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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

我が家の子猫ちゃん(藤浪朋子SS)

 同棲している、という訳ではない。この場合『居付いている』とでも言うべきか。
「うにゅ~……むにゃ……」
「そんなところで寝ると、身体を壊すぞ」
「わかってるわよ……むにゅぅ……」
 口をもごもごさせながら、聞こえているのかいないのか、時折答えらしきものが返ってくる。
 怪奇、人語を話す猫。いやいや、この場合は猫っぽい人間と呼ぶべきか。
 付き合い始めて――恋人でも家族でもなく異性の寝姿を見慣れる方が稀であろう――知った事だが、藤浪朋子は眠いほど猫っぽくなる。
 少しでも一緒に居たいからと慣れない美術部なんぞに突撃してきて『贔屓するとあんたの立場が悪くなるでしょ』などと言いつつ顧問であり恋人でもある俺には習わず、年下の部員にまで頭を下げて習いながら頑張っている彼女であるから、体力の無さも相まってすぐに眠くなるのは当たり前。
 応援したい気持ちはもちろんあるし、眠いのなら好きなだけ寝かせてやりたいのは山々だが、リビングのソファ何ぞで半端に寝たら身体を壊しかねない。心を鬼にしてでも、彼女自身のために寝させる訳にはいかないのだ。
「そろそろ起きないと、帰れなくなるぞ」
 優しく揺らしながら耳元で囁いてやる。
「ふっふ~、かえらなければいいのよ……あたしってばあったまいー……」
「いやいや、たまには帰れって。仕舞いにゃ親父さんに別れさせられるぞ、冗談抜きに」
 そこで急に沈黙を返される。
 先程まで寝ぼけながらとはいえ続いていた返事すら、とうとう無くなってしまった。
「やれやれ。たまには両親に顔を見せてやらないと心配するぞ」
 睡魔に完敗し無言を貫く恋人を前にして、俺は頭を抱える。
 繰り返すが、俺達は同棲している訳ではない。単に朋子が、殆ど毎日泊まっていくだけの話だ。
 遅くまで部活に精を出し、恋人と長く居られて、自宅よりも学校に近い。車での送り迎えまで付くとあっては、自宅の方がむしろ『立ち寄る場所』扱いとなるのに時間はかからなかった。
 しかしながら、学生のお嬢さんと社会人、しかも教師が付き合うとなれば色々と立場もあるのだ。
 ご両親からは仕事柄と付き合い始めるまでの経緯を持って信頼されており、当初から生活指導込みでと条件付きで外泊も認められている。
 もちろんそれとて限度はあり、週の半分以上をこちらで過ごすとなれば、むしろ安心して笑っている母親はともかく親父さんは渋い顔もするのだ。
 ただでさえ高卒と同時に結婚しろと言って――はいないが、そう考えている節のある朋子であるから、父親として一緒に過ごせる短い期間を更に減らされていくのは不幸としか言いようが無い。
 人付き合いを拒んできた少女が、殆ど始めて深い仲になった男にベッタリなのは仕方が無い。その男本人としては嬉しいのだが、この子のためになっているのだろうかと、せっかく開いた未来への道を自分が閉ざしてやいないかと、心配になる事だってあるのだ。
 とはいえ、
「こうなると仕方ないか。このお姫様は、寝るとどうあっても朝まで起きないからな」
 むしろ朝でも大変だ。
 藤浪朋子は自身をクールだと捉えている嫌いがある。しかし、実のところ色んな意味で瞬間湯沸かし器だった。料理だってそれが限界だし。
 しかし同時に体力が無く、普段は極度の低血圧なのも確かだ。故に寝て起きると、それはもう酷いものである。
「毎日のように無防備な寝顔を見せやがると、しまいには襲うぞ。生殺しばかりしやがって。最初からお前には振り回されてばかりだ」
 答えが無いのを分かっていて、俺はブツクサ文句を言いつつお姫様を横抱きに抱え上げるのだった。



 ご両親に朋子が泊まる事を報告し、そのまま数十分に及ぶ有難いお説教を頂いた翌朝。朝食にと二人分の特製ホワイトソース・オムライスを準備していると、キッチンに朋子が姿を現した。
 髪はボサボサ、口は半開き、目は殆ど開いていおらず、僅かに覗く瞳は死んだ魚のように濁っている。
 おまけに、なんというか。昨晩は皺にならない様にと寝かせる前に気を使ってやったのだが、それが仇となっている形だ。
「ごはん~……」
「すぐ出来るから、座ってまってろ」
「分かった~……」
 今日は程よく寝ぼけているのか、素直でよろしい。
 こうしてパンツ一枚しか身に着けていない寝ぼけたお姫様は、しきりに目を擦りつつリビングへと戻っていった。



「屈辱だわ……」
 昨日来た時と同じ制服――こんな時でも不自然に見えないのが制服の便利なところかも知れない――を身に着けた朋子は、玄関口で靴を履きながら、こちらに聞こえるように呟いた。
「ほぼ毎朝だし、いい加減慣れろよ」
「それあたしの台詞でしょ。……ていうか、アンタが慣れ過ぎなのよ」
 朋子の顔は勘違いではなく真っ赤だ。
 食事を終えて、顔を洗って来いと指示すると朋子は素直に従い、よろよろと洗面所に消えて。
 数分後にリビングに駆け戻ってくると、茹蛸みたいな顔で口をパクパクさせていた。もちろん、慌てて服を着たのはその後である。
 慣れるか改善すれば良いものを、律儀に動揺して見せてくれるからコイツの恋人ってのは止められない。
 弄りたくなる性格のくせに、弄るまでも無く自爆しまくるのは最早プロの領域である。何のプロかは謎だが。
「もう他の所へお嫁にいけないわ……」
「安心しろ、貰ってやるから」
 きっちり五秒だけ沈黙してから、朋子の顔が更に赤くなった。これだから弄るのも止められない
「これが言えて、なんで襲わないのよ……」
 ボソッと言った一言が、こちらの耳まで届いてしまう。
 普段ならスルーしているところだ。しかし、今日に限って悪戯の虫が騒ぎ出した。
「なあ、朋子」
「なに?」
「お出かけのキス、なんてのはしたくないか」
「い、いいけど……一緒に車で、送ってくれるんじゃないの?」
 既に徒歩では間に合わない時間である。
「一人でも二人でも、出かける事自体は変わらないだろ」
 もう返事は貰った。昨夜だけでなく、ここのところ生殺しが続いて我慢が利かない。
 俺は靴を履いて立ち上がった朋子を抱き寄せると、やや強引に唇を奪った。
「んむぅっ……?!」
 軽い口付けだと思ったのだろう。それでも口内を貪られて驚きに目が見開かれたのは一瞬だけで、すぐに朋子も舌を絡めてくる。
 互いにじっくり堪能しあい、名残惜しげに光る橋を架けながら身を離すと、朋子の瞳がとろんとしたものに変わっていた。
「その、えと……」
「さあ行くぞ」
 彼女が俯き加減で何を言いたいのかは分かっていたが、この際言わせる訳にはいかなかった。さすがにもう車でも時間がギリギリなのである。
 本番にまで及ぶ時間は無い。今晩こそは、という布石を残せただけで十分だ。
「ちょっ……!?」
 外に出ようとした俺の腕を掴んできた、その手を逆に掴み返して踊るように外へ連れ出す。
 そのまま適当に回らせつつ鍵を閉めて、体勢をお姫様抱っこに変更しつつダッシュ開始。
「ちょっと、その気にさせといて何なのよ! 責任取りなさいよ!」
 目まぐるしい動きに、運動神経が残念な事になっている朋子は盛大に目を回しながらも勝気に言い張る。俺は務めて冷静な声で言い返した。
「ここはもっと長期的な責任を優先する。解雇でもされりゃ、捨てられなくても幸せにはしてやれんだろ」
「……あんた、時々凄くズルイわよね」
「褒め言葉として受け取っておく」
 睨まれている事すら楽しくて、体力以上に軽快な足取りで恋人を抱えながら、俺はマンションの駐車場を目指すのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/11/14(土) 01:58:37|
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