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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

あの喫茶店で(千堂瑛里華 2009年誕生日SS)

 珠津島を出て数年。この時期最大のイベントを、俺は毎年欠かさず盛大に盛り上げてきたつもりだ。
 二人きりの旅行に出かけたり、慣れない豪華フレンチを手作りしたり、バイト代から少しずつ積み立てて高層レストランでワイングラスを傾けたり。
 手が込んでいたり、お金がかかったりというのは確かに分かりやすく苦労の跡が見え、それを喜んでもらえるのは確かだが、瑛里華は毎年少しだけ申し訳無さそうにしていた。しかしそれを口にするのも憚られる様子で、すぐに気持ちを切り替えて素直に楽しんでくれるものの、さすが瑛里華という気持ちと共に自らの至らなさを痛感する。
 だからこそ、今年はもう少し気軽に楽しめるアイデアはないものかと頭を捻った。結果を優先するなら自分一人で悩むのもどうかと思い、懐かしい友人にも相談を持ちかけてみた。彼女は電話越しでも分かる嬉しそうな笑みを浮かべ、
「うん、それなら取って置きのアイデアがあるよ。あのね、いつかえりちゃんを招待しようと思っていたんだけど――」



「いらっしゃいませ。ご予約の、支倉様ですね」
 古めかしい建物に、年代ものの家具ばかりを揃えた店内。扉を開けて中に入るとメイドさんが奥からやってきて、名前を言うまでもなく、そう言って微笑んだ。営業用とはとても思えない、自然で暖かな笑顔だった。
 不覚にも見とれてしまった俺を、瑛里華も嗜めたりしない。隣で、同じように見とれている。
「席をご用意してありますので。さあ、こちらへどうぞ」
 呆気に取られていた俺達は、その言葉で我に返り、案内されるままメイドさんについて行く。
 ここは、いわゆるメイド喫茶――ではない。店構えに合った制服をと追求した結果、たまたまこうなったのだという。
 このウェイトレスさんの制服はあくまでウェイトレスの制服であって、メイド風の制服、というのが正しい。その証拠とばかりにスカートは足首近くまで達するロングサイズで、襟元もキッチリ閉じられ、視覚的なサービスというものが少しも考えられていない。全体のデザインは色合いも含めて必要以上に華美ではなく、せいぜいが普通の洋服よりフリルが多いなと感じる程度だ。
 本当かどうかはともかく、陽菜はそういう事になっているし深く追求しないのが通なのだと言っていた。雰囲気抜群、味も抜群、更に更にと語ってくれた内容は実に三十分を超えていた。あの陽菜がそこまで入れ込むのだから、さぞかし凄い店なのだろうと俺も期待していたのだが、まさか店に入った瞬間から度肝を抜かれるとは思ってもみなかった。
 俺達は窓際の席を案内され、すぐに準備をすると言い残しメイドさんは店の奥へと姿を消す。更にしばらく、二人揃ってその後姿が消えた方向を眺めてから、我に返って一言目は瑛里華だった。
「なんだか、凄いところに来ちゃったわね」
「でも、不思議と緊張する感じは無いな」
「ええ。景色も素晴らしいし、良い席を用意してくれたみたいね」
 二人で窓の外を眺める。この店は緑豊かで大きな湖まである自然公園に隣接していて、その景色は人造物にない安らぎを与えてくれる。
 木造の温かみ、アンティークばかりを揃えた店内、公園の緑に彩られた窓の外の景色に、美しく笑顔の素敵なメイドさん。目立った要素を挙げれば切りが無いのに、まとめた印象が『落ち着ける場所』といったところに落ち着くのは、なるほどぴったりな店名だと感じる。
「あの、おきゃくさま」
 二人して景色に見とれていると、不意に声をかけられた。先ほどのメイドさんかと思い俺たちは揃って振り向くが、そこで言葉を失う。
 確かに、そこにはメイドさんが居た。ただし、二人に増えている。いや、驚いたのはそこではない。二人とも、えらく小さい。
 片方はもう間違いなく幼稚園に通っている歳で、比べて少し大きく利発そうな顔立ちの女の子も、せいぜい小学校に通い始めたくらいか。
 いずれも将来が楽しみな、先ほどのメイドさんそっくりの整った顔立ちをしている。歳の離れた三人姉妹、といったところだろうか。あるいは従兄弟という線も考えられる。
「コーヒーを、おもちしました」
 緊張した面持ちで、お姉さんらしい大きな子の方が持ってきたトレイの上のコーヒーカップを差し出そうとする。
 しかし、トレイごと渡すというのは何か違うと気づいたのか、上に載ったカップだけを机に置こうともがいている。二人分のコーヒーを載せたトレイが重過ぎる様子で、片手では持てないから上手くいかないらしい。
「えっと、なっちゃん。お手伝い、できるかな?」
「うんっ!」
 まだ小さいから駄目だとでも言われていたのだろう。小さな方の女の子――なっちゃんと呼ばれた子は表情を輝かせた。さっそく手を出そうとするが、しかし大きな方の子が直前でそれを制止する。
「一個ずつ、両手で。ゆっくりでいいから。気をつけて、ね?」
「は~い」
 素直に返事をして、なっちゃんはカップを一つずつテーブルに置いていく。
 トレイが軽くなり、やっと気を抜けるかと思いきや、大きいほうの子は忘れずにシュガーとミルクを机の上に置いて、更に神妙な顔つきで固まっている。
「えっと……?」
 沈黙に耐え切れず声を漏らした俺の手を、瑛里華が抓る。悲鳴を何とか飲み込みつつ彼女を見ると、俺の愛しい人は見たことも無いくらいとろとろに蕩けた表情で、人差し指を口に当てていた。黙れ、という事らしいがこういう場面でいつも発散される迫力が微塵もない。既に瑛里華はこの子達の虜らしい。
「ほっ、本日は、当店に起こしください、まことにありがとうございますっ!」
「まぁちゃん、がんばっ!」
 隣で声援を送る妹に、しっ、と先ほどの瑛里華と同じ仕草で返したまぁちゃんは、少しだけ緊張の解れた様子で後を続ける。
「お客様のおたんじょうびが、素晴らしいものになるように、てんいんいちどうせいいっぱいの、おもてなしををさせていただきますので、どうかごゆっくりごつくろりくら、ください、です」
 最後、ちょっと噛んだ。悔しそうに唇を噛み締めて、何かを堪えている。
 しかし、妹が心配そうに自分を見上げているのに気が付くと、頑張りやさん(恐らく)な姉はペコリとお辞儀をして店の奥へと去っていった。
 妹の方も、それを真似するように一度頭を下げて、それから姉を追いかけるように小走りで去っていく。
 走ってしまう辺りが、まだまだなのかも知れないが。客商売には妹の方が、性格的には向いているのかも知れない。
 というか、まあ、そんな事はともかく。
「はあぁぁ……もう、だめ……」
「お疲れ様」
 俺は苦笑しながら、目の前でグッタリとなっている瑛里華を労った。
 可愛い子供が一生懸命になっている姿に、瑛里華はきっと飛びついて抱きしめたい衝動を抑えていた事だろう。問題にはされないかも知れないが、それ以上に、せっかく頑張っているのに邪魔したくないとの思いも理解出来る。
「ねえ、孝平」
「うん?」
「私達も早く、あんな子供が欲しいわね」
 いきなりの大胆発言に、しかし俺は少しも動じず頷いた。
「ああ。頑張ろうな」
 そんな返答に、瑛里華も慌てたりせずニッコリと笑って返す。
 何しろ、相手をからかおうなんて少しも思わない言葉だったのだ。お互いに、本心から子供が欲しいと思ってしまった。
 もしかして、陽菜はそういった意味も有ってここを紹介したのかも知れないな、とむしろかなでさんの顔を思い出してしまう自分に苦笑する。こういった企みは姉の専売特許と思われるが、そこはやはり姉妹という事かも知れない。
「まあ、話はこれくらいにして。冷めないうちに頂きましょうよ」
「そうだな」
 そして、俺達はそれぞれにコーヒーカップを手にとって。
 口に含んだこの世のものとは思えぬ芳しい香りに、またも度肝を抜かれるのだった。



 コーヒーを飲みながらゆっくりして、昼食と誕生日ケーキと、経営者一家による誕生祝いの歌とを堪能し切った俺達は、また何もない日でも絶対に来ようと約束して店を出た。
 結局、一番の驚きは最後に姿を現したメイドさんだった。子供達は実際に姉妹だったが、歳の離れた姉かと思われた最初のメイドさんがその二人の母親で、ならば今度こそその姉だろうと思われた人が祖母だったのである。紅珠の欠片くらいは飲んでいるんじゃないかと、半ば本気で疑ったくらいだ。
「色々と驚かされたけど、何よりコーヒーが本当に美味しかったわね。陽菜が淹れるより美味しいなんて、初めてだわ」
 実は予約のついでに最高級の豆を用意してもらったのだが、その辺りは秘密である。さりげなく、しかし豪華に、が今回の趣旨だ。
「喜んでもらえて嬉しいよ。自分一人で思いつければ、尚良かったんだけどな」
「そんなことないわ。孝平は、とにかく私を喜ばせるのに一番の方法を探してくれた。結果も、間違いなく最高だったわ。胸を張って、ほらほら!」
 何度か背中を叩かれて、俺はわざとらしく胸を張る。瑛里華は必要以上に笑ってくれて、俺も釣られて笑いに笑った。
「でも、これはある意味すごく困ったわね……」
「なにがだ?」
「私がここまで喜ばされたら、孝平の誕生日がちょっとやそっとじゃ見劣りするじゃない」
「普通に祝ってくれたら、それで構わないよ」
「いーえ、絶対に負けないんだから。覚悟してなさい」
 妙なところで張り合うのが、いかにも瑛里華らしい。意地っ張りというのではなく、こうして何事にも一生懸命になる方が楽しい、というのが瑛里華の生き方なのだ。
 そして、そんな彼女に俺は惚れた。今、その彼女が隣に居てくれる。
「分かった。楽しみにしてるよ」
 今でも十分過ぎるほどに幸せなのだが、それでも瑛里華が考える最高以上の最高とはどんなものか、今から楽しみでならない俺なのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/06/08(月) 06:35:00|
  2. FORTUNE ARTERIALの二次創作

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