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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

もしもの出会い~桐葉編~ 後編

 友人も順調に増え、幼馴染みとの再会やら悪友の獲得やら色々あった。
 残念ながら桐葉と再び出会う事は無かったが、ご縁があればと言われたので無理に会いに行くのもルール違反だと考える孝平である。そこまでなら律儀に過ぎると呆れられそうなものだが、もし縁があれば微塵も遠慮するつもりは無かった。
 何にしろ新学期が始まりさえすれば、校内で出会う確率は寮生活より高くなる。日々を過ごす目標があれば張り合いも違うというものだ。
 そして、それなりに明るい未来を想像しながら迎えた始業式の日。
 壇上に立つ金髪碧眼の会長とやらの、真面目腐った文句を右から左へ聞き流しながら桐葉をどう説得しようかと考え込んでいた孝平に、突然無数のスポットライトが当てられる。
「……だからといって、全裸で女風呂へ突撃するのはやりすぎです」
 直前の下りを全く聞いていなかった孝平には状況が飲み込めない。ただ、壇上の男が先ほどまでの固い表情を捨てて子供の様な純粋無垢の笑みを浮かべているのを見て、一つだけ大事な事を思い出した。
「この学院の生徒会はおかしいのよ。特に会長が。気をつけることね」
 数日前、とても親切な美女にそう忠告されたのだった。つまりコイツは、風呂場での悪ふざけをやらかした張本人。
「ところで紅瀬ちゃんの裸はどうだったのかな~。お兄さん、そこのところ詳しくあべっ!?」
 壇上の会長に向かって、何やらとても大きな物体が高速で飛来した。少なくとも孝平の動体視力では影くらいしか認識できないスピードである。普通なら死ぬ。
 死んだ筈の会長は、しかし壇上で元気にピクピクしていた。何事かとザワつく講堂内。そして数瞬の間を置き、孝平に当てられたスポットライトが全て同時に消えた。壇上も暗くなり、そういえば会の最初から暗幕が張られていた為に講堂は真っ暗で、そこで何があったのかは分からない。
 しばらく壇上から激しい物音が続いた後、再び照明の光が戻った時にはそこに男の姿は無く。代わりに、同じ色の目と髪を持つ美少女が立っていた。
「あれは……」
 孝平には見覚えのある女生徒だった。確か千堂瑛里華と名乗っていたはず。
 この学院へやってきた初日、最初に出会って学内を案内してもらった。途中までで何処かへ消えてしまって、後は今も仲良くしている八幡平司に案内してもらったのだが。
 初対面で握手をしようとして、手が触れた瞬間に飛び上がっていた。その後もどこか挙動不審で、妙な態度ばかりだったし、何より桐葉に匹敵するほどの美人なので強く印象に残っている。
「唐突だけど、この手が見えるかしら」
 彼女は自らの手を高く掲げた。
「迷惑王はこの手で成敗したから、皆さんどうか安心してください。尚、お風呂に入る時は十分に注意するように。左右のどちらが男風呂で女風呂か、ちゃんと把握しておく事。守れない人は――分かるわよね?」
 素晴らしい笑顔を振り撒く金髪美少女は、しかし仁王像よりも怖かった。周囲の殆どが男女の別すら無く、その機能にのみ特化したロボットみたいに頷きまくっている。孝平はそんな誰よりも強くその言葉を心に刻んだ。
「以上、生徒会副会長・千堂瑛里華でした」
 ぺこりと頭を下げてから、彼女は何かを引き摺りながら退場する。ボロボロの布きれに見えなくも無いが――。
 孝平は深く考えるのをやめて、ただ手を合わせるのみとした。


「お前が神か!?」
「許せないわ女の敵!」
「勇者よ! ――で、実際どうだったんだ!?」
「やっていい事と悪い事があるでしょ!」
「シスターとどっちがっっっっっっ!!??」
 などなど、新しいクラスはのっけから大騒ぎ。もちろん話題の中心は孝平だった。
 だったというのは、最初こそ確かに孝平に詰め寄る群集という構図だったものの、今では何故か興味津々の男子どもと怒りに燃える女性陣での睨み合いに発展。もはや当事者のはずの孝平は蚊帳の外だった。
 教壇ではクラス担任の青砥正則――通称アオノリ――が早々に諦めて椅子に寄り掛かりくつろいでいる。くたびれた外見と違い、実は結構大物かも知れない。
「最低!」
「あれは事故だろ!」
「その言い訳が最低なのよ!」
 ちなみに考平本人は、一言も言い訳などしていない。そんなチャンスも無かっただけだが。
 騒ぎの最中でも、一番後ろの席には安らかに眠る男が一人。こいつもまた大物だった。
 ――と、そんな騒々しい状況で唐突に教室の前側の扉が開かれる。誰も彼もがピタリと止まり、教室に入ってきた女生徒に注目した。
 他の誰だったとしても状況が状況だけに無視されたであろうが、しかし彼女だけは明らかな例外である。
「すいません、遅れました」
「初日から遅刻とはやってくれるな、紅瀬」
 担任も放棄した仕事を拾い直す事にしたらしい。状況を立て直すにはタイミングが肝心だ、その好機と見たのだろう。その瞬間まで放置出来る辺りは大したものだが。
「どうも」
 そこで礼を言う者は更に凄い。
「他の連中は既に終わってるんだ。お前も適当に自己紹介しろ」
「紅瀬桐葉です」
 桐葉は生徒達の方向を向き、軽く会釈しながら一言。そして問いかける様に再びアオノリを向いた。
「……それだけか?」
「はい」
「まあいい。席に着け」
 簡潔極まるやりとりが終わると、桐葉は無言で頷く。興が削がれたのか、騒いでいた生徒達も各自席へ戻って教室は静けさを取り戻した。
 静まった教室を、足音を立てずに歩いてくる桐葉に、誰より注目しているのは孝平だった。
 ちらりと後ろを伺えば、そこには無人の席が一つ。他は全て埋まっているから、明らかに目的地はここだ。学年くらいは同じだったらと願っていた孝平である。まさか同じクラス、それも真後ろの席に彼女が座るなど夢にも思っていなかった。
 それまで何一つ意識を向けなかった桐葉が、孝平の席の近くで不意に足を止め、じろりと睨んでくる。明らかな敵意だが、それでも無視されるよりはいい。孝平はにこりと笑って、
「……やっと縁に巡り会えたね。紅瀬、って苗字も珍しいけど良い響きだ。よく似合ってる」
 更に怒るだろうか。呆れて笑ってくれるなら最高なのだが。
 孝平はそんな事を考えていたのだが、桐葉はすぐに元の無表情になって自分の席へと向かい、無言のまま座った。
 ――彼女は本来冷たいのではなく、無関心なだけである。転校生活で数多くの人間を目にし、鍛えに鍛えた孝平の目にはそう映っていたのだが、今の彼女は明らかに関心だけは向けてくれている。そう感じた。
 となれば、それが良い感情なのか、はたまたその逆か。聞くまでも無いのだろうが、確かめてみることにした。
「これから、よろしく」
 めげずに後ろへ声を掛けると、小さな溜め息が聞こえる。面倒な事になった、くらいには思ってもらえているらしい。
 孝平は拒絶されているというのに、むしろ楽しく過ごせそうだと、これからの日々に期待で胸を膨らませるのだった。


 昼休みになると、孝平は昼食を摂るより先にシスター天池に呼び出されてしまった。敬虔なクリスチャンであり、生活指導の先生でもある彼女も当然ながら始業式には参加していたので、当然といえば当然のこと。食事抜きでは身体に悪いからと20分ほどで終わりにしてもらえた事に、孝平はむしろ感謝した。
 あれだけの剣幕だと、放課後なら二時間は覚悟せねばなるまい。会長はその二時間コースだそうだから、少しは感謝しても――いや、諸悪の根源なのだから当然の仕打ちか。
 ともかく、感謝しようとしまいと、精神的な疲労感は大して変わらない。とぼとぼと学食へ向かう孝平だったが、音のしない足音――というのも変な話だが――に気付いて顔を上げる。学食の方向から、桐葉が歩いてきていた。もう食べ終わったのだろうか。
「今日は大変だったようね」
 無視されるかと思ったが、孝平の目の前で足を止めると桐葉は声を掛けてきた。始業式には居なかったから、教室か学食で噂話でも耳にしたのだろう。
「桐葉も当事者じゃないか」
 浮かれているのを悟られない様にと低めの声で言うと、彼女は不思議そうな顔をする。
 名前を間違えたか。いやそんなはずは無い。それだけは有り得ない。
 となると、
「……名前で呼び捨ては本人のリクエストだぞ」
「そうだったかしら」
 本気で考え込む桐葉に、孝平は怒るでも凹むでもなく見惚れていた。何をやっても美人だと絵になる。
「君との会話は全部覚えているんだ」
「どうして?」
「綺麗だから」
 何故か疑わしそうな目で見られた。
「……声?」
「いや、否定はしないけど。かなり美人だと思うぞ」
「そう」
 何となく既視感。この返しをされると、否応なしに会話が止まってしまう。オマケに冷ややかな目でじっと見られると、何故か背中に汗が滲んだ。――側頭部がチリチリと焼けるように傷む。
「怖いのね」
 見透かすような瞳に射抜かれ、誤魔化すような言葉が瞬時には出てこない。
 それでも。孝平は彼女に大して、確かにそれ以外の感情も持っていた。
「それも魅力の一つだ」
 完全な拒絶だけはされたくない。必死の言い逃れだ。
 だが、彼女は陳腐極まる言葉に意外にも小さな笑みを見せた。
「珍妙な人ね」
「あまり聞かない言葉が出たな」
「私、古臭い人間なのよ。よく言われるわ」
「おお。なんか知らんうちに紅瀬さん情報ゲット!?」
「……心の声が口から漏れてるわよ」
「あ、いや、今のは……本心だ」
「否定するところだと思うけど」
「いいんだよ。一目惚れしたんだ。知っててもらって損も無い」
 ノリと勢いで言ってしまった。ここまできたらもうバレバレだろう、潔さも男には時に必要なのだ。
 しかし、桐葉はといえばキョトンとしている。
「……ええと、もしかして気付いてなかった?」
「何の事かしら」
 誤魔化すようにそっぽを向いた彼女は、介抱されて目覚めた時のように頑なな感じだ。
 意地っ張りな側面は、あまり知られていないだろう。それを知っている事に僅かな優越感を覚える。
「それで、ええと、答えはどうなるんでしょうか」
「聞くまでも無いわね」
 冷たく切り捨てられ、孝平はガックリと肩を落とす。しかし、桐葉は続けて言った。
「名前」
「……え?」
「だから、貴方の名前。それくらいは覚えておくから」
「ああ、ええと、でも名乗った様な」
「興味が無ければ覚えないでしょう、そんなもの」
「なるほど……」
 落胆するのが普通なのかも知れない。しかし、孝平は逆に嬉しくなっていた。
 以前の出会いには、興味が無かったということ。そして、今回の出会いに興味が生まれたということ。
「支倉孝平と言います。改めて、よろしくっ!」
 ともかく覚えてもらわなければ何も始まらない。
 孝平が力強く自己紹介して手を差し出すと、桐葉は今度こそ握手に応じてくれるのだった。


 それから孝平の地道な挑戦が始まった。
 どこで会っても声をかけ、一言だけでも言葉を交わす。もちろん席が前後しているのだからと、休み時間の度に何かしら声をかける。
 普通の相手なら、上辺だけとはいえ人付き合いが上手い孝平には何の苦にもならない作業だっただろう。だが、此度の相手は言葉少なく時に遠慮の微塵も無い冷凍視線を浴びせてくる。無視される事は少なかったものの、キツイ言葉や態度を返される事は珍しくも無かった。
 それでも度が過ぎない程度にと加減しつつのコミュニケーションを日課にしていると、徐々に色々なものが見えてくる。無表情な桐葉にも機嫌の良い日や悪い日があったりとか、本当に気が乗らず会話を断ち切る時とどうでもいい会話だから終わってもいいだろうと比較的前向きに相手をしてくれている時との違いが分かってきたりとか。新たな発見により、沈みがちになっていた日々がまた楽しくなってきた。
 そんな変化は相手にも伝わった様子で、ある日、いつものように授業が終わった直後に後ろを振り返って宿題大変だなぁと声をかけると、
「……本当に懲りないのね」
 呆れたというより、興味深そうに孝平を見つめながら、桐葉は呟く。
「突然どうしたんだ。俺が言うのもなんだが、どうにもマトモな答えが返ってきた気がするぞ」
「おかしいのは貴方でしょう。落ち込んでいたかと思えば、ここ数日はやけに機嫌が良いし」
 相手の様子を見抜いていたのはお互い様か。しかし、それが分かるほど興味を向けられていた事を考えると、胸が熱くなる。
「進展が無ければ、落ち込む事もあるさ」
「……その後が問題でしょう。どうして急に元気になったの?」
 いつもは冷たいか無関心な瞳が、今は僅かに熱を帯びて孝平を見つめている。
 普段と少し違う顔を目にするだけで心臓が鷲掴みにされる思いだ。しかし、これを本人にどう伝えればいいのだろう。
 何となく冷たい目で見られる様な気がして。それならば、と話題を摩り替える事にした。
「俺はいつも元気だよ。立ち直った程度の話だ。……そんな事より、急にまともに話してくれる気になったのはどうしてなんだ?」
「……仕方ないでしょう。貴方、放っておけばいつまでもしつこそうだから、一言くらいは言っておかないと。私、面倒な事は早く終わらせる事にしているの」
「いや、しつこくならない程度にと気を使っているつもりなんだけど」
「基準は人それぞれでしょう。それが私の基準よ。もちろん、話しかけるなとまでは言わないけれど……」
 そう言いかけて、ふと考え込む桐葉。
 一生喋るなくらい言われる覚悟をしていたので、ホッとしながら見守る孝平だったが、
「……それでも良いわね」
 漏れ出た呟きに本気で泣きそうになった。
「冗談は止めてくれ」
 必死な孝平に、桐葉は不敵に笑って『冗談よ』と付け加える。孝平は深々と息を吐き、胸を撫で下ろした。
「それにしても、よく分かったわね」
「何が?」
「冗談という事が」
 どことなくご機嫌な感じの桐葉に、孝平は戸惑う。
 しかし、嬉しそうな理由は何となく分かった。きっと初めてなのだ、冗談が通じたのが。何しろ彼女の場合、どう頑張っても笑えず冗談に聞こえず、挙句に相手の心を抉ったりする。
「は、はははは。なかなか面白かったよ」
 孝平が引きつった顔で笑うと、桐葉は満足気に頷き、他にこんなネタがあると色々披露してくれる。どうやら有頂天で、鋭そうな人を見る目も今だけは大いに鈍っている様子だ。
 彼女の冗談は片っ端から笑えないものばかりで、孝平は次の授業が始まるまでずっと不自然な笑みを浮かべっぱなし。しかしそれでも、彼女が熱心に語る様子は新鮮で、それはそれで魅力的な時間となった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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  1. 2010/10/16(土) 23:53:21|
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