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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

もしもの出会い~金髪変~

 春休み中に転校してきた支倉孝平は、旅の疲れを癒すために初めて白鳳寮の大浴場へと向かう。
 全寮制の学校は初めてだ。それなりに期待しながら大浴場にて準備を済ませ、彼は大浴場への扉を開けた。
「……え?」
 口から言葉が漏れたのは彼だけだった。
 目の前に立っていた女性は息を呑んで硬直し、向き合う男もまた同じく動きを止める。男は女に見惚れ、女もまた事態を理解出来ぬまま思考を停止させている。
 女の黄金色に輝く長い髪は水分を含んで肌に張り付き――
「きぃぃいゃあああああああああっ!」
 などと鑑賞する暇などもちろん無く、金髪の女性は奇声を上げながら殴りかかってきた。
「うおわっ!?」
 反射的に飛び退いた、直前まで居たその空間を薙ぎ払う『なにか』が恐るべき轟音を立てて通り過ぎる。
 空気を切り裂く音だと気づいたのは、そのまま壁際まで這うように逃げて忘れていた呼吸を再開させた後だった。
「なっ、なにをするんだ!」
 身の危険、いや命の危険を感じた。心臓が壊れそうな勢いで暴れている。殺意がどうとかはわからないが、とにかく当たればただでは済まない一撃だった。
「それは私の台詞よ!」
 しかし叱責を受けた彼女は恥ずかしげもなく仁王立ちし、憤懣やるかたない様子でフライパンを振りかぶっている。ぷんぷん、といった表情。
 ――いや、そもそも女と呼んでいいのかどうか。確かに容姿は抜群なのだが、胸板は男らしく引き締まった筋肉にのみ覆われており、女性らしい膨らみは皆無。あまつさえ股間には、つまりアレが付いていたりもする。
「ええと、副会長……さん……?」
 本当は男だったのか。それを見られたから口封じという訳か。先程の一撃が鉄製のフライパンだと知り、孝平は死を覚悟した。
「ゆるさない、ぞっ♡」
 目を閉じた孝平の頭に、軽くコツンととぶつけられたフライパン。恐る恐る目を開いた孝平の目の前で、美女(仮)は頭に手をやる。そして美しい金色の髪を無造作に毟り取った。
「か、会長っ!?」
「はっはっは。いやあ、悪かったね。僕なりの歓迎のイベントとでも思ってくれ。本当は本物にしてやりたかったんだが、征の奴に――ええと、生徒会の財務の、あの眼鏡かけた奴ね。アレに力尽くで止められてさ。まったく横暴な奴だよね」
 訳も分からず目を白黒させている孝平に、生徒会長の千堂伊織は手を差し出した。
「妹が失礼をしたね。代わりに僕なんかの手でよければ、是非とも握ってくれたまえ」
 どう応えて良いものか分からず、しゃべらずに済むという理由だけで手を出す孝平。伊織はその手をしっかりと掴み、勢い良くぶんぶんと振り回した。
「よしよし、これで僕らは今日からお友達だ」
「え~と……はい、よろしく」
 特に問題はない。自分が受け入れればそれで済む話だ。それほど悪い人にも見えないし、単に悪戯好きなだけだろう。
 今度は孝平の側から手を差し出す。すると伊織は子供みたいに素直な笑みを浮かべて、その手を取った。
「何やら楽しそうですね」
 ――と。男の友情を交し合ったその直後である。唐突に風呂の扉を開けて、誰かが大浴場に入ってきた。二人はそろってそちらを見る。硬直したのは三人同時。
 光が透けると紫がかった色合いを見せる、緩く波打つ黒髪。優しさと意志の強さを同居させる大きな瞳。その下に位置するホクロも、大人の色気を感じさせる重要なパーツだ。しかしそれらを引き立て役として端に追いやる、圧倒的ボリュームを誇る胸の膨らみにばかり目が吸い寄せられてしまう。
 男二人の視線を追って、彼女の視線もそこへ止まった。
 幸いにもタオルを体の前に持っていた為、致命的な何かが見える事は無かった。しかし、それで済む問題でも無いのだろう。
 彼女は、確かめる様にもう一度男二人を見回して。それから俯き、ブルブルと震えだした。
「あは、あはははは。いやあ、俺としたことが」
 突然正気に戻った千堂会長は、何故か手にしたフライパンを目の前の女性に渡す。
「志津子ちゃん、はいこれ。勝手に借りてゴメンね」
 彼女は無言でそれを受け取る。受け取って、
「天誅!」
 ずがん、とか。どがん、とか。そんな音はしなかった。
 冗談みたいな話だが、一つのモーションも大した音も無いままで。彼女の手に有るフライパンは、千堂会長の頭を貫通し首輪の様になっている。
「は、はははは……は……」
 何かを諦めた様な笑い。生徒会長・千堂伊織は仰向けに倒れ、今度こそ物音が大浴場全体に反響する。いかにも憎まれっ子世にはばかりそうな彼だが、実にアッサリと永遠にも見える眠りについた。
「さて、支倉くんでしたね」
「はっ、はいっ!」
 そういえば友人一号が言っていた。フライパンでマジ殴り。シスター天池。まさか目の前でそれを拝めるとは思わなかったが、欠片も嬉しくはなかった。
 いや、不幸中の幸いというべきかフライパンが失われている。それだけは喜んでもいい。
 美人の殺気に満ちた無表情というものが、こんなにも恐ろしいと孝平は生まれて初めて知った。





「ねえねえ、こーへー」
「なんですか、かなでさん」
「女風呂に突撃して、フライパンでマジ殴りされたって本当?」
「どこで聞いたんですか」
「そこでいおりんが」
 あれから10分後、大浴場前の廊下である。
 シスター天池は後ほど指導を行ないます、と言い残し気絶した千堂伊織を連れて大浴場を去っていった。孝平はシスターの残していった言いつけを守り、ここで正座の罰を甘んじて受けている。
「ええと、いおりんとは千堂伊織会長のことですか?」
「そだよ。なんだかまるちゃんと楽しそうに追いかけっこしてた。二人がかりで言いふらしながら走りまわってたから、たぶん明日には全寮生が知ってるんじゃないかな」
 そもそも何で元気に走っているのか。孝平が尋ねると、かなでは答える前に孝平の隣に並んで正座する。よっこらせ、とわざとらしい掛け声のオマケ付きだった。
「いおりんは対こーへー用歓迎グッズを作ったんだって。それでマルちゃんから逃げようとして、でも途中で気づかれて追いかけっこになったとか何とか」
「そのマルちゃんって何ですか?」
「シスターの事だよ。マルガリータで、まるちゃん。洗礼名」
「なるほど。つまり俺に対する悪ふざけが、結果的に転用されたって事か」
 咄嗟に生き延びる為にダミー凶器を渡すとは。大した機転の持ち主らしい。
「ところでかなでさん、どうして正座してるんですか?」
「こーへーとお話しようと思って」
「正座の必要は無いと思うんですけど」
「独り占め反対!」
「はい?」
「お風呂の前で正座するのは自由なはずだよ。こーへーばっかりズルイ!」
「それじゃ、私もいいかな?」
 いつの間にやら、かなでの妹の陽菜まで現れていた。
 悠木姉妹揃い踏みである。
「よーしひなちゃんはそっちだ。こーへーを囲い込んで、このままじっくりコトコト煮込んじゃおう!」
「わあ、美味しそう。でも、それなら湯船を使った方が早いんじゃないかな」
 言いながら、陽菜は孝平を挟んで姉の反対側に正座した。
「女風呂でもいい?」
「う~ん、どうだろう」
「いや、勘弁してくれ。ほんと。冗談抜きで凹んでるんだ……」
「そうなの?」
 姉に付き合って小芝居モードだった陽菜が、心配そうに訪ねてくる。
「今まで転校ばかりで、色々あってさ。でも全寮制のここなら、と気合を入れて学校生活に臨むつもりだったんだ」
「出鼻、見事に挫かれちゃったね」
「そうでもないよ」
 かなでは勢い良く立ち上がり、こーへーのオデコにデコピンを見舞った。
 手加減なし、かなり強烈でやせ我慢するつもりだったのに自然と涙が滲んでしまう。
「お、お姉ちゃん!」
 慌ててこちらも立ち上がる陽菜。かなではにっこり笑って、
「ほら、こーへーも立って」
「いや、でも俺は今シスターに言われて……」
 額を抑えながら涙声で返す孝平だったが、かなでは孝平の腕を掴んで強引に立たせようとする。抵抗するのも悪い気がして、孝平はその場に立ち上がった。
「私からお仕置きしといたって伝えておくから。寮長の肩書きは伊達じゃない!」
 えっへん、と胸をはる悠木一号。
「酔狂ではあるけどね」
 付け加えた同じく二号の一言に、格好良く決めていた姉は盛大にズッコケた。
「もう、ひなちゃん。ここはカッコよく決めるところだったのに~」
「ふふ、ごめんねお姉ちゃん。……孝平くん、落ち込む事なんて無いよ。私たちはちゃんと、孝平くんの事を見ているから」
「そうそう。私たちはいつでもこーへーの味方だよ。それにさ、上手くいく事だけが目標じゃないでしょ?」
 孝平は転校に際して誓った。上辺だけの人生を捨てて、あらゆるものにぶつかっていくと。
「ありがとう、二人とも。今まで無難に生きてきたせいか、怒られ慣れてなかったんだろうな。ちょっと元気が出てきたよ」
「うんうん。そういうタフさだけは、いおりんを見習うべきだね」
「見習いすぎるのも危険だけどね」
「ははは。まあ、あの人にもいずれ何らかの形で挨拶はしておきますよ。せっかくの縁ですし。それに、誰よりも手の込んだ歓迎をしてくれたのも事実ですから」
「それは違うよ、こーへー」
「え?」
 悠木姉妹は左右から孝平の腕を取り、移動を促した。
「ど、何処へ行くんですか!?」
「もちろんこーへーの部屋だよ」
「歓迎を兼ねたお茶会を開こうと思うの。いいかな?」
 違う、という言葉はつまり。
 一番歓迎しているのは会長ではない、という意味で。
「俺の為に……?」
「うん。いおりんになんて負けないんだから。期待しててね」
 かなでの自信満々の笑顔は太陽の様で。
 まだまだ転校生活で染み付いた無気力さが抜けきっていない孝平には、いささか眩しすぎたのも事実だったが。
「はい!」
 精一杯の声を張り上げて、たた一言そう答える。
 それは愉快な学院生活の始まりを告げる号砲となる。そうして見せると、孝平は密かに誓うのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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