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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter EX-1

 竹内の奴は、いつの間にやら美術室で昼食をとるのが日課となっていた。
 最初は一人で食べて出て行くだけだった。その際にわざわざ毎日許可を求める辺り、実質的には管理者と言えなくも無い立場を思えば律儀に過ぎるが、それも何とも彼女らしいエピソードだと言える。
 そんな静かな食事風景に、邪魔者が加わったのはいつからだったか。記憶が曖昧なんだが――。
「今日で三日目ですよ。まだボケる歳でもないと思うんですけど」
 視線をこちらに向けもせずに言う竹内は、それほど興味も無さそうに黙々と弁当を攻略している最中だった。
 いつの間にか、考えを声に出していたらしい。
 内容はどうでもいいが、そんな年寄り染みた行動だけは照れくさい。俺は適当に誤魔化すように言った。
「あえて15くらいにしておくのも悪くないと思うんだが」
「私より下ですか? ……それなら、お説教にも遠慮は要りませんね」
 俺の子供染みた発言にも、真面目なんだか適当なんだか分からないながらキッチリと返事を返してくれる竹内。そうしながら、頼みもしないのに俺のカップにコーヒーを注いでくれる。
 だがしかし。生憎と、空になる前に補充されるそれは甚だ微妙な代物だった。香りだけならともかく、味については残念無念。間違っても俺の口には合わない。
 何とも有難くない世話焼き体質のコイツは、酒を飲む席でなら重宝しそうではあるが。正直なところ今は迷惑でしかなかった。
 どれだけ喉が渇いていても有難くは無いであろうコーヒーだが、それでも俺は律儀に口へと運ぶ。風情もへったくれも無い押し付けがましい苦味に顔を歪めながら、遠慮なく文句だけは言った。
「60でいいよ。そろそろ歳でな。刺激物は遠慮したい」
「回りくどい言い方をしなくても結構です。自分でも分かってますから。
 先生が飲みたいと仰るから、多めに持ってきたんですよ。せめて1/3はノルマです」
 半分は不満そうに、もう半分は落ち込んだ風に竹内は言う。そうは言うが、何だか納得いかないものがあるんだが。
 ――豆から挽いたコーヒーを、それなりに味の分かる人間が目にすれば、多少なり興味を引かれるのは仕方が無い。ちなみに俺は料理をする方で、味覚はそれなりに優れていると自負している。
 それほどしつこく頼んだ覚えも無いのだが、初めて昼食に邪魔した日に言ってしまった失言を、コイツは悩んだ挙句に受け入れてくれていたらしかった。
 要するに。ねだったのは俺自身であり、竹内は完全に善意のみであり。俺には断る権利はなく、この劇物を飲み干す義務だけがあった。
「捨ててくれても構いませんけど、私には出来ませんから。どうぞ、ご自由になさってください」
 弁当の中身を突付きながら、いじけたように言う竹内はどこか少女染みていた。
 いつもの様に文句ばかり言われるよりは可愛いもんだが、何か調子が狂う。しかし不味いものは不味いのだ。
 ならば別の方向から励ましてやらねばなるまい。そう思い、俺は言った。
「それにしてもうちの部長はよく頑張ってくれるな。偉いぞ。感心する」
 さすがに適当臭いとは自分でも思うが、生憎と口が達者なほうではないのだ。ここは教師としての優しさを汲み取ってくれる事を願うばかりである。
 しかし、俺と同じで普段から素直に褒められてくれない性格の竹内は、喜ぶ気配など微塵も見せない。こちらをちらとも見もしないで冷淡に切り捨てた。
「そんな適当に励まそうとしても、素直に受け取る気にはなりませんよ」
「う゛。それならあれだ。今日も眼鏡が似合って……」
 俺は焦り、言葉を探した挙句、ついには特大の地雷を踏んでしまったようだった。
「今日はしてません!」
 怒声をぶつけられて、俺はようやく思い出した。そういえば先程そんな話をしていた気がする。
 数日前のことだ。竹内は眼鏡を壊してしまって――俺もそいつには一枚噛んでたりするが――修理は済んだが、収まりが悪いだとか言っていた。
 それでも我慢していた様子だったが、やはり気になって集中しきれないとかで、昨日もマトモに絵が描けなかったらしい。
 今日の帰りにでも眼鏡屋に寄ってもう一度調整してもらうという話だが、今はとりあえずコンタクトを入れているという。
 感情に任せて本来尊敬すべき教師の顔を睨み付けてくる麗しの美術部部長様は、簡単に怒りを収めてくれそうに無かった。後輩たちの尊敬を集める、落ち着いた頼りがいのある先輩、といういつものイメージはもはや跡形も無い。
 俺はさらに誤魔化そうと足りない脳味噌を振り絞ったが、それでも出てきたのは、やはり火に油を注ぐようなものばかりだった。
「そ、そうだった。じゃあ素顔の方が綺麗だな」
「なんですか『じゃあ』って。無理に褒めようとしないでも結構です。先生の致命的なまでの朴念仁ぶりは、ちゃんと分かってますから」
 自分でも恥ずかしくなるようなろくでもない発言は、しかし油ではなく冷水だったらしい。竹内は怒りを通り越して呆れ返り、いくらか落ち着いて座りなおすと、ため息混じりに言った。
「そんなだから、いつまでも一人身なんですよ」
 いきなり失礼な事を言い出す生徒に本来なら怒るところだが、正直なところ何でも構いやしない。落ち着いてくれればそれでいい。
 とはいえ、生徒相手に押されっぱなしというのも、さすがに情けなさ過ぎる。俺はせめて顔だけは怖そうにと心がけながら言った。
「余計なお世話だ。まだ気にする歳でもない。
 それにな、なんか知らんが生徒には人気あるんだぞ。こう見えても」
 しかし効果の程はといえば、全く何も無いらしい。意にも介さず、竹内は軽い口調で返してくる。
「まあ、顔だけは悪くないですからね。黙っていれば、そういうことも有るかも知れませんけど」
「俺もそんなに捨てたもんじゃないんだぞ。男としては」
「拾いたくなるような人は、自分でそういうことは言いませんよ。
 ああでも、なんだか人気があるという話も聞いた事が有るような……」
 適当に言っただけだったのだが、唐突に意外な事を言い出す竹内。そんな話は、本人の耳には全く入ってこないんだがな。
 とはいえ、こちらとしては話題転換に乗っかっていただけで、正直なところどうでもいい。
 特に何の感慨も無く、俺は適当に答えた。
「身近な大人の男が俺くらいってな寂しい女生徒が多いんだろうかね」
「男性の教師なら、他にも一杯居ますけど?」
「大半がオッサンだろうが。
 まあ、お前ほど近くに居なけりゃ歳が離れてれば大人に見えてしまうこともある。それだけでカッコイイとか思う年代なんだろうよ。中身が分からん故の壮大過ぎる勘違いだな」
 うんうん、と自分の言葉に大仰に頷いて見せる俺。
 しかし竹内は頭が痛そうにしている。何が不満なんだか知らんが、こめかみに指を当てながら何かを堪えるように言った。
「勘違いで済まさないように、少しは努力もしてください。自分で言ってて情けなく思ってくれると、私の労力も少しは減るんですけど。
 まさか、とは思いますが。いくら先生でも、生徒に告白されたらそんな話を返すつもりじゃないですよね?」
「さすがに……まあ……たまに、だな」
 何がマズイんだか分からないまま、言われ方に不穏なものを感じて、俺は言葉を濁す。
 竹内は盛大にため息をつくと、こちらを呆れたように見やりながら言った。
「下手したら二度と立ち直れませんよ、それ。
 確かに、恋なんてただの勘違いだ、なんて言葉は聴いた覚えがありますけど……。全部それで片付けるのは乱暴過ぎませんか?」
 恋だ愛だというドラマや映画に興味の無い俺にとって、そんな哲学染みた言葉は無縁だった。聞いたことも無い。
 それでも、俺と同意見のお偉いさんが居るのだという事実には多少なり勢いを借りて、俺は言った。
「誰が言ったか知らんが、あながち間違っちゃいないと思うぞ。欲望ってやつは確かにあるが、好きだ愛してるってのは得体の知れないもんだ。
 結果、手に入るどころか失うものだけだったりもする。なんで好きだ嫌いだなんてことを、いちいち言い出さなきゃならんのかね」
 現にそれで全てを失った奴がここに居るんだぜ、とまではさすがに言わない。余計な一言を飲み込むつもりで、俺は一息ついてコーヒーを流し込む。
 しかし俺の考えは、鬱屈した感情くらいは分かる程度に表情にも出ていたらしい。なにやらご立腹の様子で竹内は言った。
「何をやさぐれているんですか。夢も希望も無いような事を、生徒の前で言わないでくださいよ。
 それこそ告白してくる生徒が居たら、そういう先生には付き合ってみようという気持ちは、まったく全然、これっぽっちも無いって言い切れるんですか?」
「俺はセンセイとか呼ばれる高尚な存在なんだよ。基本的にありえんだろ。
 大体だな、その好きって対象は正確には俺じゃあない。妄想の中の素晴らしい美術教師様であって、人間・上倉浩樹はどこにもいないんだ。そんなのに付き合って理想どうりに振舞うなんぞ、俺は断固として拒否させてもらいたいね」
 カップにちびちびと口を付けながら、俺は気のない言葉を適当に並べる。
 そろそろこの話には嫌気がさしていた。
 基本的に持ち上げられると胡散臭く感じる性分で、告白なんぞされても嬉しくないし、そんなことを会話に乗せたくもない。
 今の俺が真面目に考えているのは、何でこんな話になったのかという反省項目の羅列くらいだった。
 一方の竹内は、やけにこの話にご執心な様子で、しばらく適当に答えていても終わる気配が無い。普段の堅物のイメージからは程遠い姿だが、結局はコイツも年頃の女の子ってことだろうか。
 なんにしろ結論をさっさと出して終わらせようと、俺は多少なりとも真剣味を帯びた声音で言った。
「生徒ってのは最初から教師を教師と見てるだろ。卒業するまでそれは変わらんのだ。
 藤波やら竹内やら、俺を対等どころかそれ以下に見てる生徒も例外的に居なくはないが」
「さすがに下には見てませんよ」
「まあ黙って聞け。――つまりだ、出会いからして男女じゃないんだよ。それこそ裸を見たってマズイ、ヤバイってのが第一。欲情するのは二の次、三の次だ」
「なんだか無意味な言葉で飾っているようにしか聞こえませんけど……。答えありきで無理してませんか?」
「そう思うならそれでも構わん。生徒にいちいち欲情してたら教師なんぞやってられるか。
 そんなに納得しやすい説明が欲しいなら、もっと分かりやすいものをくれてやる。
 エリスと同じ年代なんぞ、女どころか子供にしか見えん。赤子と大差ない。そんなもんに恋するなんてのはな、天地がひっくり返っても絶対に無理だ」
 言いながら、考えていたのはかつて恋をした幼馴染のことだった。
 アイツは見かけだけなら確かに美人と言えなくも無いが、実際には騒がしくておっちょこちょいの、大したポンコツぶりだったりする。大人っぽい落ち着いた女性、などとは対極に位置する存在のまま棺桶まで直行便だろう。
 ああいうのに惹かれたってことは、必ずしも生徒達を恋愛対象から外せるのかというと、正直なところ何とも言えない。しかし、そんな話を生徒にするのはさすがに憚られる。
 それ以前に、そもそも自分の好みなんぞ知らんし、どうでもいいから考えたこともないのだが。今だけはそういうことにしておく。話がまとまればそれでいい。
 とはいえ、必死に言い過ぎたらしい。竹内はなにやら落ち込んだ様子で言った。
「そこまで言いますか……」
 いかんいかん。身の上話が混ざってきたせいか、いつの間にかエキサイトし過ぎたようだ。
 俺は思い直して、慌ててフォローの言葉を捻り出す。
「あー、別にお前に魅力が無いと言ってるわけじゃなくてだな」
「眼中に無いってことですよね。いいんですよ別に、先生になんか好かれなくても。部活にさえ来てくだされば、私はそれだけでいいんです。ええ、結構ですとも!」
 早口で捲し立てながら、かなり大きな音を立てて椅子から立ち上がる竹内だった。肩を震わせ、容赦の無い視線でこちらを見下ろしている。
 怒るの自体は分からんでもないが、それにしても興奮しすぎだ。
 あまりの剣幕に、俺はただわけも分からずに聞いていた。
「何をそんなに怒ってるんだ?」
「怒ってなんていません!」
 沸騰したヤカンの如く、頭から湯気でも出しそうな風情で言われても、説得力はまるで無かった。
 何とか落ち着かせようと思考を巡らす俺は、視界の中に竹内の淹れたコーヒーを見つける。これ幸いとばかり、そいつを手に取り差し出した。
「どっちでもいいが、これでも飲んで落ち着け」
 一度は否定した竹内だったが、一応の自覚はあったらしい。しかし、それでも差し出されたカップは受け取らず、乱暴に水筒を掴むと、その中身を胃袋へと豪快に流し込んだ。
「お、おい。あんまり無茶すると……」
 あまりの迫力に、力づくで止めるという選択肢が浮かばない間に、竹内はあっと言う間に残りのコーヒーを全て飲み干してしまう。
 いい飲みっぷりだったが、そいつは慌てて流し込むのが適切とは言い難い代物だった。何しろ尋常でなく濃い。
 案の定、竹内は味と刺激とで涙目になり、顔を真っ青にしている。それでも、気遣おうとする俺を手で制しながら言った。
「先生は、もう少し素直になってもいいと思います」
 会話の流れから出た言葉ではない事に気づき、俺は咄嗟に言葉に詰まる。
 コイツは唐突に、本質を抉るような言葉をぶつけてくる時があった。いつもの調子で説教たれるのはともかく、これだけはいつまでも慣れない。
 俺が決して絵を描こうとしない事は、さすがに美術部員なら誰でも知っていることだ。理由まで知る者は、エリスを含めて一人も居ないが。
 しかし竹内だけは、幾度かの押し問答の末に根深さだけは嫌というほど分かっていた。そこには触れないことにしたらしく、普段は決して言葉にはしないが。
「いいのか、その言葉で?」
 確認するように言った俺に、竹内は自分の言葉にやっと気づいた風に目を見開いた。
「……素直に部活に出てきてください、という意味ですよ」
 どうやら勢いで本音が零れたらしいが、意識して発した言葉でもないようだった。失言だったと認めているのか、慌てて否定する様子には、もはや先ほどの怒気は欠片も残っていない。
 こういった時に、コイツは大人だなと思わされる。それを強いている俺は何なのだと思わないでもないが。
 それでも、後に続く部活に出ろと五月蝿いいつもの竹内の言葉に、俺は安心感を抱かずにはいられないのだった。






























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/12/28(木) 21:04:18|
  2. 第一話

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