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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

プロローグ



 瑞々しく美しい黒髪の女性が、多くの人々に囲まれて困惑している。ただ、それはどう反応すればよいのか分からないだけで、満更でも無さそうである。
 ――11月21日、修智館学院。その学食にて、今日は生徒会主催の『紅瀬桐葉誕生パーティ』が開かれていた。本人にも知らせてある、というより本人の発案である。
「パーティを開いてもらえないかしら」
 そう言い出したのは二週間ほど前。サプライズパーティを予定していた瑛里華と孝平は面食らったが、訳を聞けば納得するしかない。
「伽耶を……呼びたいのだけど」
 その後、突撃な会長やその兄、元気良すぎるどっかのお姉ちゃんも加わって異常な盛り上がりを見せたパーティは、恐らく発案者が想像していたものの何十倍も賑やかになった事だろう。
 満更でもない。そう、嬉しくもある。だが、満足し切れない。
「……やはり、来ないのね」
 無表情になって漏らす桐葉。何も感情を見せないが、普段からクールな彼女がつい先ほどまで表情を緩めていただけに、今日は殊更際立って落胆の表情に見える。
 同じ気持ちで準備の二週間を過ごした孝平であるから、その気持ちは痛いほどよく分かった。元気付けたくて、桐葉を優しく抱き寄せながら囁いた。
「いきなりは無理だったのかも知れない。でも時間はあるさ。まだまだ、何十回でもやればいい。諦めなかったから、今があるんだから」
「そうね。捩じれるのにかかった時間を考えれば、五十年でも早すぎるくらいよ」
「なるべくなら、十年くらいで上手くいって欲しいけどな」
「そのためには、幸せを見せ付けてやるしかないわね」
「天岩戸の話のように?」
 桐葉は答えずに薄く笑う。やっと楽しもうという気持ちが戻ってきた。
 一抹の寂しさは残るものの、ここはやはり幸せな世界だった。どこを切り取っても、明るい表情が満ちている。
 その世界の外――けっして遠く無い、分厚くも無いガラスを隔てた向こう側からは、一匹の猫が彼らの宴をただただ静かに見つめていた。



 薄暗い和室の続く最奥部。更に御簾の向こうに身を隠しながら、小さな影は猫の双眸を通して明るい世界を覗き見ている。
 宴の場は遥か遠い。すぐ近くに居るはずの猫を通して見てさえも、ただのガラスが分厚い鉄製であるかのように感じる。吸血鬼、それも純血種である少女にすらぶち抜けぬほどの厚さだ。実際に隔てるものは壁などよりずっと厚い、世界の違い。こちらは日陰、あちらは光の当たる、美しい世界。
 だが、桐葉は必ずまたこちら側へと戻ってくる。それが運命だ。100年も経たずに現実となる、疑う余地の無い決定事項。
 あの人間は有限の命を終える決まりだ。そうでない身体になったとしても、その時はさすがに存在を許すつもりなど無い。たとえ瑛里華が眷属としたとして、それでも別の者を探させる。手元に置かず、他人に譲るなど意味の無い事だからだ。
 それは自分も同じ事。桐葉を奪う者が永遠に生きるとなれば、さすがに許容などしない。
「ふん。結局のところ、全てはあたしの慈悲によって生まれた儚い夢のようなものか。脆い平和、脆い幸せ、明日にでも――いや、今すぐにでも壊してくれようか」
 それは実に簡単なこと。猫を通してでも桐葉に命令すれば良いのだ。戻ってこい、と。以前のように抵抗されたとして、拒絶に成功したとして、それも意味の無い事だ。場を白けさせるには十分過ぎる。
 しかし、そう思い切る事が伽耶には不思議と出来なかった。その理由を考えようとして、理由も無く止める。
「……そろそろ飽いたわ」
 使い魔の黒猫から視線を切ると、再び手元の手紙が目に付いてしまう。桐葉と、瑛里華と、白と、征一郎と、もちろん孝平と。さらには、小さな小さな字ではあるものの、千堂伊織の名前さえある、新旧生徒会役員、全員の連名招待状だ。
「ふん、どこまで子供染みた奴だ。あやつめ、不服そうに見落としそうな字で書きおって……」
 とはいえ、狙っているとも言い切れない微妙なサイズである。それが以前よりも子供染みた感情に見えて、不思議と笑いがこみ上げてきた。
「伽耶様……」
「なんだ。お前もしつこいな。何度も言っているだろう、一人で行けばよい」
「私の居場所はここですから」
 伽耶は傍らに控える征一郎を睨みつけるが、彼は少しも動じない。最初から殺される事も覚悟の上、とその静かな瞳は常に語っている。それでは何をしても面白くは無い。ふん、と伽耶は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「何も言わずとも態度が語っておるわ。黙っていてもしつこいとは、筋金入りだな」
 皮肉の一つも返ってくるかと期待したが、征一郎は黙って見つめ返すのみだった。面白くない、まったくもって面白くない奴だ。
 迎えに来たくせに、大して言葉を重ねもせず、ただパーティに来るようにと用件を言って断られると傍らに控えている。それだけだ。
 最初は監視でもしているのかと疑ったが、どうやらそうでもない。視線に、少しも鋭さが無いのだ。
 しばらくして、伽耶は征一郎が自分の事を『心配』しているのだと気付き、それからはずっと苛々しっぱなしである。桐葉の誕生日の事など征一郎が来るまですっかり忘れていたというのに、それからは意識から離れてくれない。
 征一郎の過保護が妹ばかりに向くので無い事は伽耶とて気づいていた。根底にあるものが何であろうと構わないと考えてきたが、今日はその目が無性に気に入らなかった。そして、そんなことに気付き、認めている自分も気に食わない。何もかもを壊してしまいたくなる。
 とはいえ、だ。250年を生きた伽耶にとって、一晩など人間に例えれば瞬きの一瞬に過ぎない程度のもの。不貞寝して起きて、その時にはもう忘れていた。
 ――自分の誕生日が近づくまでは。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/07/02(水) 18:48:25|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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