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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter 4-2

 放課後。
 私は美術室に向かう間、自分を抑えるのに必死だった。気を抜けば、鼻歌交じりにスキップでもしかねない勢いだ。
 昼食の時間は美術室へ行き、予定通り会えた上倉先生に部活に参加する事を確約させた。約束を破って鳳仙さんに実家の商売をバラしてくれたので、さすがに相応の責任は感じているらしい。やけに素直だった。こんなに簡単に話がついたのは、部長に就任して以来初めてかもしれない。
 最近の上倉先生は、うちの喫茶店にばかり通って部活に顔を出す日が激減していたが、これで気苦労も減って久々に絵を描くことに集中出来るというものだ。そう思うと、少しでも早く美術室へと気が急くが、部長たるもの皆の模範でなければならず、廊下を走る訳にも行かない。もちろん誤魔化して早歩きなど論外。それでも、床を蹴る足には自然と力が篭もった。
 美術室の前まで来ると、私は意識してゆっくり扉を開く。職員室に用事があり、来るのが少し遅くなってしまったため、絵を描いている部員の邪魔にならないようにとの配慮だったのだが、それは余計な心配だった。
 中に入ると、美術室は大騒ぎだった。殆ど全員が教室の中央に集まって、何やら言い合いをしている。――いや、正確には輪の中心に居る人間を問い詰めている、といった感じか。
「みんな、何をしているの? もう部活は始まっている時間のはずよ」
 早く絵を描きたくて仕方が無かった。こんな気持ちは久しぶりだった。そのため僅かながら苛立ちもあり、ついつい強めの声で言ってしまった。
 私の言葉に、騒いでいた美術部員達は残らず振り向き、こちらに注目する。そして、今度は私の周りを取り囲むようにして集まった。
「な、なに……?」
 状況が分からず動揺する私に向かって、進み出てきた田丸ひかりさんが――美術部副部長を務める才媛が、見たことも無いくらい目を爛々と輝かせながら言った。
「部長が実はメイドさんって、本当ですか」
「……はい?」
「だから、メイド服を着てお世話をしてくれるって本当なんですか!?」
 私は数秒考えて――そして、信じたくないながらも状況が呑み込めた。呑み込まざるを得なかった。
 こんな事になるんじゃないかと、心配しないでもなかった。ああ、でもまさか、こんなに早く。もう残りの日数も少ないし、せめて来年に入って部長を交代するまでは秘密に出来ると思っていたのに。
 今の私にとって、およそ最悪の状況だった。しかし、分かっていた未来だ。それなりに覚悟もしていた。
 ともかくこれだけは言っておかなければと決意し、私は目の前の田丸さんにやんわりと諭すように言った。
「メイドじゃなくてウェイトレス、お世話じゃなくて接客よ」
 私がそう言うと、周りから歓声が上がった。輪の後ろの方で、男子部員がハイタッチなどしている。女子部員も黄色い声を上げて、何がそんなに嬉しいのか、当の本人にはサッパリ分からなかった。
 中でも最も分からないのが、目の前に居る彼女だ。
「そ、それじゃあ本当なんですね!?」
 恋でもしているかのように目を輝かせて詰め寄る田丸さんに、
「え、ええ……。不本意ながら、ね」
 何か取り返しのつかない言葉のような気がしつつも、私はぎこちなく答える。
 すると彼女は、今度は私の手を掴み、更には頬まで朱に染めながら言う。
「今度、是非、部長のお家に遊びに行かせてください!」
「お、俺も! お願いします!」
「ずるい、私も!」
 田丸さんの言葉に追従するように、周りの部員達が男女問わず叫び出した。もはやどうやっても収拾はつきそうになかった。
 バレてしまうことは覚悟していたし、想定の範囲内なので、先生にしろ鳳仙さんにしろ怒るつもりも無かった。彼らに知られてしまった時点で、自分の落ち度だと思っている。
 しかし、まさかここまで大騒ぎになるとは思ってもみなかった。そんな要素がどこにあったのだろうか?
「自覚が無いってのも困りものだよねぇ……」
 後で声がしたかと思うと、ぐいと手を引かれる。気が付いた時には私は人垣の外に居て、そのまま廊下の外にまで連れ出された。
 私の腕を引っ張っていたのは、親友の東楓子だった。
 彼女に引っ張られて廊下を進むが、興奮する生徒とそれを相手にする教師の声はかなり大きく、僅かながら聞こえてくる。
「さあ、ここまでだ。せっかく俺も来てるんだぞ、真面目に部活に励め」
「そんな、だって部長がですよ! メイドなんですよ!? 先生が部活に出るよりずっと珍しくて魅力的なんですよ!?」
「あ~、田丸。……なんか色々と気になる言動だが、不問にしてやる。まあ、尊敬する部長に嫌われたいなら俺も止めんがな。今日のところはそこまでにしとけ」
「でも……」
「ほらほら、分かったら全員作業に戻れ。まだ無駄に騒ぐつもりなら、俺にも考えがあるぞ。忘れられがちだが、俺にもお前らの内申については僅かばかりの裁量が認められているわけでだな……」
 上倉先生が、何だかとても似合わない物騒なことを言っている。しかし、私にはもう、腕を引く楓子を振り払って美術室に戻るような元気は残っていなかった。

 無抵抗のまま楓子に引きずられ、私は殆ど人気の無い放課後の食堂に到着した。楓子は真っ直ぐに自販機に向かい、緑茶を買って私に寄越す。彼女は当然のように自分の分も購入した。
 私が呆けたまま、何となく楓子とお茶のパックを交互に眺めていると、暫くして彼女は口を開いた。
「おごりだけど、私じゃないよ。先生がね、お金くれて。連れ出して少し時間潰してこいって。どうしていいか分からん、って頭抱えてたけど。まあ頑張ってた方じゃないかなぁ」
 思い出して笑っている楓子は、とても深刻そうには見えない。私の窮状をどう思っているのだろうか。――しかし、普段どおりの彼女を前にしたお陰か、私もいくらか気持ちが落ち着いてきた。
 お茶のパックにストローを差し、一息で吸えるだけ吸って呑み込むと、私はやっと言葉を発した。
「もう、何が何だか。説明してくれない?」
 さすがにお手上げだった。私もまとめ役というものは少なからず経験しているけれど、こんな事態は初めてだ。
 昔から私に分からない出来事はこの親友の担当で、私は誰にでも出来ることを肩代わりしているだけだと、いつもそう思う。本当に優秀なのは彼女のような人間ではないか、と何度思ったことか。
 とはいえ基本的に不真面目なので、部長を任せたいかと言うと疑問が残るけど。その辺は少し、先生に似ているかも知れない。
「まず、漏らしたのは最終的に私です。ゴメンナサイ」
 楓子は丁寧どころか、床に座り込んで土下座までした。
「ちょ、ちょっと。そんなことまでしないでいいから……。ちゃんと説明してよ」
 事情も分からずそこまでされても、溜飲を下げるどころか慌てるばかりだった。私は無理矢理に彼女を立たせるが、そうしてから見た顔は笑っていて、悪戯っぽく舌を出していた。
 私は憤りよりも呆れて、糾弾するよりも話の先を促した。彼女はやっと語りだす。
「最初はまあ、エリスちゃんがね。仲良しの子とケーキの話をしていたわけさ。で、どこぞの喫茶店が美味しい、コーヒーも凄く美味しいと。その店というのが……」
「うちのこと、ね」
「そういうこと」
「……それで、どうして楓子がバラすの?」
「いやあ、偶然話を聞いててさ。ついつい、竹内もメイドだけじゃなくて自分で作ってみりゃいいのにねー、とか言ってしまいまして」
「な、なんで料理のことまで言ってるの!」
 ウェイトレスをメイド呼ばわりされた事を無視出来るほど、それは大問題だった。料理が出来ない女性は恥ずかしい――そんな考えは自分でも古臭いとは思うけど、親が料理を仕事にしていたりすると、余計にそんな事を思ったりもするのだ。
 慌てふためく私の口に人差し指を当てて優しく黙らせると、楓子は軽い調子で言った。
「だいじょぶだよ。その辺はメイド語って有耶無耶にしといたから。そう心配しなさんな」
「何を語ったのか怖いけど――。つまり、私が美術室に来た時にあった人だかりの中心には」
「私が居たわけ。まあ、セットで先生とエリスちゃんも居たけどね」
 悪戯っぽい笑いを滲ませながら喋っていた楓子は、そこで不意に静かになった。
 私の瞳を探るように見つめながら、言葉を選ぶようにして言う。
「……まあ、私はともかくさ。エリスちゃんも、悪気があったわけじゃないんだし。本当に、良い店だと思ったんだよ」
 この子はホントに、いい加減なんだか律儀なんだか、付き合いは数年に及ぶが未だ判断し兼ねる。自分のことは適当なくせに、他人のことは意外と見てるし世話を焼くのだ。
 誰かさんにそっくりな気がして、私は状況も忘れて笑ってしまいそうだった。
「何でそこで笑うの」
 楓子が意外そうに言った。いくらか表情にも漏れてしまったらしい。私は慌てて表情を引き締めた。
「何を勘違いしたのか分からないけど、私は怒ってなんて無いわ。むしろ、余計な重荷を背負わせて悪かったと思ってるくらい」
「そう。それならいいんだけど……。人が良いというか、何というか。竹内らしいけどさー、まあそういうので信者が増えるんだろうねぇ。羨ましくは見えないところもまた、実にアンタらしいわ」
 肩を竦めながら言う楓子に、私は何と返せばいいのか分からなかった。
「本気で分かってないんだろうけどね、竹内部長は相当な人気者なのよ。さっきの騒ぎも、直接的にはメイド服だろうけど、根本的な要因はそこ。あの美しく聡明な部長が、可愛らしいメイドさんに大変身! ……なんてね。そりゃ、誰でもとち狂うわよ」
「だからウェイトレスだっていうのに。……おだてている、というよりむしろからかっているようにしか聞こえないわ」
 私が腕を組みながら疑わしげに言うと、楓子は心外そうに眉をひそめる。
「いつも上倉先生に言ってるじゃない、自分に自信を持ってくださいって。アンタももう少し、自分の言葉を自分にも向けてみなさいな」
 そう言って、楓子は私の両肩に手を置いて、真っ直ぐに私の瞳を見つめながら言葉を続けた。
「アンタが部長になった時、もう先生はやる気が無かった。それでもアンタは一人だけ一生懸命で、部員と先生との間を駆け回って、色々なものを繋ぎとめてた。
 先生には、誰がどうしたと個人個人の話までを細かくこまめに伝えて、部員には自分が先生に引っ付いて学んできた事を、一つ残らず教えていった。先生の教えだ、としっかり前置きしてね。
 残ってる部員は、みんな少なからず先生を尊敬してる。でもね、それはアンタを通して色々を知ったから。アンタの頑張りを知ってて、アンタを尊敬してるから。アンタの信じるものを、一緒に信じていることに何の疑いを挟む余地も無いから。
 部長の席に竹内麻巳が座していなければ、今の美術部はいいとこ部員数半分、残った者も意欲は半分。そんな状態だったでしょうね。
 分かって無いならハッキリ言ってやるわ。自身を卑下するのはやめなさい。アンタが気にしている鳳仙エリスも含めて、アンタを凄いと思ってない者は、美術部には一人も居ない。さっきの騒ぎは、アンタを慕うが故に起こったのよ」
 私は、その言葉を素直に聞くどころか、ただただ面食らうばかりだった。態度が適当でも考えはしっかりしている彼女だが、あまりそれを表に出す事は無い。驚き、内容の半分も頭に入ってこなかった。
 それでもハッキリと分かったことは一つだけだ。すなわち、私の悩みなどこの親友はとっくの昔に分かって――
「だから、自信を持って告白でもしてみなさいな」
 ――分かって、って。あれ?
「……誰に?」
 私は呆けながら問い返した。
「もちろん、上倉先生に」
 その答えを聞いた途端、私は何もかもが馬鹿らしくなった。感動しそうになった自分が恥ずかしい。私が絵の悩みを見抜かれていると思い、その洞察力に感嘆していたというのに、彼女はそれを恋の悩みか何かだと勘違いしていた様だった。
 確かに、そういう目線で見ても鳳仙さんを気にするだろう。しかし、そこには重要な前提条件が抜けている。
 この私が、あの上倉先生を好きになる? そんな馬鹿げた話が現実に有るわけが無い。逆もまた然りだ。
 あんな万事に適当な人を私が好きになる訳がないし、ああも適当な人間が、私のような口喧しい人間を好む訳が無い。 
 ――私が間抜け面を晒しながら考えに浸っている間にも、彼女の弁舌は尚も滑らかさを増していった。
「そりゃ、ちょっと胸は小さめだけど、触り心地は悪くないし。容姿だって水準よりずっといいし。料理はアレだけど、世話焼きだからいい加減な人とは、逆に相性が良かったりもするんじゃないかと思うし」
「あーもー、分かった。分かりました。それじゃ、そういうことで。そろそろ美術室に戻るわよ」
 私は楓子の腕を、自分の肩から無理矢理引き剥がす。そうしてから緑茶の紙パックを一気に飲み干し、握りつぶしてゴミ箱に捨てた。
 それなりに自信を持って喋っていたらしい彼女は、自分の腕を引いて美術室に向かって歩き出す私を不思議そうに眺めている。
「……ねえ、私ってば変なこと言ったかな?」
「ええ、それはもう」
「そう思うならまあ、いいけどさ。――表の意味が駄目なら、裏側だけでも受け取って欲しいもんだね。親友のありがた~い言葉なんだから」
 意味深に笑みながら言う彼女を見やり、私はなんとなく足を止めた。
 ――私はそこでようやく、彼女の性向を思い出していた。
 真面目な話を真面目にしない人間。重い話を、相手の負担にならないようにやれる人間。さりげなく、心のどこかに残るような言葉を伝えてくれる人間。
 もしかしたら。そう、たとえ話の内容が半分くらいは誇張されたものだとしても。表がくだらない恋愛話だとして、その裏側が私の思った通りの事で、それをわざと茶化して話したのだとしたら。
「ねえ、楓子」
「ん?」
 そんなことを考えていると、その言葉は自然と出てきた。
「ありがと」
「何が?」
「いいの。分かっても、分からなくても。間違ってても、間違ってなくても。とにかくありがと。それだけ」
 彼女は、私の言葉を噛み締めるように聞いていた。無駄に思えるほど大きな間を開けてから、嬉しそうに表情を崩す。
「うん、やっぱりアンタは可愛い奴だわ」
 私の頭を小脇に抱えて、やたらと振り回す楓子。
 彼女は本当にあったかい人だ。彼女が親友として傍に居てくれる幸せを、私は抵抗らしい抵抗もせずされるがままになりながら、改めて噛み締めていた。

 廊下でふざけあっていたら教頭先生に軽くお説教を受けたが、私はお偉いさんに覚えが良かったらしく、意外と簡単に済ませてもらった。なんか同情の目で見られていた気がするのだが、これはやはり、日頃から同じ人間に苦労しているから、なのだろうか。
 ともかく教頭先生からは開放され、今度こそ美術室に戻りながら、私は思っていた。
 早く美術室へ戻り、絵を描きたい。美術室に向かう途上での気持ちが再び湧き上がってきてくれたのは、少なくともそれだけは、間違いなく楓子のお陰だった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/04/24(火) 18:28:33|
  2. 第四話

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