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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter 1-4

 放課後。
 私は教室の自分の席で、机に突っ伏したまま休んでいた。
 これでは普段の先生と同じだ。我ながら情けない。部活に行かなければとは思うのだが、身体は頑なに活動を拒否している。
 午後の授業が終わるまでの間、普段はしっかり者で通っているはずの自分がぐてーっとしていたのだ。そんな光景を目にすれば、クラスメート達も心配して声を掛けてくるのは当然の成り行きというものだが、ちゃんと応対する気力も無かった。無下にあしらってしまった人たちには、明日ちゃんと謝っておかねばならない。
 こんな状態になった原因はとなると、考えるまでもなかった。もちろん昼間のアレだ。
 特に玉子焼き――らしきもの――が凄まじかった。
 恐ろしく甘ったるく、何を混ぜたのか壮絶なまでに生臭い。挙句に揚げ物かと思うほど脂っこいのだ。酷く焦げたりはせず、見た目は一応なんとか許容範囲だったそれは見事過ぎる罠だった。
 それでも他の料理に比べれば、味は幾分マシだったかも知れない。しかし異様に後引く味で――もとい、不味さが尾を引いている。
 自分でも、よくまあ食べきったものだと思う。量が少なめだったのは助かった。それでも昼休みが全て潰れたのは言うまでも無いが。
 もちろん何度となく途中で投げ出したい思いに駆られた。しかし、その手で作り出される料理とは見事なまでに正反対の、可愛すぎる後輩の期待の瞳とボロボロの手が常に視界の中にあるのだ。とても食べないわけにはいかない。拷問と呼ぶに相応しい時間だった。
 あの二人が死刑台に上がるような覚悟の瞳で昼食に挑んだことも、今なら心の底から理解できる。
 藤浪さんも、明らかに無理な表情で全部食べきっていた。美しきかな友情。今ごろ保健室のお世話になっていなければいいが。
 胸焼けが収まらぬまま、何とか無理に午後の授業を受けきった私だったが、残念ながら内容は殆ど覚えていない。
 普段から自分で入れた失敗作のコーヒーを飲んでいるお陰で鍛えられてでもいるのか、お腹の調子が変になったりしなかったのはせめてもの救いだった。アレもかなりな代物だが、今日の昼食と比べれば雲泥の差だろう。勝ち目など無いと断言させていただく。
「うぅ……。こんな調子で部活になるのかしら。でも休むわけには。先生も来るはずだし……」
 教室でもう少しだけ休んでから、部長の責務と毎日の習慣とに突き動かされ、私は這うようにして美術室に向かう。
 しかし。案の定、先生の姿はどこにも見つからなかった。


 学校から出ていないなら、先生の行きそうな場所は大体予想が付く。その筆頭が体育館だった。
 さすがに昨日の今日で帰ってしまうほど人間終わってないことを祈りつつ、私はその体育館へ向かっている。
 足元がおぼつかないまま、壁に寄りかかるようにしてなんとか辿り着くと、バスケ部の指導をしていた体育教師の桔梗先生を呼び止めて尋ねた。
「部活動中に失礼します、桔梗先生。うちの上倉先生、こちらに来ませんでしたか?」
 気さくで優しくしっかり者と評判の美人教師は、指導を中断して丁寧に質問に答えてくれる。
 先生によると我らが顧問は、ついさっき逃げるように消えたらしい。
 恐らく、外敵の接近に気がついたのだろう。相変わらず勘だけはいい。それにばかり頼って生きているのは、私とは見事なまでに真逆の人間性だった。
「それより大丈夫? 竹内さん、だったわよね。顔色凄いしフラついてるわよ」
 様子を伺いながら心配そうに言われて、同じ教師でもここまで違うものかと感心する。いや、本来ならこれが普通なのだけれど。
 それにしても、問題の多い顧問の事でも何度か顔をあわせてはいるが、名前まで覚えられているとは思わなかった。
 どこかの誰かさんとは大違いである。
「まあ何とか……。死ぬほどではなさそうなので大丈夫です」
「エリスちゃんの料理を完食したんだってね。尊敬するわ」
「それはどうも……」
 もちろん少しも嬉しくないが、表情には出さない。とはいえ、元々が暗く沈んでいるとは思う。
「そういえば、同じ物を食べた割には上倉先生は元気みたいですね」
「アイツの場合、少しは耐性があるんじゃない? 嫌でも可愛い妹の料理を捨てるなんて出来ない奴だし」
 ということは、アレを大した理由もなく出されても平らげるのだろうか。恐るべしシスコン教師。
 その愛情を少しは美術部にも向けて欲しい。
「それに。今日のは大分上手かったぞ、頑張ったんだな~アイツ、なんて言ってたけど」
 桔梗先生は、身振り手振りを交えて臨場感タップリに再現してくれる。
 リアルな現実感を伴った小芝居を目の当たりにして、私はそのお寒い光景を脳内で完璧に再現した。あまりのショックに思考回路が一時停止する。
「……マジデスカ?」
「マジデスヨ」
 脳が再起動すると、思わず固まった声で言った私に、同じ口調が返ってくる。
 あの弁当を平らげ、その上で妹の腕前に満足していたのか。しかも出来栄えを知り合いに自慢したくてここにきた?
 妹を欲しいと思ったことも無くは無いが、自分だったらどれだけ可愛くても絶対にそこまでは出来ない自信がある。
「一応、美術室に戻ってみたら? 案外戻ってるかもしれないわよ」
「そうしてみます」
「確率は低そうだけどね。それにしても、アイツを追いかけてると苦労するわよね……」
 遠い目で言った桔梗先生に、私は訝しみながらも答えた。
「はぁ。そうですね……?」
「あ、いや、ごめんごめん。今のは無し」
「?」
 慌てて否定する桔梗先生。よくは分からないが深くは追求しないことにした。
 もしかしたら、過去に本当に色々とあったのかもしれない。相手があれでは、気づかれずに終わったとかかも知れないけれど。
「それでは、私はそろそろ行きます。ありがとうございました」
「ええ。お大事に」
 礼をすると、私は美術室に戻った。


 美術室に戻ると、意外にも上倉先生はすでに戻ってきていた。
「遅いぞ。部長がサボってたら示しがつかないじゃないか」
 普段目にする機会が絶望的なまでに無い真剣そのものの顔で言う先生に、私は冷たく言った。
「ずいぶんお元気そうですね」
「いや、まあ多少は慣れがな。今日は幾分マシだったし」
 先生は声を潜めて言いながら、途端に表情を崩した。理由が不真面目で時間も数秒ですか、この人の真面目な顔は。
 あーもーこの自堕落不良天然ジゴロ朴念仁は年がら年中チャランポランで人の気持ちも知らないでフラフラフラフラあっちこっちしかも相手が幼馴染美人教師で戻ってみれば悪ふざけで――。
「お、おい。ちょっとまて。冗談だ。考え直せ。な、俺が悪かったから」
 腰が引けた先生が慌てて捲し立てている。
 いつの間にか自分がイーゼルを握っていることに、私はようやく気が付いた。ほんのりと殺気が漏れている気もする。あくまでほんのり。
 私は大きく息を吐き出すと、イーゼルを適当にその辺に置く。それから改めて怠慢教師に向き直り、コホンと咳払いを一つ。
 そして、しっかりと目線を合わせながら厳かに言った。
「上倉先生」
「は、はい」
 脊髄反射か、先生の背筋がピンと伸びた。
「来ただけでもマシですから、今日は許してあげます。でも次からは遅れないようにお願いしますね」
「分かった。遅れない。怖いし……」
 聞き逃さなかった私の目端がキラリと光る。
 怒声をなんとか飲み込んでから、なるだけ冷静に、しかし威圧感だけはタップリに言った。
「何か言いましたか?」
「いや何も無いぞホントに。さあ指導するぞ~」
 先生は逃げるようにその辺の生徒に近づくと、本当に何やら指導を始めている。
 呆れながらその光景を眺めている私に、一部始終を見ていた鳳仙さんが呟いた。
「何だか竹内部長の方が先生みたいですね」
 全く同感だったが、同時に冗談じゃないとも思った。


 その後。
 上倉先生は多少フラフラしながらも、それなりに部活に顔を出すようにはなったのだった。






























Chapter EX-1
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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/12/16(土) 22:27:41|
  2. 第一話

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