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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

夢のかたち(蛇足)

 休日。
 私は浩樹さんの家にお邪魔して、リビングのソファーでゆっくりとレポートの課題に取り組んでいた。
「お茶、要るか?」
「はい。出来れば日本茶で……」
「任せろ」
「期待してます」
 単なるコミュニケーションではなく、本気で期待しながら私は言った。
 彼の作るものは何でも美味しい。料理は愛情と言うけれど、彼は腕が良い上に愛情も溢れに溢れているのだから当然である。
「料理への愛情と、私への愛情、と……」
「ん? なにか言ったか?」
 私の呟きに、彼はキッチンから顔だけ出して尋ねてきた。
「な、なんでもありませんっ」
「そうか?」
 彼は不思議そうな顔をしながらも、アッサリ引っ込んだ。普段はからかい半分で苛烈にツッコミ合うのが日常と化しているが、お茶にしろ料理にしろ、作業に集中している時はしつこくしない。
 ――作業に没頭しているということだが、それでも私のことを気にかけながらやっている、ということか。ちょっとした事だけど、ちょっとどころではなく嬉しい。
「って、いい加減こっちも集中しないと……」
 集中、という言葉を何度か呟きながら、私は改めてノートパソコンへと視線を戻す。
 こんなハイテク機器、私に似合わない。とはいえ卓上据え置き前提の大きな――重量は5kg弱もある――ボディは、今どきの最先端からは程遠いらしいけれど。
 細かいことはいい。文字を打つには十分だし、こういう方が少しは私らしさが残る。何より、安い。
 中古品で、しかもかなりの旧式だ。液晶画面にも傷が有るし、お店の人が言うにはドット欠けがあるんだとか。そんな小さい光点の一つや二つ、私は気にしないけれど。
 可奈ちゃんの、小さくて高性能な最新携帯ノートとは大違いだ。何でも始めての印税で買ったんだとかなんとか。プロの小説化が有する装備と比べるのは無謀かも知れないけれど――ここはあえて『負けてはいない』と言わせていただく。こちらの愛情補正は素晴らしく強大なのだ。
 私の右手が順調に回復し、リハビリがてらの慣れない手作業として浩樹さんにプレゼントされたのが、このパソコンなのである。オンボロなのは、私が遠慮無く貰える値段という理由でこの子を選んだから。
 何でも買ってやる~、みたいなのは嬉しい反面、将来も考える相手なのだから微妙に考える私なのだった。
 みみっちい、と楓子に言われ、私もそれに納得する。でも仕方ないでしょう? 今から教育しておかないと。子供が出来た頃になって焦っても遅い。父親の背を見て育って欲しいし、その父親が金銭感覚に乏しいなんて事態は避けたい。
 ――そこまで考えて、私は真っ赤になって首を振った。
「結婚どころか子供って……」
「子供がどうした?」
 死角から声をかけられ、私は驚いて振り向く。
「ほれ。注文の品だ。受け取れ」
「……ありがとうございます」
 お礼を言いながらも、驚かされた仕返しがしたくなった。
 ちょっとした思い付きで、浩樹さんが差し出す湯飲みを受け取る時に、彼の手ごと優しく包み込む。
「早く受け取って貰いたいんだが」
 知らん顔でそう言う彼だったが、不自然に視線を逸らしている。照れているのが丸分りだ。
 この人は、時々可愛い反応をする。普段は女性に興味ありませんという顔をしているクセに――だからこそか、そういう空気じゃない時にスキンシップを計ると、とても楽しいのだった。
 でも、私のこの行動は悪戯心だけ、というわけでもない。唐突だけど、彼の手に触れたかった。ずっと私の手を――手を通して、心を温め続けてくれた優しい手に。
「手に触れるのは、触れられるのは……とても暖かいんですよ」
「知ってるよ」
「私はこの手に……たくさん、貰いました。暖かい気持ちを」
「お互い様だよ。麻巳の手に触れている間、俺も一緒に居るって実感出来るし、少しでも力になってやれてるって気になれた。誤魔化しかも知れないが、少なくとも気持ち良さそうにしていたのは間違いないだろ?」
 私は小さく頷きながら、今度こそ湯飲みを受け取る。
 浩樹さんは私の隣に座り、自分の湯飲みに口をつけた。私も、それに合わせるようにお茶を飲む。
 適温だった。丁度飲みやすい。香りもいい。さすがだ。心が解けていくような感覚は、愛情だけで生まれるものではない。
 いや、その技術も長らく持ち続けた愛情故か。上達するに至った期間、愛情を向けられていた相手が自分ではないのが、ちょっぴり悔しい。
「でもまあ、これから私がそれをやればいいんですよね」
「何の話だ?」
「こういう時は、とりあえず頷いておいてください」
「そういう適当な事をすると、麻巳はすぐに怒るじゃないか」
「……正解。よく出来ました」
 未来の旦那様教育計画は、順調に進行中の様である。
 私は上機嫌で続けた。
「ご褒美に、今晩は私が料理をしますね」
「おいおい、大丈夫なのか? 未熟な上に何ヶ月やってないんだよ」
「失礼な。これでも、ちゃんとお母さんに習ってきたんですから」
「なら安心だな」
 ――母の話が出た途端、アッサリ納得する浩樹さん。
 なんとなく面白くない。
「不満そうに見えるぞ?」
「ええ、とても不満です」
「あのお袋さんなら抜かりないだろ。何を習ったんだ?」
「ひ、秘密です……」
「焼くか揚げるか。まあステーキ、ハンバーグ、唐揚げ、豚生姜焼き辺りと見るが」
「うぅ……。以心伝心と喜ぶべきなのかしら……」
 落ち込む私を、彼は優しく抱き寄せた。
 浩樹さんは私の頭を胸に乗せながら、上機嫌で言った。
「上手いところだけ見せたい気持ちも分かるけどな。一緒にやるのも楽しいと思うぞ?」
「え……。それは、その……」
「俺に習えば、俺の好みもよく分かるしな」
「いいんですか?」
「当たり前だろ。俺にとっても悪い話じゃないし。だけどまあ、とりあえず今日のところは」
「努力の成果を見てもらいますね」
「ああ。これでも、かなり期待してるんだぞ」
「どう頑張っても浩樹さんより上手くは作れませんけど」
「そういうことじゃない。誰かが作ってくれるのは嬉しいもんだ。もっとも……」
 と、そこで彼は口を噤む。が、私には何を言おうとしたかが分かってしまった。
「さすがに食べられるモノであることは、保証しますよ?」
「いやいや、気にするな。俺は地獄から何度も這い上がってきた男だ。どんなもんでも、笑顔で美味しく頂いて見せるぞ」
 そう言われると、なんだかとても気に入らない。何しろそれは、鳳仙さんの作った料理を――殺人的な腕前を持つ彼女の料理を、決死の覚悟で平らげたということだ。
 それでも私は笑顔で――目だけは真逆なことは一切気にせずに言った。
「では、浩樹さんの胃袋の耐久テストといきましょうか」
「ごめんなさいすみませんもう言いません。お願いだから全力で美味しく作ってください」
「よろしい」
 すまし顔で指をピンと立てて言った私に――彼は吹き出すように笑った。私も一緒に笑う。
 そして楽しい二人の日々は、もう少しだけ続いていくのだった。



 もちろん、人生幸せばかり続くとは限らない。それは、あの事故によっても証明されているわけで。
 次なる障害――鳳仙さんが帰国し、私が再会を喜ぶだけで済まずに苦労するのは、また別の話である。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/03/17(月) 20:11:58|
  2. 中編

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