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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

少女作家とメイドさん+1

 実力があれば安定して良い作品が生まれる。その一方で、巨匠の手による作品より、新人の作品が好まれる事も無いわけではない。理由は単純。
 年季より情熱、技術より想像力。時に、勢いとアイデアは何より勝るのです。
 え、何の話かって? それはもちろん――。

「なあ、萩野。悩むのは勝手なんだが」
「も~。先生、今いいところ何だから邪魔しないでよ~」
 向かいの席で片肘付きながら眠そうにぼやく上倉先生に、私は何度目かの同じ応対を繰り返す。
 ――声をかけられて中断してしまった。私は小説の執筆に使っている愛用のノートパソコンに一瞬だけ視線を戻したものの、すぐに思いなおしてキーボードから手を離した。ちょっと休憩するには早いけど、無理につき合わせている以上は彼の相手もしてあげないといけない。うん、私って大人だなぁ。
「あのねー、先生。創作の邪魔をしちゃ駄目だよ、何のためにここに居るのかよく考えて欲しいなぁ」
「そもそも何で俺まで『やどりぎ』で、何もせずにお前の目の前に座ってにゃならんのだ」
 不機嫌そうに言う彼は、しかし何故か怒っても帰ったりはしない。束縛されている訳でも無いのに、私の強引な誘いにいつまでも付き合ってくれていた。
 文句を言うのも忘れないけど、何だかんだでいつも誰かの助けになっている。優しいのに、そんな自分が照れくさいんだと思う。ずっと年上なのに何故だか可愛いんだよね。
 目の前に座る彼――美術部顧問の上倉浩樹先生は、私の目からはそんな人に見えた。
 ホントに困った時は結構頼りになるし、何だかんだで凄く親身になってくれるので、彼の周りには沢山の生徒が集まってくる。もちろん、私もその中の一人。
「何度も言ってるでしょ。先生の顔を見てるだけで、他のみんなの顔も浮かんでくるし。いくらでも書ける気がするんだよねー」
 私が山ほど有る面白エピソードを思い出しながら陽気に笑うと、先生はますます不機嫌そうに顔を顰めた。
「お前は楽しそうでいいけどな、こっちは何を書かれるか怖くて仕方が無い。有ること無いこと、面白おかしく書くんじゃないだろうな」
「大丈夫だよ~。私だって一応はプロの小説家だよ? 本当にあったことしか書かないし、全部フィクションなんだから」
「いや矛盾してるだろそれ……」
「あのね、先生。教頭実はヅラですーとか、美術教師が部活に出てませんーって言っても、最初にフィクションですって言えば世の中全然大丈夫なんだよ」
「業界の闇が今俺の目の前に。放置すべきなのか、無理にでも止めるべきなのか……」
「え、なに? 聞こえないよ。せんせーもう一回言って」
「いやしかし、教え子を告発するような行為も何か問題ある気がするな」
「もしもーし?」
「っていうか、そもそもコイツには何も教えた覚えが無いんだが……。教え子って言うのかこの場合?」
 ブツブツと小さな声で独り言を続けている上倉先生には、私の言葉が届いていない様子だった。
 ――私はこう見えてもプロの小説家で、担当の編集さんはこわ~い人なのだ。その編集者――紫衣さんもまだ怒り出すほど切迫してないけど、締め切りは楽観出来るほど先でもない。加えて、まだプロットも完成していない。アイデアが煮詰まっていて、だから先生に協力してもらってる。
 そんな状況を思い出して、小さく溜息をつくと、私は再びパソコンの画面に向かうことにした。
「先生。可奈ちゃんが呼びかけているのに、何を独り言に熱中してるんですか」
 そこに、コーヒーを持って麻巳ちゃんがやってきた。
 ――二年生の私よりも一年先輩の三年生、竹内麻巳さん。この店のメイド――もといウェイトレスにして、上倉先生が顧問を務める美術部の部長さん。先日、色々あってファーストネームにちゃん付けで呼び合う仲になっていた。
「おお、竹内じゃないか。こんなところで何してるんだ」
 私と先生の前にコーヒーカップを置こうとしていた麻巳ちゃんは、その動作をピタリと止めて先生を睨んだ。
 ――と言っても、私から彼女の表情までは伺えない。殺気が漏れてくるから、多分そうだと思うだけ。
「本気で言ってますよね」
「いや冗談だすまん。てか笑顔が怖い、せめて睨んでくれ」
 笑っていたらしい。店内では突っ込みも控えめに、ということかな。うーん、奥が深い。
 私の創作活動には欠かせない、上倉先生と義妹のエリスちゃんとの関係。シスコンブラコン、で済ませたり済ませなかったりでお話もいくつか生まれて、大いに助かってる。でも、考えてみたら目の前の二人も奇妙なやり取りが多い気がした。
 既にアイデアが枯渇しかかっている、同じ路線のお話から脱却する良い機会かも知れない。うん、顧問と部長のラブロマンス。どつき漫才から芽生える恋。
 ――その時、頭に閃くものがあった。
 活力を失い灰色に濁っていた脳細胞が、一気に活性化して輝き始める。火山が噴火するように、新しいイメージが次々と飛び出してきた。
「これだっ!」
 私が勢い良く立ち上がりながら吼えると、くだらない言い合いをしていた顧問と部長は驚いてその動きを止めて、揃って仲良くこちらを見ていた。
「うん、見た目どおりだし。どうして今まで気付かなかったかなー。でもやっぱり気付いた私は天才には違いないよねー」
「いや、あの――」
「どうしたんだいきなり。正気か? 大丈夫か萩野?」
 呆然としている二人を無視して、私は一人で盛り上がる。
 頭の中ではアイデアが次々と噴出し、山のように積みあがっていった。それを拾い集め、順番に並べて、細かい部分を肉付けしていく。
 ものの数分で基礎設定を構築すると、私は目の前の師弟に向かって順番に指差し、
「ご主人様、そして使用人。はい、よろしく!」
 一方的に言われて、二人は自らを指差しながら、なおも呆然としていた。

「お、お嬢様、コーヒーが入りました」
「あ、はい、すみません。有難うございます……」
 上倉先生が上品に――しようとしてギクシャクと差し出したコーヒーを、わざわざ手を出して受け取った麻巳ちゃんは、申し訳無さそうに礼を言った。
 私は慌ててテーブルを叩き、
「だ~か~ら~、二人ともなんでそうなるの!?」
「えっと、そんなこと言われても」
「……なぁ?」
 何故か竹内家に用意してあった執事服を着た上倉先生も、エプロンとヘッドドレスを外して簡易的にドレス姿となった麻巳ちゃんも、困ったように私を見ていた。
「私が言うのもなんだけど、コレって逆じゃないかしら」
「だよなぁ。なんでメイド見て思いついたはずが、全く逆になってるんだ?」
 不思議そうに顔を見合わせている二人に、私は小さな胸を精一杯に張って言った。
「そんなありきたりなアイデアで、今の読者は納得しないの。最近は厳しいんだから。
 こう、主人とメイドだった二人が、大きな事件があって立場が逆転しちゃってね。お互い意識してなかったのに、それから少しずつ惹かれあっていく……。どう、面白そうでしょ?」
 簡単に粗筋を披露する私。このアイデアにはちょっと自信がある。でも先生は何の感動も感じていない様子だった。
「成功すれば英雄だけどな、奇策は外れると色々最悪なんだぞ」
「それ以前に、惹かれあうって……。そんなこと有り得ないです」
 先生はともかく、麻巳ちゃんは何でそんなにムキになってるのかな?
 ――漏れそうになった言葉を慌てて飲み込んだ私。どうやら、思っていた以上に面白い話が書けそうだ。
「じゃあ、今度は違うシーンいってみよっか」
 私が上機嫌で宣言すると、二人とも露骨に嫌そうな顔をした。
「……なんかあれだろ、映画の撮影みたいな気分になってないかアイツ。目的忘れて手段を楽しみ過ぎな気がしてならんのだが」
「それでも先生だけなら笑い話で済んだんです。どうして今日に限って……私のお仕事はウェイトレスのはずなのに……」
「いや……まあなんだ、諦めろ。親とはいえ雇い主のご命令だ、楽しそうな話をあの親父さんに聞かれた時点で終わってる」
「ううぅ……」
 二人でヒソヒソと言い合いをしてから、麻巳ちゃんは何だかとても落ち込んでしまった。――そんな彼女を見ていて、私はまたも閃いた。
「先生!」
「ああ、なんだ。何でも言ってみろ」
「じゃあ、麻巳ちゃんの手を握って、何か優しい言葉の一つでもかけちゃってください!」
 彼女を指差しながら勢い良く示した私に、ああ、と先生は軽く返事をした。
「……っな!?」
 逆に麻巳ちゃんは驚きの声を漏らしながら、警戒するように身を引いて、何やらあたふたしている。
「何やってんだ竹内。ほら、手を出せ。さっさと終わらせるぞ、こんなもん」
 ほれほれ、と自分の手を差し出しながら促す先生。麻巳ちゃんは自分の身を抱きしめるようにして、恨めしそうに先生を見やりながら言った。
「先生は何とも思わないんですか?」
「……何がだ?」
 意味も分からず不思議そうにしている先生。――ホント、苦労するよね。
 とはいえ、相手のこんな態度を見ていると馬鹿らしくなったのか、麻巳ちゃんは疲れたように息を吐いてから、ゆっくりと手を出した。
 先生はその手を軽く握ってから、優しげに微笑んで言う。
「まあなんだ。頑張れば何とかなると思うぞ」
「何をですか」
「えーと、なんだ。受験とか部活とか……」
「まず先生に頑張って頂きたいんですけど」
「それも頑張れば、きっとどうにかなるさ」
「どうしてそんなに他人事みたいな言い方になるんですか」
「そりゃ、部長の仕事だからだろう?」
「そんなことが必要な部長は、我が美術部だけです!」
「――って、ちっが~うっ!」
 私がまた勢い良くテーブルを叩くと、二人はハッとしてこちらを見た。
「なんでそっちに行っちゃうの!?」
「いやぁ、ついな……」
「長年の習慣というか」
 申し訳無さそうに言い訳をする二人。――どうにも習慣的に漫才やってるのが身体に染み付いてしまったらしい。今更どうやっても矯正出来る気はしなかった。
 私の見立てでは、どうにも麻巳ちゃんには『その気』があるような気がしたんだけど。う~ん、勘が鈍ったのかな? 良い雰囲気になれば勝手に色々と話が進むと思ったのに。
「駄目かなぁ。良いアイデアだと思ったんだけどなぁ」
 私が思案顔で呟く。とその時、真上から声が降ってきた。
「――で、先生。何をしてらっしゃるんですか?」
「え? うん、ちょっとねー。良いアイデアが浮かんだから協力してもらってたんだけど。どうも上手くいかなくて」
「でも今回の発注は、確か学園ラブコメでしたよね?」
「それはまあ、とりあえず置いといて。次の作品に役立て……ようかと……思いまして……」
 やっと気付いて後を振り返る私。
 そこには、今日はここで書いていると、午前中にかかってきた電話で答えた相手が――鬼編集の紫衣さんが、とても表現する事が憚られるような形相で立っていた。
「あ、あはははは。お仕事、頑張ってま~す」
「そういうのは、今回の作品を仕上げてから頑張ってください!」
 先ほどまでの私がしていたよりずっと強く、紫衣さんは思い切りテーブルを叩いた。



 やっぱり缶詰にしないと駄目ですね、といきり立った紫衣さんは、強引に可奈ちゃんを引っ張って出て行った。
 引きつった笑顔のまま、じゃあねと辛うじて軽い挨拶を残して、可奈ちゃんは無理矢理紫衣さんに連れられて店を出て行く。
 やっと肩の力を抜いて、私と先生は互いの顔を見合わせた。
「で、開放されたわけだが」
「ホッとしました。一時はどうなる事かと……」
「まあ、それには同感なんだけどな」
「何かご不満でも?」
「いや、いつまで手を握っているのかと」
 ハッと気付いて、私は慌てて手を離した。
「これはそのあの、別に何でも無いんですよ、ただ離すのを忘れてただけで決して名残惜しいとかそういう感情は微塵も――」
 捲し立てて、自分が余計な事を言ってドツボにはまっていることに気付く。
 冷たい沈黙がしばらく続いた。居心地の悪さに私が身じろぎしていると、先生は冗談っぽく笑顔で言った。
「いやあ、てっきりその気があるのかと思ったよ」
 言い終わったその瞬間、先生は唐突に殴られた様に吹っ飛んだ。
 ――このとき、先生に何があったか、という問いがあったとしても。
 誰にも見えない神速の領域だったので、きっと誤魔化しきれたと思う。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。






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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/05/31(木) 18:08:51|
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