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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter 7-5

「こう言っちゃ何だが、竹内よりエリスの方が話すのが当たり前な立場だろうしな。何日かかけて、ゆっくりじっくり納得するまで話してやったよ」
 麻巳が久々に訪れた、昼休みの美術室。二人だけの昼食会。
 まずは食事をしながらの何気ない会話から始まった。食事中は互いに探るような態度は有ったものの、ようやく浩樹がそう切り出したのは食後の決して美味しくない珈琲を飲みながらだった。
 出来れば触れたくない話題。それでも言うべき事が有る。
 麻巳にも、そうした話題が有った。理由はかなり違うけれども。
「それはそうと、ですね。先生に受け取って欲しいものがあるのですが」
 多くの波乱を産んだ『柳画伯のアトリエ見学会』から、既に数日が経過している。
 浩樹がどう考えていたかは知らないが、流石の麻巳も二人きりで顔を合わせるのが憚られ、昼食時に美術室を訪ねるのは自重していた。
 それでも勇気を出して今日ここに来たのには、もちろん相応の理由がある。
 いつまでも逃げ続けては居られないという負けん気もあったし、早く気さくに話せる『一番仲の良い教師』という関係に戻りたいのもあったし、また余計な気を使わせてはとも思ったし、なにより。
「なんだ……?」
 麻巳が包みを渡すと、すぐに中身を確認した浩樹だったが、何かは分かっても意図がサッパリで困惑している。
 意図が分からないといっても、見れば何なのか――何を描いた絵なのかはすぐに分かる。それをどう捉えたか気になって仕方がない。とはいえ、こうしたものは気にしている方が余計に恥ずかしい。麻巳は出来る限りの平静を装うことにした。
「プレゼントです。一番出来が良いので残しておいた、取っておきなんですよ。喜んでくださいね」
 麻巳は散々悩んだ挙句に、これまで通り仲良くするきっかけと、今回の件について謝罪とお礼の意味を籠めて、過去に描いた自画像の中で一番出来の良いものを浩樹にプレゼントする事を決意したのだった。
 わざわざ自分の絵を渡すなんてナルシストそのものではないか、と強い葛藤が有ったのは事実である。そうでなくとも、自分を描いた絵は他人に見せない前提だからこそ続けてこれたもの。
 それでも他に良い案が思いつかなかったのもあり、今回は絶対にこれが一番だと、麻巳はいまだ自分に対して強く言い聞かせていた。
「自分を嫌いになりそうな時、いつも自画像を描いていたんです。だって、良い絵を描くには対象を好きにならないといけませんから」
 嫌いな自分。それを無理矢理にでも肯定するところから始まり、何とか絵を描き出して。いつの間にか描く事に夢中になり、当初の目的など忘れていく。その光景が、まるで見てきた様に鮮明に想像出来た。実にらしい話だと、浩樹はすぐに納得する。
「先生は絵が描けない。でも、描きたい気持ちはあるんですよね?」
「ああ……。嫌いなわけではないんだからな」
 あんな話を聞かせた後で、強がっても仕方がない。浩樹は素直に肯定した。
 今でも、本音を言えば触れたくない話題だった。現に麻巳や他の生徒のみならず、霧やエリスの前ですら避け続けてきた話題だ。しかし、生徒の前で情けない格好は見せられない。教師としての無け無しのプライドのお陰で、浩樹は何とか普通に対応する事が出来ていた。
 身内のエリスでなく、対等な霧でもなく、生徒でありながらこういうことを言える麻巳だからこそ、浩樹もこういう自分で居られるのかも知れない。
「色々と考えたんですけど、ともかく模写してみてはどうかと思ったんです」
「模写?」
「はい。――描きたいものが見つからないなら、最初から決まっているものを描けばいいんです。模写とはいえ、絵の本質を探ることも重要ですから。何か大切な探し物が見つかるかも知れませんよ?」
 浩樹は関心し、同時に僅かながら感動を自覚していた。
 竹内麻巳の自身に対して控えめな人物像を考えれば、それは驚くべき行動であった。しかしながら、どこか納得出来るのはいつも決心後に見せる揺るがない瞳をしているからか。
 しかも普段の竹内部長らしい、明るく指示するような口調で言うものだから、平部員にでもなった気分でついつい言う事を聞いてしまいそうになる。
 辛い話題であるはずなのに、どこか楽しく、そんな自分が自然に感じられた。
「あの、昔の話を聞いて――やっぱり、関わるべきではないと思ったんです。でも、ご迷惑をかけた事だけではなくて、力になってもらえた事もありましたから。せめて何か一つくらい、先生に恩返しがしたいと思いました。素直になれないから変になった自分を思い出して、それならやり方から考えてみようって思ったんです」
「実に前向きだな。それで、具体的にはどんな答えなんだ?」
「とにかく思いつくアイデアを伝えるんです。片っ端から全部、出来る限り具体的に」
 邪険に扱えないという感情ではなく、むしろ純粋に興味を持って尋ねた浩樹に、麻巳はやや得意になって後を続ける。どうにも気分が乗ってきたらしい。
「伝えるだけ、か。なんだかとても指示されて否応無しって気分だが」
「それは単にテンションの問題です。気分が暗いから、明るく言われると何故だか負けた気になるんですよ」
 なるほど、そうかも知れない。浩樹が納得している間も、麻巳のいつにない饒舌は続く。
「私はとにかく思いついた事を伝えるだけです。それをやるかは本人次第。これ以上あの話題にも触れませんし、絵を描けだなんて言いません。それでは負担になるだけの可能性もありますから。現実には、ただ絵を一枚プレゼントするだけですね」
「なるほどな。妥協も遠慮もしないが、相手のことも考える。実に竹内部長殿らしい、諦め悪く配慮の行き届いた結論だ。うちのお姫様にも見習って欲しいものだよ」
「描け描けってうるさい、ですか?」
 苦笑して尋ねる麻巳に、浩樹は大げさに頷いた。
「描ければ苦労なんて無いっていうのにな」
「そう邪険にしなくても、と私は思いますけど……」
「俺のためだってのは分かる。だが、アイツはどうも気遣いが足りんのだ。竹内と比べれば、まだまだお子様だからな」
「鳳仙さんの事、すぐにそうやって決めつけるのは先生の良くないところですよ」
 褒められて多少は良い気分になりながらも、麻巳はそれを真っ向から非難する。
「私から見れば、それは彼女の生来の性質で、良いところです」
「そんなもんかね」
「そうですよ。言い換えれば私は細かい事が気になって仕方がない神経質タイプで、思い切りが足りないから判断が遅れて墓穴を掘ることもあります。同じことでも見方によって言葉は変わってくるんです」
「そりゃ、アイツは思いついたら遠慮なんてもんが少しも無いからな」
 竹内も決心したら似たようなもんだが、とは心の中だけで付け加えておく。
「でも、彼女は元気で明るくて、それを周りにも伝播させる人です。ムードメーカー、車で言えばガソリンかエンジンのような存在ですね。そういう人が居ないと、全体が上手く動かないことだって有るんですから」
「分からんでもないが、それにしても何でも肯定出来るのは凄いな。いかにもお前さんらしいよ」
 言いながら、浩樹は包容力たっぷりに微笑んだ。少女漫画の主人公よろしく僅かにトキメいたりしながらも、麻巳は照れ隠しを兼ねつつ心外そうに反論する。
「何を言っているんですか。ありのままの自分で良いって、先生から教わったことですよ」
「俺が? ……そんな高尚なことを説いた覚えはこれっぽっちも無いんだが」
「つい最近のことなのに、もう覚えて無いんですか?」
「ああ。見事に」
 直前の胸の高鳴りなんてすぐさま吹き飛ばす、それはいかにも上倉浩樹の得意技。
 色んな意味で落胆して、麻巳は肩を落とした。
「もう。調子の良さは分かってましたけど、悪い事だけでなく良い事まで忘れるなんて。それじゃ単なるボケじゃないですか。あんまり油断してボーっとばかりしていると、幾つでも本当に脳は退化するんですからね。嫌ですよ、顧問がこの歳で――なんて」
「心配するな。これでも心労は耐えないんだ。ボーっとしてたくても限度があるよ」
 浩樹の言い方が不味かったのか、麻巳は微妙な表情で無言を返す。どうやら、元気の良さは一部に虚勢も含まれていたらしい。
「ちなみに私は、そういう例えでは何になりますか?」
 それでも何とか立ち直りつつ、麻巳はあからさまに話題の転換を図る。
「いや、唐突に聞かれても」
 乗ってやりたいのは山々だが、落語家でも無い浩樹には咄嗟の大喜利にすぐさま応えるなど出来ようはずも無かった。
「せめて真剣に考えてください。こういうものは、自分で言っても格好悪いじゃないですか」
「一応自負するパーツはあるってことか」
「無くはないです」
「外すとあとが怖いが……。ハンドルか?」
「ハズレです」
「こういう問いに当たりもハズレも無いだろ」
「絶対ではないにしても、ある程度は有りますよ。そりゃ、納得出来る理由があるなら何でもいいですけど。ありませんよね?」
「聞くまでも無い」
 断言されて、麻巳は疲れたようにそっと溜息。
 ――苦労するなあ、と他人事のように思いつつ、浩樹は麻巳の自画像へと視線を落とす。その瞬間、自然と心に浮き上がるイメージがあった。
「クラクションなんてどうだ?」
「その心は?」
「うるさ――いやいや冗談だ冗談」
 麻巳の視線が鋭くなったので、浩樹は慌てて訂正する。
「人と人との間を取り持ち、より良い部にしていく。まあ潤滑油ってところだな」
「……正解です」
 断定的に言った浩樹に対し、麻巳は驚いたように目を見開く。パーツとも言えないようなものを自認する辺りが、いかにもだった。
「どうして分かったんですか? 自分の内面というより、部長としてこうありたいなんて描きながら思っていただけの、ただの理想なのに」
「俺も、結局は絵が好きだってことかな」
 不思議そうにしている麻巳の前で、浩樹は受け取った絵を改めて見入っている。その絵から感じられる、麻巳が理想とする竹内部長の内面。もちろん部長としてしっかり部を守っていきたい、なんて雰囲気は感じるには感じるのだが。
 それ以上に強烈に叩きつけられた印象は、美術が好きで、そんな自分が好きで、それが無限連鎖して何処までも好きで好きでたまらないという実に単純明快な気持ち。きっとそれは、ただただ理由など無く魂が望む自らの在り方。だからこそ、この絵は練習でしかないはずなのに、こんなにも目を引くのだろう。
「やれやれ。こりゃ大変そうだ……」
「何がですか?」
 まるで合わせ鏡の世界の様に、それは自画像を描く度、つまり自分や絵を嫌いになりかける度に、逆に膨れ上がっていったものなのだろう。何てことはない、自分が余計な手出しをせずとも彼女は同じ答えをまた出していたはずだと、浩樹は確信する。
「もちろん、模写の話だよ」
 間をおいて答えた浩樹の一言に、麻巳はぽかんとして。
 一瞬の後、飛び上がらんばかりに喜んだ。いや、実際に椅子から飛び上がって、物凄い勢いで浩樹に詰め寄ってくる。
「絶対に、描いてくださいね。約束なんですからね!?」
「いや、強要はしないんじゃなかったのか」
「一度描くと仰ったからには、話が変わります。ええ、もちろん釣った魚をそう簡単に逃がしはしません」



Sketches and company(ブタベストさん)


 指を一本立て、何やら楽しげな笑みまで浮かべて語る麻巳の様子に、浩樹はすっかり拒否するという選択肢を奪われてしまった。
 とはいえ、強く望まれると行動力が大きく減退するのが彼の怠慢教師たる所以である。更に言えば相手が麻巳だと話を誤魔化すのは脊髄反射に近いものがあり、当然のように話の矛先を変える方法を考え始める。
「ついでと言っちゃ何だが、自画像なんて描き始めたのはいつ頃なんだ? いや、まあ練習では普通に描くものだが」
 かなり頻繁に、気合を入れて完成させるのも珍しい。
 話題を変えて逃げ出したのは明白で、麻巳は一瞬不満そうな表情を見せたが、仕方なさそうに椅子に座り直してから熟考を始めた。
「そうですね。きっかけは、やっぱりスランプでしょうか。私は凡人ですから、才能の無さを嘆いたり、なんて珍しくないんです。ある程度の技術を身につけて、上手いとか下手とか、そういう事が分かるようになってからは特に。でも、そういえばお店の手伝いを始めたのと同じ頃だったかも知れません」
「なるほど。本格的に店の手伝いを始めたのも、気晴らしが欲しかったってところか」
「そうですね。それであの制服も……。そういえば服装や髪型も、それまで自分の外見なんて少しも気にしなかったのに、そっちもその頃からですね。当時は何の工夫もないオカッパだったんですよ」
 あはは、なんて自嘲気味に笑う麻巳。
「スランプになって、そんな自分が嫌になって、自画像を描くようになって。なるべく可愛く描くことで自分を肯定するために色々と気を使う様になった、ってところか」
 現在と違いすぎて想像を超えているので、というか女性の外見についてはそもそも疎い浩樹であるので、その辺りはスルーする事にした。
「絵のことばかりで、自分を気にする暇なんて有りませんでしたから。今でも、自分を理解しきれているとは思いませんけど」
「今も自画像を描く時に色々やったりするのか?」
「人さまにはとても見せる気にはなりませんけど、まあ色々です。髪型を弄ってみたり、服装を弄ってみたり。流行り物もそうですけど、可愛い、綺麗って思う子を真似してみたりもしますね。可愛く、って言ってもメイド服ばかりじゃないんです」
「ウェイトレス服じゃなかったのか?」
「細かい揚げ足を取らないでください。メイド風ウェイトレス服、なので略せばそうなるんです」
「じゃあ俺も略そう」
「却下」
「いや、しかし……」
「却下っ!」
 はい、と小さく頷いた美術教師には、もはや生徒に対する威厳など欠片も残っていなかった。
「しかし、これは間違ってもからかうわけじゃないんだが」
「そこまで念を押さなくてもいいです。なんですか?」
「いや、可愛く描いて自分を好きになろう、って考えで描いていたものなのに、最終的に一番の出来だと選ぶのが、いつもの部長スタイルってのが不思議で仕方がない」
 浩樹は、話しながら改めてプレゼントされた絵をまじまじと見る。
 そこに描かれている少女は、包容力満点の優しげな表情ながらも、全体の印象はどちらかというと凛々しい。ポニーテールに眼鏡に制服といういつもどおりの姿からしても、やはり一般学生というより竹内部長殿という雰囲気である。
「結局、何度か描き直しているうちに、いつも最後はそれになるんです。皆に頼られて、苦労しながらも何とかして。苦労しつつも、先生からは色々な事を教わって。何より、誰にも言われず誰の真似でもなく、私自身が自然に生み出し最も多くの時間を共にしてきた私。もちろん理想的ではありませんけど、一番多くの幸せを知っている姿なんだと思います」
「だから、自分の中では一番の絵なんだな」
 いつになく真剣に聞き入っていた浩樹は、大いに納得すると共に考えに耽る。
 自分を低く評価しがちな竹内麻巳が、自らをここまでポジティブに強く長く語るのは珍しい。身近で一年を過ごした浩樹にも、思い出せる記憶の中にそうした経験は見当たらなかった。
 本人の思いを聞いた後では、この絵に秘められた意味を、どこまでも深読みしたくなる。絵から伝わる漠然とした『何か』を読み取ろうとすればするほど、浩樹の胸にはある思いが強く沸き起こってきた。
「なあ竹内。誤解しないで聞いてくれよ。貰えるのは本当に嬉しいんだが、この絵を桜花展に出してみる気は無いか」
「え……?」
 麻巳は突然の提案に目をぱちくりしていたが、すぐに真っ向から首を振った。
「自画像を応募するなんて、どこまで自意識過剰な女子コーセーですか私は。先生に見せるのだって相当な勇気が必要だったんですからね。絶対に無理です」
 からかわれたとでも取ったのか、少々怒り気味で返される。本当にもしかしたらと考えていた浩樹だったが、本人にはどう間違ってもその気はないのだと悟り、仕方なく諦めた。
「そりゃ、普通はそういう反応になるよな。冗談だ。悪かった」
「当たり前です。まったくもう」
 ずずず、と照れ隠しなのか妙に大きな音を立ててコーヒーを啜る麻巳を眺めながら、浩樹はもう一度視線を絵に落とす。
「絵の世界にも本番に弱いなんて事があるのかね。なんで美術室で描くより尽く輝いてるんだこいつは……」
「はい?」
「いや、なんでもないよ」
 誤魔化し笑いの浩樹に対して、疑わしそうな麻巳の視線。
 良からぬ企みでもあるのではと勘ぐった麻巳の追求は長く続いたが、最終的にはチャイムが鳴ってお流れとなる。
 チャイムと同時に後片付けを驚異的な速さで済ませた優等生さんは、チャイムが鳴り終わる前にはもう美術室を飛び出していて、ここだけは譲れないのか猛烈な早歩き(角では必ず一時停止)で自分の教室へと帰っていくのだった。



























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/05/18(火) 01:38:36|
  2. 第七話

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