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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

千堂家の墓参り(FORTUNE ARTERIALの千堂家SS)

 灼熱のアスファルトの上を、小さな子供にしか見えない母が汗一つ見せず軽快に歩き、その後ろを歩く瑛里華の隣では、やはり涼しい顔で歩く兄の姿。目指す場所は、瑛里華にとって近しいものの会った事の無い者達の墓だ。
 人の身となった瑛里華には、過去の記憶に比べ、今年の夏の暑さはより厳しく感じられた。それでも、今日という日を予定通りに迎えられて、肌を焼かれる感触にも礼を言いたくなる気分だった。
 ――東儀家の墓所は、珠津島神社の敷地内にある。東儀家は珠津島において、それほど特別な存在なのだ。この墓所には一般の島民は特別な行事があろうと入れず、それは東儀家の分家筋に当たる者ですら一部を除き例外とはされなかった。中心の小高く土を盛られた場所に、東儀において不可侵なる存在・千堂家の墓が有るからだ。
 200年前後も昔に中央部を空け、新設された千堂家の墓。その歴史の長さからして墓標に刻まれた名は極端に少なく、ここに眠る人数は二桁にも届かない。
「俺は百年ちょい生きてるけどね、それでも先輩が3人って話だ。瑛里華は5人くらいは居るらしいが……」
 吸血鬼について親友と共に調べつくした伊織が言うと、伽耶のムスッとした声が割り込む。
「6人だ」
 他人が聞けばいかにも不機嫌そうだが、これは三桁に届く年月で染み付いた伽耶の地であるから仕方が無い。伊織もそれを分かっているので、嘆息しながらも自分の間違いに対して肩を竦めるのみだった。
「だ、そうだ。意外にもよく覚えていらっしゃる」
 とはいえ、それでも嫌味を忘れない辺りが伊織でもある。
「あたしは一人たりとも、一瞬たりとも忘れた事などない」
 今度こそ本当に不機嫌そうな伽耶の様子に、伊織本人よりも瑛里華が肝を冷やした。
「ちょっと兄さん、どうしてそういう……」
「良いのだ、瑛里華。今日は色々な事をハッキリさせる為に行くのだろう。だからこそ、桐葉も征一郎も置いてきた」
 慌ててフォローを試みる瑛里華だったが、しかしそれを制止したのは伽耶自身だった。
「……そう、だけど」
「諍いもその一部。瑛里華にも、本音を言ってもらえれば嬉しい。思うところが何も無い訳ではないのだろう?」
「それは、全く無いと言えば嘘になるけど……」
「無理に聞き出す気も無い。今日に限る訳でもない。ただ、その気になったら遠慮しないでくれれば良い。あたしには、それを受け入れる覚悟がある。それだけは、知っておいて欲しい」
 当主として、母として。東儀家墓所へ一度も来た事が無い伽耶が先頭を歩き続けているのも、来させられた訳ではなく、自分の意思だと子供達に示すためなのだろう。
 ――そんな調子でポツポツ途切れがちな会話を繰り返しながら、千堂親子はゆっくりと歩を進める。
 やがて墓所へ到着すると、まずはやや離れた位置から三人並んで手を合わせた。
「約束だからな。二人は、そこで見ていてくれ」
 持参した掃除道具一式とバケツを持って、伽耶は一人で作業を開始する。道中、瑛里華は何度も手伝いを申し出たのだが、伽耶はこれだけはと頑として聞き入れなかった。
 周囲を綺麗に掃き清め、立派な墓石を塗らした古布で丁寧に磨き上げ、最後に墓石の上から水をかけてやる。普段から神社の神主が手入れを欠かさないので形だけに過ぎない行為だったが、それでも伽耶一人で行うのはそれなりに手間がかかった。
 その間、立場は逆だが母親のような心持ちで、瑛里華はハラハラしながら見守っている。しかし、流石に大昔の日本人である。桐葉には事ある毎に不器用呼ばわりされていたが、なかなかどうして手馴れた手付きで伽耶は全ての作業を終えた。
「そう心配するな。――あのようになっていてもな、父様の墓だけはあたしが管理していたのだ」
 伽耶は寂しげに俯くが、そんな様子を見向きもせずに伊織はズカズカと墓に近づいて、線香を供える。
「なっ、何をしているかっ!?」
 ――もとい、供えようとする。息子の暴挙に慌てて声を上げた伽耶は、同時に実力行使もしていて、寸前で伊織の腕を掴んで止めていた。
「いやあ、その気が無いなら先に済ませようかと」
「実は嫌々なのか、貴様」
「五分五分ってところかな」
「まあいい、どちらにしろさせるつもりだ。――が、あたしが最初だと言ってあったはずだな?」
 家族を正しく家族扱いするようになったとはいえ、千堂伽耶が短気なのは生まれつき。我慢するといっても限度がある。加えて、過去について言われる覚悟は出来ていても、からかわれる覚悟などしていない。
「まあまあ、母様。兄さんも照れているのよ。せっかくだから、三人一緒に、というのはどうかしら。私もその方が嬉しいし、掃除については譲ったのだから。……ね?」
 墓前でいつまでもくだらないやりとりを続ける訳にもいかない。瑛里華が二人の間に割って入ると、伽耶は続けようとしていた言葉をグッと飲み込んだ。
「瑛里華がそう言うのなら、それでいい」
 渋々ながらも納得した伽耶と、どちらでも構わないとばかりに飄々としている伊織。瑛里華は伊織の態度が気に食わなかったが、兄妹と言えど生きた年月も違えばそれ以上にこの件に関する立場も違う。それこそ、何を考えているかは分からない。
 あまり深く追求する事は止めて、瑛里華は伊織の手から線香を奪う。それをキッチリ三等分すると、母と兄にもそれを渡した。
「一緒に供えて一緒に手を合わせるの。いいわね?」
 伽耶は素直に頷き、伊織はへいへいと気の無さそうな返事を返す。それでも反論がある訳では無い様で、三人は揃って線香を供え、目を瞑って手を合わせた。
 思えば家族三人での共同作業というのは、初めてだったかも知れない。そう思うと、なんでもない行為が特別なものに思えてくる。
 ――酷い思い出もたくさんある。今のところ、その方が多いかも知れない。それでも大切に思える母親。
 罪が消えたわけではないけれど、それでも自分の思いだけは許してあげたいと思う。それだけでなく、一緒に背負っていきたい。
 まずは近しいところから。母と共に千堂家の墓を参ろうと思ったのは、東儀の墓より先に供養し、決着を着けるべき最も近しい者たちの存在に気づいたからだった。
「恨んでいるだろうな」
「そんな訳が無いだろう」
 祈りを捧げ、誰からともなく目を開き。ぽつりと漏らした伽耶の言葉。それを、伊織はバッサリと否定する。
 不思議そうに息子を見上げる伽耶の視線から逃れる様に、伊織は空を見上げた。
「何をされても愛し続けた。それこそ、今の瑛里華と同じなんだ。だからこそ、彼等はもうここには居ない……」
 消えない絆として、伽耶は憎まれる事を選んだ。だからこそ伊織の在り方にはむしろ満足していたし、瑛里華の先輩に当たる兄達は不況を買った。
 だが、歪んでいった伽耶が不安に耐えきれず『今』を永遠に留め置く行為こそが真逆のそれであったのだ。間違いに気づいたからといって取り返しがつかないのは確かだが、誰も恨んでいないとすれば、誰に頭を垂れればよいのだろうか。
「そうね。今の母様を喜ばない筈が無い。皮肉だけど、今この場に居ない事が全てを証明しているわ」
「だとしても、あたしは……。彼等を、この手で……愛しいと、思いながら、それでも、この、この手が……」
 次第に涙声になっていく。小さな身体が、小刻みに震えていた。
 家族を何より大切に考え、だからこそ歪んでいった。そんな伽耶にとって、過去の過ちがいかに愚かであったか、真正面から向き合うにはここへ来るのが一番だったのは間違いない。
 それでも、やはり酷過ぎるのではないか。早すぎたのではないか。瑛里華はそう考えそうになる自分を押し殺し、代わりに力一杯母親を抱きしめた。
「瑛里華……?」
「私ね、母様を恨む気持ちが無い訳じゃないの。その気持ちを、簡単に捨てたりしない。それは兄様達を思う気持ちでもあるから」
「そうか……」
「でもね、同時に自分へ向けた気持ちとしても受け止めようと思うの。母様を認めるという事は、味方になるという事は……他の全てに対しても、そうして一緒に償っていく事だと思うから」
「瑛里華。有難う。あたしは、何が出来るか分からないが……償っていこうと思う。たとえ何百年かかろうとも」
 やがて泣きじゃくるのは瑛里華になり、逆に伽耶が抱きしめてやる事になった。
 母娘が育む絆は、過去に消えていった兄達が確かに望み続けた、そして成し得なかった宝物。自らも最初はそうだった事を思い出しながらも、伊織は一歩退いた場所でそれを眺めている。
「やれやれ。……今日を一つの区切りに、と思っていたんだがね。どうやら簡単に終わりにする訳にもいかなそうだ」
 厳しく接する者もまた、伽耶が己を保つ為にはまだまだ必要であると。伊織は、自らの胸の内で誰かがそう囁いている声を聞いた気がして、確かにそうだと同意を返した。



 来る時と同じ様に、伽耶に先導された一行が帰り道を歩いている最中の事である。
「なあ瑛里華、ちょ~っとの間だけ一人で離れて歩いてくれないか?」
 妹は白々しい笑顔を貼り付けた兄の顔を、胡散臭そうに見返す。
「何を企んでいるのか知らないけど……」
「そう、その通りだ。ちょっとした計画があるんだけどね、これは親子の中を正常化する為のものなんだ。結果はどうあれお前だって望んでいる事だろう、俺とあの人が仲良く二人きりで会話をするなんて状況は」
「それは、そうだけど……」
「それとも俺が信用出来ないかい?」
「ええ、まったく」
 ハッキリと即答した瑛里華に、伊織はわざとらしくズッコケた。
「でもまあ、今日くらいは……博打に出るのもいいかも知れないわね」
「おお、らしくないな妹よ」
「嬉しいの、嬉しくないの?」
「そりゃこっちの台詞だな」
「……嬉しいわよ、私は」
「じゃあ俺もそういう事にしておいてくれ」
「うん。分かった……じゃあ、しばらく母様の事、お願いね」
 最終的には穏やかな笑みさえ浮かべて瑛里華はそう言い残し、母に追いつくべく歩調を速めた。
 なんだかんだと言いつつも、最終的には兄を信じてしまう人の良さが彼女に美点であり、また苦労する原因でもある。苦労させている張本人との自覚もあって、伊織は一人苦笑した。
 瑛里華はすぐに少し前を歩いていた母に追いつき、2~3言葉を交わすと、交代して伽耶が伊織の方へ戻ってくる。
「なんだ、伊織」
 人が変わっても、尊大な口調は変わらないな――。そんな考えはおくびにも出さず、伊織は表紙に『極秘計画書・征ちゃん以外は見ちゃダメだにゃ♪』と書かれた冊子を伽耶に渡した。
「こんな提案があるんだが……どうかな?」
 疑わしそうにしながらも素直に受け取った伽耶は、すぐに中身を開いてみる。
「さまーろっくふぇすてばる、いんた……むう?」
「サマー・ロック・フェスティバル in TAMATU=ISLANDですよ、母上様」
「その呼び方は止めろ、気色悪い。……で、何のつもりだこれは」
「ただいま出資者を募っておりまして。千堂家当主が、となれば東儀家とその分家、関連企業は軒並み協力する事になり、何の問題も無く開催されるでしょう。おお、流石は伽耶様! 島民残らず絶賛の嵐! 罪滅ぼし完了!」
「戯けめ。そんな簡単に済むわけも無いし、済ますつもりも無いわ。……貴様、まさか今日素直についてきたのはこれの為ではあるまいな?」
「いやいや、ついでですよもちろん。ええ、メインはあくまで墓参りですとも」
「信用ならんな」
「同じ時を過ごした弟も眠っているんだ。あいつの気持ちもよく分かっている。今日の墓参りは、純粋に嬉しかったですよ、母上」
「む……」
 家族、という関係の捉え方に変化の生じ始めた伽耶にとって、伊織から素直に礼を言われるのは照れくさいものがあった。嬉しいは嬉しいのだが、互いに憎まれ口ばかりで何十年と過ごしてきた為に素直になりきれず、どうしていいのか分からなくなる。
「そんな訳で、ここは互いに少しだけ歩み寄ろうと。そういう意味も含んだ提案だと思って欲しいなあ、愛される息子としては」
「あたしが一方的に、無理矢理引きずり寄らされた感が有り過ぎる。仲良くしようと思わぬでもないがな、お前が油断ならぬ男だと忘れた訳ではないぞ」
「まあ、嫌なら無理にとは言いませんよ。頼める相手は他にもいるし。瑛里華も喜ぶだろうから、せっかくなら母上が感謝されるのも良いかと思ったんだけどねえ」
 押してばかりが交渉ではない。特に身内が相手ならば、引き方も心得たものである。伊織にしてみれば伽耶に対して悪戯に近い考えで画策したもので、本当に拒否されれば計画自体を放棄するつもりだったのだが、伽耶もそこまでは気づかない。
「……瑛里華も、喜ぶのか?」
 今やそれのみが生き甲斐と言ってもよい伽耶である。瑛里華の名前が出ただけで瞳を輝かせた。
 だが、同時に伊織が信用ならない事も重々承知している。それでもやはり、簡単には信用しない。
「いや……。ろっく、などとちゃらちゃらした音楽を瑛里華が好む訳が無いだろう。その手には乗らんぞ」
「嫌だなあ母様、何時の時代の人間ですか。……ああ250年前でしたね。ロックなんて大衆音楽の一分野でしかないんですよ、時代が変わったのです」
「そうなのか?」
「ええ。もちろん瑛里華だって友人に進められれば聞くし、たくさん聞けば気に入るものも出てきます。そもそも今回の企画は、瑛里華の趣味に合わせたアーティストを中心に選んでいるんですから、間違いなく喜ばれるでしょう」
「そ、それは、確かに喜ぶだろうな……」
「加えて、終わった後には母上が自慢の喉をご披露する」
「……なに?」
「カラオケで練習しておけば良いのですよ。ええ、もちろんその用意もしてありますとも。感動し、抱きつき、頭を撫でられる事請け合いです」
「最後のは、逆だと思うが……」
「お~い瑛里華~!」
 伽耶が不満そうに漏らした呟きを無視して、伊織は瑛里華を呼びつけた。立ち止まり、振り向いている瑛里華に伊織は自ら駆け足で追いつく。
「何よ。人を半ば強引に追い払っておいて」
「いやいや、それはすまなかった」
「すまない何て一生のうち何回思うのかしらね、兄さんは」
「まあいいじゃないか、そんな事は」
「自分で言わないの。……で、なに?」
「お前、祭は好きか?」
「そりゃ、嫌いじゃないけど」
「考えてみてくれ。どう好きか。いや、嫌いならその理由でもいいが」
「そうね。う~ん……」
 瑛里華は立ち止まり、腕を組んで考え込む。
「皆の楽しい笑顔が見られるわ。もちろん、私もね」
「うん、実に瑛里華らしい答えをありがとう。……で、どうしますか母上?」
 少し後ろを歩いている伽耶は、興奮気味に両腕で大きな○を作っていた。
 伊織はペコちゃんスマイルで親指を立てて返事とする。
「何なのよ、二人とも……」
「さあて、ね。頑張った瑛里華と、その愉快な仲間達へのご褒美……かな」
「気持ち悪いわね……」
「母上様を信用出来ないかい?」
「兄さんが信用出来ないのよ」
「はっはっは。照れるなあ」
「褒めてない!」
 兄妹漫才も炸裂したところで、伽耶も追いついてきた。再び親子三人、足並みを揃えて帰路に着く。
 その後、少しは気持ちに余裕が出てきたのか伽耶が色々と寄り道をねだりだし、ささきの金つばを白へのお土産に買ったり、駄菓子屋でラムネを買ったりと親子三人水入らずの平凡な一日は尚も続くのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/08/04(火) 00:09:45|
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