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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

黒猫さんと白兎さんたち

 白が生徒会での活動にもっと参加出来るようにと、なるべく誰かがローレルリングの活動を手伝うようにしよう、ということになった。
 第一に、今後の為に白にも生徒会の仕事を実践し覚えてもらう為。いざ彼女が三年になった時、誰もノウハウを知らないでは困るどころの騒ぎではない。
 第二に、生徒会としてローレルリングの人員不足を改善するという正式な生徒会活動。生徒会が率先して手伝うことで、人手不足に悩む活動に、所属していない人間も気軽に参加出来るようにという考えだった。
 ちなみに、今回の企画を提案したのは千堂瑛里華会長である。



 そしてローレルリングの手伝いが開始されて数日。その日は財務担当の紅瀬桐葉が手伝いに来ていた。
 しかし、礼拝堂に入っても誰も居ない。物音がして、ふと目を向けると小さな白兎が高いところで震えていた。
 ふう、と溜息を一つ。どうにも、この小動物は桐葉を警戒するところがあり、身近な存在でありながら抱いた事は一度も無かった。孝平や白が面倒を見ている時でも、だから桐葉は少し下がって様子を見ている。
 しかし、逃げ出したゆきまるを放置する訳にはいかない。礼拝堂の奥か周辺には居るはずのシスターか白を呼ぶにしても、ここを動いてはゆきまるを見失うか落ちてしまう可能性もあるし、大声を出してもご同様。自ら降ろしてやる他に手は無かった。
「仕方が無いわね」
 誰に向けての言葉か。独り呟きながらも、真剣な眼差しでゆきまるの行動に警戒しつつ、桐葉は手を伸ばす。しかし、奥の方で震えているだけで寄ってこない。協力してくれないと手が届かない位置なので、桐葉は困ってしまう。何か台になるものを持ってくるにしても、その間ここを離れるのが危険に思える。
 目の前で危ない事になっても何かできるかも知れないが、誰もいない時に落ちたりすればどうなるか。
「おまえ、どうやって昇ったの。聞いても、分からない……か」
 どうやら永遠の謎となりそうである。意味のない幻想的な考えに、くすりと笑う。
 こんな自分を見たら、孝平はどう思うだろう。思ってくれる、だろうか。
 ふと、ゆきまると目が合った。鳴いたりしないものの、助けを求めているように見えない事もない。
 ――なんとなく、ゆきまるの警戒心が薄らいだ気がする。
「ほら、おいで」
 呼びかけてみる。しかし、やはりいきなり身を預ける事はしない。
 今みたいなやりとりを数日繰り返せば或いは仲良くなれるかも知れない。しかし、今はそんな時間は無い。
 桐葉は、実のところ動物は概ね嫌いではなかった。
 今では孝平だけでなく、生徒会のメンバーは心得ていることだが、桐葉が嫌いではないとわざわざ言うのは好きだということである。本当に嫌いではない、という場合はどうでもいいので口にもしない。
 しかし、よりにもよって自分を嫌っている個体とは。この上どうしろというのか。途方にくれる桐葉。その時、瑛里華の顔が思い浮かんだ。
「そういう時はね、笑えばいいのよ」
 先程のは、僅かながら確かに笑みだったかも知れない。もっと大きく笑えば、警戒を解いてくれるのだろうか。しかし、どうして時には食料ともした動物のために、自分がそこまでしなければならないのか。
「あら。出来ないの? 私は出来るわよ」
 誇らしげに笑う瑛里華。
 ――もちろんイメージしただけなのだが、なんとなく気に入らない。気に入らないので、笑ってみた。
 口端を持ち上げてみる。なんか余計に怯えられた。
「我侭な兎ね」
 一度離れて、ゆきまるを見つめながら真剣に悩む。いつの間にか手を顎に当てていた。孝平にも指摘された事のある、考え事をするときの癖
 ふっ――と零れる笑み。震えを止めるゆきまる。やはり、笑顔の効果は大きいらしい。
 しかし、これ以上どうすればいいのか。残念ながら作り笑顔などした記憶がない。この自分には生まれつき、そんな機能は備わっていない。
 ではどうするか。笑顔には定評のある瑛里華を更に思い出してみるものの、考えてみれば瑛里華が相手で動物を安心させるほど落ち着きのある優しい笑みに辿りつける訳が無かった。
 ならば伊織ならどうか。あれはスルーが常なので、とりあえず思い出すだけで落ち着ける。
「そういう時はね、顔だけじゃ駄目なのさ。もっとこう、楽しいことでも思い浮かべないと」
 なるほど。良い助言が思い浮かんだ。
 では楽しいこととは何だろう。
 決まっている。孝平のことしかない。
 では何がいいか。そういえば昨日、何気ない会話の内容から、随分冷やかされていたっけ。あの時の顔といったら。男なのに、どうしてああも可愛いのかしらね。
 思い出して、自然に笑みがこぼれる。心なしか、ゆきまるの警戒も今までに無く緩んだ気がした。
 そうか、これでいいのか。
 なら簡単だった。ゆきまるを、あの時の孝平の顔に重ねて見ることにする。いくらでも笑みがこぼれた。
「おいで」
 手を伸ばすと、ゆきまるは恐る恐る近づいてくる。届くところまで来たので、後は手で支えながら胸元に降ろす。
 そのまま抱き締めてやると、意外なほどふかふかで暖かい。でも、ゆきまるはまた震えている。いざ身を預けると、捕まったという意識に切り替わってしまったのだろう。
「まだ怖いの?」
 自覚は無いものの傷つく桐葉。しかし、悲しいかな彼女はそういった感情に慣れていた。
 優しく床に降ろしてやる。名残惜しいが、ストレスになるなら身体にも悪いだろう。何しろ小さな動物なのだ。大切にしてやらなければ。
 ゆきまるは、礼拝堂の扉に向けて駆けていった。そこには白が居て、白がゆきまるを抱き上げる。
 桐葉は気付かなかったが、白は大分前から扉を開けて入ってきていて、一部始終を見ていた。
「いつから居たの?」
「えっと、さっき……です。声もかけたのですが」
「盗み見るような真似は、感心しないわね」
 無理矢理笑顔を作っていた自分を想像し、気恥ずかしさを覚えた桐葉は素っ気無さを装う。孝平や瑛里華なら照れ隠しだと分かったろうが、
「もっ、申し訳ありませんっ」
 ゆきまるを抱いたままの白はそこまで分からず、必死でペコペコ頭を下げた。
 桐葉は何となく負けた気がして、苦笑した。それを意識すると、自然に手が自らの顔に触れる
「どうかしましたか?」
「いいえ。何でも無いわ。ただ――そうね、珍しかったのよ。きっと」
 不思議そうに首を傾げる白だが、深く詮索はしなかった。桐葉が気分良さそうにしているからだろう。
「ところで、あの、もう少しゆきまるを抱いてあげて頂けませんか?」
 何故、と問う暇も無かった。白は答えを聞くまでもなく、小さなモコモコの動物を桐葉の胸に抱かせる。
 反射的に受け取ってしまって。しかし後悔は無かった。
 再び腕に収まった小動物は、柔らかくて暖かくて。もう桐葉に対する警戒心も無くなっていた。ただ抱いているだけなのに、心がほっこりしてくる。
「うさぎ鍋」
 頬ずりしたくなって、照れ隠しからつい、桐葉はそんな単語を口走る。
 ビクっと震えて、ゆきまるは桐葉の腕から飛び出した。しかし空中で捕まえられて、またすぐに桐葉の腕に収まる。
「……にするつもりだったのかも、知れないわよ」
 照れ隠しだとも言えず、そのように誤魔化した桐葉。
「そんなこと、しません」
 しかし白は珍しく強い眼差しで、毅然と言い返した。強い意思を見せることの少ない白だから、桐葉は不思議そうな顔をする。
「紅瀬先輩は、優しい人です。ゆきまるを助けてくださいました」
「ただの偶然。それと気紛れよ」
「いいえ、優しい人です」
「そう」
 どうでも良さ気に受け流す桐葉だったが、頬に差した朱色は決して夕日のせいだけでもなかった。



 どうやら桐葉はゆきまるとのにらめっこで相当な時間を消費していたらしい。何時の間にやら日が傾いていた。白も白で外を探し回っていて、こんな時間まで正規の仕事を少しもしていなかった。
 という訳で、休憩してからとの白の提案はアッサリ却下され、ゆきまるを飼育小屋に戻すと、二人はすぐさま作業に取り掛かる。シスターは、何か問題があったとかで寮に戻っている。今は白と桐葉の二人だけだ。
 作業、といっても特別な事はない。不慣れな生徒会役員の手伝うことは、基本的に誰でも出来る事。礼拝堂とその周辺の掃除だ。
 端から見て行動的には見えない桐葉だが、一度受け入れたなら半端な事はしない。誰よりも真面目に取り組む事で、一秒でも早く終わらせようとする。
 古風な考えを持つ――というより実際に古い生まれの彼女は、隅々まで丹念に、それこそ日頃の感謝を込めて磨く白よりも念入りに礼拝堂を磨き上げていく。そもそもは難癖をつけられない為にそうなったのだろうが、白は桐葉への羨望を更に深めていく。
 今は掃除もろくに出来ない人間が増えているが、昔の日本人はよく動いたものだ。
 かなりのペースで何もかもを磨いていく桐葉だったが、それを何十分続けても疲れた様子を少しも見せない。
 決められた仕事が終わりそうにない。とはいえ、そもそも善意で手伝ってもらっているのに、無理をさせては忍びない。さすがにそろそろ休憩をと、白は紅茶と和菓子を――生憎ここには紅茶しか無かった――持ってきた。しかし、余りに真剣に打ち込んでいる桐葉の姿が新鮮で、それに見惚れるほど美しくて、だからしばし呆然と見入ってしまう。
「あの、お手伝いは嬉しいのですが。そこまで頑張ると……お疲れになりませんか?」
 そこでやっと白の存在に気付いたように、座り込んで椅子の足を拭いていた桐葉はピタリと動作を止めて立ち上がった。
「面倒な事は早く終わらせる主義なの。それに、この程度で疲れはしないわ。私、人より丈夫だから」
 明らかに、他人、という意味ではなかった。余計な言葉を使わせてしまったと、白は申し訳なくて縮こまる。
「す、すみません……わたし……」
「事実は事実、私も特別気にしていないわ」
 言いながら、桐葉が近づいてくる。桐葉は身構える白の手に持った盆から紅茶とお饅頭を受け取り、並んだ椅子の一つに適当に座り休憩を始める。
「ありがとう。とても美味しいわ」
 無表情のままで、紅茶に口をつけるとそう言った桐葉だったが。
 そこで、彼女の味覚が鈍いことに思い至り、白はまたも慌てた。
「す、す、すみません。私……あの、紅茶を……」
「なに?」
 感情の乗らない瞳が、白を見ている。
 悪い人では――いや、明確に良い人だと知っている。大切な、大好きな友人の一人。千堂瑛里華と並び、憧れの先輩でもある。
 しかし、二人きりでこの瞳に見つめられると、どうにも気後れしてしまうのだ。自分はこの人を大好きだけど、この人は自分をどう見ているのだろうかと。
 自分が好きなら、それでいい。大切な相手なら、優しく接する。そう考えて生きてきた白にとって、相手の、自分に対する気持をここまで気にするのは生まれて初めてだった。
「次はもう少し、濃い目に淹れてもらえるかしら?」
 桐葉は素っ気無く言って、紅茶をさらに一口飲んでから、饅頭に口をつける。
「は、はいっ」
 今のは気遣われたのだろうか、と白は想像を働かせる。孝平や瑛里華と話している時の彼女は感情までよく見えるのに、自分が直接話すとよく分からなくなるのだった。
 そこでふと、白は気がついた。桐葉の口端に、白い粉が付いている。
 なんだか、とても不思議なものを見た気がした。
「どうしたの?」
 不審に思ったのか、桐葉も手を止めて白を見ている。
 白は無言のまま微笑んだ。桐葉は首を傾げるが――ハンカチを取り出し、それを拭いてやる白。
「……ありがとう」
 そう言った時の彼女は。
 いつも怜悧な光を宿している切れ長な瞳の目尻が、少し緩んだ気がした。



 休憩後、外を掃いて終わりにしましょうという白に対し、
「まだ中が終わっていないわ」
 桐葉は、確かローレルリングの手伝いについて、瑛里華が提案した時は気乗りしない風だった。それが、いざ作業を始めればこれである。
 白が心の底から溢れる花の様な笑顔で対抗すると、桐葉が面食らった様に顔を背けた。
「今日だけで全て終わらせる必要はありません。少しでもするべき事が減れば、それだけで凄く助かります」
 暗に仕事を全部無くされても困る、というニュアンスを含む。桐葉は半端に終わらせるのが不満なようだったが、ここは現場監督の指示に従った。
 数分ほど竹箒で掃除をしていると、桐葉の足元に兎がやってきていた。ゆきまるが、また飼育小屋から逃げ出してしまったらしい。
 桐葉の足元で、ぶるぶると震えている。
 白は慌ててゆきまるを抱き上げ、謝った。
「……怖がるくせに、どうして私のところへ来るのかしら」
 そう他人事のように呟く桐葉は、どこか寂しそうにも見えた。
 なんとなく、察する白。自分と同じなのだと。
 気に入った相手。でも、同時に怖い。分からない。だから、近づいても触れられずに、足元で震えている。
「先輩」
「なに?」
「ちょっと、しゃがんでもらえますか?」
「……?」
「お願いします」
 怪訝そうな顔をする桐葉だったが、引く気を見せない白に諦めたように溜息をついた。
 しかし、頼みを聞くのに仕方無さそうにするのはいつもの事である。嫌だ、と言わなければ嫌じゃないのがこの人の本質だと孝平から聞いていたので、むしろ可愛く見えてしまう。
 今度は、何かを抱えるように手を出してくださいと頼む白に、桐葉は素直に従った
 そこに、白はゆきまるを乗せてやる。
「撫でてあげてください」
 明るい笑顔で言う白に、不思議そうな顔で従う桐葉。
 桐葉のしなやかな手が触れると、驚いたようにゆきまるの小さな身体が震えた。桐葉も、どこかおっかなびっくり。
「……」
 最初は無言、無表情。
 でも、二度目は少し目尻が緩み。
 三度目になると、表情全体が柔らかくなる。
 白は知っている。動物に触れると、凄く気持ちが暖かくなるのだ。もちろん、それは人間相手でも同じ。ただ、人は人となら、直接触れなくとも同じ気持ちになれる。
 そう、素直に話すだけで。
「綺麗です」
「え?」
「先輩は、とっても綺麗です」
 撫でるうちに震えの止まったゆきまるを、尚も愛おしそうに撫でながら。
「そう」
 口調だけは素っ気無いままの桐葉は、しかし見たこともないくらい緩んだ笑顔になっていた。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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  1. 2010/11/06(土) 01:32:40|
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