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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

THE FAN~後編~(FORTUNE ARTERIAL 桐葉SS)

 ――――ANOTHER VIEW 千堂瑛里華――――

「仕方ない。やるだけやってみるさ。早速、交友関係の広い陽菜にでも相談してみるよ」
 そう言って、仕事に忙殺されている私たちを残して支倉君は監督生室を出て行ってしまった。
 まあ、今のところ支倉君が頑張らねばならない仕事も無い。何かイベントがある時にこそ彼には働いてもらうつもりだし、今は好きにしてもらおう。
 代わりに、紅瀬さんにはもう少し気晴らしの雑談に付き合ってもらう。
「で、本当はどうなの?」
「藪から棒に。何のことかしら」
「だから、ファンクラブよ」
 もちろん、こんな会話の間にもお互い手は止めない。
 声だけでもと思ったのか、存分に不快感を籠めて彼女は言った。
「いつまで続けるつもりなの。その話ならもう終わったでしょう」
「支倉君が居なくなったから再開したのよ。本心はどうなのか、と思って」
 紅瀬さんは手を止めて、ふうっと疲れたように息を吐いた。物憂げな表情に、私は暫し見惚れてしまう。
 ――先刻冗談の様に言った、彼女の事を好きだという言葉は紛れも無く本心だった。艶やかな黒髪には憧れるし、優しくて素直な人なのにそれを表に出せない天邪鬼な性格も、自分は冷たいと思い込んでいるのに律儀で案外付き合いが良かったりするところも、みんな魅力的だ。
 それらと比べても、この溜息は極上だった。彼女は素直に了承するような性格をしていないから、こういう反応を見せる事で仕方なくの肯定だと意思表示する。絵になるのはもちろんなのだが、それ以上に紅瀬桐葉という人物の魅力が一杯詰まった、宝物のような溜息なのだ。
 そして何より、実年齢ではずっと上の人なのに、見た目通りの若い――というよりは子供っぽい仕草が可愛く見えて、なかなか本心を見せない彼女が凄く身近に感じられる。
「どうでもいいのよ。誰がどう見ていようが、私に直接作用しなければ」
 そうは言っても、彼女は気に入らなければ見ていることも止めさせるだろう。とはいえ、今の焦点はそこではない。
「その作用があるかも知れない、って話だったと思うけど」
「出来ると思うの? 私に? 何を?」
 言われてみれば、確かに反論のしようが無い。
 何も知らないお馬鹿さんが、夜道を歩く紅瀬さんを背後から強襲したとして――さて、どうにかするには何人くらい、どれほどの武装をさせねばならないだろう。少なくとも銃器の用意は不可欠だ。何百人集めようとも、鈍器や刃物では彼女が逃げに徹した場合何一つ出来る事は残らないのだから。
 言うまでも無く、ここ修智館学院は日本の片田舎に立っている。おいそれと銃を持ち出せる訳も無いので、必然的に彼女は安全という事だ。
「でも、強制睡眠の時に襲われたら大変じゃないかしら」
「簡単に人前で倒れるヘマはしないわ」
「前にピンチがあったじゃない」
「大丈夫よ。孝平が居るもの」
 私が狼狽えるくらい、見事に断言された。
 言葉の途切れた私を前に、紅瀬さんはいつになく饒舌に続ける。
「でも、そうね。もし彼が望んだなら……」
「望んだ、なら?」
「それこそ、その怪しげなクラブを潰すわ。全力で。徹底的に。なりふり構わず」
 物凄いお惚気だ。しかし、どことなく危ういものが潜んでいる気がして心配になってしまう。
「そういうのって、ある意味依存でしょう。彼のため、という価値観で思考停止するのは良くないわ。支倉君にとってもよ」
「……馬鹿にしているの?」
「心配しているだけよ。二人とも大切な友人だから、ちゃんと幸せになって欲しいの」
 私の分まで、という言葉は危ういところで飲み込む。彼女はしばらく、探るような目で私を観察していたが、やがて再びの溜息を漏らした。
 どことなく、嬉しそうな顔に見える。私がそう見たいだけかも知れないが。
 私には支倉君ほど、彼女の表情から心理を読み取る事が出来ない。それが悔しいのだと、本当に彼女の事が好きなんだと自覚して、私は自分に対して自嘲気味に笑った。
「紅瀬さんの為なら本当に何でもするんでしょうね」
「孝平は私の身を心配してくれる。自分の方が余程弱い体なのに。だから、私自身の身は私が守らないといけない」
「勝手に無理しそう、だから?」
 紅瀬さんは答えずに薄く笑うと、書類整理の仕事に戻った。私も安心して作業を再開する。
 結局のところ、お互いがお互いの身を案じているだけ。それも頼るところは頼っているし、まあ私が口出しする領分でもないのだろう。

 ――――ANOTHER VIEW END――――





 携帯で呼び出すと、陽菜はすぐに寮の談話室まで来てくれた。他の友人達とお茶会の最中だったらしいが、嫌な顔一つしない。
 まずは感謝の気持ちを言葉にして、それからすぐに本題を切り出した。
「桐葉のファンクラブについて、何か知っていることは無いか?」
「知ってる……ような、そうでもないような」
 煮え切らない態度で誤魔化しながら、分かりやすく視線を逸らす。そもそも人が良すぎるので、陽菜は嘘を吐くのに全く向いていなかった。
 あまり強く言いたくはないのだが、やると言った以上は貴重な情報源を簡単に逃がす訳にもいかない。俺は陽菜の負担になることすら覚悟して、より突っ込んだ事を聞くことにした。
「教えてくれ。その会長が誰なのか。他の誰にも言わないから」
「お、お姉ちゃんが詳しいんじゃないかな」
「陽菜は知らないのか?」
「私の口からは、ちょっと言い難い人なの」
「教えてくれ。それなりに重要なんだ」
 真剣に、率直な言葉だけを選んで頼んでみる。すると陽菜は難しい顔で考え込んだ。
「……生徒会で、探しているの?」
 不安げに言った陽菜に、俺は無言で頷く。
「問題に、なってるのかな」
「いや、まだ大丈夫だ。今後はともかく、少なくとも今は、ごく個人的なレベルだよ」
 別に問い詰めようというのではない。まずは落ち着いてもらおうと、意識して調子を緩めながら言うと、陽菜も安心したように緊張を解いた。
「良かった。でも、放置は出来ないってことだよね」
「ああ。それで、誰なんだ? ――というか、かなでさんはどう関わってるんだ」
 さすがに陽菜の反応を見ていれば分かる。
 あはは、と乾いた笑いを漏らす陽菜は、やっと観念したように堅い口を開いた。
「実は、お姉ちゃんが会長さんみたいなの」
 それを聞いて、俺は文字通り絶句した。



 猫さんきりきりを愛でる会(本気でそんな名前らしい)の会長は、本人に確認したところ確かにかなでさんだった。なんかノリと勢いで作ったらしい。
 猫、イイネ! そんな一言から始まった僕らのパラダイス。来年はヨメが継ぐ! ってか継げ。
 そんな会話があったかどうかはさておき、嫌なら止めるね、ごめんなさいって伝えておいて、とかなでさんは俺のお願いをアッサリ承諾してくれた。
「放っておいたら、むしろきりきりにも迷惑になると思って。みんな凄く盛り上がってたから、すぐに治めるのも難しかったし。でもきりきりが嫌がってるなら、何とか頑張って解散させるよ」
 お茶会に戻っていった陽菜の代わりに、入れ替わりで談話室に顔を見せたかなでさん。
 気軽に請け負う我らが頼れる寮長閣下(正確には元だが)を相手に、俺は深々と頭を下げた。
「お願いします」
「うんうん。こーへーの頼みなら、お姉ちゃん何でも聞いちゃうよ。もちろん、法の許す限りだけどね」
「それでも十分広すぎです」
 俺の模範解答に、かなでさんは頼り甲斐のある背中を見せて豪快に笑った。
「それにしても、どうして桐葉のためにそこまでしてくれたんです?」
「う~ん、まあ面白かったのもあるけど……」
「けど?」
「お婿さんにくるんだから、守ってあげないとね」
「……はい?」
 間の抜けた相槌を返す俺に、かなでさんは楽しげに続ける。
「わたしはこーへーのお姉ちゃんな訳だし」
「……はぁ」
「で、きりきりはそのヨメッ!」
 とりあえず面倒そうなので頷く俺の目の前で、かなでさんはビシッとどっかその辺の天井辺りを適当に指差した。
「つまり、どうして婿になるんでしょうか?」
「こーへーにとってはヨメだけど、きりきりはカッコイイからムコなの」
 世話になった形でもあり、適当に流すのもズルイ気がして尋ねてみたのだが、案の定意味不明である。
 でも、何となく反論を試みてみる。
「桐葉は料理上手いですよ?」
 う~ん、となにやら考え込むかなでさん。
「なら妹にしようかな。欲しいと思ってたんだよねー」
 飯か。結局美味いもん食いたいだけなのか。
「いや……妹なら陽菜が居るんじゃ」
 そもそも、本当は果てしなく年上なのだが。さすがにそれは秘密なので、平和なツッコミにしておく。
「ひなちゃんはヨメ!」
 何故か指差された。
「ええと?」
「もちろんこーへーは弟だよ。だから、きりきりはうちにお婿さんに来るの。そしたら妹にもなるし、万歳だねー」
「しかし、桐葉の料理は……無茶苦茶辛いですよ?」
「辛いの、嫌いじゃないよ?」
「きつねうどんに一味一本、丸ごとかけます?」
 俺の言葉に、かなでさんは笑顔のままで固まった。そのままカタカタと震えている。
 ――そこまでショッキングでもないと思うのだが。桐葉と接するうちに、俺の感覚が鈍ったのだろうか。
「こーへー」
「はい」
「きりきりはあげる。だから幸せにしてあげてね?」
 もともと俺んだ。かなでさんでも譲る気は無い。
 しかし、折角諦めてくれるのだから突っぱねる道理も無く。話がまとまった事にも感謝し、盛大にお礼を言っておくことにした。





 ――――ANOTHER VIEW 千堂瑛里華――――

 放課後の監督生室。支倉君と紅瀬さんはまだ来ていないが、私は白のサポートを受けつつ先に仕事を始めている。
 紅瀬さんのファンクラブについては、話題が出てから三日しか経過していないにも関わらず、本当に消滅したらしい。
 さすがは悠木先輩、修智館学院の誇る三大魔王の一人だけある。ちなみに残る二人は、大変不本意ながらも兄さんと私で、征一郎さんは仏なんだとか。
 日が浅いからか、残る三人にはまだそういった悪ふざけ染みた呼び名は付いていない。しかし時間の問題だろう。私にも『突撃』だの『黄金の右』だの色々と付いているのだし。兄さんが三年かけて作り上げた『何でも面白がる校風』は伊達ではない。
「そういえば紅瀬さんは既に二つもあったわね……」
「なんの話ですか?」
 ちょうど私のお茶を出してくれた白が、不思議そうに聞いてきた。
「あだ名よ。悠木先輩は誰にでも使うじゃない? へーじ、のりぴー、まるちゃん……。なかなか本人の前では言えないけどね。でも、そういうのって親密な感じがして良いな、とも思うの」
 少なくとも紅瀬さんの『フリーズドライ』というのはその限りではないが、それでも私の『魔王』とかと比べれば幾分マシであろう。
「……そうですね。時々、ちょっと羨ましいです」
 言いながら、白は少しだけ物欲しそうにしている。――いや、そんな顔されてもね。悠木先輩の様にポンポン出てきたりはしないってば。
 そういえば、悠木先輩も白のことは『しろちゃん』って随分普通に呼んでいたっけ。白は我慢強くて気持ちを殆ど口にしないタイプだから、皆の事を羨ましく思っていたのかも知れない。そのうち、それとなく悠木先輩に伝えておこう。
「あの……」
「どうしたの?」
 白が何か言いたそうにもじもじしている。
「瑛里華先輩は、紅瀬先輩の事が大好きなんですよね」
「え、ええ……」
「あだ名で呼ぶと、仲良しなんですよね」
「傍目には、そう見えるでしょうね」
「……見た目だけ、ですか?」
「そりゃ、中身も親密になるきっかけくらいにはなると思うけど」
「お二人が仲良くしていると、わたしも嬉しいです」
「そ、そう」
「嬉しいです」
 念を押してから、白は監督生室を出て行った。少しだけ顔を見せたものの、今日はこれからローレルリングの手伝いに行くらしい。
 白の言いたいことくらい、もちろん分かっている。
 そして、この子が無垢な瞳で語ることに抗えないこともまた、私は最初から分かっているのだった。

 紅瀬さんと支倉君は、白と入れ違いに姿を見せた。
 私は早速、最初の挨拶からあだ名を試してみたのだが、
「きりきり~」
「……」
 私の呼びかけに答えるのは寂しい沈黙だけ。紅瀬さんは全く表情を変えず、視線をこちらに向けたりもせず、私を無視してただ黙々と仕事を続けている。
「やっぱり駄目かぁ」
 私は諦めて、仕事も一時放り出して背もたれに寄りかかった。そこに、支倉君が不思議そうに声を掛けてくる。
「なんなんだ、いきなり」
「仲良くやれたらなぁ、って思ったんだけど……。なによ、その顔は」
「いや、なんでもな――」
「い・い・な・さ・い!」
 兄さん程ではないものの、彼も私が少しくらい本気で睨んでも冗談で通してくれる。支倉君が相手なら、私も気兼ねなく本音を語れるのである。
 そんな訳で私が軽く威嚇すると、支倉君は仕方無さそうに肩を竦めた。
「とっくに仲良しに見えるんだけどな」
 彼がそう発言した瞬間、紅瀬さんが静かに顔を上げた。
「……」
「な、なに?」
 何となく気後れする私を見つめたまま、彼女は真顔で言った。
「えりりん」
 絶句するのは、私と支倉君の役目。
 紅瀬さんは何事も無かったように視線を書類に戻して、仕事を再開した。心なしか、頬の血色が普段より明るい気がする。
「実は嬉しかったのか?」
「ええと……」
 そうあって欲しいのだが、私も支倉君も半信半疑だった。私の聴力を考えれば有り得ない事なのだが、直後の態度を見ると幻聴だったのかと半ば本気で疑いたくなる。
「なあ。嫌じゃなければ……」
「わ、分かってるわ」
 疑問に思うなら、確かめてみればいい。彼女がその気であれば、今度こそ私の呼びかけに答えてくれるはずである。
 私は席を立ち、紅瀬さんの横まで歩いていって、彼女の顔を覗き込みながら恐る恐る言ってみた。
「……あの、ね。きりきり?」
 帰ってきた反応は、やはりというか残念ながらというか、最初と同じ沈黙のみだった。
「きりきり?」
 もう一回呼んでみる。反応無し。更に二度、三度――十回。二十回。
「きりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりぃーーーーっ!」
 もう殆ど自棄だった。しかし一息に連呼しすぎて肩で息をする私を前にしても、彼女は全く反応を見せない。表情の些細な変化すらありゃしない。
「少しくらい答えてくれてもいいでしょうっ!?」
「まあまあ。桐葉も照れてるのかも知れないし」
「だったら表情の一つ位は変えて見せなさいよっ!」
「……うるさいわね。会長が率先してサボっていいの?」
「なっ、なんですってぇ~?」
「いや、ほんと、落ち着いて。……ください。お願い。つか逃げていいですか」
「いいわけないでしょっ!」
 私が沸騰し、宥める支倉君が『とほほ』と漫画みたいな泣き言を漏らした瞬間だった。
「やーやー後輩諸君、元気にやってるかい?」
 無駄に爽やかな笑顔で監督生室の扉を開けたのは、不本意ながら我が愚兄だった。
「千堂先輩。丁度良いところに」
「やあ支倉君。察するところ、我が愛妹の怒りの矛先が自分に向かずに済む事を祈っているみたいだね」
「……分かってるなら何とかしてくださいよ。馬鹿言って犠牲になってくれてもこの際感謝は惜しみません。香典は弾みますよ?」
「残念だが、俺が瑛里華を怒らせても一瞬で終わりさ。吹っ飛ばされてそのまま逃げるだけだからね」
 二人の無神経な会話に、私は沸騰どころか爆発寸前だった。
 そんな私のすぐ隣に、いつの間にやら誰かが立っている。紅瀬さんだった。
「……いおりん」
 無表情のまま兄さんを指差した紅瀬さんは、平坦な声で呟くように言った。――確かに言った。
 脳内で何度反芻してもその言葉は変わらない。吸血鬼としての人知を超えた聴覚が、今度こそはと、それが聞き間違いだったという逃げ道を完全に潰してくれた。疑いようも無い。
 そして、彼女は兄さんを指差したまま感情の乗らない顔をこちらに向ける。
 告白の現場で、私が『好奇心は猫をも殺す』と言って見せたのと同じだ。自分はここまでした、さあどうする、と澄んだ湖面のような瞳が静かに語っている。
「そ、それだけは……」
「そう」
 私が拒否しても、彼女は一瞬だけ残念そうな目をしただけだった。そのまま席に戻り、生徒会の仕事を再開する。
 ――なんとなく、悔しい。
「みんな楽しく幸せに。俺としては本人にも、と思うんだけどな」
 支倉君が優しく言った。
 そう望まれるのは、素直に嬉しくもある。期待に応えたい、と直接的にも思う。私は、千堂瑛里華はそういう人間だ。そうなりたいと願い、努力を惜しまず、やっとそうなれた存在だ。
「うぅ~……」
 しかし。ああしかし。この兄に甘えるような発言だけは御免被りたい。それは紅瀬さんだって同じだろうに。どうしてああもアッサリ、悠木先輩のように呼んでしまえるのだろうか。

 ――――ANOTHER VIEW END――――





「うぅ~……」
 瑛里華会長が唸っている。気持ちは前向きなのに、理性が邪魔をしているのだろう。言った瞬間、兄にからかわれる未来は確定してしまうのだから。
「やれやれ。話が見えないんだが。どうしたんだい、みんな」
 暇つぶしに来た人が、この膠着状態を歓迎するはずもない。千堂先輩が、何かのきっかけでも探すように視線を巡らす。――と、その途中で桐葉と目が合った。
 一瞬のアイコンタクト。鋭く光る二対の双眸。そして、
「やあきりきり、今日も綺麗だね」
「そちらこそ、今日も見事な三枚目ぶりね、いおりん」
 二人は慣れた感じで挨拶交換。唖然として固まる俺と、瑛里華会長。
「ん? どうしたんだい、瑛里華?」
 興味が無いからか、千堂先輩は瑛里華会長にだけ気軽に声をかける。ついでに桐葉まで、静かな瞳を彼女に向けていた。
 二人に挟まれ、無言の圧力に小さく呻く瑛里華会長。
 やがて負けを認めたのか、意を決して言った。
「なんでもないわ。い、いおりん」
 その瞬間、千堂先輩がわざとらしく硬直する。しかし、そんな演技も一秒あったかどうか。
「おおっ。我が愛しの妹えりりんっ!」
 大げさすぎる身振り手振りで感動を表しながら、千堂先輩は金髪の愛妹を力強く抱き締めた。
「ちょっ……離して、兄さんっ!?」
「いいじゃないか。やっと甘える気になってくれたんだろう?」
 必死になって兄を引き剥がそうともがく瑛里華会長。それで終わったなら、冗談にしても結果的には兄妹の絆を深めることにはなったかも知れない。
 ――俺は、彼女が気付かぬ事を祈ったのだが。顔を伏せて震えている桐葉は、あまりにも現実離れし過ぎて気にとめないなんて事は期待するだけ無理な話だった。
「ええと、千堂先輩。否定してくれる事を祈りつつあえて聞きますが、これはやっぱり、そういうことですか?」
「面白かったろ。仕込みはずっと前だったんだが、まさか本当に役立つ日が来るとは思わなかったよ。言い出した本人が忘れてましたじゃ洒落にもならないが、いや~危ない危ない」
 あっはっは、と千堂先輩は見ているだけでイラッとする程上機嫌で笑顔を作り。
 まだ顔を伏せている桐葉は、ただひたすら震えていて。
 それ以上に物凄い勢いで身体を振動させている瑛里華会長は、やっぱり人外だった。主に、瞳を赤く染めた憤怒の表情が。いや、ここはハッキリ見える憤怒のオーラと言うべきか。
「に~い~さ~ん~?」
「なんだい、えりりん?」
「くだらん策略に紅瀬さんまで巻き込むんじゃないわよっ!」
 来て早々、懐かしの打ち上げロケットの刑を食らう元・会長であった。

 数ヶ月かけて育てた慎ましやかな桐葉勘による頼りない推察に過ぎないのだが、彼女は照れ隠しの逃げ場として千堂先輩の仕込みネタを思い出したのではないだろうか。
 まあ手段はどうあれ、これ以後の桐葉と瑛里華会長が以前よりずっと打ち解けたのは紛れもない事実である。
 実にしょーもない企みではあったのだが、我らが生徒会の結束を固める上で少なからず意味のある行動だったと、少なくとも俺だけは評価している。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/01/26(水) 07:00:33|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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