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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

大好きっ!(東儀白SS)

「いよぅ、息子!」
 海外を転々としているはずの親父が突然現れた。朝っぱらからシスターに頼んで俺の部屋に乗り込んできたらしい。
 叩き起こされた俺は、キッチンが無い事に散々文句を言われつつ、生徒会の権限を最大限駆使して家庭科室の使用許可を貰う。この時、副会長を任されたことを初めて呪った。
 相変わらず、勝手気ままな自由人ってやつは扱いに困る。まあ、そのお陰で千堂先輩やかなでさんとも上手く付き合えるあたり、少しは感謝してもいいのかも知れないが。



 そして、放課後。
 監督生室でいつもの面子――瑛里華と、紅瀬さんと、白ちゃん。それに東儀先輩と千堂先輩も呼んで、みんなで小さなお茶会を開くことになった。
 給湯室では、朝っぱらから息子を叩き起こして作り上げた親父の置き土産をお茶請けに、白ちゃんがお茶を淹れてくれている。
「それで、結果がこれなの?」
 俺の話を聞き終えて、瑛里華が微妙な表情でそう言った。
「ああ。うちの親父、和菓子作るのが趣味なんだ。それで、一泊とはいえせっかく日本に来たから、息子がお世話になっている人たちにお礼がしたい、とか何とか」
「お土産は嬉しいけど……。出来れば挨拶もしたかったわね」
 どうやら瑛里華会長殿はご不満らしい。
 ――色々あって、俺は伽耶さんに認められている。それに比べて、瑛里華はまだ俺の両親に顔すら見せていない。これでは不公平だ、と言いたいのだろう。
「まあ話はしてあるし。そのうち、またチャンスがあるさ」
「そうね。今回は残念だけど……」
「写真送ったらあんまり綺麗だからって驚いてたぞ~」
 ちなみに、今言ったのは俺じゃない。
「どうして兄さんが、孝平のご両親に連絡を取れるのよ?」
 全然信じてない瑛里華が半眼で呆れたように言うと、兄の威厳など欠片も無い嫌らしい笑顔が返ってきた。
「はっはっは。連絡どころか挨拶に言ったぞ。親同士でご対面~ってな」
「なっ!? ど、どういうことよ! 私に内緒で――」
「落ち着け。伽耶様が、そう簡単に外に出るほど変わる訳が無いだろう。それ以上に伊織と出かけるなど、お変わりになったとはいえ、たった数ヶ月であるわけがない」
 呆れたような声は、東儀先輩のものだ。
「に~い~さ~ん~?」
 瑛里華が千堂先輩を睨む。が、その怒気はすぐに霧散した。
「お茶がはいりました~♪」
 給湯室から出てきた白ちゃんは、その笑顔だけで頭に血が上った瑛里華を沈静化してしまった。珍しく鼻歌まで漏れ聞こえてくる。
 そういえば、白ちゃんは島から出たことがない。地元の和菓子屋さんで売っていない和菓子は特に嬉しいのだろう。
「はい、支倉先輩の分です」
「ありがとう」
 俺の前に、親父特製ずんだ餅と、白ちゃん特製の日本茶が置かれる。俺的には、いつものお茶の方が嬉しかったりするのは内緒だ。特に瑛里華にだけは。
 ――ともかく、お茶とお茶請けが全員に行き渡る。
 しかし、白ちゃんの動きがいつもと比べて慌しいのが気になった。何故か、など聞くだけ野暮ってもんだが。
「それじゃあ、頂きます」
 俺が言うと、みんな軽く手を合わせる。そして、ずんだ餅を食べた。
「ん~……」
 千堂先輩の上機嫌な声が漏れる。気に入ってもらえたらしい。
 まあ、身内の贔屓目だとしても、これだけは相変わらず見事なものだ。俺は食べなれているから驚く訳ではないが、濃厚な枝豆の香りとザラっとした食感が堪らない。これほど素材の風味の強いものは、市販品ではなかなか味わえないはずだ。
「どうだい、白ちゃん?」
 自分は市販品など食べた事が無いので、一番和菓子に詳しそうな白ちゃんに感想を聞いてみる。やはり、自分の父親の作った、小さい頃から食べなれたものが、世間的にどの程度のレベルなのかは気になるところだ。
 しかし、待てど一向に返事が返ってこない。心配になってよく見ると、白ちゃんは一口目を食べたまま固まっていた。
「白ちゃん?」
 もう一度呼びかけると、白ちゃんはゆっくりとこちらを見る。そして、
「支倉先輩」
「うん?」
「結婚してくださいっ!」
『ぶーーーーーーーーーーっ!?』
 盛大にお茶を吹き出したのは、瑛里華と東儀先輩だった。
 それぞれ、真正面に居た紅瀬さんと千堂先輩に直撃――するはずなのに、二人とも上体を机の下に隠して見事に回避している。さすが人外の百年選手。いや、そうじゃなくて。
「なっ――い、いきなり何を言ってるの!?」
 瑛里華が慌てているが、白ちゃんは意味が分からない様子でキョトンとしていた。
「お似合いじゃない?」
 身体を起こしたと同時に、紅瀬さんが面白がるように言った。こんな分かりやすい表情も珍しい。それだけ驚いているということだろうか。
「なわけないでしょっ!?」
 当然のように瑛里華が激昂するが、
「や、やっぱり私なんて釣り合いませんよね……」
 その言葉にショックを受けたようで、白ちゃんが泣きそうな顔になった。
「え、ええと、そんなことは無いわよ……」
 言い過ぎたか、と瑛里華が慌ててフォローする。すると、白ちゃんは急に立ち直った。
「ありがとうございます。私も瑛里華先輩に負けないよう、孝平さんに愛されるために頑張りますね!」
「え゛……」
 さりげなく呼び方まで変わっていた。
「自分で言った事には責任をとるべきね」
 絶句する瑛里華を前に紅瀬さんはそう言って、知らん顔でお茶を啜っている。
「支倉先輩。お父様から指導を受けて、二人で立派な和菓子屋さんを開きましょうね」
 ほにゃ――っと、思わず抱き締めたくなるような無邪気な笑顔を向けられる。俺は思わず唸った。ヤバイ。
 これは――千堂先輩の狙いすぎな、過程すら楽しむような楽しいものではなく、巧妙で、かつ何倍も痛い罰ゲームが待っている罠だ。
「ぐぬおおおおおっ!」
 雄たけびを上げながら、俺は自分の両頬を力いっぱい抓る。痛みに意識が覚醒し、何とか正気を保てた。あぶねぇ。だが次はヤバイぞ。一瞬で意識が飛んだら痛みで耐える事だって不可能だ――!
「白」
 そこで、俺たちの間に割って入ったのは東儀先輩だった。俺は祈りたいほど感謝する。
「まずは冷静になれ」
「兄さま。申し訳ありません。でも、白は、白は……東儀の家がどうでもよくなるくらい、このずんだ餅に魅せられてしまったのですっ!」
 ピシッ――。
 何かが割れる音を、聞いたような気がした。いや冷静に考えてくださいよ東儀先輩! 今のは俺じゃなくて明らかに和菓子ですよ! 俺より和菓子が上なんですよ!?
 呆れるはずの場面だが、本人がショックで意識を飛ばしていては、俺に出来ることなどありはしない。
 対白ちゃん用絶対兵器がこれでは、もうどう転がっても俺の人生は終わりだ。そう確信めいた何かが囁く。
 しかし、助けの手はまだ残っていた。
「盛り上がっているところ、すまないが」
 千堂先輩が小さく挙手しながら口を挟んでくる。俺が縋るような視線を送ると、彼はどーもどーもと気軽に手を振った。ああ、そんな余計なことはいいから、さっさとどうにかしてくれ!
「支倉君と結婚するのは、まあ構わないとしてだ」
「構うわよっ!」
 瑛里華が口を挟むが、千堂先輩は無視して続ける。
「さて、その場合。……世界中を飛び回るご両親と一緒に暮らす、という未来は、なかなか難しいんじゃないかなぁ」
 興奮し過ぎて激しく俺に詰め寄っていた白ちゃんの動きが、ピタリと止まる。
「……伊織。今回だけは礼を言っておく」
 自体が沈静化したことで、東儀先輩が復活した。ズレた眼鏡を押し上げながら、千堂先輩に頭を下げている。全校生徒の誰に言っても『嘘だ』と断言されそうな光景だった。
「いやいや。思いついたことを言ったまでだ、礼には及ばないよ。ただまあ、もう一つ食らい食べられると嬉しいかも知れないけどね」
 実にわざとらしい要求だが、東儀先輩は無言のまま自分の分を差し出した。この程度なら安いものだ、とその表情が物語っている。父のことながら、彼が食いつかなかったのは少しだけ悔しい。
「すみません、支倉先輩。取り乱してしまいました」
 恥ずかしそうに頬を染めた白ちゃんは、申し訳無さそうに俯いている。控えめでどこか上品な子だから、思い出すだけでも顔から火が出そうな思いだろう。
「い、いや……気にしなくていいよ」
 曖昧な言い方をする俺を、瑛里華が不満そうに睨んでいる。だが、白ちゃんに強く当たれなど無理な話だ。俺に限らず、学院内でそんなことが出来る者は、それこそシスター天池くらいだろう。
 後で修羅場――とまではいかなくとも、何らかの埋め合わせは覚悟せねばなるまい。
「私には、東儀の家のしきたりがあります。支倉先輩とは結婚出来ないんです」
「そうだね。俺にも将来を誓った人が居るし、残念だけど仕方な――」
「だから、今から支倉先輩のお父様の下で技術だけでも学んで参りますっ!」
 一生懸命な顔でそう捲し立てると、白ちゃんは勢いよく監督生棟から飛び出していった。
「白っ!」
 東儀先輩が、慌ててその後を追う。
「やれやれ……」
 千堂先輩が、他人事のように肩を竦めた。
「ところで」
 と、紅瀬さんが唐突に切り出す。
「同居でなくとも、たまには食べられるはずよね」
「ああ、まあ、うん」
「それに、一緒に世界を飛び回ることも出来る」
「不可能ではないかな」
 俺が不思議に思いながらも質問に答えると、
「……じゃあ、私が結婚しましょうか」
 ずだんばたんどかん。
 その場に残った、紅瀬さん以外の俺たち三人がすっころぶ音が同時に響いた。
「ちょ、ちょっとっ! あなた、味覚が鈍いんじゃなかったの!?」
 いち早く立ち直った瑛里華が、紅瀬さんに噛み付く。
「当たりがあったのよ。文化祭でやったアレみたいなものだけど……比べ物にならないほど刺激的だったわ。ここまで辛いものは、何十年ぶりかしらね」
「だからって、どうして結婚なんて話になるのよ!?」
「一番、手っ取り早いでしょう? 東儀さんには感謝しないと。面白い方法を教えてくれたわ」
 不敵な笑顔で、紅瀬さんは言い切った。
 先ほどまでのやりとりで沸点が下がっている突撃生徒会長殿の目の前で、である。
「それ以前に気にするべき事があるでしょーーーーーっ!」
 こちらに飛び火するのは明らかだ。当然、それを待っているほど平和ボケしていない。こっちはつい最近、250年を生きた大妖怪と喧嘩しているのである。
 瑛里華が絶叫している間にと白ちゃんを追う振りをして、俺と千堂先輩は、揃ってこっそりと戦線離脱するのだった。



 夜になって――向こうが昼になるのを待ってから、親父に苦情を言うために国際電話をかけた。出費は痛いが、この際忘れておく。
「はっはっは。楽しめたか?」
「笑い事じゃないだろ……」
 俺は呆れて頭を抱えた。
 親父に確認したところ、強い酒とギネス級の唐辛子を入れたずんだ餅が一つずつ混ざっていたらしい。本人は遊び心は大切だぞ、なんて笑っていやがった。さすがに、僅かながら殺意を覚える。
 俺が東儀先輩にどれだけこっぴどく叱られたか、この馬鹿な大人は全く分かっちゃいないのだ。
 それにしても、酒入りが白ちゃんに行ったとすれば、それはそれで納得だけは出来るのだが――。
「なあ、親父」
「ん?」
「もしかして、辛いやつにも酒が入ってたのか?」
「いや、辛いのは辛いだけだぞ?」
 となると紅瀬さんは――。
 い、いや考えるのはやめておこう。

 後日、どこから事実を知ったのか、千堂先輩が廊下を歩く俺の肩を叩いてこう言った。
「君のお父上には、是非ともお目にかかりたいものだね。いやぁ、きっと気が合うと思うんだ」
 気持ち悪いくらいの晴々とした笑顔で――しかし、間違いなくその通りだろうと思った俺は、言い返す言葉を何一つ見出せなかった。

























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/02/23(土) 03:34:29|
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