FC2ブログ

竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

なっちゃんとまあちゃん そのいち

 何ヶ月もせがまれ続け、遂に根負けした。
 子供の言う事など長続きしない、と高をくくっていた麻巳は自分の人間性を考えて納得するのだった。何の事は無い、そのしつこさは間違いなく母親からの遺伝である。
「わ~い♪」
 そんな訳で、初めてメイドっぽいウェイトレスっぽい子供服に袖を通した上倉妹は、映画やテレビや漫画やアニメや――色々なメディアで目にした『お嬢様っぽい仕草』のイメージに従い、上品にスカートを摘まみ上げて色々とポーズを取っている。メイドの意味もよく分からないから、どうもお嬢様な服装に思えるらしい。
 少し動く度に、元気娘のトレードマークともなっているツインテールが暴れているが、本人は初めて着る凝った衣裳に興奮して全く気にしていなかった。
 無邪気なところは年齢によるものばかりでなく、大好きなエリスおばちゃん(と呼んで毎回怒られる)の影響も少なくない。
「ぴったりだね~」
 少しだけ羨ましそうに言った姉に、答えの代わりに容赦の無い笑顔が返された。眩しそうに眺める姉の表情には、少しだけ寂しさが滲む。
 大人し目な姉の性格を現す様に首の後ろで髪を束ねる単色無地のリボンも、何故だか元気無く垂れ下がっているように見えた。
 ――麻巳が昔着ていた服は母の手によるもの。どうせなら私が作る、と言って母親の手ほどきを受けた麻巳だったが、やはりというか色々と問題もあり。
 妹の那巳に合わせて作った方は、肩口の縫い合わせが甘くてやりなおし。こちらはすぐに済んで、だからこそ今ははしゃぎ回っている訳なのだが、姉の麻樹の分はサイズが少し大きくなってしまい、直すにもすぐにという訳にいかないのだった。
「ごめんね、麻樹ちゃん」
「ううん、いいの。なっちゃんが嬉しそうだから」
 まだ幼稚園を卒業したばかりなのに、既に我慢の人である。しっかり者の麻樹ちゃんはご近所でも評判の良い子で、妹にとっても自慢の姉だ。
 学校の勉強だってクラスで一番出来るし、菫お姉さん(この子は大人の女性を必ずそう呼ぶ)に習った歌は学校で一番だし、絵を描かせたら父親が絶賛するくらい凄いのだ。――最後のはあくまで親の欲目だが、それを理解しないまでも『自分では上手いと思わない』と素直に喜べない辺りがいかにも麻巳の娘である。
 確かに優秀ではあるものの、自分に良く似て苦労しそうな性格を麻巳は少しだけ心配していた。
「少しだけ着てみる?」
「……駄目なの。ママが一生懸命作るから、ちゃんと完成するまで待たなくちゃ」
 やれやれ、母親よりずっと頑固だ。
 こうして麻巳は、今晩の徹夜作業と母への救援要請を覚悟するのだった。
 一人で作りたいなんて小さなプライド、娘の笑顔に比べれば大した価値など無い。それが母親というものである。

 翌日の夕方頃、幼稚園から帰ってきた子供達は喫茶店『やどりぎ』へと――母の実家へと直行した。
 そこで、姉妹揃ってメイド風の服へ着替える。
「えへへ」
「うん……」



Sketches and company(ブタベストさん)



「まあちゃんも、かあいいよぅ♪」
「なっちゃんも、昨日よりずっと可愛い。何でだろう?」
「きっと、まあちゃんのができたからだねー♪ ふーたりーでひーとーつー♪」
 今日は麻樹の分も完璧に仕上がっていて、子供達はお互いの姿を見てはしゃいでいる。この時ばかりは、姉の麻樹も無邪気な子供の顔を見せて、麻巳は母としてホッとすると共に嬉しさに胸が熱くなるのだった。
 徹夜した甲斐は十分すぎるくらいあった。学校にまで持ち込んで、ついさっきまで頑張った甲斐があった。愛娘の幸せそうな笑顔より価値のあるものなんて、きっとこの世のどこにも無い。
「ママ」
 はしゃいでいた麻樹が、急にこちらへ走り寄って来る。目線を合わせようと、麻巳はしゃがみ込んでから答えた。
「どうしたの?」
「あのね、ママが一生懸命で。だから、嬉しいの。ありがとう!」
 妹に比べると少しだけ恥かしがりやさんの麻樹は、謝るのは出来るのに御礼を言うのは苦手だった。それでも頑張って変わろうとしている最中だ。
 だから、はしゃいでいた時以上に上気した顔で、必死に言い終えると逃げるように妹の所に駆けて行く。その後姿を見ていると、麻巳は感動して涙ぐんでしまった。
「あらあら、本当に良い子達ねぇ」
 そんな麻巳も、この人にとっては娘。こちらも成長を喜んでいるのだろう。
「でも、今から気遣いを覚えるなんて、逆に心配になるわ……」
 徹夜で頑張って、それを気付いていた娘は最中には何も言わずにコレである。
 まあ、幸せなときに笑えるのなら大丈夫だ。何かに特別悩んでいる訳でも無し。
 仲良くポーズなどを決めながら笑いあう娘達を眺めながら、麻巳はそう納得するのだが――。
「……そこのお二人さん、さすがにそのだらしない表情は教育上良くないと思うんですけど」
 いつの間にやら親馬鹿全開の父親と祖父がはしゃぎまわる娘達の輪に参戦していて、麻巳は呆れて溜息を吐いた。
「いいじゃないか。子は国の宝だ、そんなかでも極上だぞ。フレームに収めて国に寄付してやろう」
 訂正、親馬鹿どころかただの馬鹿だ。
「まさか浩樹さんまで、同じ様なことを言わないでしょうね」
「当たり前だろ」
 全くそうは思えないだらしない顔で写真を撮り続ける馬鹿その2に、麻巳は胡散臭そうな目を向ける。
「後で絵にも描いてやるからな~。これなら金賞間違い無しだっ!」
『わ~い、パパ大好き♪』
 案の定だ。似たようなものである。
 二人の娘に抱きつかれて、いよいよ正視にに耐えぬレベル。さらに隣で物欲しそうな目で眺めているのが自分の父親かと思うと、麻巳はこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。
「でも、まあ、悪い事ではないのよね」
 なかなか絵を描こうとしない人が、娘達をモデルにして賞まで狙うと言っている。忘れないうちに実行させるのも悪くないな、と麻巳は思った。何しろ娘達は大乗り気だ。
 母親の目からは、子供達は褒められているというより、父親の絵のモデルが出来る事が嬉しい様に見えた。










 数日後。中世ヨーロッパ風の静かな店内に、場違いに元気な声が響いていた。
「いらっさいまえ~」
 小さなメイド服に身を包んだ少女――もとい幼女は、当然ながら小さかった。走る姿もまだまだ危なっかしい。
「なっちゃん、走ると危ないよ~」
 もう一人の少女が、歳に似合わぬ落ち着いた様子で注意する。こちらはもう少し大きい。
「あぅっ!」
 注意されて早々、幼女は転んでしまった。
「ふえぇ……」
 顔面から床に突っ伏した幼女は、起き上がる事も出来ずに表情を歪める。
 泣き出しそうな妹に、やはり似たようなメイド風の服に身を包んだ少女がトテトテと駆け寄った。その言動は中学生くらいに聞こえるが、走る姿はやはり危なっかしい子供のそれだ。
「言わないこっちゃ無いなぁ、もう」
「う~。まあちゃんだって、きのうころんだもん」
「っ! ええと、それは、そのぅ……」
 誤魔化す時の目の泳ぎ方は母親そっくりだった。
 それをカウンター席に座って眺めている男は、目尻に皺が寄るのを抑えきれずにいる。
「こらこら。二人とも、お客様を待たせちゃ駄目でしょう?」
 その時、奥からもう一人のメイドさんが出てきて優しく注意する。こちらは、さすがにそんな格好は――と思わせる歳なのだが、問題なく似合っていた。長年着続けた貫禄がそうさせるのだろう。
 三人目の大人メイドが、決して走ることなく優雅に子供達の下へ行き、しっかり立たせて奥へ引っ込むように指示する。
 子供達は元気よく返事をして、軽く埃を払うとお行儀よくお客様にお辞儀をしてから奥へと引っ込んだ。
「すみません、お客様。お騒がせしました。さあ、ご案内します」
 営業用に見えない自然極まる営業スマイルで、メイドさんに案内されるお客さん。こちらも自然に頬が綻んでいて、怒った様子は無い。
「騒がしくなったがな。まあうちはアットホームなのも売りだ。これはこれで、いいだろう?」
「今から看板娘を確保しようってだけだろ。姑息な爺さんだな、まったく。青田買いにも程があるぞ」
「失礼な。今でも十分に看板娘だろうが。あんな可愛い娘が何処に居る」
 やれやれ、である。爺さんの孫自慢ほど耳にうるさいものは無い。殆ど毎日聞かされている身にもなってほしいものだ。
 まあ、それを分かっていて毎日通っているのは自分なのだが。何となく悔しかったので、一言だけ言い返す。
「当たり前だろ。あんな可愛い娘が他に居てたまるか」
 ニヒルに笑って――そうしたつもりになって、浩樹は気分よくコーヒーを飲んだ。
 可愛い娘達のはしゃぐ声が、店の奥から僅かに漏れ聞こえてくる。
「麻樹も那巳も、しっかり母親の容姿を受け継いでくれて嬉しいねぇ」
 孫の愛くるしい様子を想像してでもいるのか、親父の顔は緩みきっていた。幼い頃の麻巳の姿は写真でしか知らない浩樹だが、親の視点からすれば歳の近い頃ならば余程似ているのだろう。
「……何というか。麻巳はともかく、俺の事は全否定されたように感じるのですがね」
「当たり前だろう。お前さん、まさか自分似の娘を可愛がりたかったのか? この変態ナルシスト教師め」
「俺だって、麻巳に似てくれてホッとしてますよ」
「じゃあ、ただの変態教師だな」
「世間様には言われる事もあるでしょうけどね。ここでも一生言われるんですか、それ?」
「おうよ。誰に言われても気にならんように俺が鍛えてやる。光栄に思えよ?」
「……まあ、幸福のバランスがこの程度で取れるんなら儲けたと思っておきますよ」
「ふん。この俺から麻巳を奪っておいて、この程度で済んでたまるか」
「そこは、可愛い孫が二人ってことで帳消しに……」
「駄目だ。貰ってやるからあと5人くらいは作れ」
「……先にお父さんが珈琲を作ってください」
 浩樹と親父が驚いて振り向くと、ウンザリした様子で麻巳が立っていた。
「まったくもう。お店でそういう話はやめてって、何度言ったら分かってくれるのかしら?」
「俺に言うな」
「ノリノリだったじゃないですか。分かってるんですからね。……ああもう、浩樹さんがどんどんお父さんに似てきちゃう。しばらく出入り禁止にしてもらおうかしら」
『だめーっ』
 その時、奥から小さなメイドさんが二人揃って飛び出してきて、浩樹の足にしがみ付いた。
「なっちゃんがパパのおせわすぅの~っ!」
「えっと、えっと、私も……。珈琲、練習して淹れてあげるんだから」
 そんな様子を見て、麻巳はあらあらと幸せそうに微笑む。
「お~い、俺のお世話はしてくれないのか?」
 寂しそうにカウンターから身を乗り出してきた親父さんに、二人は揃って不思議そうに首を傾げた。
「お父さん。……この子達にとっては、マスターはマスターで、パパはお客さんなの」
「そ、そりゃあんまりだ」
「……アットホームを演出するのも結構だが。お客さんのコーヒーは放っておいていいのか?」
 浩樹のツッコミにようやく気付き、親父さんは慌てて準備を始めた。










 二人の娘が店に出始めてから一ヶ月ほど経ち、活動拠点をフランスに移しているエリスが久々に帰国していた。

「寝る前にちゃんと歯磨きしなさい」
「外から帰ったら手洗いうがい」
「お部屋はこまめに片付けなさい」
「いい大学にいけ、なんて言わないから。最低限の勉強はしておきなさいね。あなたたちの将来の、選択肢は残してあげたいから言うのよ?」
 その他、挨拶やら箸の持ち方やら、優しく教えて全て躾を完璧に徹底させている麻巳ママはご近所の羨望の的である。
 ある日、帰国時は同居する事が多いエリスさんに尋ねられ、彼女は秘訣を実践して見せた。
「ちゃんとしないと、パパみたいになっちゃうぞ?」
 この魔法の言葉だけで、二人の娘は背筋をピンと伸ばして軍隊式の敬礼までする。躾どころか洗脳に近い。
「なるほど、お兄ちゃんが反面教師なんですね」
「子は親の背中を見て育つ。愛情さえあればね、たとえ薄汚れた背中でも、子供はそれを見て立派に育つものよ」
「ふむふむ。……勉強になります」
「いやお前ら。酷すぎるだろそれはさすがに」
 反論する浩樹パパをちらりと見て、年齢より遥かに若く見える美女二人は大きな溜息を吐いた。
「自覚が無いのって困りますよね」
「でも優秀な反面教師なのよ。実際に教師だから、少し困るんだけど……教師としても同じ効果があるんでしょうね、生徒達は皆良い子で居てくれるわ」
「なるほど。となると、むしろ駄目じゃないと困りますね」
「ううぅ……。俺は要らない子なんだ……」
 涙する父親に駆け寄り、娘二人が優しく頭を撫でた。
「いいこいいこ♪」
「大丈夫だよ。私たちは、パパのことが大好きだから」
 浩樹パパは感動して娘達を抱き寄せた。くすぐったそうにする娘達にほお擦りして、親馬鹿っぷりを遺憾なく発揮している。
 ちなみにこれ、すべて営業中の喫茶店内の出来事である。
 麻巳とエリスも、麻樹と那巳も、一番年配である麻巳の母親までメイド服に身を包んでいる。同じ制服、リボンだけが色違い。皆、よく似合って実に華やかな光景だった。
 お客は常連さんばかりで、誰もが日常と化した光景を眺めながらコーヒーカップ片手に和んでいる。緩やかな空気が流れる店内で、
「……くすん」
 ただ一人、カウンターでひたすら食器を磨いている親父だけが妙に寂しげだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





『そのに』へ
目次へ戻る


テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/06/04(水) 14:55:06|
  2. 中編

メニュー

無料レンタルサーバー

まったり空間
↑↓気軽に押してね♪

FC2Blog Ranking

プロフィール

 管理者:マク
 ご意見・ご要望・ご感想・リンク希望等は拍手か以下のメールフォームにお願いします。

 また、投稿作品を掲載して欲しいという場合にも、こちらのメールフォームにて受け付けます。投稿作品の感想は、各作品のコメント欄を開放しているので、そちらで受け付けます。

名前:
メール:
件名:
本文:

 拍手で長文を送りたい場合はこちらでも可。
 設定で無しに出来ないためこうなっていますが、メールアドレスが描きたくない場合は以下のアドレスを入力して送ってください。
 仮入力アドレス:teki@tou.de

カテゴリー

FC2投票

攻略するとSSが生まれるかも知れない。

無料アクセス解析

二次創作サイト更新情報



リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

RSSリンクの表示