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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

THE FAN~前編~(FORTUNE ARTERIAL 桐葉SS)

 今日は、朝からずっと授業に集中出来なかった。
 生徒会に籍を置き、あまつさえ副会長の地位を与えられた人間には許されざることだ。しかし、どうしようもない。桐葉の事が頭から離れず、何も手につかない。
 だというのに、当の本人は特別変わった様子もなく一日を過ごしている。
「紅瀬! 八幡平! 少しは真面目に授業を受けたらどうだ!」
 ボーっと空を眺めている者、或いは船を漕ぎすらせず前の授業から継続して爆睡ぶっこいている者、そしてそれに激昂する数学教師。
 どれも日常の光景で、悩んでいる自分が酷くくだらない存在に思えてくる。
 頭に血を上らせた数学教師が近づいてくると、ゆっくりと視線を教室内へ戻した桐葉が口を開いた。
「何か?」
 慌てる訳でもなく、不機嫌な訳でもなく。波紋一つ無い湖のような静かな瞳は、ただ疑問の色だけを薄っすらと浮かべていた。
 数学教師が何か言おうとして、無念そうに言葉を飲み込む。誰もが分かっている事で、もちろん教師もそれを理解しているのだろう。甚だ不本意ではあるだろうが。
 彼女は退屈だから空を見ていたのではなく、二つある選択肢のうち、その方がいくらかは有意義だからそうしていただけ。
 疑う余地など微塵も無く、そこらの数学教師より紅瀬桐葉という名の生徒の持つ数学的知識は遥かに上なのだ。教師が全力で考えてきた問題を数秒の間を置いて完璧に答えるのだから、最早どうあっても教師が優位に立つ道理は無い。彼は知る由も無い事だが、学習している期間が比較にならないのである。
 とはいえ、難しい『大学受験レベルの』問題に終始する辺り、この人もまともに教育者だとは思う。有能とは言い難いが、無能とも言えず、性根が腐っていたりもしない。ぶっちゃけ、桐葉より正しい事だけは間違いない。要領が良いとは言えないが。
 そもそも全ての教師に最高の質を求めるのは酷であり、そういう意味では諦めずに注意するだけでも、この数学教師は間違いなく『マトモ』だ。もちろん桐葉にとっても同じはずだ。苛めているわけではなく、特別不機嫌なわけでもなく、あれで普通の対応をしているのである。
 要するに、どの授業でも同じこと。ただ、桐葉に構う事が無駄だと分かっていても構うのがこの数学教師だけになったというだけで、その意味では『比較的マトモ』どころか『教育熱心な良い教師』なのかも知れない。
 まあ、それも深読みが過ぎるか。実際は、単に気に入らないからだとは思う。
 しかし、桐葉に構うということは、好きか嫌いかという感情があるわけで、つまりこの教師が桐葉に良からぬ感情を抱いている可能性も――。
 そこまで考え、俺は慌てて思考を打ち消した。いけないいけない、朝の件から俺はおかしい。まずは落ち着け。余計な事は考えるな。授業に集中しろ。
 自己暗示で何とか平静に戻る。それと同時に、終業を告げるチャイムが鳴った。





 今朝の出来事が全ての始まりだった。
 桐葉が自分の下駄箱を開けると、一通の手紙が舞い落ちる。拾い上げ、中身を検めると、どうにもラブレターというやつに違いなかった。
 その後、彼女は特に気にせず一日を過ごし、俺は特別気にしながら一日を過ごし、朝の出来事が特別話題に上る事も無く一日が過ぎる。
 そうして放課後になって、俺はようやく決心した。
「なあ、桐葉」
 声をかけると、彼女は座ったままゆっくりと顔を上げる。その表情は、どこか不満そうにも見えた。
「随分、時間がかかるのね」
「何がだ?」
「別に」
 桐葉は素っ気無く答えながら立ち上がる。
「歩きながらでも構わないでしょう?」
「あ、ああ……」

 どこへ行くのだろうと思ったら、桐葉は真っ直ぐに監督生棟へと向かっていた。
 俺は安心しつつも、どこかこれで良いのかと焦燥を感じてしまう。ともかく、ラブレターへの返事はどうするのかと、今度こそ正直に聞いてみた。
「心配?」
「当たり前だろ」
 僅かに怒気を籠めて言うと、桐葉は嬉しそうに表情を緩めた。
「やっと、言ってくれたわね」
「なんだって?」
「なんでも」
 桐葉の表情は、すぐに無機質なものへと戻ってしまうが、その口調はどこか弾んでいる気がする。足取りも普段より軽い気がした。
「それで、私はどうすればいいのかしら。参考までに、貴方よりは強いつもりだけど」
「そういう問題じゃない」
「貴方が行くなと言うなら、私は行かないわ」
「それも、ううむ……」
 既にここまで来た以上、俺がどうこう言うまでもなく、桐葉が無視するつもりなのは明らかだ。
 しかし、相手にしてみればどうだろう。手紙の真意が伝わらなかったのかとも疑えるし、こういった場合はいつまでも待っているのではあるまいか。何時間も、来る保証も無い相手を。
 なんというか、凄く悪い事をしている気になる。
「私は、どうすればいいのかしら?」
 俺の思案顔を覗き見る桐葉は、珍しい事に見ているこっちまで楽しくなりそうな顔をしていた。





 ――――ANOTHER VIEW 千堂瑛里華――――

 私は今、人気の無い体育館裏に向かっている。いつもの事だ。呼び出され、告白され、そして断る。思いを向けられるのは素直に嬉しい。自身ですら認められない非現実的な存在なのに、それを打ち明けすらしないのに、肯定されている気になって身勝手な有頂天に浸るのだ。
 随分な有様だと自覚はするものの、それを改めるにはリスクも伴う。結局のところ、気分の良し悪しを共に内包する時間を消極的にしろ受け入れ続けるしかない。言い訳めいた理由が気には障るものの、それこそが救いとなっている事実も否定は出来なかった。
 もちろん全てを知ったらそうはならないかも知れないし、それでもなお好意を向けてくれるかも知れない。簡単に確かめられる事ではない、しかし結論を出さなければ期待し続けることだけは出来る。偽り続けなければ存在出来ない私には、それだけでも十分過ぎた。
 でも。好意を受けるのは嬉しくとも、それを無下に断る工程はどこまでいっても慣れることが無かった。
 自分を強く肯定してくれた相手を、自分が否定する行為。回りまわって自分自身をすら否定している気になる。
 ただ、今回は少しだけ気が楽だ。何しろ、告白されるのも断るのも、私ではないのだから。
 監督生棟へ向かう途中に出会った支倉君に、私はこの件を頼まれた。
「相手にとっても真剣だから。瑛里華会長なら、ずっと慣れているだろうしさ。頼まれてくれないか?」
 だから一緒に行ってやってくれ、ときた。概ね察しの良い方なのだが、彼はどうも時々、こういう大ポカをやらかす。
 案の定、彼の隣に立っていた紅瀬さんは不服そうだった。恐らく、単純に「行くな」とか、或いは一緒に行って毅然とした態度を見せて欲しかったのだろう。
 彼も「行くな」と言って欲しいこと位は察しているはずである。それを分かっていてなお、ついつい『筋を通す』という考え方に行き着いてしまう辺りが彼の長所であり、限界でもあった。
 人間誰しも弱点があり、魅力的な人物とはつまり、その弱点すらも好意を抱くものなんだと思う。逆の存在があるとすれば、完璧過ぎるのが弱点というやつで、これは最悪。ちなみに、そんな生物が生まれながらに極身近に居て、私はいつも迷惑している。
「それにしても……過保護すぎるんじゃないかしら。まるで征一郎さんみたい」
 私が紅瀬さんの胸中を語る訳にもいかず、となれば付き合わざるを得ないわけで、一緒に体育館裏へ向かいながら声をかける。言うまでも無い事だが、私が沈黙すれば二人の間には何の会話も生まれないのだ。
「そういうのも、楽しいものよ」
 低俗な冷やかしそのもの。紅瀬さんは無視するだろうかとも思ったが、意外にも柔らかい声が返ってきた。あまりに無邪気な表情をするものだから、私は思わず見惚れてしまう。
「どうしたの?」
 私が間の抜けた顔をして立ち止まったので、彼女も釣られて立ち止まった。
「なんでもないわ。なんというか、自分が凄く不幸な気がしただけ」
「そう」
 大して気にも留めず、私が歩き出すのに彼女も続いた。
 紅瀬さんの隣を歩きながら、無表情のはずなのに普段の近寄り難さが全く無い表情を、ちらちらと覗き見る。やっぱり怒ってない。それどころか上機嫌だ。多分だけど。
「変われば変わるものねぇ」
 支倉君とのやりとりがあって、その結果として自分が拗ねていたりしても、そんな感情すら楽しいということだろう。
 200年以上もただ存在していただけの彼女にとっては、それが感情を伴う事ならば何であれ新鮮な体験のはずだ。実際には大した問題でもないのだから、じゃれ合っているようなものだし、心配してくれたのは事実なのだから、そりゃ嬉しいに決まってる。
 振り返ってみれば、彼女が不満そうだったのは支倉君が目の前に居た時間と完全に一致する。つまるところ甘えてみたかっただけというところか。
「あなたも恋人を作れば分かるわ」
 私の考えを肯定する様に言った彼女は、しかし正反対の挑戦的な笑みを浮かべていた。
「そ、それはどうも」
 知らずどもりながら答えるわたし。何となく、負けたような気がした。

 ――――ANOTHER VIEW END――――





 ――――ANOTHER VIEW 紅瀬桐葉――――

「紅瀬桐葉さん。あなたの事がすk――」
「ごめんなさい」
 私の言葉に、なんとかいう名前の男子生徒が目の前で絶句している。
 気が急いていたようだ。視界の隅では、少し離れて見守る千堂さんも頭を抱えている。
 まあ、でもいいか。私がこんな場所――体育館裏などという何の興味も用も無い場所に居るのは、あくまでも言われて仕方無くだ。相手の気持ちは、ハッキリとどうでもいい。早く義務を終わらせて立ち去りたいのが本音。
「どうしたの?」
 気付くと、目の前で男子生徒Aが力無く項垂れていたので、なるべく優しく声を掛けてみた。曲りなりにも好意を向けられているのだから、たとえ迷惑でしかなくとも悪意を返す必要は無い。この位なら罰も当たらないだろう。
 孝平も、怒ったりはしないはずだ。いや、妬いてくれるならむしろ嬉しい。拗ねた顔を眺めつつ、ご機嫌を取る方法を模索する。それは、こんな無駄な時間を過ごすよりは何千倍も有意義に思えた。何しろ彼と過ごせる期間は永遠ではないのだから、出来れば一瞬たりとも離れたくない。――そういえばこの人、名前はさっき言っていたはずだけど。何故か記憶に無い。なんだったかしら。ここはせめて、名前で呼んであげるべきだとは思う。
 まあ、分からないものは仕方ない。時には謙虚になるのも悪くないだろう。
「千堂さん」
「……なに?」
 とても低い声が返ってきた。私の対応が拙かったからと、怒っているのだろうか。
 こんな私でも、相手の反応を見れば失敗だった事くらいは察せられる。当然といえば当然の反応なのだろう。構わず続けた。
「この人、なんて名前だったかしら」
 千堂さんがズッコケそうになった。目の前の男子生徒Aも、心なしか更に落ち込んだように見える。
 名前が知りたいと思ったのは、失礼なことだったのだろうか。
「嫌なら別に、無理に聞きたいとも思わないけれど」
「そういう問題じゃないわよっ! ……せめて本人に聞きなさい」
 頭痛でもするのか、額に手を当てながら千堂さんが言った。心なしか疲れているようにも見える。
 まあ、彼女も吸血鬼だ。疲れるなど精神的な意味合いでしか有り得ないので、気にしなくとも構わないだろう。
「そういうわけで、名前を教えて貰えるかしら」
 言われた通りに問いかけるが、しかし返事が無い。
「会話が出来る状態では無さそうね」
「誰のせいよ。もう」
 呆れたように言って、ようやくこちらに近づいてきた。
「可哀相だから、苛めるのはそのくらいにしときなさい」
 彼女が何を言っているのかよく分からない。敵対的に対応した覚えは無いのに、この人が勝手に落ち込んでいるだけだ。
 まあいい。深く考えるだけ無駄というものだ。恋愛に関して、私は彼女より経験値が少ない。始まりの門を知らぬ間に潜り抜けていたため、こういった場合の対応は全く分からない。その点、始まる直前の状態ばかり延々と繰り返す彼女は適任だ。
「フォローは任せるわ。その為に来たのでしょう?」
 無理をして怪我をしてもつまらない。始まりの門の門番みたいな人間が目の前に居て、協力してくれるというのだから、ここは任せてみるべきだろう。
「あなたって……。まあいいわ。それは確かにその通りでもあるし」
 千堂さんは私に代わって彼に近づき、優しく肩に手を置いた。
「彼女がここまで来ただけでも、あなたは特別運が良いのよ。だから元気出しましょう。男の子ならくよくよしない。ね、西川君?」
「あの、僕、西沢なんですけど……」
 力無く漏らした彼の言葉に、千堂さんが固まった。
「え、えーとその……。ほら、私が告白された訳じゃないから印象が、何と言うか……」
「覚えてないんだ。半年前、千堂さんにも告白したのに。まさか一緒に来るとは思わなくて、こっちはドキドキしていたのに……」
 彼は遂に膝を着き、土下座するような姿勢になっている。どうやらトドメだったようだ。
「あ、あの、ええと……ど、どうしよう?」
 こちらに助けを求められても。
 どうやら、私も孝平も彼女の事を過大評価し過ぎていた様だ。
「あ、あは、あはははは。ご、ごめんね~」
 私が嘆息すると、千堂さんは空々しい笑顔でその場を誤魔化した。

 その後、西沢某は十分ほど千堂さんが説得した成果か、なんとか復活を果たした。
 後は任せて帰ろうと何度も思ったのだが、千堂さんがそれを許しはしなかった。単に状況を悪化させに来た人が何を偉そうに、と思うものの口には出さない。罪があるとすれば半々だろう。私も、確かにこの場に居るくらいの義務はあった。
 一応、千堂さんがこの場を収めてくれたのは事実なので、感謝くらいはしてもいい。ただ、余計な条件が付いた事には色々と文句を言いたい。
「お詫びと言っていいか分からないけど、何か好きな言葉を紅瀬さんに言ってもらいましょう。風紀的に問題無いものに限るけど」
 それだけで瞬時に復活する辺り、高校程度の男子というのは実に単純な生物だ。
「で、何を言えばいいの?」
 なんでもいいから早く終わって欲しかった。
 好きです、などと形だけでも言って欲しいといったところだろう。気は進まないものの、この事態は孝平にも責任が有るのだから後で報告して目一杯焼き餅を焼かせれば元は取れる。
 そう思って先を促すと、西沢君はあたふたと生徒手帳を取り出す。
「こ、これを言ってもらえれば……」
 そう言いながら彼が示したのは、生徒手帳に挟まれた一枚の写真だった。
 私は一目見ただけで、そこに書かれた言葉を読むまでも無く、全てを察する。
「……殴ったら問題かしら」
「当たり前でしょう。気持ちは分かるけど」
 残念。生徒会が誇る突撃生徒会長に断言されては、下っ端役員たる私に出来ることなど何も無い。
「えと、あの、お願い……出来るんですよね?」
 私が分りやすく放つ殺気にようやく気付いたのか、西沢君はビクビクしながらもそう尋ねてきた。

 ――――ANOTHER VIEW END――――





 ――――ANOTHER VIEW 千堂瑛里華――――

 最悪なことに西沢君が持ち出したのは、文化祭のミスコンで紅瀬さんが兄さんに騙されて着た『ネコミミメイド(尻尾付き)』の写真だった。ご丁寧にも『好奇心は猫をも殺す』と迫力満点の筆字で書かれている。
 生徒会・財務担当の紅瀬桐葉が異常なまでの達筆なのは、極一部で有名な話だ。それを知っていれば、本人の直筆かと期待もするのだろう。実際には、彼女の性格からして協力する筈が無いのだが。
 恐らく書いたのはあの人だろう。ああ見えてギネス級の長生き、この程度の技能を一つや二つ身に付けていても不思議ではない。もちろん、どこかの時代で女性にウケたとかそんな理由だろうけど。
「それ、どこで手に入れたの?」
 黙ったままの紅瀬さんに代わり、沈黙が痛々しくて適当な質問をしてみる。なんとなく、答えは聞きたくない気もしたけれど。
「会長――いえ、元会長から買いました」
 やっぱり。引退してまで何やってんだか。協力しろとは間違っても言わないが、代わりに邪魔だけはしないで欲しい。
 さて、先程はああ約束したものの。
 天敵たる千堂伊織――つまりは恥ずかしながら我が兄君が絡み、忘れたい過去をほじくられすらした彼女が、協力してくれる可能性はかなり低いだろう。どうしたものか、と思った矢先に彼女の冷たい声が放たれた。
「用件は済んだわね?」
 案の定だ。ああ、どうしよう。これでは支倉君に合わせる顔が無い。紅瀬さんだって同じだろうに、自由人というものは全く持って回りの迷惑を考えない。
「言ってあげたら?」
「何を」
 試しに提案してみたら、1秒と空けずに返された。少しは私の立場も考慮してくれていいと思う。
 ――と、愚痴のような考えばかりが浮かんでいた脳裏に突然の閃き。駄目そうだけど、とりあえず試してみよう。
「好奇心は猫をも殺す」
 あの時の紅瀬さんを真似て、出来るだけ殺気を籠めてみた。私とて曲りなりにも吸血鬼、赤目に変ずる一歩手前の気迫は250年を生きた彼女にもそうは劣らないはずだ。
 しかしながら、西沢君の表情に満足したという感情は欠片も見られなかった。ただ怖がっている。容姿とか、関係あるのだろうか。私の方が怖いのだろうか。仮にも過去に私にも告白したらしい人が。泣きたくなってきた。
「やっぱり、本人じゃないと駄目みたいね」
 緊張を解き、紅瀬さんに向けて言ってみた。私はここまでやったわよ、と言外に意思を籠める。
 果たして彼女は、疲れたように吐息を零した。ここまでする私が、半端に逃がすとは思えないと理解したのだろう。一秒でも早く開放されたい彼女に残された手は、最早一つしかない。
 紅瀬さんは覚悟したように目を細め、明確な殺気を籠めて睨みつける。
「好奇心は猫をも殺す」
 ついに放たれた台詞は、同時に心臓の一つや二つは止めてしまいそうな視線のオマケ付き。決して芝居ではなく、現在の心境を増幅したものだ。
 まさにフリーズドライの面目躍如。このまま嫌われ、あわよくば悪い噂でも流されれば二度とこの様な馬鹿者も出てこない、とでも考えたのかも知れない。
 大きなマイナスの感情を叩きつけながら、紅瀬さんはせめて相手が屈するのを期待した事だろう。しかし、
「有難うございます! 感動しました!」
 西沢君は興奮気味にそう言って、大げさなくらい深く頭を下げた。そしてそのまま上機嫌で去っていく。かなり微妙な鼻歌まで残して。
 なんかもうフラれたことなんて完全に忘れているんだろうな、あれは。むしろ取り残された紅瀬さんが、そんな感じに見えなくも無い。
「……ええと。ご苦労様」
 私の労いの言葉に、彼女が答えることは無かった。

 ――――ANOTHER VIEW END――――





「そりゃ災難だったな。二人とも、お疲れさん」
 監督生室へ帰ってきた二人に事の顛末を聞いて、俺は労いの言葉をかけた。
 白ちゃんは礼拝堂へ寄って雪丸の様子を見てくるとかで遅れている。なので、俺の我侭に付き合ってグッタリしている二人には、礼の意味を籠めてお茶を淹れてやった。最近は陽菜に習いながら、お茶会の度に少しずつ練習している。
 もちろん白ちゃんや陽菜の淹れるお茶に比べればまだまだだし、これくらいで苦労に報いたとは思っていないが、こういったものは気持ちが大事なのだ。
「本当、とんだ災難だったわ。自分も真剣になれば、ああもこじれず終わるのに」
 瑛里華会長が恨めしそうに桐葉を見やった。桐葉は不服そうに、小さく鼻を鳴らす。
「どうでもいい相手のどうでもいい話、聞いてあげるだけでも親切が過ぎるというものよ」
「気持ちを確かめる事がどれだけ大変なことか、あなたなら分かるでしょうに。それこそ、私なんかよりずっと」
「知らないわ。私は了承しただけだもの」
 ね、なんて感じで俺を見る桐葉。否定する訳にもいかず――というかその通りだったので、ぎこちなく頷く俺。
「ふむふむ。二人の始まりは支倉君からと。やっと少しだけ情報が得られたわね」
「……チョットマテ」
「何かしら、紅瀬さんの彼氏殿?」
 悪戯っぽく笑っている瑛里華会長。あんまりにも眩しい表情に圧倒され、俺は言葉を飲み込んだ。
 こういう時、千堂先輩の妹なんだなぁと改めて思う。まあいいさ、機嫌が直ってくれたのなら。ちょっと遊ばれるくらい何でもない。
「なんだか今、凄く失礼な事を思われた気がするんだけど」
 実際に心が読めてそうなところもまた、彼女は自身の兄にそっくりである。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





中編へ続く
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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/12/26(日) 00:45:07|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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