桐葉は内心困惑していた。
 敵対するならそれでもいい。立ち向かう覚悟でここへ来た。だというのに、むしろ伽耶の態度は友好的ですらあるのだ。事態を改善するには、自分がどのような態度で臨めば良いのか分からない。
 桐葉が態度を決めかねている間にも、伽耶はますます滑らかに言葉を紡ぐ。
「心配は要らぬよ。この後、あの男――支倉幸平の身に、これ以上何かが起こるという事は無い。今の状況だけが全てだ。余興は余興、今の状況に対する周りの反応を見て楽しむ。それだけの事だ。何も危害を加えはせぬよ。ゲームのルールを破っては、興が削がれるというものだからな。しかし、まあ……お前の態度次第では、ゲームの盤そのものを引っくり返す事も無いと断言はせぬぞ。あまり、主に対して失礼の無いようにな?」
 言葉は脅しだ。しかし、やはり面白がっているようにしか聞こえない。
 ならば文字通りなのだろう。相手をしても付け上がるだけだ。そう結論付けると、桐葉は当初予定していた用件のみを果たすことに決めた。
「ネネコ……。あの黒猫の使い魔、また創ったわね」
「ほう。気付いたのか。いつだ?」
「私が孝平の部屋に居た時、ベランダから飛び降りた影……。確かに見覚えのあるものだった」
「あんなものはいくらでもな。わざわざ騒動を起こして、その結果を見られぬでは意味がなかろう」
「では、本当にただの悪ふざけなのね?」
「そうだ。何度も言っているではないか」
 さすがにしつこく同じ事を聞きすぎたか、僅かに苛立ちが混ざる。
 しかし桐葉は、むしろ少しでも自分の知る顔を見られた事に安堵した。そうでなくては、伽耶の考えが全く読めないのだ。
「難しく考える必要は無い。桐葉、お前も素直に楽しめば良いだろう。どうせ本当に見えている訳では無いのだから、気にしなければそれまでよ」
「どういうこと?」
「あれは願望をそのまま視覚情報に上乗せしているに過ぎん。いわば妄想だ。透視している訳ではない。あたしもそこまで専門家ではないからな。とはいえお前の場合に限れば、ふふ……まあ本物と寸分違わぬ内容であろうよ」
「願望、ということは……」
「そうだ。本人が望むところではないと、そう思えば呪は消える。ただし心の底からだ。それ以外の方法では、あたしにも解除は不可能。こういったものは、先に解除式を組み込まねば基本的に解除は出来ぬものだからな。力技でというのも不可能ではないが、そのリスクも含めて――眷属であるお前には、身に染みて分かっていることだろう?」
 それは、いまだに愛する人との間に横たわる大きな溝。永遠に解決する事の無い問題。言われるまでもなく、心が捻じ切れそうなほど身に染みている。
「眷属とは、いわば契約。契約とは、呪いのようなもの」
 桐葉が恨みがましく睨むのを、主たる吸血鬼はそよ風のように軽く受け流し、嫣然と笑んだ。
「考え方を変えてみる事だな。分かりやすい解き方も組み込んであるのだ、それが出来るよう努力すれば良い。そうさな、見えている状態が苦痛になるよう、反射レベルで拒否するまで拷問でもしてみてはどうだ?」
「……あなたの思い通りにはならないわ」
 その答えはせめてもの意地だったが、それもまた期待通りだったらしく、伽耶の笑顔は少しも揺るがなかった。
 しかし、それでも言わずには居られないのだ。伽耶とのゲームに、本当の意味で孝平を巻き込んでしまった。例えそれが本当に『戯れ』に過ぎない程度のものだとしても、自分のせいでという罪悪感は、桐葉にとって果てしなく重い。
 一瞬、別の方法を考えてしまう。伽耶を打倒出来たなら、呪は解けるはずだと。しかし彼がそれを望まず、また成功の確率は皆無に近い。たとえ、そうすれば自らの永遠たる呪いすら同時に解ける可能性が有るとしても――平和的に解決する手段は提示されているのだから、相手の思惑に乗るのが最善であるのは間違いないのだ。
「私は、私のやり方で孝平を解放する」
 せめてと捨て台詞を残して背を向け、そのまま去っていく桐葉だったが、その背中に伽耶の哄笑が響いた。
「まあ楽しませてもらおう。……ああそうだ、先ほど征一郎と伊織にもこの事は伝えた。奴らがどう動くかまでは知らぬが……なぁ?」
 伽耶の言葉に、桐葉は立ち止まりこそしたものの、振り返ることは憚られた。再び伽耶の笑みを目にしてなお我慢出来る自信など、どこにも無かったのである。
 忍耐の限界を超え、飛び掛りでもすればやはり容赦はされないだろう。自分に対しても、孝平に対してもだ。それを考えれば、ここに止まり続けるのも最早限界。
 桐葉は再び歩を進め、逃げるように主の下を去った。その背には、いつまでも伽耶の笑い声がこびり付いて離れなかった。



 孝平がベッドの上で目を覚ますと、傍らに椅子を置いて座る桐葉の姿があった。彼女は胸の前で腕を組み、足を組んで――つまり大事な所を隠しているのはまあいい、というか当然として。なんとなく視線が冷たい。
「……不可抗力なのは分かっているわ」
 とても理解のあるようには見えない眼差しではあるが、それでも責めはしない、つもりらしい。
 そのまま桐葉は目からブリザードビームを放ちつつ、伽耶との会話内容を全て話す。孝平は絶句するしか無かった。
「つまり、修行が足りないって事か?」
「そうね。心頭滅却すれば何とやら。……毎日の行為にも、まだ欲求不満だったということでもあるわね」
「チョットマテ。俺のせい、ではないだろう?」
「分かっている、と言ったでしょう。そんなことは」
 言葉とは裏腹に、言い方が妙に刺々しい。
 今回の事はなるだけ穏便な態度でいくつもりの様だが、それは桐葉にとって伽耶に対するせめてもの抵抗なのだろう。とはいえ、嫉妬の混ざった苛立ちを完全に抑えるのも難しい。
 要するに、修行が足らないのはお互い様という訳である。
「しかし困ったな……。明日は登校しない訳にもいかないし」
 頑張っている桐葉を苛めるのも可哀想な気がして、孝平は弄りたい衝動を何とか抑えた。
「また休めばいいでしょう?」
「待てば治る保障も無いんだ。いつまでも休むって訳にはいかないよ」
「……一応、応急的な対策は考えてあるわ。明日の朝には何とかなるでしょう。それまでに、他に出来る事はしておきましょうか」
「他、って一体何を考えて……っておい、ちょっと待て!?」
 急に立ち上がり、手もどけて美しい肢体を惜し気もなく晒した自分を正視出来ず、うろたえる孝平を前に、桐葉は満足そうに微笑んだ。
「出来る限り、欲求を充足させるに決まっているでしょう?」
 いつ決まった――などとはもちろん言わない。むしろ望むところである。
「しかし、こうなると服が見えないというのは不便だな……」
「どうして?」
「脱がせるのが手探りになるじゃないか」
「大丈夫よ。私、最初から裸だもの」
 桐葉は有無を言わさず、最初から遠慮無しに本丸から攻め始めた。孝平もまた、それに応えて負けじとやり返す。
 そうして、熱すぎる時は日が変わってもなお続いたのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/04(金) 00:10:33|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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