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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

桐葉さんのバレンタインな憂鬱



 生徒会の財務担当として約半年間活躍した結果、桐葉は千堂瑛里華会長に匹敵する人気を得ていた。ただし、その内訳が7割方女子だったりする。
 そんな彼女のバレンタインは、去年とはかなり様子が違っていた。



 ――――――――――――――――――――――――――――



 帰ったら連絡をと言われていたので、俺は寮に着くと同時に桐葉へメールを送る。そうして自分の部屋に近づくと、司の部屋の扉が開きっぱなしになっていることに気付いた。
 不思議には思ったが、部屋で待っていると桐葉からの返信も来ている。見なかったことにして通り過ぎようとしたのだが。
「おかえりなさい」
 そう言いながら八幡平ルームから平然と出てきたのは、こんな地方の学校でお目にかかるにはあまりに場違い過ぎる、艶やかな黒髪を自由に伸ばした端正な顔立ちの美人さんだった。俺の最愛の人であり、将来を誓い合った人にそっくりな――
「……って、チョットマテ」
 明らかに本人だろこれ。部屋で待ってるとメールにあったじゃないか。――部屋? どこの部屋だった!?
 慌てて携帯を確認する。部屋、としか書いていなかった。相変わらず苦手だとかで最低限以下の文字しか打ちやがらない。となると、この状況は何を意味しているのか。
 浮気――は即座に否定した。
 ならば無理矢理連れ込まれたのかいや司に限ってそんなことはしかし桐葉は美人だ何かの拍子に内なる獣が猛り狂うことだって有り得ない話じゃないそうだ司は悪くない悪いのは桐葉が魅力的過ぎることでそれについても桐葉が悪い訳じゃなくてとなると悪いのは――
「千堂先輩だろ、やっぱり」
 俺は真顔で断言する。何かおかしな事があれば、7割方元会長ってことで話がつくのがこの修智館学院の凄いところである。ちなみに残る3割は悠木さん家の頼れる姉君と思っておけば、それなりには間違いない。
「どういう思考展開でそうなったのか、普段の苦労を見ていれば分からんでも無いが」
 あきれ返った声が聞こえて、桐葉に続いて部屋から出てきたのは我らが親友殿だった。
 そうか、コイツも被害者か。そろそろあの騒動量産システムはメーカーに返品した方が良いのではあるまいか。平和的に解決するのを待つ、という建前で放置してもリコールにならないのが今のご時世だと理解はしているつもりだが、平和ボケな日本人でもたまには我慢の限界を越えるってのを見せてやらねばなるまい。
 いざ返品となれば、対吸血鬼兄妹用・文字通り問答無用な破砕機足りえる最終兵器が手薬煉引いて待っている。100歳超の血吸い兄貴と言えど、さすがにアレには敵うまい。そんな親玉は更なる問題児だったりするが、背に腹は変えられないので、ここは過去の所業の諸々には目を瞑ってやってもいい。望むなら土下座の一つくらいはしてやろうじゃないか。
 いや、しかしその前にだ。とりあえず司には相談して、被害者の会を作ろう。断固、糾弾すべきだ。
「というわけで、頑張ろうな」
 言いながら、労わるように司を見やった。俺は多少慣れているが、あの人の悪戯はいつも度が過ぎている。見ている分には面白くないこともないが、いつも被害者にされて楽しいはずも無い。俺だけ生贄みたいになっているのはあんまりにもあんまりだ。
 俺の身近に居ながらも、今までは何とか回避し続けてきた司だが、裏を返せば耐性が無いとも言える。今回の事は、きっと辛かっただろう。
 しかし、どういうわけか司は同情に満ちた視線を華麗にスルーして、俺の肩を強く掴んだ。
「お前の考えは、手に取るように分かる。だがな、あえて言おう。悪いのはお前だ」
「いや悪いのは千堂先輩だろ!?」
「違う。現実逃避から話をややこしくするな。……お前、紅瀬に合鍵渡してないだろ」
 意味が分からず絶句する俺を、司は面白がるような嫌らしいにやけ顔を作りながら開放した。
「ま、お陰で俺も堪能したしな。時々なら構わん」
「……わざわざ誤解を招く言い方すんな。実際は何なんだ?」
「学院内でもトップクラスの美女が目の前だ。そりゃ、じっくり眺めてたに決まってる」
 確認するように桐葉に視線を向けると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「知り合いでは一番、部屋が近いでしょう? 廊下で待つのも目立つから、中で本を読ませてもらっていた。それだけよ」
 何か問題でもあるのか、とでも言いたげだった。
 桐葉が他人を頼るというのは、良い傾向だと思う。しかし、相手がたとえ司だったとしてもだ。彼氏という立場を考えれば、これは非常に面白くない。
 俺は当然の権利として、二人に抗議の視線を向けた。すると、司が困ったように口を開く。
「ちなみに、俺は了承なんてしてないからな」
「ああ、って言ったわ」
「動揺して呻いただけだ」
 この二人、それほど会話は無いものの近い感覚の持ち主かと思っていたが、どうやら相性は良くなかったらしい。
 桐葉も普段ならどうでも良さそうな反応に終始するはずが、やっと司との仲を疑われかねない状況であると理解したのか、拗ねたように言い訳する。そんな子供染みた反応も可愛いな――って、違うだろ。
「ええい黙れ黙れ!」
 二人の楽しげな会話に――俺にはそうとしか見えない会話に、強引に割って入る。
「桐葉、少しは自覚してくれ」
「なにを?」
「お前は女の子だろ」
 俺が諭すように言った一言は、意味するところが全く伝わらなかったらしい。
 桐葉は俯き加減にしばらく考え込んでから、ああ、と軽い言葉を発しながら納得したように顔を上げた。
「大丈夫よ。彼に私をどうにかする様な力は無いわ」
「――いいのか、あんなこと言わせといて」
「真理だ。良いもクソも無い」
 司は諦めたように肩を竦めた。
「俺もそれなりに場数は踏んでる。喧嘩売って洒落にならん相手くらいは分かるさ」
「プライドとか無いのか?」
「最強の男はどんな女にも負けないが、最強じゃない男は上から何割かの女には負けるんだよ。それも分からん奴はプライド以前の問題だ」
 初対面の相手が大抵びびる奴の言葉とはとても思えない。情けないことを平然と断言する司だが、それがどういう訳か無性に格好良かった。
 ――考えてみれば体育祭やプール開き、体育の授業なんかの時に、桐葉は何度か只者ではない動きは見せている。見る目のある奴には色々と感じる部分はある、ということか。
 己を知り、相手を認め、それでも必要なら立ち向かうのがホンモノ。こんな時になんだが、俺も色々と見習うべき奴なのかも知れない。
「俺は、まあ時々なら構わんけどな。お前は嫌だろ」
「もちろんだ」
「じゃあ、合鍵は渡しておけ」
「おう」
「しかしまあ、あれだな。お前の気持ちが少しだけ分かったよ」
 お茶会――だけでなく、頻繁にかなでさんが突入してくる状況についてだろう。
 桐葉の無頓着な行動はともかく、理解者が増えたのは俺にとっても嬉しいことだった。
「それに免じて、今回の罪は許してやろう」
「何に免じたんだ?」
「察しろよ、相棒」
「――よし、概ね理解した」
「言ってみろ」
「俺はカッコイイ」
 なんかむかつく笑顔だった。
 しかし、あながち間違ってもいない辺り、やはり俺とは相性がいいのだろうか。



 翌日の朝、桐葉は早速合鍵を使った。朝早くに侵入してくると、起こすでもなくただただ待っていたらしい。
 目を覚ましてから、その辺りの詳しい事情を質してみる。
「私の勝手な都合で、必要も無いのに早く起こす訳にはいかないわ」
 理由はそれでも構わないのだが、どこに目を逸らす必要があるのか。
 これはつまり、あなたの寝顔を見ていたの、とかそういうやつか。朝っぱらから確認するのも厳しいもんがあるので、疑問は胸の内に押し込んでおく。桐葉との言い合いは常に楽しい遊戯だが、寝起きすぐだと言い負かされてストレスだけ残りかねない。彼女は論破しようという気こそ無いものの常に手は抜かず、無防備に切って捨てられれば恋人とはいえ最後の一言が大抵容赦無いのだ。諺や格言を織り交ぜた正論でバッサリである。
 ともかく起きて、登校の準備を一通り済ませてからお茶会にも使う卓袱台を出し、桐葉が持ち込んだ簡単な朝食をご馳走になった。
 オニギリに漬物とシンプルだが、これなら寮の部屋でも手作りが可能だそうで、時々腕を振るってもらっている。古い生まれの日本女性だけあり、味覚異常とは思えぬなかなか深い味わいである。
 ちなみに、お約束だが桐葉のオニギリは真っ赤だった。そこはもう散々突っ込んだので今更触れたりはしない。代わりに定番の話題を切り出した。
「ところで今日は、バレンタインデーだな」
「そうね」
 彼女の反応は、どこまでも素っ気無い。一言で片付けて、何事も無かったかのように漬物に箸を伸ばす。
 なんとなく悔しいので、更に突っ込んでみた。
「くれないのか?」
「どうかしらね」
「出来れば欲しいな」
 あくまではぐらかそうとする桐葉に、俺はどこまでも食らいつく。
 この様に相手がしつこい時、桐葉は早々に諦め、さっさと妥協する事が多かった。
 非効率なことを避けられないならば、覚悟して迅速に処理すること。それもある意味、効率的思考である。
「……そういうのはね。何も言わず、ただ静かに待っているものよ」
 桐葉は諦めたように、か弱く息をこぼした。
 少し調子に乗りすぎたらしい。チョコは用意していると見るが、思惑が外れてやや不機嫌、といったところか。
「じゃあ、今ので無しになったのか……」
 言葉は半ば説得の意味を込めて。ただし、後悔だけは紛う方なき本物である。
 そんな俺を見つめたまま、桐葉はしばらく考え込んだ。やがて反省の意思だけは伝わってくれたのか、僅かに表情を緩める。
「ギリギリ、かしら」
「くれるのか?」
「忘れた頃に」
 下手をすれば無しになるところである。それでも十分だった。
「でも、他から貰うかも知れないわね。私の分まで、本当に欲しいのかしら」
「すぐ近くに目立つのが多すぎるから、基本的には無いだろ。まあ万が一あっても、そんなには無いはずだ。というか、もしかしたら桐葉の方が貰う可能性だってあるぞ」
「私は女よ?」
「女子高なんかでは普通にあるだろ。共学だからといって、有り得ない話じゃない」
「そんな物好きが居るとも思えないけど……」
「要らないのか?」
「私の味覚に合うチョコなんて、貰える訳が無いでしょう?」
 そりゃそうだ。
 桐葉は確かに辛いものを選んで食べる傾向が強いが、単純に好物かというと多少語弊がある。味の濃いもの、香りで味わうものを好むのであり、その中に『辛味』も含まれるだけだ。もちろん、比較すれば辛味が好きだというのは間違いないが、手軽に味が補強出来る、というのも大きいという。
 チョコの場合は、物凄い苦くて物凄い甘くて、常人なら劇物でしかないようなモノでようやく美味しいわけである。
 そんな、一般人の目には嫌がらせとしか映らないモノを、わざわざ手作りで送る物好きというか頭のおかしい人間が、曲りなりにも進学校である修智館学院にそうそう居る道理も無い。
 有り得るとしたら、桐葉の好みを知って唐辛子でもぶち込んだチョコってところだが、さすがにそんな罰ゲーム染みたゲテモノを作る奴も居ないだろう。――出来れば、せめて少なくあって欲しい。
「本人が要らないと言っても、手渡しばかりがチョコじゃないからな。受け取らざるを得ないものも多いと思うぞ」
「そう」
 やはり素っ気無い。興味が無い事には、相手が俺でも反応はこれである。
 まあ無理に話を合わせられても、それはそれで面白くない訳だが。こんな調子の桐葉を好きになったのだから、俺もそういう奴だということだろう。
 普段なら話題を変えるべき頃合いだ。しかし、今日という日の魔力は婦女子にばかり働くものではない。ほんの少しだけ軌道修正しつつも、俺は更に尋ねる。
「なら俺が貰うのはどうなんだ?」
「どう、とは?」
「悔しいとか、悲しいとか」
 こんな低俗な質問への答えなど適当な誤魔化しでも構わないのだが、桐葉は真面目に考え込んだ。今日は真剣な顔が何度も見られて、その程度の事でも小さな感動を覚える。
「要するに、嫉妬して欲しいのね」
「そ、そうだな。そうかも知れない」
 見惚れているところに急に声をかけられて、多少狼狽しながらも俺は何とか答えた。
 昨日の司が、生返事で桐葉に自室を侵略された状況も少しだけ想像できる。確かにこりゃ仕方が無い。
「お生憎様。私は他人の気持ちなんて、どうでもいいのよ。貴方は私だけを見ているのだから、誰がどう思おうと気にする必要なんて無いわ」
 そこまで信頼されていたのか。胸が熱くなる。天にも昇りそうな心境だ。――しかし、同時にどこか物足りなくもあった。
 桐葉に嫉妬されたら、俺はどう感じるだろうか。いや、違うな。
 嫉妬して、そんな自分に戸惑う桐葉が見てみたいのだ。
「なら、チョコを貰おう。一杯。他人から。今年は生徒会なんてやってるし、少しはもらえるだろう。桐葉が気にしないなら、俺も気兼ねしないで済むしな」
 ぴくっと、彼女の柳眉が派手に跳ね上がる。
「――嫉妬、して欲しいのね?」
「うん?」
 俺が惚けると、桐葉は挑むような笑みを浮かべた。
「その見え見えの企みに、騙されてもいいと言っているのよ。今日この日に限っては、他人のチョコになど指一本触れさせないと誓うわ」
「いいのか? 俺はむしろ嬉しいが。あまり耳によろしくない言葉を頂戴しかねないぞ」
「言ったでしょう、他人の評価なんてどうでもいいの。貴方がそうして欲しいというから、私は気紛れで乗ってあげるだけ」
 あくまで俺のために、仕方なく付き合う形でなければいけないらしい。何はともあれ、今日一日は桐葉の愛に包まれて過ごせる事が確定した訳だ。
 確かに生徒会役員、特にこの修智館学院のそれは必要以上に目立つ役職だが、何もしないで目立つ人間が余りにも身近に多すぎる。どうせ俺如きはその他大勢、演劇ならば村人に数えてAを頂戴するのが関の山だ。集まるチョコなど、桐葉が遮るまでもなく最初から多いわけがない。
 何も心配することはない。俺は桐葉の騒々しい一日を想像しながら、最高の朝食を堪能した。



 朝食後はいつもの様に二人で登校する。
 寮から学校へ続くその道を進む道中、三人の女生徒がチョコを片手に待ち構えていた
「あ、あの……」
 髪を二房に分けて三つ編みに結い、眼鏡をかけた、いかにもな文学少女。意外にも三人の中で一番大人しそうなその子が進み出て、声を掛けてきた。
「何か用かしら?」
 三人の女生徒と俺との間に、邪魔するように桐葉が進み出た。
 いつもクールで感情を露にする事が無い――二人きりの時は例外も多いが――桐葉にしては大変珍しい、というより殆ど有り得ないような行動である。
 全身から殺気を放ち、言葉ではなく空気だけで追い払おうとしている桐葉を一歩さがって眺めながら、俺は毛を逆立てた猫のようなものをイメージし――虎か獅子だろう、とすぐさま訂正を加えた。
「用があるなら、早くして」
 切って捨てるような冷たい口調。可哀相に、下級生と思しき三人の女生徒達は揃って震え上がった。
「5m以上はありそうだな……」
 それは、ごく小さな呟きだった。
 しかし、どういうわけか桐葉が振り向き、背筋が凍りついた上粉々に砕けそうな勢いで睨まれる。命の危険まで感じた俺は、慌てて自らの口を押さえた。
 危ない危ない、彼女の聴覚が人間を遥かに凌駕する事を忘れていた。意味までは通じていないのだろうが、そこはそれ、人間ってのは悪口には過敏に反応する生き物である。人ごみの中でも自分の名前に似た言葉だけは不思議とハッキリ聞こえたりする、アレに近い感覚だ。
 ――桐葉はすぐに彼女達へ向き直ったが、それでも俺の行動には少なからず影響があったらしい。彼女の放つ威圧的なオーラは、いくばくか緩んでいた。
 それでも普通の神経の持ち主ならば、逃げるチャンスが生まれたと考えるところだろう。
 しかし、恋する乙女達は無鉄砲極まる存在だった。或いは、今日という日は確かに神の加護があり、彼女らに力を貸していたのかも知れない。
「紅瀬先輩! これ、受け取ってください!」
 三人はそう言いながら一方的にチョコを押し付けると、きゃーきゃーと悲鳴を上げながらもどこか楽しげな様子で、逃げるように去っていった。
 後には、取り残され呆然としている桐葉。その隣で俺は、
「な、言った通りだろ?」
「早く行きましょう」
 軽く肩を叩きながら言ってみると、彼女はぶすっとした顔で――そうと分かるのは俺くらいだろうが――校舎を目指して足早に歩き出した。
 どうやら、今日は外を出歩くのが危険だと遅ればせながら理解したらしい。一刻も早く教室へ逃げ込もう、という算段だろう。
 だが、彼女はまだ今日という日が分かっちゃいなかった。



「……ふぅ」
 呆れたように漏れ出る重い吐息。またか、とその表情が物語っている。
 桐葉が開けたゲタ箱の中には、綺麗に包装された『なにか』が五つも押し込められていて、そのうち三つが床に落ちた。カタカタと軽い音が、まだ人の少ない昇降口に響く。
 居合わせた僅かな生徒達が、何事かとこちらに視線向けた。まあ、見るまでもなく察しは付くのだろうが。
「随分、物好きが居るものね」
 桐葉は足元に落ちたチョコが入っているであろう箱を、興味無さそうに見下ろしている。
「そりゃ、この学院にはいくらでも居るさ。去年の会長が誰だか忘れたのか?」
「私にとっての迷惑で比べるなら、今年も大して変わりは無いわ」
 そう言いながら、桐葉はさっさと靴を履き替えた。そして無視していた物体に再び視線を向ける。何秒か悩んだ末、結局は全てのチョコを拾い上げ、軽く埃を叩いた。
 このようにクール&マイペースなタイプの人間は普通、要らない物を貰ったら適当に捨てるなり放置なりしそうなものだ。しかし、見かけによらず律儀な性格をしている桐葉が、それを決してしないことを俺はよく知っている。
 きっと、学院の生徒達にも去年よりは広く知られていることだろう。だからこその大漁っぷりとも言える。
「手伝おうか?」
「結構よ」
 桐葉は早速8個にまで膨れ上がったチョコを抱え、さっさと教室へ向かう。俺も慌てて後に続いた。
 歩きながら、朝食時に桐葉が宣言した言葉を思い返す。ふざけ半分に俺が言わせた言葉だが、本人もそれと分かった上で言った様だった。
 つくづく難儀な性格だとは思うが、あえて止める必要性も感じない。今は静かに眺めながら、桐葉の変わった行動を堪能させてもらうことにしよう。



 教室に到着すると、当然のように机の中にも上にもチョコの山。最早、三個だの五個だのというレベルではない。
 さて、どうしたものかと俺は思ったのだが。自分の机をどうするかより先に、桐葉は俺の机の中身を探った。
 チョコが、二つ出てきた。
「没収」
「……はい」
 なんで悪いことしたみたいになってんだ。ああ、しかしなんだ。チョコくれた子、すまん。
 本来なら『口は災いの元』とか『自業自得』とか思うところだが、宣言どおりにちゃんと妬いてくれている桐葉を見ていると幸せな気持ちばかりが沸いてくる。俺はむしろそんな自分の気持ちに関して謝りたい気分だった。
「――さて」
 まあ、ともかく本題である。
 桐葉のチョコはどうしようか。二人で悩んでいるところに、陽菜がやってきた。
「孝平君、紅瀬さん、おはよう」
 絵に描いたように爽やかな朝の挨拶。今日も陽菜は、人好きのする柔らかい笑顔を振りまいていた。
 俺と桐葉も、それぞれに挨拶を返す。
「あと、これは紅瀬さんに。必要でしょう?」
 陽菜はそう言って、折り畳んだ状態の大きな紙袋を桐葉に手渡した。デパートなんかで買い物をした時に貰うような、しっかりした作りのやつである。
「どうしたんだ、これ」
「便利だから、取ってあるの。今ね、千堂さんにも渡してきたんだけど……」
「あっちも大変だったろ」
「あ、あははは」
 微妙に目を逸らしながら誤魔化し笑い。どんだけだよ。
「助かるわ。ありがとう」
「うん。今日は一日、大変そうだけど頑張ってね」
 桐葉は素直に頷いた。
 陽菜は俺たちが付き合い初めてから、積極的に桐葉にも話しかけるようにしてくれている。元々が人付き合いの上手い人間なので、二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。
 何でも陽菜は、桐葉の髪に惚れているんだとか。なかなか三つ編みさせてもらえないのが小さな不満らしいが、あの他人を寄せ付けなかった桐葉が、今では1~2週に一回くらい三つ編みで登校するのも我がクラスにおける恒例行事となりつつある。
「あ、それでね。孝平君」
 陽菜は後ろ手に持っていたものを差し出す。
 それは、綺麗な包装紙に包まれた――。
「一応ね、バレンタインだから」
「いや、あの、ありがとう……」
 桐葉との約束を思い出したが、面と向かって、それも陽菜を相手に拒絶することも出来なかった。微妙な表情で、俺は陽菜のプレゼントを受け取る。
 似たような気持ちは桐葉も抱いているらしく何も言わないが、代わりに強烈な殺気を感じた。
 当然ながら目の前の陽菜にも、それは伝わる。しかしどういうわけか、彼女は怯えるどころか嬉しそうに目尻を細めた。
「ふふふ。仲、いいね」
「あ、ああ……」
 生返事を返すので精一杯である。訳知り顔の陽菜が、俺にはどこか楽しげに見えた。
「心配しないで、紅瀬さん。私のはチョコじゃないから」
 そう言い残すと、陽菜は別の友人に朝の挨拶をしに去っていった。
 本人が去ってからすぐ、桐葉にも促され包装を解いてみると、可愛らしいリボンが一つ出てきた。メモが添えられていて『孝平君が付けてあげてね』と書いてある。
 つまり、陽菜は他の女子のプレゼントに埋もれないカタチで桐葉に贈った訳だ。
 さすがはかなでさんの妹、なかなかの策士っぷり。何しろ間接的にとはいえ、これなら確かに俺も喜ぶのだから。



 放課後になると、桐葉の受け取ったチョコは軽く三桁に届いていた。ちなみに俺にきたチョコは6個、人生新記録だが当然のように全て没収である。
 二人で監督生室へ向かうと、先に来ていた瑛里華会長も複数の紙袋を部屋の隅に置いて、ソファにもたれながら珍しく疲れた顔で紅茶を飲んでいた。
 俺はてっきり、彼女は桐葉とチョコの数を競うものだと思っていたのだが。それを素直に話してみると、呆れ顔で否定された。
「そんなの、くれた人に失礼でしょ。私は私の能力だけで、彼女に勝って見せるわ。特に、いずれ数学ではね」
 まったくもって、我らが突撃生徒会長に相応しいお言葉である。
 きっと彼女が疲れ果てた顔をしているのは、チョコをくれた一人一人に『ありがとう』と『ごめんなさい』を伝えて回ったからなのだろう。
 ――ちなみに、疲れからか彼女は少し無防備だった。見咎めた桐葉が無言で近づき、エレガントに組まれていた美しい脚線美をむんずと乱暴に捕まえて、力ずくできちんと揃える。
「な、なによ突然!?」
「あまり、そういうものは見せないように」
「――っ!」
 何故だろう、俺が睨まれた。
 下着が見えたわけでもなく、健康的なフトモモだけが問題な訳なのだが、まあ確かにギリギリだったのは否めない。その光景は珍しい訳でもなく、ということはやはり、桐葉も今日は苛立っているということなのだろうか。



 しばらくは生徒会活動に集中する平穏な時間が過ぎる。
 途中でチョコを持ってくる子はかなりの人数に上ったものの、これは白ちゃんが外で受取所を作って応対してくれているので、俺たち三人は気楽なものだ。
 しかし、さすがに止められない相手というのも中には居る。
「やっぱり、来るわよね」
「……誰が来ても、同じ事よ」
 桐葉と瑛里華会長が、二人だけに通じる会話をしている。なんだろう――と数秒も考えている間に、原因は向こうからやって来た。
「たのもーっ!」
 監督生室の扉を豪快に開け放ち現れたちっこい影は、目で確認するまでも無くかなでさんだった。
「悠木先輩。その扉も古いんですから、乱暴にしないでください」
「ごめんごめん。次からは気をつけるよ」
 6年の2月になってまでするやりとりじゃない。次って、卒業までに何回来るつもりなのだろうか。
 そんな事より、かなでさんは異様な風体をしていた。怪しげな白マントに身を包み、桐葉に挑戦的な目を向けている。ローレルリングのやつとは全く違う、何というか神聖さの対極な感じだ。
「き~り~き~り~」
「……なんですか」
 桐葉の疲れたような返事。騒動になる予感を感じているのだろう。今朝の宣言もあるので、渋々ながらそんな未来を受け入れたらしい。
 かなでさんは、桐葉にとって天敵だった。桐葉は人間観察力に優れるが、逆に読めない相手が苦手。その典型がかなでさんであり、千堂先輩でもある。
「貴様は、バレンタイン条約に違反しているっ!」
「……はぁ?」
 意味が分からないからか、桐葉はかなでさんに疑わしそうな視線を向けている。
「それ、10代くらい前の寮長がふざけて作ったやつですか?」
 瑛里華会長の言葉に、かなでさんは大げさに何度も何度も頷いた。
「そーそー、それそれ。いやあ、わたしもいおりんから聞いた時は驚いたよー。元とはいえ同じく寮長だったわたしが、その意思を継がねばなるまいっ」
 かなでさんは豪快にマントを翻し、有りもしない桜吹雪を見せ付けるように背中向けて宣言した。
「で、同時に本日の桐葉情報まで手に入れたと」
 俺の補足に、かなでさんはピースを返す。瑛里華会長は、またあの馬鹿兄の仕業かと頭を抱えた。
「あのですね、悠木先輩」
「なに、えりりん」
「それって、先輩が入学する前の年に廃止になってます。そうじゃなければ、先輩が知らないはずも無いでしょう」
 あ、かなでさん固まった。
「まあそれはそれとして」
 ――って無視かい。
「きりきりっ! わたしの挑戦を受けるかっ!」
 マントの隙間から飛び出したかなでさんの手には、実にバレンタインな包装の箱が握られている。それを見て、桐葉の目つきが変わった。
「仕方ないわね」
「ふっふっふ。今まで貼り損ねた風紀シール、その数実に38枚! 遅刻&早退魔きりきり、積年の恨み今こそ晴らしてみせるっ!」
 腰を落とし、俺に飛び掛ろうとジリジリ距離を縮めるかなでさん。マントに邪魔され、その微妙な動きは伺えない。
 対して桐葉は、何ら意識せずに俺の目の前まで歩いてきて、特別構えるでもなく平然と立ちふさがった。
「あの~、かなでさん。今日の桐葉は本当に怖いんで、やめといた方がいいですよ?」
「だいじょうぶ。こーへーは、大人しくお姉ちゃんに任せておきなさい。それに、こっちには対きりきりの秘策があるのだ」
 あのマントだろうか。何らかの武器でも隠しているとか。
 いや、まあそうだとしても現実的な範囲だろう。かなでさんに限って、校則どころか銃刀法とかを違反するのは絶対に有り得ない。あのマントの下からゴツイ散弾銃が出てきたとしても、それはきっとハッタリだ。
 ――ハッタリ? 貼ったり? ぺたしぺたし。
「……あ。桐葉、気をつけろ。あれはもしかしたら」
「黙って」
 桐葉がそう言った瞬間、かなでさんが動いた。
「ちょあ~っ!」
 怪しげな中国拳法ちっくな動き。あえて例えねばならないなら、恐らく猿っぽい。
 かなでさんは動物的な身軽さで壁を蹴り、天井近くまで跳んだ。
「――っ!」
 天井を蹴って高速で飛来するちびっ子お姉ちゃんは、お遊戯中の幼児みたいに晴れやかな笑顔。それを叩き落すのも気が引けたのか、桐葉の迎撃は精彩を欠いた。
 空中で捕まえようと迫る桐葉の腕を、かなでさんは器用に身体を捻って避け、そのままマントを使ってほんの一瞬余計に滞空。まるでムササビだ。
 着地と同時に、かなでさんは俺に迫る。桐葉は完全に虚を衝かれた。もはや対応できる体勢ではない。――普通の人間なら。
「残念」
 桐葉が掻き消えるような速度で回り込み、かなでさんのマントをむんずと捕まえる。今、少し本気になったな。動きが完全に人間越えてた。それでも死角へ回り、完全にはバレないようにする辺りはさすがだが。
「むぅ~。やはり通信教育では限界が……」
「十分凄かったと思いますけど」
 瑛里華会長が呆れて言った。
「きりきりは、やっぱり凄いな~。で・も♪」
 するっと、かなでさんがマントからすり抜けた。同時に結び目を解き、マントを翻す。
「なっ……」
 桐葉も終わったと油断していたらしい。驚愕の表情は、そのまま絶望へと変わった。
「触った時点で勝負ありだよ。裏地は特製風紀し~る~♪」
 楽しげに勝利のVサインを掲げるかなでさん。
 マントの裏地には、『風紀』の文字で形作った『風紀』の文字で更に馬鹿でかい『風紀』というデザインが描かれていた。
 シールとは言ったものの、ノリは付いていない様に見える。しかし、桐葉はマントから手を離せない。三重に描かれた『風紀』の力は人ならざる眷属すらも打倒するのか。
「紅瀬さん……っ!?」
 このような結果に終わるとは想像もしていなかったのだろう。向こうで瑛里華会長も唖然としている。
 俺の想像でしかないが、恐らく彼女は見てきたのだ。自分の兄が『風紀シール』の伝説を笑顔で乗り越えてきた日々を。だからこその驚き。
 何しろあの兄が10枚や20枚貰ってないはずが無いじゃないか、常識的に考えて。
「さあ、こーへー。わたしからもチョコをあげるね」
 障害を排除し、笑顔でてくてく近づいてくるかなでさん。
 嬉しくない、事も無いのだが。桐葉との事を考えると、受け取るべきか断るべきか。
 ――まあ、実際には俺が悩むまでも無かった。
「そうは……っ!」
 最後の力を振り絞り、なんとかかなでさんの方へ倒れる桐葉。
「うわわわわわっ!?」
 二人はもみ合うようにして倒れ――。
 後には、揃って悪夢の世界に旅立った二人の、安らかならざる寝顔が残されていた。



 桐葉は一時間以上も経ってようやく目覚めたが、かなり疲れた顔をしていた。そんな様子を見て、瑛里華会長がもう帰る様にと気遣ってくれる。
 その言葉に甘えることにして、俺たちは今、夕日に照らされながら寮へと向かう長い階段をゆっくりと降りていた。
 ちなみにかなでさんは、あの後すぐ引取りに来た飼い主(悠木さん家の頼れる妹ないしヨメ)に引き取られていった。寝言で色々と物騒な事を大声で喋っていたが――まあ、かなでさんなので大丈夫。
 それより、俺にとっては桐葉の方が問題だった。
 歩きながら尋ねると、どうやら途中で強制睡眠へと移行してしまったらしい。
「逆にラッキーだったかもな。かなでさんの様子だと、あの特別製風紀シールは恐ろしい威力だったみたいだし」
「そうね。確かに、強制睡眠に落ちる前のおかしな夢は記憶にも残っているわ」
「どんな内容だったんだ?」
 尋ねると、桐葉は気まずそうに押し黙り、視線を逸らした。
「嫌なら、別に無理には聞かないぞ。所詮雑談の延長だし」
 それはそれで気に入らないのか、桐葉は拗ねたような小さく溜息を漏らした。そして、投げやりな口調で白状する。
「貴方が出てきたのよ」
「俺?」
「ええ。それもたくさん。視界を埋め尽くすほど」
「……なんなんだ、それ」
「さあ。ただ、分かっている事はその全てが裸で、野獣のような目をしていて、一人一人が私よりも強い力を持っていて、襲い掛かってきて――」
「もういいもういいっ!」
 周りに人影は無いが、それでも屋外で話す内容でないことは明らかだった。
 慌てる俺を面白がるように見やりながら、桐葉はふっと小さく微笑する。
「冗談よ」
「……ホントかよ」
「さあ? 信じるか、信じないかは貴方次第」
 面白がるような態度と落ち着いた表情が事の真偽を隠してしまう。
 問い質すことも出来るし、そうして狼狽える桐葉を見るのは大好きだが、今はやめておく事にした。疲れている様だし、強制睡眠の直後は出来るだけ優しくしてやりたい。
「まったく……。大変な一日だったな」
 細かい事は気にせず、どうでもいい話題に切り替える。
 しかし年の功というか、桐葉は俺の浅はかな考えなどお見通しのようだった。
「そうね」
 桐葉は嬉しそうに表情を緩めて、それでも口調だけは素っ気無く返した。一つ一つの反応に、自分がどれだけ幸せ者かを実感させられる。
 彼女は事あるごとに言う。貴方に会えた幸運に感謝したい、と。
 俺も、毎回同じ答えを返す。それはこちらの台詞だと。
 こんな魅力的な女性はそうそう居るものではなく、それを知る機会があれば様々な問題など『些細なこと』だと断言して彼女に無償の愛を注ぐ男など吐いて捨てる程居るだろう。
 だから、運が良いのは絶対に俺の方だ。他の誰かより先に、彼女の秘密を知る事が出来たのだから。
「それにしても、逃げ込んだはずの監督生棟でまでチョコが増えていくのは困ったものね」
 捨てるという選択肢は無い様で、桐葉は監督生室でもずっとチョコの行く末について気にしていた。物を、特に食べ物を大事にする旧来日本人の感覚はいかにも彼女らしい。
 問題のチョコは、引退したはずの千堂先輩や東儀先輩、白ちゃんにまで山積み状態だ。しばらくは監督生棟がチョコ保管庫になりそうである。それなりに日持ちはするだろうが、いつまでもという訳にはいかない。
 内訳は概ね下級生からが多いのだが、白ちゃんだけは上級生のお姉様方から大量に貰って目を回していた。オマケとして雪丸にも三つ――って、これはどうすべきなんだろうか。ウサギにチョコを食べさせるのは、さすがにマズイ気がする。成分的には結構刺激物が多いし。
「あれだけあると、それぞれが一人で食べるのも難しそうね」
 俺の顔色を伺うようにして、桐葉が聞いてくる。
「そりゃ、簡単にはいかないだろうな」
 何かを言わせたい。そんな意図を感じたが、意図するところを考えても無駄ってものだ。俺は普通に答える。
 どうやらそれが正解だったようで、桐葉はバックに手を突っ込み、綺麗に包装された箱を取り出した。
「じゃあ、少しだけ手伝ってもらおうかしら」
 そう言いながら、恐らくチョコであろうそれを俺に差し出す。
 ちょっと待て。チョコは食べられるだけ食べて、あとは監督生棟に置いてきたんじゃなかったのか? どうしてここに、都合よく一つだけある?
 ――そこまでツッコミを組み立てながら、俺は朝のやりとりを思い出していた。ギリギリ。忘れた頃に。なるほど。
「要るの、要らないの?」
 俺の疑問を打ち消すように。夕日に照らされてさえ分かるほどに頬を染めて、彼女は言った。
「ありがとう。大事に食べるよ」
「……そう」
 ぶっきらぼうに言いながらもあらぬ方向を眺める彼女は、なんとも嘘を吐くには向いていない。それは、俺にだけ見せる表情だ。
 恋人専用である普通の女の子らしい反応は、実に可愛らしかった。



 その後、寮に戻り部屋で一人になってから箱を開けてみると、ハート型のチョコにはビッシリと愛が語ってあった。
 超達筆。しかもその狭い面積に書かれた文字は、実に80を越える。
「チョコっていうか――恋文?」
 俺はまず、入寮直後にかなでさんの策略により世話になったカメラを取り出してきて、永久保存用に五枚ほど撮影した。そうしてから、改めていただく。
 普通より苦味の強いチョコだったが、明らかに多すぎる文字が適度な甘さを加え、これはこれで絶妙のバランスと言えなくもなかった。半日のお預けを食らった直後でもあり、実に美味い。
 飢えとは最大の調味料であり、歩く百科事典とも評される彼女がそれを知らないわけも無いが、意図したのかどうかは永遠の謎である。


















 >オマケ その1
孝平「チョコ、ありがとうな。美味かったよ」
桐葉「そう」
孝平「しかし、気付かなかったらどうするつもりだったんだ?」
桐葉「そんな可能性があるの?」
孝平「もしもの話だよ」
桐葉「そうね……」

 桐葉が俺の顔をじっと見つめる。そして、

桐葉「……やめておくわ」
孝平「何故に」
桐葉「嫌われそうだから」
孝平「……」

 来年も似たようなやりとりが無いとも限らない。
 間違ってもヘマをやらないように覚えておこう。
















 >オマケその2
 バレンタインの翌日、俺は瑛里華会長からチョコを貰った。
「紅瀬さん、言ってたじゃない? 今日は誰のチョコにも触らせないって。それは昨日の事だし、今日なら問題ないわよね?」
「そんな屁理屈、私が気に入らないと言えばそれまでよ」
「あらそう。でも私は単にお菓子をあげるだけだもの。うん、バレンタインなんか一切関係無いわ」
 そう、にこやかに言い切る瑛里華会長。桐葉はかなり本気でそれを睨みつけているが、どこまで本気かと図りかねている様子だ。
「あ、あの、瑛里華先輩。そのくらいで、その……」
 二人の顔色を伺い、恐怖に身を震わせながらも白ちゃんが間に入る。
 それを見て、瑛里華会長がふっと肩の力を抜いた。
「そうね。まあ紅瀬さんの面白い顔も見られたし。いいわよ、白」
「は、はいっ!」
 嬉しそうに頷いて、白ちゃんが事情を説明してくれる。
 なんでも、昨日集まったチョコを送り主に確認を取って、全て溶かしてチョコレートケーキに仕立てたらしい。
「全部……?」
 さすがの桐葉も驚いたようで、目を見張っている。俺も同様だった。
「はい。支倉先輩や紅瀬先輩のも合わせて、全部です。それを使って、一杯作りました」
「これなら貰ったチョコを全て、少量ずつでも食べた事にはなるでしょう? くれた人たちにも一度にお返し出来るし」
 瑛里華会長が得意げに言った。どうやら彼女の企画らしい。
 言われてみれば、ホワイトデーに貰った分だけお返しをしていたら破算しかねない。送り手と受け取り手の利害が一致した、実に理にかなった企画だ。
「俺たちも呼んでくれれば良かったのに」
「恋人の居る人は、二人で過ごすべき日だと思うの。そこは、兄さんとも意見が一致してたしね。言えば支倉君は迷うかも知れないし、少なくとも気にはするでしょう。とりあえず秘密にして当日を楽しんでもらうということになって」
「察するところ、コレはその残りってことね」
 桐葉が呆れたように俺の持つチョコを指して言った。瑛里華会長が頷く。
「そういうこと。だから、正確には私個人からってわけじゃないわ。一応、普段から頑張ってるからご苦労様って言葉は書いてあるけど。白との合作でもあるし、ちゃんと味わって食べてね」
 そんな言い方をされれば断り難い。こっちこそが本当の策か。脱帽である。
 桐葉も無言で佇み、呆れたようにため息を一つ。渋々ながら認めてくれたらしい。
「それでケーキは今日配るんだけど、それは二人も手伝ってね」
「もちろんだ。桐葉もいいだろ?」
「それくらいなら」
「はい、じゃあこれね」
 そう言って瑛里華会長が桐葉に渡したのは、例のネコミミメイド服。
 当然ながら、コレについては拒否どころか無視だった。

























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  1. 2008/03/07(金) 01:20:09|
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