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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

IF……

 年末から色々なものを競い合った鳳仙さんは、卒業式より以前にフランスへ旅立った。頑張ってくださいね、と意味深な言葉を残して。
 ――いや、意味など単純極まるのだけれども。彼女にもよく分かっているのだ。ここ数ヶ月の、私と上倉先生との微妙な関係が。
 何もしない、何も言わない。卒業式までは、と自分を誤魔化し続けた長い長い道のり。
 そして今日、ついに卒業式が終わった。もう言い訳も出来ない。
 私は勇気を振り絞って学園の中庭に呼び出し、上倉先生に告白した。



 愛の告白をして、思いを受け入れてもらった。そのまま、誰かに見られるとか、そんなことは何も考えられずに抱き合って、初めての口付けを交わして。
「急いで終わらせるよ。そうだな、3時間――いや2時間ってとこだ。やっぱり先に帰るか?」
 恋人同士が始まった瞬間だというのに、先生は嫌に淡白にそう言ってのけた。
「いいえ、待ってます」
 半ば意地になって私はそう答える。
 なんだか自分だけが盛り上がっている気がして、ついさっきの天にも昇るような気持ちが勘違いだったのかと疑いそうになる。それを、どうしても打ち消したかった。
「私だって、彼氏と一緒に登下校ぐらい夢見たりするんですから。今日が最初で最後のチャンスじゃないですか。それに……」
「なんだ?」
「今日は、先生にフラれたら楓子と菫さんと三人で歌い明かそう、なんて思ってたんです。だからこの後の時間は全て空いてます。両親にもそう言ってありますけど、二人には話さないといけないし……。色々と知られちゃいますね」
 朝までという意味を言外に含んで言った。あまりに大胆な試みに、私は顔を真っ赤にしていた。
 だというのに、先生は何も気づかず、
「いや、別に三人で遊びに行っても――」
「もう。全然分かってない。私は待ちたい、って言ってるんです」
 私は頬を膨らませ、腕を組み、そっぽを向いた。――そうした後で、子供染みた自分の仕草に驚く。
 素直に甘えている、ということなのだろうか。まだ付き合い始めた、というより付き合うことが決まったばかりという感じなのに。私って、そんなに順応力があったのかしら?
「そういうもんか?」
「そういうものです。――これからは、もう少し女心というものも勉強してもらいますから」
「分かったよ。愛想尽かされちゃたまらんからな。努力する」
 そして、頑張った先生は一時間ちょっとで仕事を終わらせてくれた。その間、中庭で一人佇む時間は暇を持て余しているだけだったのに、何故だかとても短く感じた。



 鳳仙さんが留学した今、先生はマンションに一人暮らし。家に上がるのは初めてではないけれど、二人きりというのは初めてだった。
「いつまでも外で何してるんだ? 遠慮なら要らないぞ。もうエリスも居ないしな」
 玄関から入る時、私は経験したことがないくらい緊張していた。扉を支えながら私を先に入れようと待ってくれている先生に、目を合わせることも出来ない。
「お、お邪魔します……」
 鞄と卒業証書の入った筒を身体の前に両手で持ちながら、視線を上げることも無く、私は床だけを見ながら恐る恐る玄関をくぐった。
 玄関から入ると、そのまま靴を脱いで上がる。すぐに振り返って身をかがめ、靴の向きを変えてからキチンと揃えて置きなおす。ズボラな楓子辺りには『竹内はいつも几帳面だよねー』とか言われる、いつも通りの慣れた動作だ。だというのに、まるで間接が人形か何かになったみたいにカチコチで、私は靴を落としてしまった。
「あ……」
「どうした?」
「あ、あははは。なんでもないです」
 誤魔化すように笑ってから、両手で靴を揃えて立ち上がった。
 私が脇に退けると先生も靴を脱いで上がるけれど、当然のように適当に脱ぎ散らかす。私は無意識のうちに、ついつい先生の靴を拾って揃えてしまった。
「……いや、いいぞ別に」
 そう言われてから自分の行動に気付く。何故か、身体がやけにスムーズに動いた気がした。
「自分のことは駄目でも、他人の世話を焼くのは無意識に上手くやるんだな。お前らしいよ」
 優しく笑いながら言って、先生は私の頭を撫でてきた。
 何だか、とても恥ずかしくて。でも、嬉しくて。そして、
「子供扱いしないでください」
 また、私は頬を膨らませながら言うのだった。
 駄目だ、こんなの私らしくない。受け入れてもらえたのは、こんな私じゃない。妹みたいな存在の鳳仙さんより私を選んでくれた、なのにこんな反応をしていたら。私はしっかり者でいないと、先生はきっとガッカリする――。
 急に不安になったのに気付いたのかどうか。先生は私の頭を、慰めるようにそっと胸元に抱き寄せた。
「こんなに大切な奴を、どうやったら子供だなんて思えるんだ?」
 彼の鼓動が微かに感じられて、胸が高鳴る。簡単にそんなこと言わないで欲しい。もちろん、嬉しいけど――。
 大体、先生がこんな事を平然と言えるのは、私の反応を面白がっているからだ。二人居て一人が感情を露にすると、もう一人は逆に冷静になってしまうとか、そんな感じ。
 顔を真っ赤にして黙り込む私の頭を急に離すと、ぐしゃぐしゃと乱暴に掻き回しながら、先生は言った。
「ホント、可愛い奴だよなぁ。自分ではしっかり者のつもりでいるところなんか、特にな」
「実際にしっかりしてます」
「ああ。そんで、すぐに守りに入るのが悪い癖だな。好きになったら何でも良く見えるもんだ。あんまり怖がるな」
「……どうしてこんな時だけ鋭いんですか。もしかして、本当は女性経験豊富だったりしません?」
「ノーコメントだ」
 軽く笑いながら、先生はさっさとリビングへ行ってしまった。取り残された私は、慌てて付いていく。
 ――まだ僅かに残った、先生の手の温もり。それが、ちょっとだけ名残惜しかった。



 リビングに着くと、私は隅のほうに荷物を置いた。
「適当にくつろいでくれ」
 私を促しながら、先生はキッチンへ向かった。
 普段は適当に生きているのに、こういうところは律儀な辺り、いまだによく分からない人だと思う。
「私がやります!」
 強く、叫ぶように言ったのは無意識だった。先生が驚いたように振り向く。
「いや、しかしなぁ……。とりあえずもてなさんと」
「お客さん扱いはしないでください。部屋も片付いていて、先生は料理も上手いし……。じゃあ、私は何を甲斐甲斐しく面倒見ればいいんですか。せめてお茶くらい淹れさせてください」
「茶だけは、自分でやりたいところだが……」
 先生は遠慮がちに反論してきた。
 自分の家に呼んだお客はもてなすものだ。それは分かる。けれど、彼氏の部屋に上がった世話焼きな彼女は別枠扱いして欲しい。
 私が言いたい事を少しは理解してくれたのか、先生は戻ってきてソファに腰を下ろした。
「見ててください。日本茶なら、普通に淹れられるんですからね」
 何故だか対抗意識に火がついて、強い口調で言いながらキッチンへと向かう私。
「偉そうに言うことか。……ああ、冷蔵庫に冷えた麦茶が入ってる。それでいいよ」
 さっぱり信用してないし。あやうくこけそうになった。
 ――悔しいけど仕方ない。だんだん上手くなろう。幸い、料理に関しては良い師匠が目の前に居る。不自由はしないだろう。
 そんな考え事をしながら半端な姿勢で歩き出そうとしたからか、いまだ緊張の抜けない私の固すぎる動きは、またもや失敗を招いた。
「……っきゃ!?」
 私は何も無い所で、足を縺れさせて転んだ。――痛いとかそういうのじゃなくて、漫画みたいなドジッ子ぶりに軽くパニックになる。今日くらいは良いところを見せたいのに、どうしていちいちこうなるんだろうか。
「大丈夫か!?」
 先生が慌てて駆け寄ってきた。それはそれで嬉しい――と思ったら、途中で立ち尽くして目を逸らしている。の割りに、チラチラとこちらに目線をやってもいるし。いったい何のつもり――。
「……っ!」
 先生の目線を追って気づいた私は、捲れたスカートを慌てて直しながら身を起こし、そのまま裾を押さえて座り込む。
「え、ええと……あの、何事も無かったです、よね……?」
 返事は無かった。先生は口元に手をやりながら、あらぬ方向を見ている。下着を見られた、という意味だけで済めばまだマシだった。
 今日は告白しようと思っていたし、でも制服だからお洒落をして気合を入れるということも出来ないし、結果として見えないところに気合を入れた。今となっては、その――変な事を期待しているみたいで。それを今頃になって気づく私は、なんと間抜けなのだろう。
「今日はもういい。次はもっと落ち着いて来い。そうしたら、何でもやらせてやる」
「……はい」
 私は申し訳なく思いながら答えて、キッチンへ向かう先生を見送りながらソファに埋まった。
 いつも先生が座っているのはどの辺だろう。私の座ったここだったら、この柔らかさはいつも先生を包んでいるのだろうか。そんなことを思うと、失敗した事なんてどうでもよくなってきた。
 ――考えてみると、改めて実感する。私は『はじめて』に弱い人間なのだった。
 今は勉強も比較的出来る方だと思うし、周りにもそう認識されている。けれども、たとえば小学校に入学してすぐの頃は、今でも覚えているくらいに苦労したものだった。
 ただし、もちろんそのままでは終らない。その頃から負けん気が強かったので人知れず努力し、何とか慣れてきた頃には懲りすぎて、しまいには中学校の内容にまで手を出すようになっていく。そこまでしたくせに受験をしてレベルの高い学校を目指してみよう、なんて先生の提案には全く興味を覚えず、塾に行って受験のテクニックを学ぶようなことはしなかったし、両親はいつも通り何も強制しようとはしなかった。周囲は不思議がっていたが、要するに私は知らない事を知るのが楽しかっただけなのだ。勉強と同時に随分本を読んだりもしたっけ。おかげで小学生にして眼鏡っ子になってしまった。
 そんな頃、私は絵と出会う。これもやっぱり、最初はへたくそだった。
 授業で描かされただけの、自分では落書きみたいに思った水彩画。人に見せるのすら嫌で、提出するのも渋々だったのに、それが児童絵画コンクールで入選に選ばれた。
 絵って、色々な見方があるんだ――。そこに面白さを感じて、少しずつ絵に興味を持ち始めた。その後、いつしか脇目も振らずに自己流で描き続けるようになり、その結果が先日いただいた桜花展銀賞受賞という栄誉。我ながら極端な人間だと思う。
 絵が上手くなった私は、代わりに勉強は特上から中の上くらいまで落ちてきたけれど、その事について思うことは特に無い。今の私が熱中しているのは絵であって、勉強ではないから。好きな絵でも結果が出せたのだから、尚更である。
 ――ともかくいつも最初は不器用で、でも頑張れば何とかなってきた。料理だってそうだし、美術部の部長だってそうだし、もちろん彼氏彼女な関係も始まったばかりだけど、きっとそうだ。どうせ最初は上手くいかない。でも、どうせいつかは上手くいく。これは期待ではなく結果からの予測、だから何も悲観する事はない。
「ほら」
 しばらくして戻ってきた先生は、麦茶を私の前に置いてくれた。ちゃんとコースターまで用意している。ちょっと意外。
「ありがとうございます」
 私がお礼を言うと、先生はそのまま向かい側に自分の分を置いて、座った。――あれ?
「どうした、呆けた顔をして」
 言われて、間の抜けた顔をしているのに気づき、慌てて引き締める。
「……よーく分かりました。凄く大切なことが」
「改まってどうした」
「一つお願いがあるんですけど、いいですか?」
「ああ。今日は、出来る限り何でも言う事聞いてやりたい気分だしな。いいぞ」
「それなら、その……。もう少し、恋人らしいこと、しませんか」
 言われる前から安請け合いする先生に、私は顔を真っ赤にしながら言った。すると、先ほどまで落ち着き払っていた先生が急に慌てだす。
「ちょっと待て。今日付き合いだして数時間でいきなりそこまで……いやいやもちろん嫌なわけでは断じて無いが、自分をもっと大切にというかだな」
 先生も色々と思うところはあったらしい。年長者として、という考えでもあったのだろう。――どっちが怖がって、遠慮しているのやら。先生も、私の女の部分を意識していたことを知って、逆にちょっと安心してしまった。
「何を勘違いしているのか分かりませんけど、私の言いたいのはこういうことですよ」
 私は先生のところに移動して、すぐ隣に座りなおした。わざわざそんなことをしておきながら、背筋をピンと伸ばして正面を見たままガチガチになっている。本当、何をしたいのか分からない。それでも、この行動にはハッキリとした目的だけはあった。
「自分のことも、先生のこともちょっと分かった気がします。恋人らしくなるには、きっと頑張らないと駄目なんですよ」
 二人の間には、かなり強力に『距離感』というものが定着してしまっている。顧問と部長として、それだけ親しくしてこられた証明でもあるのだが、こうなると逆効果でしかない。
 これを壊すには、かなりの荒療治が必要だと思う。そう思って近づいたのだけど、私はそれ以上何も出来なかった。
「はは。情けないな、まったく」
 自分に対して言っているのか、私に対して言っているのか。或いは両方かも知れない。先生は自嘲気味に笑うと、脇で固まっている私を強引に抱き寄せた。
「きゃっ」
「いいんだよな、俺で」
「あたりまえです。他の人なんて、絶対に無理です。考えられません」
「なら、そうだな。学校での続きをしてみるか」
 何を言おうとしたのか、自分でも分からなかったけれど。余計な事を言う前に、荒々しく口を塞がれた。
 先生にも分かったのだろう。私たちは、意識してお互いを求めた方がいい。じゃないと、どこかに遠慮がある。そのままで居れば、歯車が合わなくなって駄目になるかも知れない。今から不安に思うことではないかも知れないけれど、嬉しい事に私だけの考えではないらしかった。
「……っ!」
 先生の舌が、私の口の中に入ってくる。驚いたものの、同時に当たり前のように受け入れてもいた。私も、そうしたいと思いながら踏み出せずにいたのだ。
 学校で、告白の直後、触れるだけの口付けを交わしていた。それが私のファーストキスだった。そして今、私は舌を絡ませながら、生まれて初めて大人のキスを味わっている。脳が溶けて無くなってしまいそう。心がふわふわして、心地良い。
 何分くらい、そうしていただろう。息が苦しくなって、それでもやめられなくて。とはいえ相手の息苦しさも伝わって、お互いがお互いを思いやることでようやく、口と口とが名残惜しげに離れた。
 しばらく互いを見詰め合う。余韻に浸りながら、息が落ち着くのを待って、唐突に先生は口を開いた。
「麻巳」
「……っ!」
 いきなり名前で呼ばれ、心臓が大きく跳ねる。同時に息が詰まった。
 ファーストネームで呼ばれただけで、どうしてこうも幸せなのだろう。私はどこかおかしいのかも知れない。
「一歩、踏み出さないといけないんだろう?」
 促される意味は、もちろん分かっている。自分で言い出したことだし、まだその入り口でしかないはずだ。
 喉が渇いて、上手く声が出ない。だけど、ええい、かまうものか。
「浩樹……さん」
 俯きながら、上擦った声でやっと言った私を、先生は――浩樹さんは優しく抱きしめてくれた。
「さん付けか。とりあえずは上出来かな。反応が可愛いから許してやる」
「…………」
 私は、ただされるがままに抱かれている。愛しい人の温もりが、息遣いが、世界中の誰よりも近くにあった。あんまり幸せで、身体から力が抜けてしまう。今、襲われても何も抵抗出来ない。――むしろ、その必要性を感じていない。
 こういうの、相手にとってはチャンスなんだろうな。もちろん、私にとってもそうだけど。
「今日はちょっと、暴走し過ぎたかな。少しずつ、距離を縮めていこう」
 そう言って、浩樹さんは苦しそうな顔で急に身体を離した。私は突然に温もりから引き離されて、訳が分からず呆けてしまった。
「気が利かなくて悪いな。何か菓子でも出すか」
 彼は立ち上がり、キッチンへ向かう。
 考えてみれば、さっき彼がその気配を見せた時に、私は否定してから隣に座ったのだった。そこまではしない、という意味にも取れる。確かに、そこまでは考えて無かったけど。でも、このタイミングで離れなくても……。
「あ、あの!」
 気づけば身を乗り出し、袖を掴んで引き止めていた。
「えっと、その……。あ、あの、だから、えっと……」
 傍に居て欲しい。それだけなのに、言葉が形になってくれない。浩樹さんはこちらを振り返ってはいるものの、訳が分からないという顔をしている。
 辛抱強く待ってくれていたけれど、私は意味の無い言葉を呟くだけで何も進めることが出来なかった。我ながら情けない。言いたい事なんて、最初から一つだけなのに。
 いつも鈍い鈍いと言われている浩樹さんは、今は私の事だけを考えてくれているからか、こちらの意思を僅かながら汲み取ってくれた。私の腕を握り返すと、そのまま元の場所に座る。
 そうして私の腕を掴んだまま、深刻そうな表情で言った。
「ごめんな。さすがに我慢出来そうにないから、逃げた」
「え……」
 突然言われて、意味が浸透するのに数秒を要した。我慢って何を? ――そんなの、決まっている。さっきの行為の、更にその先なんて一つしかない。
「さすがに今日そこまでいくのは、急ぎすぎだろう。麻巳だって、いきなりそこまで求められても困るだろう?」
「はぁ……」
 浩樹さんが、私を求めている。全てを欲しがっている。それを、私のために我慢までしようとしている。――夢のようで、私はその後の話を上の空で聞きながら生返事をしてしまった。
「だから、ここは一度離れよう。もう少し落ち着いたら、また抱きしめてやるから」
 その言葉に、さっきの温もりを思い出した。そして、先ほどの言葉と自分の返事を思い出す。確か、困るだろう、と聞かれて、はい、と答えた。――え、なんで?
 私が混乱している間に、浩樹さんは私の手を離して立ち上がった。元々、力の抜けていた私の腕は、彼を拘束するほど強い力で袖を握っていたわけでもない。簡単なことだが、それをしないでくれただけだ。
「もっと……」
「うん?」
 私の呟きに、浩樹さんが振り返った。それを確認してから、後を続ける。
「女心も勉強してください、って言いましたよね」
「言ったっけ……いや言った、確かに言ってたな」
 彼は否定しようとして、私の反応を見ると慌ててそれを更に否定する。
 いけないいけない。この人の物忘れはいつもの事だ。つい、いつもの癖で威嚇するような目で睨んでしまった。
 反省しつつ、私は続けた。
「イヤよイヤよも……っていうこと、やっぱりあるんですよ。今のは、私が本当に嫌がっても押し倒して襲っちゃうくらいでいいんです」
「……いや、それは犯罪だろ」
「そのまま結婚しちゃえば無罪になりますよ」
 どんなに言葉を重ねても、浩樹さんはもう我慢すると決めたらしく、簡単にはその気になりそうに無い。一度切れてしまった空気は、そう簡単に取り戻せそうに無かった。
 私は先ほどの生返事を酷く後悔した。きっと、あれが最後のチャンスだった。
 でも、そうだ。過ぎた事を悔やんでも仕方が無い。先のことを考えよう。それを教えてくれた、目の前の愛しい人の為にも。
「ともかく、菓子でも探してくる。そこで待っててくれ」
 言って、浩樹さんは再びキッチンに向かおうとする。
「待って」
 先生が暴走しそうになり、それを私のために我慢してくれた。それをもう一度と願うなら、自分が暴走してしまえばいい。
「なんだ、まだ何か……」
 再び振り返った彼は、そのまま硬直してしまった。
 私はソファから立ち上がり、その場で制服のスカートを落としていた。下がスースーして変な気分。
 なんとマニアックな、と自分でも思うけれども。このタイミングですぐに、何と言うか、そういう格好を見せるには、上からだと手間が掛かりすぎるのだから仕方が無い。
「お、おい……」
 突然の事態に、ただ狼狽する浩樹さん。私は、何だかんだと言いながらも、とりあえず目を離せないで居る彼を見て安堵していた。――ここまでして、反応が表に出てこないとさすがにショックだし。
 私は上半身も脱いでいく。Yシャツだけになり、さらにそのボタンに手をかけると、やっと彼はこちらに戻ってきた。
「この悪戯娘め」
 こつん、と軽く拳で叩かれた。結構痛い。
 わざとらしく額を押さえている私を、浩樹さんは諭すように言った。
「そんなことして、俺が狼になったらどうするんだ」
「なってください」
 真剣に、彼の目を見上げながら言った私は、彼の目にはどう映ったのか。
 疲れたようにため息を吐いてから、彼はやっと私を抱きしめてくれた。
「さっきも言ったけどな。気持ちが盛り上がりすぎてヤバイ。初めてだってのに、全然優しく出来ないぞ。また日を改めた方がいい。下手すると、激しくし過ぎて壊してしまいそうだ」
「そんな嬉しいことなら、大歓迎です」
 私も抱きしめ返しながら言った。彼の胸に頭を擦り付けていると、一大決心をして服を脱ぎだした時の興奮が冷めていく。変わりに胸に満ちていくのは、穏やかで暖かい感情だった。
「ここでは何だしな……。俺の部屋に行こうか」
「はい」
 やっと望んだ言葉が得られ、私は笑顔で答えた。
「その前に、ちゃんと服を着ろ」
「え? ……でも、これから脱ぐんですよね? またフェイントじゃないですよね?」
「今日卒業して来たんだろ。……本物なのは今日までじゃないか」
「ああ……。意外に変態さんだったんですね」
「うるせー。それに自分で脱がせたいだろ。このままじゃ俺があまりに情けないのもある。断固、仕切りなおしだ」
「はいはい」
 私は控えめに笑いながら、喜びと不安が同時に湧き上がるのを感じていた。
 これから起こることを想像すると、ちょっと怖い気もするけれど。それ以上に楽しみで、嬉しくて、幸せだった。






























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/03/21(水) 00:41:10|
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