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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

半泣きツリ目系(オリジナル) 第三話

 紅子の家は父子家庭だが、親父さんはやり手の証券マンで金銭的には困っていない。
 あいつの父親と俺の父親が兄弟同然に育った幼馴染で、それが縁で生まれた頃から一緒だった。向こうのお袋さんが紅子を産んですぐ不幸に遭った為、うちの母親が紅子の母親代わりみたいな事をやっている。ほとんど乳兄弟同然で育ち、本当に生まれてすぐから姉弟どころか双子みたいに暮らしてきた。
 そもそも、うちの母親は娘が欲しかった。男の子なら要らないなんて事は言わないが、娘みたいな存在が手に入れば可愛くて仕方が無いに決まっている。あの紅子では尚更だった。
 そんな訳で我が母君は息子を小学校に入れる前に子離れを済ませ、ついでに夫離れまで済ませて紅子にべったりである。一生かかっても紅子離れは出来そうにない。結果、我が家のヒエラルキーは紅子>母>父>俺なのだった。
 それでも俺は母親に遠慮なく意見する。基本どんな要求も通らないが、諦めたら負けであり、俺としてはこれも精進の一つと考えているのだ。
 対して親父の言う事は実によく聞く。母親には反抗し、父親には唯々諾々と従う理由は単純で、子供心に不憫に思えたからだった。傍目には立派な人で、素直に尊敬もしているのだが、悲しいくらい妻にだけは頭が上がらないのである。
 そんなこんなで平和に見えて自分を巡り複雑なお家事情が発生している我が家に、今日も紅子はやってくる。
「あらこ~ちゃん、今日は早いのね」
 母さんの声が聞こえるが、他の声は聞こえない。紅子はうちに来ると態度も声も小さくなるから、俺の部屋まで声が聞こえる筈も無い。もちろん萎縮しているのではなく、気が抜けているのだ。
 ちなみに、奴は気づいている。全て分かっている。だからといって何も言わないし、しない。母さんより俺にくっついていようと、それくらいは気を回している風であるが、果たしてそれが紅子飢えを更に促進している事にまで気づいているのかどうか。
 紅子がクールビューティーなんて話は嘘っぱちだとしても、ああ見えて察しが良く大事なところでポーカーフェイスなのは確かだった。
「たっくん~」
 何に時間がかかったのかは知らないが、玄関口から声がしてから数分後。ノックもせずにフラフラと部屋に入ってきたのは紅子だった。
「お~」
 受験勉強の真っ最中だった俺は、振り返りもせず適当に声を返すのみ。後ろでばふっと音がして、奴が定位置に着いた事を知る。振り返る必要は無いくらい、それは毎日の事だった。自宅に帰っても一人だから寂しいとかで、コイツは親父さんが帰るまでいつも俺の部屋に来て即座にベットインである。
 こう言うと卑猥な行為が日常的に行われているかの様だが、あくまでコイツは一人じゃ寂しい+学校で気を張り続けて疲れた=眠いし寝るのが趣味だというだけであって、もちろんベッドの上で何事が起こりもしない。1~2時間ほど昼寝して、それから俺を眺めていたり勉強を見てくれたり自分の勉強をしたり、休憩中には話し相手にもなったりと、まあ本人としては基本的に勉強を手伝いに来ている感覚なのだろう。もちろん何も無くても必ず来るが。ちなみに俺が居なくても平気で上がって爆睡する。
 高一女子と中三男子が何時間も密室で二人きりだが、慣れる飽きるどころかこれ以外の放課後なんて殆ど記憶に無い。母さんもああだし、もし万が一俺が他の女に興味を持ち出したら我が家はどうなるのだろうか。
「紅子?」
 やっと一区切りついたので、声をかけてみる。返事は無い。眠ってしまったらしい。
 学校で親しい友達が出来たと言っていたが、それも隣のクラスだ。それほど負担が減る訳でもない。しばらくは起きないだろう。
 使わないので一向に構わないが、やはり今日もコイツが帰宅するまでベットの所有権は奪われたままになりそうだ。
「やれやれ……」
 俺は席を立ち、紅子の寝ているベットに近づく。
「相変わらず無防備な奴だな、まったく」
 ため息一つ漏らしついでに布団を掛けてやる。今日はマシだったが、色々と危ない日もあるのだ。いや、確認している訳ではないのだが、ついつい視界の端でだな――。
「う~……だめだよぅ……」
 寝言だった。何となく、幸せそうなほっぺたを指先で突ついてやる。
「いたいよう……」
「なにがだ?」
「あるまじろ……」
「いや、針とかも無いし」
「はりまじろ……」
「なんだそりゃ」
「おいしいの……」
「食うのか!?」
「せがのびるの……」
「俺のためか」
 紅子がこくんと頷いた。寝言で会話が成立するとは、相変わらず器用な奴。さすが趣味・寝る事のジョシコーセーである。
「さってと」
 軽く伸びをして身体を解し、再び勉強机へと戻る。
 とりあえず気分転換にはなった。この点に関して睡眠中でも紅子に勝るものは無い。正しく癒し系である。少なくとも我が家に居る間は。
「起きるまでに終わらせておかないとな」
 もちろん勉強を急ぐのは、邪魔されるなんて心配からではなかった。気を使わせるより、新しい環境で苦労しているコイツを少しでも労ってやりたいからである。
「たっくん……くぅ……ん……」
「いいから寝てろ。後で遊んでやるから」
「待ってる……」
 それから寝言すら聞こえなくなった。話しかければ答えるのだろうが、こちらも勉強に集中し始めたので、部屋には紅子の寝息と物を書く音だけが響き続けた。



 一時間程で目を覚ました紅子に何をしたいかと問えば、水着姿を見てくれときた。
「ママさんから水着を貰ったの。だから、見てみてくれるかな」
「早すぎだろ。まだ新学期始まったばかりだぞ」
「夏までに決めるなら、今から準備をしなければいけません。……ということみたいです」
 指を一本立てて、楽しそうに語る紅子。母さんが病的に好いているのはもちろん、コイツだって本当の母親みたいに思っているのでプレゼントは純粋に嬉しいのだ。大きくなって厳密に母親じゃないと気づいても、態度がまるっきり変わらないのはコイツなりの気遣いも有ったとは思うのだが。
 ちなみに母さんが勝手に紅子に何か買って来るのも作るのもいつもの事だから、俺もコイツも今更気にしない。あの病気は直る見込みが無いし、主婦らしい倹約志向も残っているから無茶な量を買うわけでもない。ついでに後で親父同士でしっかり支払いを受けるシステムも確立されていたりするので、大人の事情込みで子供の俺たちが気にするべき事など無いのである。
「学校じゃ指定の水着が有るだろ」
「女性は大変なのです」
「また母さんの受け売りか」
「えへへ」
 見透かされるのが嬉しくて仕方が無いらしい紅子は、何度繰り返したやり取りでもこうして照れ笑いを浮かべる。俺としても目尻の下がった溶け紅子を見られるのなら何でもいいが。
「じゃあ外に出てる。焦らなくていいからな」
 急げとでも言おうものなら、どんな失敗をやらかすか分かったものではない。特に水着で失敗と来ると、かなり洒落にならなそうだ。
「待って、たっくん」
「言っとくけど、見たいだなんて絶対に言わないからな」
「違うの。ここはたっくんの部屋だから、やっぱり私が外に……」
「廊下で着替える気かお前は」
 あ、と今気づいた風に驚きの表情。
「まあどうしてもと言うなら、今は親父も居ないし構わないけどな」
「ご、ごめんね。ちょっとだけ、お部屋を借りていいかな」
「むしろ借りてくれと土下座する勢いだ」
 そこまでさせては申し訳ないと本気にした紅子がオロオロしだすが、キリがないので放置したまま俺は廊下に出た。
 衣擦れの音なんて聞かされた日にゃたまらないので、扉からはやや離れて向かいの壁に寄り掛かる。紅子が母さんから受け取った何かを着て見せるのは珍しくないので、ここが定位置となっている。今やトイレに匹敵するほど落ち着く場所だ。――部屋で紅子が着替えなどしていなければ。
「も~い~よ~」
 やがて中から紅子の間延びした声が聞こえて、俺は部屋に戻る。
「入るぞ。大丈夫だな?」
「うん。結び目も、しっかり確認したよ」
 扉を開けて、入った部屋には。そこには。
 一年前の水着姿とは別人のように見事なプロポーションに成長した紅子の姿。その身体を覆うのは、上と下に別れた布地の少ない水着――水着?
「おい紅子、くるっと回ってくれ」
「うん」
 くるりと廻る。確かに結び目はしっかり結んである。下の両サイドを。
 上は、背中のホックでしっかりと止まっている。
 ――紅子はお馬鹿だ。特に寝起きは輪をかけて。
 頭に『お』を付けるのが正しい。勉強なら出来るのだから、表現には気を使わねばならない。
 これで正しいかと問われれば疑問だが、ニュアンスとして受け取ってくれると助かる。
「なっ……なっ……」
 例として上げるなら、丁度良いだろう。もちろん今の状況こそがそうだった。
「なにをやっとるんじゃおまえはあああああああああああああっっ!?」
「えっ……えっ?」
「どこからどう見ても下着だろそれええええええええええっっ!?」
 しかも二度目だった。こんな大ボケを百歩譲って他の人間がやらかすとしても、一生で二度もやらかしそうな人間を俺は紅子しか知らない。
「水着だよ」
「確認しろっ! 今すぐ!」
 言うより先に俺は背中を向けた。背後からはゴソゴソと何かを探す音。
「あ……」
「有ったんだな他に」
「う、うん……。ちゃんと一枚一枚丁寧に脱いで、ちゃんと畳んで、それから水着を着たのに……」
「水着を出して無くて下着と勘違いしたんだろ」
「そう、なのかな」
「知らん! とにかくそのまま服を着ろ!」
「えっと、水着を着直すね」
「いいから服を着ろ! 今日はもう中止だ!」
「どうして?」
「聞かないでくれると助かる!」
 沈黙はせいぜい十秒。察しの良さが売りの天然少女は、
「うん。分かった」
 さっきまで困惑した様子だったのに、何故だか弾んだ声でそう答えた。
「まったく……。お、俺はちょっとトイレ行ってくるから片付けとけよ」
 逃げる様に自分の部屋から去っていく俺には、紅子が何故喜んでいるのか考える余裕はない。
 ただただ、脳裏に浮かぶ危険な妄想を片っ端から掻き消すのに手一杯なのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/06/02(水) 06:31:12|
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