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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

逃げ道などない(FA 千堂兄妹SS)

 一ヶ月あまりも顔を見ていない。正直疎ましく感じる事はあるが、騒がしい人なだけに完全に見かけないとなれば寂しくもなる。
 一番大切な人は孝平だけど、最も長い間私を守ってくれていたと言えなくも無い、たった一人の兄だ。邪魔だと口に出して言おうとも、一生顔も見たくないとまで思った事は過去に一度も無かった。
 そんな事が口に出して言えるのも、何を言っても本当には嫌われないという信頼の裏返し。
 以前なら、素直にそんな事を認められなかった事だろう。愛する人と日々接し、兄さんの顔を見られない日々が続いて、そして自然に思うようになったのだ。私は、あの人を好きだと。
 ――もちろん家族として、という意味で。



 コン、コン、コン、と三回。軽快に叩く。リズムに期待感が現れていたかも知れない。
 目の前には、兄の部屋の扉。元・生徒会長とはいえ一介の学生、寮内ではいくらでも見られる何の変哲も無い扉だ。室内だって内装以外に大した違いは無い。
 孝平という恋人が居るのに、兄に会うのがそんなに嬉しいのかと自問自答してみる。
 まあ、仕方ないのだろう。家族に会うくらいで怒る孝平じゃないし、怒らないからといって気にしないでいい訳じゃないけれど、絶対に大丈夫。彼ならむしろ、心配して会う様にと強く背中を押してくれるだろう。
 少しくらいは妬いてくれるだろうか。そうなったら、悪いとは思いつつきっと嬉しい。
 兄を尋ねてきたというのに孝平の事ばかり考えていると、瞬く間に数分が過ぎた。しかし、反応はまだ無い。
「居ないのかしら」
 無意識に漏れた呟きを、すぐさま否定する。途中で会った征一郎さんから、先程別れて部屋に戻ったと聞いているのだから、疑う余地は無い。
 居ても、会いたくないのかも知れない。
 そう考えて、もう一度だけ、あと一分だけ様子を見ようと扉を叩く。
 すると、今度こそ扉の鍵を開ける音が聞こえた。
「あの、兄さ――っ」
 声をかけようとした瞬間、私は闇の向こうから伸びた手に引き込まれ、扉の向こうへ連れ込まれた。



 Another View 千堂伊織

 最近の自分がおかしい事は自覚している。
 その原因も分かっている。
 原因を遠ざけ、事態の沈静化を計った。もう少しで卒業できる。此度の学院生活は楽しかった。ちゃんとした形で終わりたい。
 無事に終わってくれると、信じた。250年続きながらも優しく幕を閉じた運命に、自分も救えと願った。
 しかし、何も変わらない。この身体を変えるチャンスを自ら捨てたのだから。この状況は、つまり俺が選んだのだ。誰が助けてくれる訳も無い。
 それに、彼らは助けられたのではない。自らその困難な道を選び、掴み取った現在なのだ。
 ――感覚が鋭敏になる。人外の、化物としての自分に無意識にスイッチを入れている。瑛里華の部屋のある方向へ、意識が飛んでいる。
 遠く離れた場所に居ても、息遣いまで感じ取れた。だから、この部屋へ向かってくる時もそれが分かった。
 逃げようとした。だが、身体が言う事を聞かない。ただ顔を見たいと、存在の全てが熱狂する。
 扉の向こうに、居る。声が、聞こえた。背筋に悪寒が走る。同時に、全身を快感が貫いた。
 ああ、早く。俺が、俺でいるうちに。ここを、立ち去って、くれ――。

 Another View END



「……え?」
 私は混乱していた。
 部屋の中に連れ込まれ、そのまま乱暴に床に組み敷かれて。
 見上げたすぐそこには、真っ赤な瞳で息を乱す兄の姿。
 吸血行為を目にした事はあった。でも、我を忘れた獣の様な姿など、見るのは始めてだった。いつも軽薄な笑みを絶やさないだけに、暗く濁った血のように赤い瞳は体の芯まで凍えさせるに十分な圧力を感じさせた。
「にい、さん、よね……?」
 目の前に見慣れた顔が有り、それでもなお信じ難く問いかける。
 私の言葉がどう作用したのか知らないが、彼の全身が大きく震えたかと思った直後、反対にピタリと硬直した。
「兄さん、どうして、何があったの……?」
 聞いたのは、答えが分からないからではない。どうしてこんな事にならねばならないのかと、信じられない感情が漏れ出たのだ。
 理由など分からずとも、自分もその衝動に襲われた事があるからこそ彼の状態だけはよく分かる。
 血が吸いたいのではない。特定の誰かを、渇望する。人、そのものを欲する。そのための行為として、血を求める。
 だが実際には、血を飲ませる。永久に、血だけでない全てを得る為に。
 でも分からない。何故、この人が私を――?
「え、りか……」
「にいさ……にいさんっ!」
「えりか、え……りか……っ!」
 耐えている。この人は、これ以上に何かを望む自分を抑えている。
 なんという精神力だろうか。私は、この衝動がどれほど激烈なものかを知っている。望む結果に後一歩の求道者、或いは全てを失い気力までも奪われた自殺志願者。それらを思い止まるより、更に重い本能と感情の絡まりあった重すぎる枷。
 思うほどに衝動は強くなり、思うからこそ耐える。しかし同時に耐えかねる。悪夢のような連鎖。
 行動に移す時点で、既に物語の終焉を意味する。
 それなのに、現にこの人は耐えている。
 耐えられるのは、一秒前よりもっと大切に思うから。その書き換え作業は、しかし終わる事無く無限に続く。
 ただ、やはり無限に耐えられるものではない。
 そして、人となった私は吸血鬼たる兄の腕力に抗う術など持たない。
「い……いや……せっかく……なのに……」
 その衝動の行き着く先は、やっと逃れた永遠という名の檻。
 兄に責任は無い。責めてはいけない。何も考えずに部屋を訪ねた、この私が悪いのだ。そう分かっていても、涙が滲むのを、声が零れるのをどうしても抑え切れなかった。
 どうしようも、ない。誰のせいでも、ない。そう自分に言い聞かせながら、私は全身から力を抜いた。
 諦める訳ではない。でも、責められない。自分だったらと考えたら、有難くて涙が出る。
 ああ、そうか。この涙はきっと、嫌だからじゃなくて。
「ごめんなさい。ごめんね、兄さん……」
「いいや、十分だろう」
 背後から声がした。え、と思った時には身体に掛かる重さが消えている。代わりに、部屋の奥で重い衝撃音。
「せい、いちろうさん……?」
「悪いがな、瑛里華」
「……はい」
 私は何を言われるまでもなく強く頷き、そして立ち上がった。
「まだ何も言っていないのだが」
「聞くまでも無いでしょう。なんでもするわ」
「兄の為に、か」
「愛する兄さんのために、ね」
 一瞬、複雑な表情を見せた征一郎さんは、しかしすぐに頼もしい笑顔を見せた。
 あまり見られない表情に、私は強がりでなく笑ってしまう。
「いいか。俺は奴の眷属ではあるが、恐らく命令されなければ戦う事は可能だ」
「倒すんですか?」
「それでも構わん。伊織は吸血鬼だ、死にさえしなければ問題は無い。が……無理だろう」
「無理?」
「ああ。奴は俺より強い。肉弾戦ではなく優れた武器が有り、状況が整えば無傷でしとめる事も可能だが、あまりに状況が不利だ。狭所での力技で、眷属が純粋な吸血鬼に勝利する事など有り得ない」
「加えて、外に出す訳にはいかないんですね」
 私は肩越しに背後を振り返り、確認しながら呟く。案の定、部屋に入ってきた時点で征一郎さんは鍵を掛けていた。もっとも、兄さんが本気でこの部屋から出ようとすれば窓どころか壁に大穴を空けての脱出も可能であろうから、気休めに過ぎないが。
 ――いや、常に用意周到な征一郎さんの事だ。何か特別な処置を施した部屋だという可能性もある。更に部屋の主も協力したとすれば、いかにもありえそうな話だ。
「賭けだった。伊織はどうしても卒業すると聞かなかったからな。だが、俺の眼からは到底間に合う様には見えなかった。それに、完全に出会わないなど無理だろう。特に卒業式当日は」
「だから、さっき私を止めなかったのね」
 彼は黙って頷いた。
「耐えられるなら良し、無理ならば何らかの形で決着をつける。伊織とて、こうなっては具体策も無しに吸血鬼のまま学院に残るなどとは言わないだろう。瑛里華、お前が去ると言い出すだろうからな」
「あ、あはは……」
 無いとは言えず、有るとも言えず。私は誤魔化すように乾いた笑いを返すのが精一杯だった。
「ともかくだ。俺が時間を稼ぐ間に、お前は言葉を考えろ。半端では逆効果だ。突き放すほど楽になる」
 やはり、そうなるのか。私は気が滅入りそうになりながらも、黙って頷いた。
 今は迷っている時ではない。吸血鬼や眷属について、私より詳しく頼りになる人が目の前に居るのだから、反発して足を引っ張る理由など無かった。
「ところで、兄さんだけど。……立ち上がるの遅くない?」
「む……」
 征一郎さんは困ったように唸る。私はそこで初めて、ちらと彼の腕を見た。
 その手に握られた巨大な木槌には折れた釘が無数に刺してあり、血染めどころではなく多量の肉片がこびり付く非常にスプラッタな状況。
 流石に呆然と見つめる私に、気まずそうな征一郎さんは珍しく額に冷や汗を滲ませている。
「いつもの瑛里華のツッコミを見ていて、容赦は要らんと思ったのだが。慣れない事をするものではないな」
「いや、あの、征一郎さん……?」
 確か武器は無いのではなかったか。いや、きっと優れた武器ではないんだろう、これは。征一郎さん的に。
 この人、実は非常に危ない人だったのかしら。シスコン以外の意味でも。
 ともかく事態は一時的とはいえ収まったのだと知り、私は全身の緊張を解いたのだった。



 Another View 千堂伊織

「んもう。しっかりしてよね。これでも、時と場合によって仕方なくとはいえ、それなりに信頼してるんだから」
 呆れたように言った瑛里華は、何処からどう見てもいつも通り。
 ――あの後、目が覚めた俺はまず輸血パックから大量の血を飲ませられ、その間中、瑛里華から罵詈雑言の雨を降らされた。
 もちろん俺を思っての行為だが、あながち嘘でもなかっただろう。幸い、そういったネタに困った試しがない。
 言いたい放題の結果スッキリしたのではなく、そもそも理解があったらしい。怖い体験をさせたというのに、俺が落ち着いてからは瑛里華に責める様子は一切無かった。
「もう怒らないのか?」
「怒ってるわよ。何の相談も無かった事をね」
「……すまん」
「いいわよ、もう。ただし、今後は関係者全員と一緒に色々考えていくのよ。私たちが、そう決めたんだから。いいわね?」
「私達、ねぇ……」
「もちろん私と孝平、だけじゃないわよ」
「分かってるさ。千堂家の諸々に関わった皆で、だろ? ……それは分かった。有難い事だ。が、一つ腑に落ちない」
「なに?」
「瑛里華も、征も。どうして他の誰にも話さない? どうして、俺に人間になれとか、学院を去れと言わない? 自主性に任せている場合でもないだろうに」
「分からないのか」
 それまで黙っていた征が口を挟む。俺が素直に頷くと、呆れたように溜め息を吐いた。
「お前、実は不幸が趣味なのか」
「東儀の頭首にだけは言われたくないね」
「もう、兄さん。本当は分かっているんでしょう?」
 愛しい妹の苛立ちを暖かく見つめながら、そこに暗い感情が混ざるのを確認する。それは怖い、が。
 以前は半信半疑だった、妹への愛情を確認出来るものだから。捨てたくないと、そう初めて自覚する。
「何かに縛られるのを、自分で望む事はある」
 昔に戻りたいのかと、そう問いかける二人に対して、俺は胸を張ってそう言った。
「だとしても、逃げ道は用意しておいてね」
「お前は進むしか能が無いからな。周りはいつも苦労する。まあ、いつもの事だがな」
 気遣ってくれる家族の様な二人に抱きつき、俺は力いっぱい抱き締めた。
「ちょっ、兄さんくるしっ……!?」
 眷属である征はともかく、瑛里華が苦しそうにしている。目を白黒させている様子が可愛い。はは、可愛いときたもんだ。
 子供の頃と同じ純粋さか、それとも女としてか。更に一歩進んだ感情の分析は、まあ今後の課題としつつ。
「そういう細かい事は、お前達に任せるよ。頼っていいんだろう?」
 二人は呆れたように息を吐くのみだったが、その表情はどこまでも暖かだった。

 Another View END



 空は祝福するように晴れ渡り、見事に咲いた桜に見送られながら、六年生は無事卒業式を終えた。
 悠木先輩も、征一郎さんも。お世話になった他の先輩方も、みんな。
 でも、やっぱり。
 他の先輩方には申し訳無いけれど。
 色々と憎まれ口を叩いてきた兄さんの顔が見られなくなる事が、私にとって一番辛かった。
「本当に、行っちゃうの?」
 今日くらいは素直になろうと、寮近くの欅があった場所で物思いに耽っていた兄さんに声をかける。
 ――あれから、兄さんに押し倒されてから。やはりというか、私たちは会う事が無かった。卒業式の当日にまた会おうと、そう決めていた。
 久しぶりに会ったというのに、また。もっと長い間、声を聞くどころか手紙のやりとりすら無くなる。1年や2年で済むかも分からない。一生、会えない可能性すらある。
「ああ。お別れだ」
 振り向いた兄さんは、儚げに笑っていた。
 我が兄ながら容姿に優れているので、凄く絵になる。格好つけない方が格好良いんじゃないかしら、と場違いな事を考えてしまう。
「意外と大丈夫そうじゃない」
 見た目はともかく、内情はどうだか。会う条件は、征一郎さんが止めに入れる場所に居ること。それは見送られなかったので、やはり大丈夫という事は無いのだろう。案の定、兄さんは私の視線を避けるように目を伏せた。
「今にも、飛び掛りそうだ」
「……そう」
 追い詰める事はしたくない。だから私は、怖がるでもなく、必死に食い下がるでもなく、素直に事実だけを受け入れた。
「また、いつか戻ってくるのよね?」
「会いたく無くなったら、会いに来るさ。その時に、お前達がこの島に居るかは知らないがね」
「そういう事なのは分かっているけど……。ややこしいわね、もう」
「ははは。まあ持病みたいなもんだ。少なくない数の人間が、同じようにそうして問題を抱え、折り合いをつけて生きている。三桁に届くような年齢なら尚更、歳相応って事だな」
「早く何とかしてね。死ぬまで会えないなんて、そんなの許さないんだから。私は長くても、あと100年なんて生きないのよ。自分が長生きだからって、絶対に忘れないで」
 茶化すかとも思ったが、兄さんは真剣な表情で頷く。
「孫を抱くくらいはしたいからね。頑張るよ」
「兄さんは兄さんなんだから、甥か姪でしょう?」
「瑛里華だって、俺には妹というより娘みたいなものだよ」
 実際、そういう面もあったのだろう。征一郎さんから色々と話は聞いている。兄さんがその様に決着を考えているのなら、と私は異論を挟まなかった。
 ――吸血鬼である母と、その眷属である紅瀬さん。また、兄さんの眷属である征一郎さん。彼らは人間ではないから、どんな感情を向けようと衝動は生まれない。私より、彼らを大切に思う様にと自らを作り変える。
 繰り返し自己に刷り込んでいく以外に無い、気の遠くなるような作業。それを強く自覚するために、関係を一度リセットする。少しだけ遠い存在になるために、関係性を自覚する記号を変える。
 そんな必要があるのは、自分がそれほど大事にされてきたという証明だった。親となって子離れも同時にするというのは、やっぱり私を大事にしてくれている、という意味もある。
 それでも、やっぱり寂しい。千堂伊織は消えなくとも、私の兄さんは、どこにも居なくなってしまう。
「ねえ、兄さん……?」
「分かってるな。そう呼ぶのは、これが最後だ」
「最後、だから。お願い……ねぇ……お兄ちゃん……っ!」
 まだ友達の一人も居ない一人ぼっちだった頃の様に胸に縋り頬を濡らす私を、兄さんは優しく抱きながら頭を撫でてくれる。
 遠い昔、幼子の頃の記憶と重なる温もりに包まれて、私はいつまでも泣き続けた。
「やれやれ。仕方の無い妹だな」
「だって、だって……ぐすっ……」
「恋人に見られたら、誤解されるぞ?」
「孝平は、分かってくれるもん……」
「オアツイねぇ」
「孝平が居るから、私はきっと大丈夫だから」
「ああ」
「でも、大切なのは一人じゃないから。いつまでも、待っているから。だから、だから……」
「ありがとう。瑛里華」
 記憶も定かでない遠い昔の記憶と重なる、確かに父親の様な笑顔で兄さんは笑ってくれた。
 情けないとは思うけれど、もし私が泣いたお陰であるのなら、それは大きな意義が有ったのかも知れない。



 彼はその日のうちに珠津島を後にした。次に会える時があるとしたら、兄さん――伊織さんは大きく成長している、という事になるのだろう。
 私も負けてはいられない。再会の時は泣いたりせず、今度こそ私の笑顔で祝いたいから。恐らくは孝平と、そして子供達と一緒に。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/13(水) 00:21:18|
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