年に一度も無いような行動力を発揮して、浩樹が『柳画伯のアトリエ見学会』を現実のものとし、日付は巡って日曜日。
話がある、と浩樹はエリスを連れ出していた。目的地は喫茶店『やどりぎ』である。
「あの、お兄ちゃん。話って……どんなこと、かな?」
エリスは僅かに頬を染めながら、普段の若さ溢れる率直さとは対照的な態度でそう尋ねてくる。神妙な顔で誘う浩樹に、なにやらおかしな期待をしているらしい。
「あとで話す」
今から半端に説明するのも億劫で、浩樹はあえて放置しておくことに決めた。後で怒るかもしれないが、それはそれだ。勝手に勘違いしたのが悪い。
しかし、恐らくそんな感情は軽く吹っ飛ぶだろう。それくらい、エリスはプロの――柳の与えるであろう刺激を楽しみにしていたはずだ。
やがて『やどりぎ』に到着すると、浩樹は躊躇無くその扉を開け、店内に踏み込んだ。
「いらっしゃいませ~……って、先生。鳳仙さんも」
「目の保養に来たぞ~」
来店して早々の軽口に、エリスが横から頬っぺたを引っ張る。
「いだだだだっ!」
かなり容赦無かった。しかも、なかなか開放してくれない。
エリスは浩樹の頬を抓ったまま、百点満点の外行き笑顔で軽く頭を下げた。
「すみません、うちの従兄弟(あに)がお馬鹿で」
「いいえ、慣れてますから」
騒ぐ浩樹など居ないかのように、自然な笑顔で言葉を交わす二人。エリスも相当だが、不意打ち的な騒動に全く動じない麻巳も大したものである。単に美術室でのやりとりを外に持ち出しただけ、とも言えるが。
――彼女らの態度はともかく、浩樹はさすがに限界だった。
「つかマジ痛いから。そろそろ離せ!」
本当に涙目になっている浩樹の悲痛な叫びを受けて、エリスはようやく手を離した。
「もう、おかしな冗談言わないでよね。恥ずかしいんだから」
謝るどころか悪びれず、更に文句を言ってくるエリス。余程痛かったのか、浩樹はそれでも大人しく頷いた。
「分かった分かった。竹内も、悪かったな」
こういった部分は、案外大人である。酷い仕打ちにも腹を立てない。
麻巳も時に失礼な言動や行動を、ついついやってしまう事があるが、浩樹は叱る事はあっても怒ることは無かった。叱る事すら稀なのは教師として問題だが、その落ち着いた反応は大人の包容力と好意的に解釈してもいい。
――もっとも、単に鈍いだけな可能性が極めて高いが。そのくせ平気で人をからかうのだから、行動の基準がイマイチ理解不能。それが、麻巳の個人的な認識である。
ちなみに麻巳は内心、目の保養という言葉を冗談と切り捨てたエリスに対して、僅かに複雑な感情を懐いていたりするのだが、
「いえいえ、お気になさらず」
と、営業スマイルのまま平然と応えてみせた。
この辺り、彼女も十分、年相応以上である。
「お邪魔しま~す」
勝手に店の奥へと進む浩樹に、エリスも当然のようについていく。
何度か顔を出しているとはいえ、エリスはすっかり常連顔である。大した順応力だ。これも若さか。
(コイツの場合は単に天然だな)
そんな言葉は心に秘めつつ、いつもの窓際の席を目指す。
麻巳もそれを止めようとはしない。常連は大抵、そういうものだからだ。アットホームなのも店の売りである。
お気に入りの席に座った浩樹は、まず注文を聞きについてきた麻巳の、いつもと変わらぬメイド風ウェイトレス姿を改めて眺め、しっかり今日の分を堪能してから改めて声をかけた。
「相変わらず胸のリボンが似合ってるな」
「――有難うございます。今日に限ってピンポイントで褒める意味はわかりませんけど」
営業スマイルは維持したままで、律儀にツッコミも忘れない辺りが竹内麻巳の竹内麻巳たる所以である。誰が呼んだかツッコミの麻巳ちゃん、その名に恥じぬプロの仕事。
うむうむ、と声に出しながら大げさに納得しつつ、浩樹は適当にお任せでコーヒーを頼む。
「ついでに部長一つ」
「はいはい……。もう少し客足が落ち着いてきたら、で宜しければ」
呆れながらも気軽に了承する麻巳に、浩樹は満足げに頷いた。
「――まあ、そういうわけだ。明日の放課後、二人で行ってこい」
来店してから十数分、エリスとのお喋りで時間を潰し。やっと麻巳が来てから、アトリエ見学会の説明を終えると、浩樹はそう締めくくった。
話が唐突過ぎてポカンとしている二人に、浩樹は何も付け加えて話したりはしない。事態が呑み込めて再起動するまで待つのが賢明との判断である。
「あ……の、その……」
意外と早く立ち直り、先に声を発したのは麻巳だった。小さく挙手している彼女を、浩樹は大仰に促した。
「なにかね、竹内君」
「ええと……。私でいいんでしょうか? 確かに大いに参考になるとは思いますが、私より才能のある子がたくさん居ますし。それに――」
「そんなことありませんっ!」
がたんっ、と大げさに椅子を蹴立てて立ち上がったのは、麻巳が『自分より才能のある子』の代表として当てはめているであろうエリスだった。
「竹内先輩が一番です。少なくとも私は大好きなんです。もっと自信を持ってください!」
浩樹の対面、麻巳の隣に座ったエリスが、鼻息荒く捲し立てる様を冷静に眺めていた浩樹は――静かに丸めていた雑誌でエリスの頭を軽く叩いた。
「いた~い……」
エリスはそれで我に返り、涙目で訴えてくる。
「大げさだ。んな強くやってない。つか話の腰を折るな」
エリスの表情は並みの男性なら一撃轟沈といったところだが、彼女に対しての免疫だけは異常に強い浩樹である。軽く受け流した。
「でも角が当たった……」
「悪かった。すまん!」
パンパン、とお参りするように手を叩きながら謝罪すると、浩樹は麻巳に向き直った。エリスはまだ不満そうだが、ここは無視である。でないと話が進まない。
「まあなんだ。そう卑下するな。お前は間違いなく才能のある生徒だよ」
「はあ……。でも、贔屓目に見ても、せいぜい五番手か六番手というところだと思いますけど」
「そんなことありませ――っ」
また横でエキサイトしそうになるエリスだったが、浩樹はそれを先んじて叩いて静止する。まるでもぐら叩きだ。
「すまんな。コイツ、軽くお前のファンらしい。俺も今知ったが」
「私もです」
さすがに呆れて苦笑する麻巳の隣で、エリスは不満そうに唸っている。
やはり無視して、浩樹は話を進めた。
「とにかく。お前は優秀な生徒で、部長で、技術に関しては超高校級だろ。資格十分だ。ゴチャゴチャ言わずに行ってこい」
「技術、ですか……。それだけでは意味が無いことも、先生はよくご存知だと思いますけど」
「無意味とまでは思わんが。それなら適当に描いてみればいいだろう。好きに描いて、そこから得たものを次に活かせばいいじゃないか」
「いまさら、そんなことが出来れば苦労なんてありません。一度染み付いたものを、そう簡単にリセットなんて出来ませんよ」
「……どうしても、嫌か?」
「行かないなんて言ってません。私が選ばれる理由がハッキリしないから、それでは気持ち悪くて受け入れられないと言っているんです」
要するに納得させろということか。
「あーもー、細かいことはいいから行け! 誰よりお前が変わるべきなんだよ」
生真面目な奴だと分かってはいたが、ここまでとは。本心はむしろ小躍りしかねないほど喜んでいるのだろうに。まあいいさ、行けば分かる。細かい事は知らん――と、浩樹は急に投げやりな口調になった。
そもそも細かい事は気にしない性分の彼に、漠然とした思いを形にしろというのが無理な話である。
「他の部員は勝手にやってるだろ。レベルはともかく、有るべき素養が足らん奴はお前ら二人がダントツだ。だから選んだ。きっかけになるかも知れないイベントが目の前にあるんだ、とにかく行け。行って俺の気持ちを柳の奴にも少しは分からせてやれ」
「説教でもしろと言うんですか? ……先生と違って、凄く真面目な方だと感じましたけど。私如きが言う事なんて何もありませんよ」
「ええい、訳の分からんことを」
「それはこちらの台詞です」
挑むような視線をぶつけ合う二人の狭間で、居心地悪そうにキョロキョロと両者の様子を伺っているエリスも、今度こそは大人しくしていた。またもぐら叩きの標的になるのを嫌ったというより、一体感のある空気に入り込める余地を見出せなかったのである。
店内という場所を忘れた二人のやりとりは、更に白熱して続く。
「とにかく却下だ、断じて却下。お前はエリスと一緒に柳画伯のアトリエにお邪魔する。一年の期待のホープと部長が行くってのもおかしな取り合わせじゃないだろ。この天然娘だけじゃ心配だからお目付け役ってことで行ってこい」
「なんですかそれは。これでも彼女はしっかりしてます。ただ先生の前でフニャフニャになるだけで」
「俺は俺の見たものしか信じない。しっかり者のエリスなんぞ知らん。有り得ん!」
唐突に巻き込まれたエリスは――とりあえず端で小さくなっている。
「何を自信満々に断言してるんですか。……ええ、もう分かりました。そこまで言うなら行きます。行って、先生の弟子を卒業してしまえばいいんですね!?」
売り言葉に買い言葉。口を衝いて出た言葉に、麻巳自身が驚く。
慌ててそれを訂正する前に、しかし浩樹は急に真顔になって言った。
「ああ。それがいい」
突き放すような物言いにカチンときた。麻巳が勢いに任せて暴言を吐きそうになり――まさにそのベストなタイミングを狙ったかのように、
「うるさいぞ」
そう言って、丸めた新聞紙で二人の頭を平等に叩いたのは、店のマスター。麻巳の親父さんだった。
「喧嘩するなら摘み出すぞ。コーヒーはおごりにしてやるから、散歩でもして頭冷やしてこい。麻巳、お前も休憩だ。いいな」
有無を言わせぬ態度に、二人は揃って頷くしかなかった。
改めて確認するまでも無いが、店の前にある公園は散歩道として丁度良い。並木道を二人の後について歩きながら、麻巳はひたすら自分を責めていた。
あそこで意地を張る意味が自分でも分からない。――いや、今になって考えてみればそうでもないか。
なんとなく、自分の事を他人任せにされる感じがして嫌だったのだ。自分は上倉先生に教わって――他の人から学ぶ事が嫌なのではなくて。でも一番の師はこの人と決めていて。それを辞めると言われた気がして。
だから、せめて本当の理由を聞きたいと思った。しかし、あの調子では聞くだけ無駄だろう。もしかしたら、自分でも分かっていないかも知れない。何より、自分のことにこそ最も鈍いのが上倉浩樹という人物なのである。
「……あの、竹内先輩」
気が付くと、麻巳は立ち止まっていた。エリスがメイド――っぽい服の袖を、遠慮がちに引っ張っている。
「とりあえず一周、なんて話になってるんですけど。いいですか?」
「ああ……ええ、構わないけど」
「それじゃあ、行きましょう」
「そうね、行きましょう」
ぎこちない会話の後、浩樹は先頭を歩き、その後を麻巳が付いて行く。浩樹の隣で、両者の様子を伺いながら何か言いたそうにしながらも、結局何も言えずにいるエリスだけが場の改善を望んでいるのか。
――いや、麻巳も浩樹も互いに謝ろうとしている。それは分かっていた。だが、お互いにお互いの見知らぬ反応に戸惑っているのだった。
怒ることもあった。喧嘩をしたこともある。教師と生徒、という関係を思えばそれらは確かに特別かも知れない。けれど、子供っぽい素のままの感情でぶつかり合ったことなどなかった。
意外に大事な部分では大人な浩樹と、年齢以上に大人な麻巳。どこか、お互いに相手を気遣う部分がいつも先に立つ。まして、拗ねて口も利かないなんて――。
「あの、先生」
沈黙に耐え切れなくなったのは、麻巳の方が先だった。しかし、それは浩樹が立ち止まったのがきっかけ。
思い切ったのは、結局同時だったらしい。浩樹は麻巳の声に応えるように真っ直ぐに瞳を見つめると、穏やかに話し始める。
「悪かった。いい大人が、さすがにあれは無いよな。大人気ないにも程がある」
「お互い様です。私も、なんというか。らしくない反応をしてしまいました」
僅かに笑みを零しながら、麻巳はそれに応えた。
しょんぼりしている浩樹が可愛いと思った。それに――なんだか一層近づけた気がして、嬉しかった。
「あの。私、先に行ってますね」
空気を読んで、エリスが小走りに去っていく。
天真爛漫で自分を素直に出すが、こういった気遣いが出来る。それが鳳仙エリスの男女問わぬ人気の秘密か? ――自分のことを棚に上げて、麻巳はそんなことを考えていた。
「まったく。余計な気を回さんでも」
「いいじゃないですか、これはこれで。少し落ち着いて話したいとは思ってましたし」
「そうだな。邪魔だとは思わないが――確かに、あれだな。エリスは賑やか過ぎるところがある」
麻巳はゆっくりと歩き出した。浩樹に追いついたところで、彼もその隣で歩幅を合わせながら歩き始める。
二人、並んで歩く並木道。葉の寂しい木々、弱々しい太陽、冷たい冬の風。それでも、なんだか気持ちは暖かかった。
「なあ。そんなに、行くのは嫌か?」
「そんなことはありません」
「じゃあ、なんだ?」
「先生が、ええと……。少し、なんというか。言葉にしづらいんですけど……」
麻巳は素直に話すことにした。形にならないままの不安、不器用な告白。
なかなか言葉に出来ない麻巳だったが、唐突に、その様子を見ていた浩樹が何かを納得したように言った。
「つまり、そういうことか」
「はい……」
「お前らしいな」
「そうですか?」
「ああ。まあ心配するな。アイツは俺なんかよりずっと優秀だし、お前の悩みも案外簡単に解決してくれるかも知れ――って、なんでまた立ち止まる?」
「どうして、そこで話がループするんですか!?」
「ん? いや、だから。俺が何とも出来ないから投げ出したんじゃないか、ってことだろ」
麻巳、頷く。
「そんな無責任は許せん、とこうくるわけだ」
数秒悩んだ末――やはり頷き、
「俺も責任を持って考えた末、柳に頼んでみたと」
「なんでそうなるんですか!」
「――何故そこで怒る?」
「だから、私は! えっと……つまり先生にですね」
「???」
怒りながらも言いたい事がよく分からない麻巳と、麻巳の気持ちがサッパリ分からない浩樹。
察しの良い麻巳が状況を理解する事でやっと繋がる二人の会話は、麻巳が分かっていないとどうしようもないのだった。救世主が必要である。
その救世主が、二人の様子を見て戻ってきた。
「はぁ。もう、お兄ちゃん。どうしてまた喧嘩しちゃうの」
「何故に俺だけを怒る」
「だって、お兄ちゃんは間違いだらけの人だけど、部長は大抵正しいでしょ」
「……なんか悲しいな」
「はいはい。……もう、なんか見てられないから、私が通訳しちゃいます。いいですか、先輩?」
「ええ。是非、頼むわ……。何だか凄く疲れた」
近くに丁度よくベンチがあったので、麻巳は腰掛ける。労働による疲労もあり、立っているのも嫌になってきた。もう後はエリスに任せて、流されてみようか。そんな後ろ向きな気持ちになっている。
任されたエリスは、犯人を言い当てる探偵の如き勢いで浩樹を指差した。
「つまりね、竹内先輩はお兄ちゃんの弟子でありたいの」
「……んむ?」
浩樹はまだ首を捻っている。だが、他人に言われて麻巳はようやく自分の気持ちがハッキリと分かった。
「なるほど。里子に出されるような――そんな感じかしら」
「そうです。私も同じ経験があるから、分かるんです。学校の美術部で教えてもらえって、お兄ちゃんに言われて。あの時は寂しかったなぁ」
「そりゃ、当たり前だろ。専門家に習った方がお前の為だ」
「違うよ。――違わないけど」
「どっちだ」
「つまり、私たちは芸術を志す人なわけですから、感性の合う人に師事して――突然そこから離れろと言われても、そんな無意味に思える事はしたくないんです」
麻巳が言葉を探しながら言うが、やはり浩樹はよく分からないらしく、腕を組んで考え込んでいる。頭には疑問符がいくつも浮かんで見えた。
「先輩の言った里子というのが近いかな。自分の意思に関係なく、この場合は絵に限る事だけど――保護者が変えられてしまう、という事態になったら? 理屈なんて無しに、まず誰でも拒否すると思う」
「ああ。まあ……そうだな」
「だから、竹内先輩はお兄ちゃんの手抜きを怒っているんじゃなくて、弟子である自分に執着はないのかー、って怒っているわけなのです」
おー、と二人に拍手されて、得意げに胸をそらすエリス。
「で、俺はどうすればいいんだ?」
「それこそ簡単。お前は俺の二番弟子だー、って言ってあげれば良いの」
「――そこは一番じゃないのか?」
「だって一番は埋まってるもん」
「なんのこt――いやいや、冗談だ冗談」
むくれるエリスを宥めてから、浩樹は改めて麻巳に向き直った。
「まあ、一番だの二番だのはともかくだな」
「はい」
期待しながら、麻巳は目の前に立つ浩樹を見上げた。
わざとらしく咳払いを一つしてから、浩樹はたどたどしく言葉を紡ぐ。
「何処で何をやってても、お前は俺の弟子だ。誰にもやらん。今回のは、単純に得るものがあるから行かせる、一時的に貸すだけだ。間違っても柳の奴にやるものか。だから、行ってこい。そして――ちゃんと戻って来い。いいな?」
軽く息を吸い込みながら目を閉じ、一度俯く。そうしながら、言葉が心に染み込んでいくのを待った。
――自分は上倉浩樹の弟子。何があっても、それは変わらない。なら、何でもしよう。何処へでも行こう。
黙り込んでしまった自分を不安げに、それでも黙って見守っている浩樹に、
「はいっ」
心の内から溢れてくる笑みを素直に開放して、元気よく返事をする麻巳なのだった。
「二人とも、不器用なんだから……」
今度は二人を先に行かせて、麻巳に代わってベンチに座りながら、エリスはホッとしたように息を吐いた。
他人の喧嘩に割って入るなんて、本当ならしたくない。だけど、大切な人たちがぶつかり合う様を見続けるのは、もっと嫌だった。
並んで歩く教師とメイド。いまだに小競り合いを続けているが、今は楽しそうに見える。いつもの喧嘩なら問題ない。
「何だか凄くお似合い……だな……」
その後姿を眺めながら、急に不安に襲われる。
――そんなはずはない。そういうのじゃない。先輩の気持ちは、そういうのじゃなくて。
勢いよく頭を振り、余計な考えを吹き散らす。
じっとしてるから変なことを考えるんだ、と自分に言い聞かせながら、エリスは立ち上がった。
「おにいちゃ~んっ、竹内せんぱ~いっ」
呼びかけながら小走りで追いかけると、二人が立ち止まって振り向いてくれる。
「なんだ、休んでるんじゃなかったのか?」
「いいじゃないですか、賑やかな方が」
「コイツの場合は賑やかを越えてウルサイぞ」
「お兄ちゃん、ひど~いっ!」
今度は自分がじゃれ付く番になり。
楽しい時間に塗りつぶされ、先ほどの暗い思考は泡のように消えていった。
Chapter 7-1へ目次へ戻るテーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学
- 2008/01/31(木) 01:12:50|
- 第六話
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