FC2ブログ

竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

美術部部長・葛城朋香の悩み 第三話

「はぁ……。らしくないわね。何から何まで」
 放課後、美術室へ向かいながら昨晩の出来事を片っ端から反省している私なのだった。
 何よりまずかったのが、部屋へ帰る途中でシスター天池と遭遇してしまった事である。まさか女子風呂覗きの責任取らせてました、などと本当のことを言う訳にもいかず(実際には逆なのだが)、生徒会長と美術部について相談をしていたら盛り上がりすぎて時間を過ぎたと咄嗟に嘘を吐いてしまった。
 今日の午前中に本人へ話を通しておいたものの、およそこれ以上無いくらい恩を売りたくない相手である。そのうち菓子折り――いや、実家の寿司屋から出前でもサービスしておこう。英国貴族と言われても否定するのが難しい雰囲気のある会長とはいえ、寮生活の学生には違いない。回らない寿司など有り得ない贅沢のはずである。
 会長はあれで相談ごとには誠実だから、口止めなど本来なら必要無いのかも知れない。まあ、これは私自身が納得するためのケジメでもあるから、その辺はあまり関係無いのだが。
「――こんにちは」
 やや早足に美術室に到着し、扉を開けると、室内で所在無げに佇んでいた男子生徒が声を掛けてきた。
「ええ」
 簡潔に、素っ気無く答えて私は室内に入る。
 約束どおり、彼は昨晩の道具類を全て運び込んでくれていた。それを確認し、僅かに笑みが零れる。
「律儀ね」
「当たり前のことですよ」
 小さなやりとりをしながら、私は準備を進めた。
 ――結局、昨晩は殆ど寝ていない。絵に熱中しすぎるといつもそうなので、それ自体は慣れている。特別、態度や表情に見せたりはしない。そして、その成果として昨夜の記憶を頼りに完成図は細部まで決めてある。
 昨晩のほんの僅かな時間だけで、彼の姿は強く脳裏に焼きついていた。もう彼を目の前にしなくとも描く事は可能なのだが、もちろんモデルは目の前に居てくれた方が良い。
 言い訳染みているが、それを強く否定出来る者も居ないだろう。
「そこに座って。適当に、昨日と似たような感じで」
「はい」
 イーゼルにキャンバスを立て、椅子に座って指示を出す。彼は素直に従い、床に直接座って昨日と同じポーズをとった。
「喋るくらいは構わないから。協力してもらっているのだし、聞きたい事でもあれば何でも答えるわよ」
 早速手を動かしながら、私は彼に語りかける。
「……ええと、話した方が良いんでしょうか?」
「普通は静かな方が良いのだけど、貴方が気を紛らわせていてくれた方が、私も気を使わずに済むわね」
「なら、その……。美術部の現状、とか。どうなってるんですか? 他の部員が見当たらないんですけど」
 あまり嬉しい話題ではないが、慣れているし予想の範疇でもある。私は一切動じず、お決まりの答えを返した。
「いいのよ。人それぞれ、来たい時に来たい人だけ来るわ。週に一度は部員を集めて経過報告をしているけど、普段はこんなもの。遅れて2~3人は来るかも知れないけれど」
「そうなんですか」
「やっぱり、生徒会の一員としては気になるのね?」
「いえ、そういう訳ではなく。単純に、部長としての仕事内容にも多少興味があるというか」
「もし理解出来たら、何かしてくれるのかしら?」
「贔屓、と言われても迷惑になるので。まあ、気持ち程度ですけど……」
 本気で助けてくれる気持ちもあるらしい。全力でという訳にはいかない、と正直に言ってしまう辺りが彼らしい。損なくらいに生真面目だ。
「なら、今度は私から質問。昨日も聞いたと思うけど、気になる人、というのは一体誰なのかしら?」
 ――彼の、そんなところを見せられるとついつい苛めたくなってしまう。普段は男女の話なんて、全然興味無いのに。実はは苛めっ子の才能があるのかも知れない。
 でも意地悪だけではなくて、純粋に彼の気持ちは知りたかった。ただし、反応が見られるだけでも幸せに浸れるから、というのもまた本心。
「……ええと。答えないと駄目ですか?」
「どちらでも。ただの雑談だし、言ったでしょう? どんな事でも、人それぞれよ」
 ちょっと冷たい感じで言うと、彼は仕方ないな、と呟いた。
「気になって絵が描けない、とか言われても目的が果たせませんからね」
「そういえばそうね。そういうことにしましょうか」
「ズルイなぁ、先輩は」
「何度も言うけど、嫌ならいいのよ。ただ、私の絵が上手く行かないだけのことだから」
 相手が彼だからこそ、意味のある脅し。言葉にするだけで楽しい。――こんな事を思うって、やはり私はSなのかしら。でも彼は間違いなくMだし、だとすると相性は良いのかも。ならまあ、いいか。
「何がそこまで楽しいのか分かりませんけど」
 自然に漏れてしまう私の笑みに、彼は困ったように笑った。
「気になってるというのはですね。つまり、誰でもこれは仕方ないというか……」
「回りくどいわね。相手は誰なの?」
「副会長」
 ――む、と私が軽く睨むと、彼は慌てて付け足した。
「更にもう一人居るんですけど、えっとつまり、事故の後遺症というかですね。顔を見るだけでどうにも意識してしまうというか……その……つまり……ええと……」
 彼は真っ赤な顔で、それでも真剣な眼差しを私に向けていて、私はいつの間にか手を止めてしまっていて、つまり。
「回れ右」
「……はい?」
「いいから、あっち向いて」
 彼は慌てて従い、身体ごと後ろを向いた。瞬間、私の顔がぼんっと一瞬にして沸騰した。熱で眼鏡が曇る。
 ――その答えも想定していたはずなのに。予期せず見詰め合ってしまうのは計算外だ。それは、なんというかもう無理だ。
 私は眼鏡を外しイーゼルに引っ掛け、両手を頬に当てた。やや冷え性なので、私の手は赤面した程度では一緒に熱くなったりしない。これだけでも十分に冷える。
 たっぷり数分かけて顔を冷やすと、ようやく気持ちも身体も落ち着いてきた。
「もういいわよ」
 私が声を掛けると、彼が再びこちらを向く。その顔は、まだ少し赤みを帯びていた。
 こちらは冷静、あちらはまだ少し動揺中。
「それで? まだ副会長のお風呂を除いた事は、よく覚えているのかしら?」
 普段はそういう人ではないのだけど、やはり彼を相手にすると悪戯したくなってしまう。私はあえて『そのもう一人』を追求するのではなく、一つ飛び越してみた。
 案の定、彼は再び真冬にはしゃぐ子供のように真っ赤な顔になる。
「思い出さないように、努力はしてます」
 それでも、口調は冷静だった。
「つまり、記憶はしっかり残っている訳ね?」
「さすがに、そう簡単に消せるものではないですよ」
 何となくだけど、彼に多少の余裕を感じる。となると、他に聞かれたくない事でもあるのだろうか。
「なら、私のは?」
「……っ!?」
 ――その言葉は知らず漏れていた。彼は叱られる子供のようにビクリと身体を震わせ、私はそんな彼の目の前で遂に真っ赤な顔を見せてしまった。
 私が慌てて誤魔化そうとすると、
「む、むしろ最新の記憶の方が鮮明というか上書きされたというかっ」
 私よりよっぽど慌てて、耳まで真っ赤にした彼は言った。自分の言葉に驚いたように一度押し黙ったが、決意の表情で更に後を続けた。
「先輩の顔を直視するのは本当は辛いんです、けど。……すいません。お詫びだ責任だって、それを口実にここに居ます」
「え……え?」
 私がポカンとしていると、彼は立ち上がってこちらに近づいてくる。
「先輩を前にすると、その……」
 まさか、そんな。――ここまできて、私は有り得ないと必死に否定している。
「いけないとは思っても、どうしようもなく脳裏に焼きついたものが離れてくれなくて……。ほんの少しの時間、近くに居るだけでも嬉しくて……」
 それでも少しずつ、私の中で膨らんでいく期待。この後の、大事なその言葉を聞いて、私はどう答えよう。YESかNOかは決まっていても、さあどんな言葉がベストだろう?
 ――ともかく私は冷静だ、ここまで考えられるなら大丈夫。あとは彼の言葉を聞き届けて、
「あの大きな胸が忘れられないんですっ!」
 待ちに待ったその言葉を聞いた直後、私の拳が唸りを上げた。





 ――――ANOTHER VIEW 支倉孝平――――

「あの、やっぱり怒ってます?」
「どんな答えを聞きたいの」
 素っ気無く返されて、自分の罪を再確認。
「ええと、その、すみません……」
 寮への道すがら、俺の肘に力いっぱいしがみ付いて、おっかなびっくり歩いている先輩は物凄い目つきで俺を睨み上げてきた。いやまあ、怒っているからではないんだ、たぶんだけど。
 ――あの後、俺はやたら怒られた上に、彼女を寮まで送り届ける事になった。目つきが怖いのは、眼鏡が無くてよく見えないからであって、眼鏡が割れたのは俺のせいであって、つまりこれも責任取れって事なのだった。
 美術室でのやりとりの中で、一度後を向かされて再び先輩の方を振り向いた時、本当ならもう俺は平静な精神状態を取り戻していた。だというのに、先輩は眼鏡を外していて、それがまた魅力的で、それも俺の正常な思考を奪う要因の一つにはなったと思う。もちろん眼鏡はよく似合っていて、外した方が良いと思った訳では無いけれど、いつもキリッと格好良い美人の先輩が眼鏡を外した途端に可愛らしい女の子になってしまうのだ。そのギャップには誰でもやられる。初見で平静を保つのはいかにも厳しい。
 先輩自身も眼鏡をしていない事に気付いていない様子だったので、冷静に見えた先輩もあまり冷静ではなかった、ということだろう。挙句、眼鏡は暴れた拍子に床に落ちて、勢いよく踏みつけられて、そしてこの状況だ。
 この、状況――。いまだ目蓋の裏に焼きついているものの触れた事などある筈の無い豊かな感触、それが肘に押し付けられている。世の健康な男子諸君なら大方『死んでもいい』と思えるこの、妄想みたいな現実。油断すると、意識せずとも腕に神経が集中してしまうのだった。
「また、にやけてるわね」
「どうして分かるんですか。見えないんじゃ……?」
「何となく分かるでしょう、そういうのは。早く忘れなさい、全部」
「明日突然、海と陸が入れ替わっても、宇宙の全てが空気で満たされても、死人が全部生き返ったって、これだけは無理です」
 現在進行形の感触を忘れるなど無茶だ。しかも忘れたくないし。
 ――そもそも怒られていたはずの自分が、どうしてこれほどまでに美味しい思いをしているのか理解出来ない。俺は自分がズルイと感じて、これはもう一度くらいは叱られておくべきだと思った。それを素直に言葉にしたのは、何もこういう未来を期待していた訳ではない。予知能力者でもないのだから、分かっていたはずも無いが。
「ならせめて思い出さない努力をしなさいっ!」
 彼女にしてみても恥ずかしいのは現在進行形であるわけで、となると現状を全否定する以外に無い訳で、つまり文句の中身はどうでもいいのである。
 なんかもう、最初の『冷静沈着知的な頼れる上級生』というイメージは完全に御破算だった。でもいい、すごくいい。これはなんというか、隠す必要は無いんじゃないだろうか。
「あのですね、先輩」
「……なに」
「今後はこのイメージで通しません?」
「いいから、もう黙って真面目に歩きなさい」
 怒られた。でも、何となく怒り方に勢いが消えている。
 俺にとって『気になる人』というのは嘘では無かったが、先輩が言っていた意味とはニュアンスが違っていたように思う。
 でも、何だかこの寮まで歩く短い時間の間に、その意味するところが少し変わってきたような気がした。

 ――――ANOTHER VIEW END――――





 深夜遅くの女湯、その湯船。私の他には紅瀬さんだけ。
 ――支倉君との出来事の後、私は何となく不安感が拭えなかった。もしあの時、相手が他の男子だったらと思うと寒気がする。身を守るには、私よりずっと注意力の有りそうな人とご一緒することで、真っ先に思い浮かんだのが彼女の浮世離れした美しい顔だった。
 好んで一人で居る事の多い彼女なので、断られるのも覚悟の上である。しかし、お願いしてみると意外にもアッサリ了承してくれた。
「貴方はうるさいタイプではないし、構わないでしょう」
 談話室で一人外を眺めていた彼女は、了承してなお興味無さそうに素っ気無くそう言った。
 紅瀬桐葉は冷たいようで頼みごとを意外に断らない、という話を聞く。逆に、素っ気無く一言で切り捨てられた、なんて話も聞く。
 よほど嫌な事なら相手にもしない、そうでもないなら拒否という返答にすら拘りが無い、といったところだと私は見るが。今回の結果も加味すると、当たらずも遠からずといったところだろう。
 ともかく、せっかく湯を共にした知的で冷静で余計な事を言いふらす事は絶対に無い相手。身近な相手は私を頼る人が多いので、こちらから相談出来そうな殆ど唯一の相手でもある。どう考えても適任なので、今日の出来事を相談してみる事にした。
 内容はもちろん、私に気がありそうなのに注目していたのは『胸だけ』だったという男子生徒の真意についてだ。
「それは貴方に気があるんでしょう」
 話し終えると即座に断言されて、私は首を傾げる。
「分からないの?」
「……ええと、ちゃんと聞いてたのよね」
「誠実で生真面目で律儀で馬鹿が付くくらいの正直者で――つまり、似たような比喩が重なるくらいに善人」
 それだけ私がゾッコン惚れ抜いてます、と確認されている気がして、真顔で並べられると実に恥ずかしい。それでも私はぎこちなく頷く。
「加えて、非が女性の側にあっても傷つけたら迷わず傷を塞がなければとだけ考えてしまう紳士的な人物」
 ――そこまで言ったか。なんだかバカップルの彼氏自慢みたいだ。
 のぼせた訳でもなく、私は顔を真っ赤にしながら頷いた。
「そんな人間が、わざわざ貴方に注目してました、なんて言うのに好意が無い訳が無いでしょう」
「でも、注目していたのは身体なのよ?」
「女性の身体なら見境無く興味の対象になるものよ。まともな人間なら、ある程度は自制するものだけど……それをわざわざ伝える理由は二つしかないわね」
「二つ……って?」
「不器用な愛の告白か、変態のセクハラ」
 あまりにハッキリ言うものだから、私はずっこけて頭まで湯船に浸かってしまった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





目次へ戻る


テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/17(木) 20:47:15|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

メニュー

無料レンタルサーバー

まったり空間
↑↓気軽に押してね♪

FC2Blog Ranking

プロフィール

 管理者:マク
 ご意見・ご要望・ご感想・リンク希望等は拍手か以下のメールフォームにお願いします。

 また、投稿作品を掲載して欲しいという場合にも、こちらのメールフォームにて受け付けます。投稿作品の感想は、各作品のコメント欄を開放しているので、そちらで受け付けます。

名前:
メール:
件名:
本文:

 拍手で長文を送りたい場合はこちらでも可。
 設定で無しに出来ないためこうなっていますが、メールアドレスが描きたくない場合は以下のアドレスを入力して送ってください。
 仮入力アドレス:teki@tou.de

カテゴリー

FC2投票

攻略するとSSが生まれるかも知れない。

無料アクセス解析

二次創作サイト更新情報



リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

RSSリンクの表示