FC2ブログ

竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

美術部部長・葛城朋香の悩み 第二話

 この奇妙な状況が生まれてから、既に一時間近くが経過している。
 支倉君の――男子の部屋で、深夜遅くに二人きり。色めいた何かを感じさせるシチュエーションだが、残念ながらというか、今のところ何事も起こっていない。
 この状況に入る前ならあるにはあったが、それ以後は私はひたすらにスケッチを続け、彼はひたすらにモデルに徹していた。
「……少しくらいなら、動いても構わないわよ」
「動きたくなったら、そうします」
 今は必要ないから。私が繰り返す問いに、彼も同じ答えを繰り返す。
 しかし、素人モデルが小一時間も殆ど動かずジッとしているのは言うほど簡単ではないはずだ。現に、彼の額には僅かながら汗が滲んでいる。
「無理しちゃって……」
「はい?」
 私は控えめに笑ったが、彼には意味がよく分からなかったようだ。
「なんでも」
 言葉は誤魔化し、しかし表情は緩めたままで手を動かす。
 彼はきっと、罪の意識からモデルの責務を立派に果たそうと、それだけを考えているのだろう。律儀なことだ。あんなものは事故でしかなく、第三者の故意による、言うなれば彼も『被害者』でしかないというのに。
 もしも今回――前回の噂になっていた副会長との件もだが――相手が無用に騒ぎ立てる生徒だったとしても、彼はきっと自分だけが悪いと言って相手の言い分を全て受け入れるのだろう。そして謝罪するだけに止まらず、相手の気が済むまで何らかの責任を果たす。
「馬鹿よね。ほんとうに」
「なんですか、さっきから」
「さあ。何だと思う?」
「……恨み言?」
「残念。大ハズレ」
 こんなどうでもいい会話なのに、ハズレと言われて憮然としている。本当に、損な性格をしている。生徒会長が彼を気に入り、構っているという話を聞くが、その気持ちがよく分かった。
 でも、そんな純粋さに安心するのだろう。こうして二人だけの静かな時間を過ごし、それだけで幸せを感じている自分を自覚すると、私は愛妹さの残っていた気持ちにようやく確信を抱いた。
 ――自分は彼の事が、相当に好きだったらしい。
「ねぇ、孝平君」
「なんですか、先輩?」
 調子に乗って、さりげなく名前で呼んでみる。彼は見事に気付かなかった。
 或いはフリをしているだけかと普通なら疑うところだが、断じてその様な相手ではない。これから聞く事にも、きっと誤魔化す事など無いだろう。
 彼の真剣な瞳が、私だけを見ていた。その事を自覚し、さすがに緊張する。沈黙が、続く。
「……付き合ってる人、居る?」
 えっ、と言葉に詰まる彼。予想もしていなかったらしい。見事なまでに空白、その表情がとても可愛い。
 ああ、ますます私は惹かれていく。なんだこれは。顔が熱い。収まらない。変に思われる。私は慌てて顔を伏せた。
 それが更に妙な空気を作るのは分かっていたが、それでも目を合わせているのには耐えられなかった。
「それなら……好きな人は?」
 やがて答えを待たずして、次の質問が口から飛び出してしまう。ああまた何を。私は暴走している。このままだと――。
「付き合ってる人は、居ません。でも気になる人なら……居なくも無い、です」
「じゃあ、私のことも少しくらいは気になっていたり、するのかしら?」
 うあああ。言ってしまった。また私は何を。なんて事を。これでは告白と同じではないか。我ながら、舞い上がると口も身体も勝手に動くのはどうにかしたい。
 案の定、彼も困っている。そりゃ、ここで簡単に否定出来る心臓の持ち主なんてそうは居ない。肯定だとしても雰囲気ってものがあるし、これは最低だ――って何を期待しているの私は。
 真っ赤な顔で俯いている私は、見た目は静かなのに心の中では台風が四つ程ぶつかり合って喧嘩しているくらいの大混乱なのだった。
 それでも何より気になる彼を、何とか覗き見たりする。支倉君は、私と同じで赤い顔を隠すように俯きながら黙り込んでいた。
 こ、これはまさか。いやでも。嫌だとして、あんな反応は。じゃあやっぱり。いやいやしかし。
「……あ、あははは。さすがに悪ふざけが過ぎたわね」
 どちらに転ぶかは際どかったが、私は何とか正気の方向へ転がった。



 一度は誤魔化し、正気を取り戻して今日のところは諦めようと考えた私。そもそも、恥ずかしながら素っ裸を見た相手に気があるかと聞かれて、意識しない方がおかしいのだ。好きか嫌いかと探りを入れるなら、せめて後日にしなければ意味が無い。今は彼も、あらゆる質問に落ち着かない態度を返してしまうだろうから。
 しかし、暴走気味に作り出したこの状況が、最初で最後のチャンスなのではないか。そんな思いはなかなか消えない。
 今の勢いならともなく後日改めて何かを言える気がしないし、彼自身が無自覚なだけで仲の良い友人の誰かに好意を寄せているかも知れない。彼の周りには、それこそ私如きに興味を持つ要素など無さそうなくらいに器量良しが揃っているのだ。
 考えれば考えるほど、今日この時が最後にして最大のチャンスと思えてくる。でも、だからといって、この思いをどう伝えれば良いのだろう。客観的な私のイメージに合った言葉が、何か無いものか。ああ、やはりせめて彼の本心だけでも分かれば。私を意識していないとしても、それさえ分かれば覚悟を決めて言えるのに。
 でもその場合。諦めるのか、振り向かせるのか。私が決める覚悟とは、果たしてどちらなのだろう。
「あの、先輩」
「な、なにかしら?」
「あまり集中出来てないみたいですし、今日はこの辺で終わりにしませんか?」
 気が付くと、私の手は完全に止まっていた。
「だ、大丈夫よ。まだもう少し……」
「いや、でももう消灯時間も過ぎてますし」
 言われて慌てて時計を確認する。確かに23時を過ぎていた。
 これはマズイ。どう切り抜けるか以前に、私はまだどうするかすら決めていない。
「あの、すみません。ウッカリしていて……」
 私が急にそわそわしだしたので、彼は何を勘違いしたのか申し訳無さそうに言った。
「何故、謝るの?」
「こんな時間まで女性を引き止めるのは……なんというか、良くないと思うわけで」
「どちらかというと、私が居座っている状況だと思うのだけど」
「こういう事は、責任の所在なんて関係ないんですよ。男の方が気を使うべきです」
 真剣に言って、その気が回らなくていつも困るんですけどね、と照れ笑い。――ああもう、そんな顔を見せられて素直に帰れるわけが無いでしょうに。
「なら、ここから先は私の責任。これだけは徹底して」
「……え?」
「もう少しでスケッチだけでも終わるから。それと、罰ゲームだということもお忘れなく」
 気を抜くと無様なニヤケ顔を晒してしまいそうで、私は努めて不機嫌を装いながらそう言った。その後は口を開かず絵に没頭する。
 彼も何か言いたそうにはしていたが、渋々ながらももう少しだけ私の我侭に付き合ってくれそうだった。
 まだ答えなんて出てない。絵の方も、とにかくひたすら描きはするものの雑念が多すぎて失敗ばかりだ。
 それでも、せめて、もう少しだけは彼と一緒に居たいと思った。



「あの、先輩?」
 しばらくは黙って私に従っていたが、日付けが変わろうかという頃、彼はまたも口を開く。
 内容は聞かずとも分かるので、あえて無視してスケッチを続ける私の反応にも構わず、彼は続けた。
「そろそろ本格的にマズイですよ」
 分かっている。さすがに朝帰りという訳にはいかない。
 私だってそろそろ諦めようと、どう切り出そうか考えていたのだ。しかし、彼からその言葉を聞きたくは無かった。だから内心、面白くない。
 ――はずなのに、彼の表情は迷惑そうなものではなく、必死に私の事を心配している風で、申し訳なく思いながら同時にからかいたくもなるのだった。
「これ、一応罰ゲームだから。許して欲しいんでしょう?」
「許してくれなくていいです」
 軽い口調に、即座に返ってくるのはやや突き放した声、そして眼差し。
 私を心配しての事だとは分かるものの、やはり言い方というものがある。そりゃ調子に乗りすぎたという自覚はあるが、ここまで放置した上で、そんなにハッキリと拒絶して見せなくとも良いのではないか。
「……本気で言ってる?」
 勝手だとは思いつつ、知らず僅かに怒気が滲んだ。だが、彼は臆さない。何を言われようともう終わりだ、という意志を示すようにモデルとしてのポーズを解いて立ち上がる。
「先輩が嫌な目に遭うくらいなら、一生許してもらえなくても構いません」
 どくん、と心臓が跳ねた。
 言葉よりも表情に、更にその向こうにある優しい思いに、心が鷲掴みにされた感覚だった。
 謝罪の意識にも色々ある。許してもらおうという意図のもの、形として筋を通すためだけのもの――。
 少なくとも彼は、自分では後者だと思っているのだろう。
 自分の関わった事象で、誰かが傷を負っている。その傷を少しでも癒したいと。嫌われてもいいから、自分だけが悪者でもいいから、ただ被った被害の分だけでも取り戻してやれたらと。
 馬鹿な話だ。だがそれ以上に、そんな気持ちに乗っかって利する事を考える人間は最悪だ。
「もちろん、明日以降でまた機会がもらえるなら挽回したいところですけどね」
 ――それでも、私は。いや、だからこそか。自分の招いたこの事態に、
「そう」
 そんな思いの果てに、彼自身にとっても、少しは得になる結果を招いてあげたいと思ってしまった。
 もちろん、彼がそれを望むかは分からないけれど。
 結果を求めなければ、やりすぎなければ、男の子というのはこういうのを嬉しいと思うのではないかと。
「明日なら、なんでもする。そういうことでいいのかしら?」
「ええ、構いません」
 ――私はそのように後付の理由を考えていて。
 かなり強引なものの理屈が通ったその瞬間、日付けが変わったことを確認して、
「……明日に、なったわね」
 見事なまでに、理性が吹っ飛んだ。
 私は腰掛けていたベッドから立ち上がり、ポカンとしている彼に近づく。
 足元がふわふわする。まるで夢の中のよう。――現実でも構いはしない。
「何でも、するんでしょう?」
 私が首に手を回したところで、彼はようやく慌てだした。ぎこちなく後退るが、当然ながら私も同じだけ近づいて、二人の距離は少しも離れなかった。
 やがて彼の背中が壁に付くと、勢いで顔と顔が触れそうなほど近づく。
「何でも、するのよね?」
 もう一度確認するように言うと、彼は不自然に目を逸らして部屋の扉を見た。視線だけでも逃げ出そうとしたのだろうか。
「そ、それは帰ったらということで……」
「日付けが変わっても、寝るまでは今日よね」
「さ、さっきと言ってる事が逆のような気が……」
「昨日の私は、まだ今日だと言っている。今日の私は、もう今日だと言っている。どっちも真実。人それぞれでしょう?」
「いやいやいや! 昨日が今日なら今日は今日と言えばやっぱり昨日でしょう!」
「何を言っているの? 意味がサッパリ分からないわ」
「それは先輩が先に……」
 もはや、お互いに言っている事がグチャグチャだ。会話になってない。
 そんな事より、彼の体が後へ下がる変わりにズルズルと落ちてきて、丁度良く私の目の前までやってきた。これはきっと、
「ふふふ。誤魔化そうというのね。悪い子……。これは、やっぱり、お仕置きしないといけないのかしら」
 ――きっと、そうしろと言っているのだ。神様か悪魔か、それは分からないけど。
「いや、あのちょっと。目が怖いですよ……?」
 我ながら目が据わっているとは思うが、この際そんな些細な問題はどうでもいいので無視する。
「ねぇ。大浴場でのこと、何の問題も無くなる良い提案があるの……」
 言いながら、異常接近していた顔を更に近づけた。鼻先が触れそうになる。
「こ、怖い話じゃないですよね?」
「恋人になれば、裸を見るくらい何でもないと思わない?」
 私が答えらしい答えを返さずに自らの言葉を続け、怪しい笑みを漏らすと、彼はとうとう観念したのか固く目を閉じた。
 最早どうにでも出来る状態の彼を、改めて見つめる。
 ――キス、するんだ。本当に。私が。彼と。
 思い切ったはずなのに、ほんの薄皮一枚くらいのところで身動きが出来なくなってしまう。額にちょっと、触れるくらいの口付け。それだけなのに。ほんの少し、からかっただけだと言って、それで済む程度の悪戯。
 冗談で済むから。そう、自分に言い聞かそうとして。出来なくて。そうやって数秒、彼を放置して。
 薄目を開けようとしているのを、何故か察知した。
「……いてっ!?」
 気付くとデコピンをしていた。或いはそう思い込んだだけだったかも知れない、何も考えていない行動。でも、何だか間違ってない気がした。私はその判断を支持する。
「冗談よ」
 顔が真っ赤になっているのを自覚していたので、私は彼が悶絶している間に焦って背中を向けた。この顔を見られたら、もう冗談では済まなくなってしまう。
「あ、あの、葛城先輩……?」
 そのまま部屋から逃げ出してしまいそうな私を、ちょっぴり涙声の彼が呼び止める。
 まだ名残惜しさがあるので、私はその判断を失敗だと知りながらも、ついつい立ち止まってしまった。
「痛かった?」
「……いえ、そんなには」
 きっと嘘。凄く痛かったと思う。半分、火事場の何とかが入ってたし。私まで指が少し痛いくらいだ。
 でも、そう言ってくれるなら甘えさせてもらおう。
「今日はここまでね」
 私は背中を向けたままで言った。
「はい」
「……道具、置いていくから」
「さすがに荷物抱えてじゃ目立ちますからね。そうした方が良いと思います。でも、じゃあ明日も……」
「明日、放課後に美術室まで持ってきてもらえるかしら?」
「え……」
 咄嗟に出てしまった言葉。落胆したように漏らした、彼の声。
 ――明らかな失敗だった。でも、もうこの場に居続けることに耐えられない。これ以上、背中を向けたままで居るのも不自然だ。
 今、私の顔はどんどん熱くなっていて、そろそろ後からでもバレてしまう。耳まで熱いし。
 急いで。でも声だけは落ち着けて。意識の上では度が過ぎるくらいにゆっくりと、言葉を吐き出す。
「嫌なら、いいわ。明日、自分で、取りに来るから」
「持って行きますよ。それで、まだモデルはやれるんですよね?」
 確認というより、お願いするような口調だった。私の妄想かも知れない。でも、そう言ってくれるのなら。
「これは罰ゲームよ。もちろん最後まで付き合わないと許さないから」
 少なくとも、彼は嫌々やっているわけではない。それだけは信じる事にして。
 せめて、絵自体は喜んでもらえるような物を描こうと、私はこの時初めて本気で決意したのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





第三話
目次へ戻る


テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/09(水) 02:00:01|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

メニュー

無料レンタルサーバー

まったり空間
↑↓気軽に押してね♪

FC2Blog Ranking

プロフィール

 管理者:マク
 ご意見・ご要望・ご感想・リンク希望等は拍手か以下のメールフォームにお願いします。

 また、投稿作品を掲載して欲しいという場合にも、こちらのメールフォームにて受け付けます。投稿作品の感想は、各作品のコメント欄を開放しているので、そちらで受け付けます。

名前:
メール:
件名:
本文:

 拍手で長文を送りたい場合はこちらでも可。
 設定で無しに出来ないためこうなっていますが、メールアドレスが描きたくない場合は以下のアドレスを入力して送ってください。
 仮入力アドレス:teki@tou.de

カテゴリー

FC2投票

攻略するとSSが生まれるかも知れない。

無料アクセス解析

二次創作サイト更新情報



リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

RSSリンクの表示