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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

麻巳ちゃんスペシャル

 今日は創立記念日だとかで撫子学園は休みだ。ただしコンクールが近いため美術部は希望者のみの活動があり、顧問として昼前には登校することになるが朝食をゆっくり食うくらいの余裕はある。
 そして、大学生の麻巳は今日の講義が午後からなので午前中は店に出ている。朝飯をご馳走になるのも、たまには良いだろう。いや、金は払うぞもちろん。
 そんなわけで、今日は朝っぱらからやどりぎへ寄ることにした。
「いらっしゃいませ~♪」
 扉を開けて店内に入ると、軽やかな鐘の音と共にウェイトレスさんの笑顔に迎えられた。他の客に対するそれとは明らかに違う、幸せそうに緩んだ笑顔にちょっぴり優越感。いやぁ、いいね。思わず抱き締めたくなる。
 ――って、よく考えたら我慢する必要ないじゃないか。
「うきゃぁっ!? なっ、なにするんですかいきなり!?」
 何となく抱きついてみた。うむ、変態。それどころか思いっきり犯罪だ。しかし問題なし。何しろコイツは、メイドさんに見えて実はウェイトレス、並びに俺の彼女さんでもあるのだ。
「ほ、他にもお客さんが居るんですから……。そ、その、あの……」
 いつも落ち着いていて、それでいて誰より勢いのある性格をしている麻巳だが、不意打ちのセクハラには滅法弱い。恋人になる以前は適当にあしらわれていたもんだが、今や俺に対してだけはこの通り首まで真っ赤になってしどろもどろになる。
 恋人になって数ヶ月。まだその関係に慣れていないとはいえ、いやはや人間変わるものだ。
「なら、他に居なければいいんだな。次からは少し時間をズラしてみるか?」
 調子に乗って更にからかってやると、抱きついた体勢はそのままに思いっきり耳に噛み付かれた。
「……ぐぁっ!?」
 とうとう臨界点を越えたらしい。それでも大声を出したり、突き飛ばしたりしない辺りは営業中の店内というシチュエーションに感謝である。が、これだけは言っておかねばなるまい。
「人の目もあるんだぞ。耳を甘噛みなんて大胆だな」
「どっちが先だと思ってるんですかっ!」
 至近距離で叫び声をぶつけられ、俺は慌てて耳を押さえる。麻巳にとっては先ほどの我慢が早速無駄になった状況だ。自分でも失態に気付いたらしく、回りにペコペコしてからキッとこちらを睨んだ。
 恨みがましい視線は、それでもなお秀でた容姿をより引き立てる役にしか立っていない。もちろん本気で怒れば相当怖い子なので、これも照れ隠しの延長だ。大人びているようで、なかなかどうして可愛らしい。毎日が発見の連続だ。
「さあお客様、こちらへどうぞ」
 引きつった笑顔の麻巳は、言葉だけでなく力技で俺をカウンター席へと座らせた。
 ――いつもは窓際のお気に入りの席に座るんだが。ちょっとした仕返しか。親父さんが嫌いな訳ではないものの、娘さんを僕にくださいとかやった直後の今日この頃。出来ればしばらくは、もう少しだけ距離を置きたい。何しろ面白がってそういうネタを振りまくる人だ。
「ご注文をどうぞ」
 で、座った途端に大雑把な笑顔で言ってくる麻巳。――にこにこしたまま表情変わりすぎだ。器用な奴め。
「いやもう少し待ってくれ。まずはメニューを……」
「本日のオススメは麻巳ちゃんスペシャルとなっております。こちらで宜しいですよね?」
「……はい」
 笑顔に少しだけ殺気が混ざったように感じ、気圧された俺は仕方なく頷いた。
 さっきの悪ふざけはさすがにやり過ぎだったか。注文を受けたら、あとは振り返りもせず厨房へと去っていく麻巳を眺めながら、俺は僅かばかりの後悔を抱いていた。
「まーったく、親父の前でよくまあそれだけイチャイチャが出来るもんだ」
 そこへカウンターでカップを拭いていた親父さんに声をかけられた。俺はワザとらしく頭を抱えて見せる。
「分かっていてもね、困らせたくなるんですよ。アイツはしっかり者のくせにドジッ子の雰囲気を醸しやがるんだ。弄りたくなるのは殆ど本能の域、我慢出来ない時だってある。親父さんなら分かるでしょう?」
「そこを自制してこそ男ってもんだろ」
「いやアンタ、むしろ我慢した事無いでしょうが」
 先日も常連のおっさん相手に、娘が如何に『どこぞの馬の骨』に惚れているかを延々語って聞かせていた。麻巳も止めるどころか『もう慣れてます』だの『とっくの昔に諦めました』だの疲れた感じで言っていたから、断じてたまにという話でもない。
「俺は親だからいいんだよ。だいたいだな、馬の骨に娘が骨抜きにされてんだ。それを親父の前で見せ付けるお前が全部悪い。泣き言くらいは言いたくならぁな」
「せめて奥さんに零せって。客に愚痴るなよ」
「いいだろが。宣伝してやってんだ。麻巳に言い寄る野郎もこれで少しは減るってもんだ」
 本音はそれか。しかしこの人、それがどういう意味を持つか分かってやってんだろうか。
「看板娘に男が居る、って。それ宣伝したら客が減るんじゃないですかね」
 むぅ、と唸って考え込む親父。ホント正直な人だな、概ね悪い意味で。
「ところで麻巳すぺしゃるってなんだか知ってます?」
「麻巳ちゃんスペシャル、だ。なんか拘りがあるらしいぞ」
「よく分からんけど期待していいんですかね」
「ああ。うちの家内と一緒になって練習してたみたいだからな。喜べ、三回に一回は食えるもんが出来るらしいぞ」
 それの何処を喜べと言うのだろうか――親父さんは、俺にそんなツッコミを期待しているのかも知れない。しかし甘い、甘すぎる。
 数回作れば人類の食事、などという高確率である。100回に108回は悪魔が生まれそうな義妹に鍛えられた俺の味覚と胃袋は、そんなご馳走を愛する女性に振舞われて喜ばないほど柔ではないのだ。
「で、何を作ってたんです?」
 平然と返すと、親父さんはやはり期待ハズレだったのか残念そうな顔で答えた。
「オムライスだとさ」
「……なっ!?」
 俺はあまりに驚き、派手に椅子を蹴立てて立ち上がった。他の客達の視線を浴びるが、そんな事はこの際どうでもいい。
「そんな馬鹿な! いくらなんでも、味覚が絡む技術だけ異様に不器用になる麻巳が、最初からそんな高度な料理をこなせる訳が無いでしょう!?」
「だが事実だ。言っただろう、三回に一回はマトモなもんが出てくる。どれだけ努力してたと思ってるんだ。一ヶ月だぞ。毎日毎日、失敗したオムライスを晩飯にされたこっちの身になって考えてみろ。不味いなんて言ったら俺が絞め殺してくれるわ」
「そこまで嫌なら、食わなきゃいいでしょうに」
「娘が作ってくれたもんを残す親父は死んでいい」
 誇らしげに胸張りながら断言しやがった。この馬鹿親め。
「まあお前の代わりに俺が割を食うのも今だけだ。失敗作もまとめて食らうご身分になるのは、果たして何年後かね」
「……期待してるんですか、恐れてるんですか」
 倒れた椅子を戻し、周りに申し訳程度に頭を下げながら尋ねると、親父さんは難しい顔をして腕を組んだ。余程難しい問題だったのか、そのまま五分くらい唸り続ける。
 そして、わざとらしく大げさに苦み切った顔を俺に近づけると、
「孫の顔は早く見たいってのは思うがな、お前さんの顔は見たく無い。せめて麻巳に似せて作れよ?」
「無茶言うな」
「んじゃ一杯作れ。十人も居りゃ一人くらいは当たるだろ。まあ似て無くても俺が全部貰ってやるがな」
 なんとも楽しそうに渋面を作る親父さんは、娘に男が出来ても変わらぬ親馬鹿っぷりである。まあ、好かれていると思って間違いでは無いはずだ。仲良くやっていけるなら、子供に選ばせてもいい。――間違いなく麻巳に懐くだろうけどな。何となくだが。
 そういえば、こういうのもある意味ツンデレと言えるんだろうか。ツンデレ親父、ううむなんか嫌な響きだな。
 その後もしばらく親父さんの無駄話に付き合っていると、奥の厨房から麻巳が姿を現した。
「お待たせしました~♪」
 すっかりご機嫌である。どうやら出来については3割強の確率に勝利したらしい。
「苦労しましたよ。本番は難しいですね、やっぱり」
「……って事は何回目だ、それ」
「はい?」
 とても上機嫌な笑顔の裏に、何か触れてはならないものが滲んだ気がした。俺はツッコミたい気持ちを無理矢理封じ込める。
 麻巳も気付かぬ振りかは知らないが、特別気にした様子も無く慣れた手付きで皿を俺の前に置いてくれた。何気ない仕草にも、鼻に付かない程度の優雅さが薫る。料理はともかく、給仕役については相変わらず見事だ。
 細かい事に拘るのは実にくだらない。料理といい、麻巳自身といい、とにかく素直に受け入れ堪能させてもらうとしよう。
 期待を籠めてオムライスに目をやると、何だかちょっと物足りない気がした。
「……おい。ケチャップ忘れてないか?」
「いえいえ、そんなことはございません」
 してやったりといった風に言いながら、麻巳が軽やかな動作で取り出したのはケチャップだった。目の前でかけてくれる趣向らしい。
「おお。なるほど」
 俺の目の前で、手馴れた手付きで複雑な動きを見せるケチャップは、蓋の部分がお手製の特殊器具になっていて回転させると二種類の太さの線が描けるらしかった。手は動かしつつも、俺の視線に気付いたのか『人生で初めて父の人脈に感謝しました』と教えてくれる。
Sketches and company(ブタベストさん)
 それにしても、ケチャップで絵を描くという発想は有りそうで無かった。確かに竹内麻巳と言えば絵だが、それを他の分野に活かそうなどと考えるには突き抜けて実力が有り過ぎたので仕方ないと言えば仕方ない。
 ほんの数分で簡単に描かれた絵は、キャンバスに移したくなるくらいに見事な出来栄えだった。
 同世代ではトップクラスの実力者と言えど、筆をケチャップに持ち替えれば勝手が違う。かなり練習はしたのだろう。
「はい、完成です」
 得意げに額を拭う仕草をしながら、しかし汗などこれっぽっちも滲んでいない。クールに見えて芝居がかったノリが大好きな麻巳の事だ、一仕事終えたという雰囲気が欲しかったのだろう。
「どうだ、凄いだろう?」
 そんな麻巳より余程得意げな親父さん。確かにまあ、その通りだ。
 正面から見た俺の顔と、その頬に口づけする麻巳の姿。描線は細かく太さを変え、繊細さと大胆さを感じさせる。本当に、食べるのどころかオムライスであること自体が残念でならない。
「さあ、どうぞ召し上がれ」
 この言葉を自信を持って言える日が待ち遠しかったのだろう。思いの篭もった言葉に、こちらは戦に臨むような心持ちになる。
「いただきます」
 しっかりと胸の前で手を合わせてから、俺はスプーンを手に取った。



 食後のコーヒーも、今日は麻巳のお手製だ。
 だが、残念ながらこちらはやや失敗といったところ。それでも親父さんに比べればという話であって、他の一般的なレベルの喫茶店に比べても劣っているというか――まあなんだ。飲めない味ではない。
「今、凄く失礼な事を考えてませんでした?」
 傍らに立ちながら久々に不満そうな顔を見せる麻巳に、俺は適当な愛想笑いを返す。
 コイツは俺の心に聞き耳を立てるのが好きらしい。的中率は二割五分とギリギリ一軍で使えなくも無いレベルだが、今後の成長が少し怖くもある。デビュー一年目にしてこれなら、それなりに逸材なのは違いない。
「ところで、どうしてオムライスなんだ?」
「迷惑でしたか……?」
 自信を持って物凄い勢いで行動したりする麻巳だが、やってから後悔する事が間々ある。スタートで躓くのも珍しくはない。
 お陰で俺と恋人になってくれたので必ずしも短所だとは思わないが、本人にそれを納得させるのはきっと不可能だろう。そりゃそうだ、愛すべき人として見るからこそ可愛いと思えてしまうのだから。
「いやいや、可愛いよ」
「……何だかとても論点の違う答えが返ってきた気がしますけど。まあ、嬉しいから良しとします」
 ツンと澄まして作り不満顔。分かりやすく素直じゃないが、まあ分かりやすいから可愛いもんだ。営業中に髪を乱すとさすがに文句を言われそうなので、軽くポンポンと頭を叩いてやる。
 麻巳はくすぐったそうな微妙な表情で撫でられた頭を抑えて、それからしばらく何故か呆けていた。
「……で?」
 ボーッとしている顔は俺だけが知る麻巳の魅力的な表情で――それを他の奴に、親父さんにすら見せるのは何となく癪なのでやや強引に話を戻す。すると麻巳は慌てて居住いを正し、不自然に目を逸らした。
「あ、あはははは。駄目ですよ、お触り厳禁なんですから」
「いいから続きを聞かせてくれ。どうしてオムライスなんだ?」
「唐突に不機嫌な理由が分かりませんけど。……テレビでですね、やってたんですよ。メイドさんがオムライスに絵を描いたり」
 ピンと指を立てて得意げに話す麻巳だが、それってまんまメイドな喫茶店ではないのか。
「そういうの、否定してるんだろ?」
「ええ、だから浩樹さん専用のサービスです。スペシャルなのは私じゃなくて、お出しするお客様の方なんですよ」
「ほほぅ。では、そのスペシャルなお客様へのサービスはこれで終わりなのかな?」
「そうですね~。……放課後、車でお迎えに来てくれるなら外食でもどうでしょう。大学のお友達に、美味しいお店を教えてもらったんです」
「奢ってくれるのか?」
「もちろん、いつもどおりです」
 トレイを胸元に抱きしめながら背中を向けて、去り際にウィンクなど残していった。そのまま他の客の会計をしにレジへと向かう。
 その背中を眺めながら、俺はやれやれとため息を吐いた。
「むしろ、たまには奢らせてもらいたいもんだ」
 麻巳は究極の割り勘派である。言い分としては、将来同じ財布になるんですから今から私が無駄遣いなんてさせません、だそうだ。それより貯金しろ、将来何かと物入りなんだから――と微妙に論点をズラシながら言ってくる。恐らく結婚式の資金とか、マイホームは一戸建てとか、そういう事を考えているのだろう。
「ああいう奴だからな。まあ、そういうのは特別な日に前払いの予約でもしてみろ。なるべく強引な態度で、な」
 なるほど適当なようで子煩悩な親父、よく見ている。俺は貴重な助言をしっかり胸に刻んでおいた。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/05/02(金) 01:18:18|
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