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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

部長が水着に着替えたら?

 夏休みに入り、約束していた海へ出かけることになった。
 恋人同士になって初めての水着姿を披露するということで、少なからずその、体型も気にしてみたりして。色々と苦労もしたのです。
 だというのに、私の隣には彼女が居ます。実に楽しげに、無邪気に。
 でも――邪気は本当に無いのだろうか?
 私の隣、後部座席でずっと騒いでいた彼女は、少し前から黙って窓の外を眺めている。
「あ、お兄ちゃん。海が見えて来たよ」
 車を運転する浩樹さんに、彼女が声を掛けた。
「ああ。もうすぐ到着だな」
「えへへー。楽しみにしててね」
 彼女の――鳳仙さんの笑顔とは対照的に、私は憂鬱な表情で溜息をついた。
 いざ海へ出発となった今朝、フランス留学中の彼女が現れたのだ。遠慮する彼女を一緒に行きましょうと誘ったのは私、文句を言うべき立場ではない。嫌なら断る必要もなく、ただ『ごめんなさい』『行って来ます』と言うだけでよかった。言うなれば自業自得、素直な彼女は言葉どおりに受け取ってここに居るだけで、そこに何らかの企みを疑うなんてどうかしている。
 ワタクシ、竹内麻巳は見栄っ張りである。自分は立派な人間ではないと自覚し、だからこそ、そのように振舞おうとする。
 そのせいで何度も何度も損をしているのに、癖になってしまうとなかなか難しい。条件反射でついつい、調子の良い言葉が出てきてしまう。それについて後で落ち込み、でも自分が悪いと分かっているから自己嫌悪に陥る。高校最後の年、凄い賞を貰ったりもしたけれど、結局は大して成長していない。
「どうしたんですか、部長?」
 暗い表情をしていた私を心配したのか、鳳仙さんが声を掛けてくれた。
 考えてみれば、これは彼女と仲良くなるチャンスではあるまいか。邪魔者扱いする自分が嫌なら、そうではない思考で動けばいい。理想の自分を夢見て動き、それが嘘だとしても、全部をプラスに考えて現実を覆してしまえばいい。
 それを私は、高校最後の冬に学んだのではなかったか。
「大丈夫、なんでもないわ。ちょっと大学の事を思い出して、疲れがぶり返したというか」
「はははは。性分ってやつは変わらんよなー。いいんちょ体質とでも言うのか、コイツは一年のうちから副部長なんだぞ」
「ええっ、そうなんですか!?」
 さすがに鳳仙さんも驚いている。それを見て、我が事のように得意げな浩樹さんが、更に付け加えた。
「だからもう部長じゃないぞ。今は副部長だ」
「何だか意外……。部長先輩なら、最初から部長かと思ったのに」
「まさか。高校の時だって、私は二年で副部長、三年で部長なのよ。大学でも普通は、一年からこんな大役は回ってこないわ」
「う~ん、でも部長は部長で――副部長って、なんだか部長の上にまだ誰か居るのって不思議な感じ」
「おいおい、高校時代だって上には顧問が居るだろう」
「え? 上だったの?」
 鳳仙さんが反射的に疑問を口にして――ガクッとなった浩樹さんが一瞬ハンドルを切りそこねる。
『きゃあっ!』
 後部座席の私達は揃って悲鳴を上げた。
「うぁっ! ――と、危ない危ない」
 浩樹さんが慌てて立て直して事なきを得たものの、今のは本当に危なかった。対向車が居たら洒落にもならない。
「もう、しっかりしてください。寿命が三年は縮みましたよ」
「エリスが変なことを言うからだ」
「おかしなことを言ったのは、絶対にお兄ちゃんの方だよ」
「私も同感です。全く来ない顧問より、部長の方がずっと偉いはずです。でないと私の苦労が報われません」
「それを言われると立場が無いが……。今はちゃんとやってるぞ?」
「部長が居なくても構わないくらいに?」
「……ごめん。わるかった。許してください」
 素直に謝る浩樹さんに、私達は声を上げて笑った。
 しばらくして笑いが収まると、少し真面目な顔で鳳仙さんが尋ねてくる。
「それで、結局なんて呼べばいいんでしょうか。元・部長? 副部長? それとも先輩?」
 私は少しだけ悩んでみることにした。これは、今後のためにも極めて重要な場面だ。
 部長、と定着していた呼び名を変えるチャンス。いずれまた部長をやらされるにしても、そうならないにしても、直前が部長で今が副部長という微妙な時期は二度と訪れないだろう。
 浩樹さんの奥さんになるとしたら――義姉さん? いやいや、さすがにそこまでは。でも、笑った直後の今なら冗談で言えるかも知れない。
「まさか義姉さんとは呼べないですもんね。それだけは有り得ないですし」
「……は?」
「いえ、今のは何でもないです。それより、どうしましょう?」
 何となく引っ掛かる――というか釘を刺された気がしてならないんですが。でもきっと気のせい。彼女は無邪気な良い娘、確認。うん、どこも間違ってない。
 彼女は浩樹さんを諦めてフランスへ行ったはず。私との仲を認めてくれたはず。私のことを、人間的に認めてくれているはず。
 ――全部に『はず』が付いているのが、なんだか不安だけれど。
「名前で呼んで欲しい、かな」
 理想は既に潰されたので、第二候補にしておいた。
「麻巳さん……でいいですか?」
「ええ。なんだか呼び名が変わると照れるわね」
「そうですか? ……あ、せっかくだから私のことも名前で呼んでもらえますか?」
「そうね。その方が親しげで、私も嬉しいわ」
「はい。それじゃ、えっと……エリスさん、でいいですか?」
「え、ええ……もちろん。改めてよろしくね、エリスさん」
 私は引きつった笑顔で、なんとかそう言った。
 ――何故に敬語。いや構わないんだけど。……ちゃん付け推奨じゃなかったかしら、この娘?

 海岸に到着し、海の家で着替えると、私はシャツを着た上にタオルで身体を隠しながら浩樹さんの用意したパラソルに向かった。
 先に駆け足で行ったエリスさん――何度も呼ばされてすっかり定着している――は、浩樹さんと楽しげに話している。彼は素っ気無いが、鼻頭を掻くクセが出ているのは照れている証拠だ。なんとなく、面白くない。
 この数ヶ月で私の胸も少しは大きくなったのだ。エリスさんにも負けない、とまではいかないけれど。女は中身で勝負、と気合を入れられる程度には。でも現実は甘くなかった。
 元々大きかった彼女の胸は、この数ヶ月で私の成長度合いを大きく越えていた。私も胸を強調するような少し大胆な白いビキニを用意していたのに、思いっきり被っている彼女の水着を見た瞬間にすっかり戦意を喪失してしまった。
 彼女はフランスで何をしていたのか。ただ水が合ったというか、食べ物が胸に栄養供給するような感じなのだろうか。ヨーロッパと言えばやはりチーズか。チーズなのか。結局は乳製品という都市伝説に行き着くのか。フランスはそういうモノが日本より高品質なのだろうか。
 ああ、私もフランス留学したかった――。これほど切実に思ったことはない。私も彼女と同じ結果を出したのだから、あの時に無理を言えば理事長代理もゴリ押しで向こうの大学に話を通したりしてくれたかも知れないのに。もちろん浩樹さんと離れるのは嫌だけれど……彼のためにも、ほんの少し後悔するくらいはいいと思う。彼、やっぱり人並みに胸とか好きだし。
 というか『そういう本』が、局所的に大きな女性ばかりというチョイスに一抹の不安を感じる今日この頃。ビデオは見て無い、怖いし。ちなみに隠し場所とかバレバレです。
 留学中の義妹の部屋に隠すのだけは止めて欲しい、と言った事もまだない。こういうものは有効な場面というものがある――と自分に言い訳しつつ、私は単にそういう細かい事が無性に気になる性分を隠したいだけなのだった。
「えへへ。だいぶ成長したでしょ?」
「何言ってんだ。お前なんてまだまだ餓鬼だ」
「あー、ひっど~い。そんなこと言う悪いお兄ちゃんは……えい!」
 エリスさんが、悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと浩樹さんに抱きついた。
 久々のスキンシップ。兄妹の仲の良い、微笑ましい光景。だけど――彼を取り合った関係にある私には、どうしても嫌な幻想が見えてしまう。
「あ、おい、麻巳。コイツなんとかしてくれ!」
 彼が私に助けを求めてきた。たった今、私に気付いたかのように。
 彼女よりも、彼に対して。私は無性に腹が立った。
 そこで私は、タオルを放ってシャツを脱いで、水着だけの姿になった。しかし彼は、まだ離れようとしないエリスさんを引き剥がすのに必死で、
「な、頼むよ。コイツだって麻巳の言う事ならずっと聞くし」
 愛する女性が初披露した水着より救援要請が先ですかっ。
 そもそも本当に愛してくれているのだろうか? 不安に思ったりはしない、疑ったりもしない、でも――。
 私は彼を無視してパラソルの下に敷かれたビニールシートに荷物を下ろすと浮き輪を取り出し、彼らの隣で黙々とそれを膨らませた。
「おい。麻巳。なあ、おい?」
「……」
 すぐ拗ねる。なんて子供っぽい。これも自分の嫌いな部分、彼と付き合うようになって強く自覚するようになったこと。
 嫌だけど、直したいけど、その時に限ってどうでもいいと思ってしまうのである。またどうせ自己嫌悪するのだ、今はどうでもいいけど。
 私は麦藁帽子とサングラスを用意し、膨らませた浮き輪を持って海へ向かった。
「麻巳! おい! ……何怒ってんだ、おい!」
 はい、NGワード。泣いてる時、怒ってるときにそれを直接指摘しちゃいけません。最悪です。
「二人でお楽しみください。さよならっ」
 出来る限り冷たい声と、実家の手伝いで身に着けた極上の営業スマイルでそう告げて、私は彼らの元から逃げ出した。
 ――そう、それは逃走でしかなかった。



 大学に入って早々、やはりというか騒がれた。
 美術部に期待の新星現る。むしろ大学行かずにプロデビューする進路もあるくらいだ、そりゃ私が他人だったら一緒に騒ぐ。
 だから周りの反応も理解出来るけれど、それでも私は普通に友人関係を築きたい。だから、副部長を任されるという時にはやはり断ったのだ。
 しかし、同じ大学に通う親友の楓子に諭された。
「周りを黙らせる必要無いでしょ。当たり前の自分で居れば、あんたは勝手に中心になってるような人間だし。で、アンタらしくやるには責任のある立場、やっぱコレでしょ」
 それ以外にも色々とあって――要するに口車に乗せられ、いつの間にか私は副部長になっていた。しかも部長は誰かさんみたいないい加減な――もとい芸術家肌の天才、部の長としては問題がある。大変だから前任者が放り投げた故の私の副部長就任であり、仕事の内容はほぼ部長なのだった。もちろん、高校時代と同じく問題人物のお守りというオマケつき。
 名門美術大学美術部の一年副部長、しかも実質部長で、部長のお守り役。さらに桜花展銀賞受賞者。肩書きだけでも肩が凝る。
 慣れない大学生活の疲れもあり、私はかなり参っていたらしい。そこで多少は責任を感じていた楓子が要らぬ気を回し、結果が今日の海デート。
 リフレッシュするはずだった丸一日だけのバカンス、それが自業自得とはいえ、気付いたら一人で海に浮かんでいる。
 ぷかぷかと波に揺られて――私はいつの間にか眠っていた。

「あ――やっちゃった」
 気付くと私は、かなり沖の方に流されていた。まだ泳いで帰れる距離だけれど、危ないところだった。
 岸は遠く、浩樹さん達が何処に居るかは目を凝らしても判別出来ない。せっかく遊びにきたのに、本当に一人になってしまった。
「なにやってるんだろう。相変わらず――」
「馬鹿だな」
 唐突に言葉を継がれて、私は驚いて振り返る。すると、隣に浩樹さんがのんびりと浮いていた。
「何してるんですか……?」
「それがな。俺の大切な人が勝手にどっか行っちまったんで追いかけたんだが、あんまり気持ち良さそうに寝てるもんだから起こすのも忍びないってんで」
「一緒に流されてたんですか」
 私が呆れて言うと、彼は力強く首を振って否定した。
「いやいや、可愛い寝顔を眺めてた」
 こういう臭い台詞を平気で吐ける人だった。私は恥ずかしい人だなぁと思いつつ――不意打ちに弱い故に顔が熱くなるのを堪えきれず、麦藁帽子のつばを下げた。
「また、そういう調子の良いことばかり言って。だいたい、サングラスをしているのにどうして表情を眺められるんですか」
「ああ、これのことか」
 彼は事も無げに、手にしたサングラスを見せびらかす。
「こんな無粋なものは要らん。可愛い寝顔が半分も見えない」
 そう言いながら、今度は麦藁帽子まで取り上げる。
「照れた顔も可愛いな」
「返して!」
 すぐに両方奪い返し、焦って身に着ける私を楽しげに見やりながら、彼はいつまでも笑っていた。

 その後、浩樹さんが私を押して泳ぎ、岸に到着するとエリスさんが申し訳無さそうにしていた。
 初々しい私達を見ていて、少しからかってみたくなった。それをやりすぎた、と。彼女自身も、自分の立ち位置というか――私を含めた新しい人間関係の中で、接し方を探っていたのだ。
 悪乗りするのは血筋か。まあ、どう考えても私が悪いので、その話はそれまで。――簡単にそう考える自己嫌悪体質は本来直すべき部分だけど、今はいい。せっかくだから三人で楽しみたいし。深く考えずにいきましょう。
「で……何故にいまさら」
「しーっ。せっかく機嫌を直してもらえたんだから……黙って従おうよ」
「でもなぁ。俺はもう、一通り泳いできたんだが」
「はい、そこ。真面目に準備体操してください」
 岸に戻っていくらか話をした後、私は強行に準備体操を主張した。今更遅いという無かれ、水場で遊ぶ時に一番大事な規則です。
「だからってな。衆人環視の中でラジオ体操第二は殆ど羞恥プレイなんだが」
「うぅ。私もちょっと恥ずかしい……」
「それなら、早く済ませて泳ぎましょう。はい、イチニ、イチニ!」
 愚痴りつつも、二人は私の作るテンポに合わせて身体を動かしてくれた。こういう仕切る場面って、やはり向いていると我ながら思う。
 ――ああ、そうか。もっと自由に、部長を引っ叩いてやればいいだ。私の空気にしてしまえばいいんだ。上に居るのが顧問だろうと部長だろうと同じ、あそこは私の居場所で、私が一番偉いんだから。
 好きにやらないで責任だけ取らされても馬鹿みたいだし。今まではきっと、一年で新入りだからと遠慮があった。部長が本気で天才だから遠慮があった。そういうしがらみがどれだけくだらないか――私は高校の時に、すでに嫌というほど学んでいたはずなのに。
「なんだ。楽しそうだな」
「そうですね。今日は、本当に楽しい日です。明日からは、何もかも上手くやれそうな気がするくらいに」
 彼が居てくれるだけで、私は勝手な思考で元気になる。彼はただ、のんびりと自覚無く緩い空気を作ってくれるだけ。
 それこそが私に足りないもの。私はもう、彼無しには生きていけない気がする。でも、それでいい。
 一人で強くなる必要なんて無い。きっと、私たちはずっと一緒なんだから。

























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/09/13(木) 00:06:07|
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