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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

妹(麻巳&エリスSS)

「竹内先輩、お久しぶりです」
 突然呼び出され上倉邸にやってきた私は、玄関でフランス留学中のはずの鳳仙さんに出迎えられた。
 陽光みたいに明るい色の金髪はフランスへ渡る前と同じ長さのまま、その髪を両側で飾るリボンだけが赤色に置き換えられている。局所的に育っている部分は別として――少なくとも首から上は殆ど同じなのだが、印象としては随分大人びて見えた。
「久しぶりね、鳳仙さん。会えて嬉しいわ」
 私はぎこちなく挨拶を返しながら、彼女に促されるまま敷居を跨ぐ。
 週に2~3回は訪れる部屋だというのに、迎え入れてくれる相手が違うだけで酷く勝手が違った。まして相手が鳳仙エリスとなれば仕方が無いのだろう。
 フランスで新たな出会いをいくつも経験してきたからか、私より幾分余裕を感じるものの、やはり彼女のそれもどこか不自然な笑顔に見えた。天真爛漫に見える彼女でも、さすがに多少は思う所があるらしい。
「一応、時間は空けたつもりですけど。やっぱり簡単に元通りとはいきませんよね」
 照れ笑いのような表情を浮かべながら、彼女は誤魔化すように後ろ頭を掻く。その仕草は、義兄――浩樹さんに少しだけ似ていた。
「そうね。でも、仕方のない事だし、恥ずかしい事ではないはずよ」
 そう応じつつ、私も無意識のうちに似たような反応を返していることに気付く。揃って目を見合わせ、そして自然に笑いがこみ上げてきた。
 彼女にとって、それは明確な言葉にする必要は無いはずだった。ただ、仮面を被った関係になどしたくないので、その事にも軽く触れておく、という事だろう。
 本当の意味で親しく付き合っていくためにと、自ら進んで重い一歩を踏み出してくれた彼女に、感謝の意思を表したかった。今度はこちらからと、私は自らの手を差し出す。もちろん、彼女は快く握手に応じてくれた。
 親愛の情が変わらぬ事を確認すると、彼女は嬉しそうに表情を蕩けさせた。どんな分厚い心の壁をも容易く融かしてしまう、変わらぬままのあどけない笑顔に私も思わず笑みが零れる。いつの間にやら、再会直後のぎこちない空気は雲散霧消していた。
 そもそも、私たちはお互いに対して好印象の方が強かった。親しくもしていた。無理にでも近づけば、それほど時間もかからないという事だろう。――彼女が今日、せっかく水入らずが楽しめる場面に私を呼んだのも、きっとそのためだ。
 仲良くしたい、と思ってくれるのは素直に嬉しいし、私もそう思っていたから、ここは先輩として応えて見せねばなるまい。
「今日はとことんまで聞くわよ。一年も遠慮していたんだから」
 意識して、部長として培った雰囲気を醸しつつ上からという風に言ってみる。すると、彼女は一年前にはあまり見られなかった挑戦的な笑みを浮かべた。
「お互い様なんですから、先輩だって覚悟が必要かも知れないですよ?」
「恥ずかしくても、辛くても、ヤキモチ焼いても。今日は話すし聞くわよ。今日だけ、とことんまでね」
 芝居ついでで大げさに胸を叩くと、彼女は乾いた笑いを漏らしつつ、お手柔らかにと念を押してきた。
 靴を脱いでスリッパに履き替え、リビングに向かう間の短い会話。それだけで、これほどまでに肩の力を抜いて話せているのは、もしかしたら浩樹さんが狙って彼女に出迎えさせたからかも知れない。もしそうなら、天然とはいえ流石と言う他なかった。
「よう、麻巳。よく来たな。もう出来るから座っててくれ」
 リビングに通されると、キッチンに篭もっていた浩樹さんも顔を出して迎えてくれた。我が彼氏ながら、エプロン姿が一番魅力的なのはどうなんだろう。見るだけで嬉しくなるのだから、文句を言う筋合いなどないのだが。
 作っている料理は、どうやら匂いからしてビーフシチューだと推測される。私と鳳仙さんの共通の好物だ。ちなみに『誰かさんの作った』という限定での好物なのだが。
「う~ん、さっすが和牛は香りが違うねぇ……」
 食い意地が張っているのではなく、あくまで彼の料理が美味しすぎるだけで――などと、私が心のなかで誰に対してか分からない言い訳を並べている間に、鳳仙さんは鼻をヒクヒク動物みたいに動かしながら夢見心地で呟いた。せっかくの美少女ぶりが台無しだ、と私は詮無いことを心配してしまう。
「チョットマテ。エリス、お前どうしてそれを知っている」
「え~? だって、匂いで分かるよ普通」
 何より嗅覚が成長してそうな義妹に戦慄する浩樹さんと、そんな事は気にも留めず好物の匂いだけでふわふわしている鳳仙さん。
 彼女の相変わらず緩い部分を微笑ましく思うと同時に、自分が割って入った事で二人がギクシャクなどしていない事に何より安堵を覚える私なのだった。



「お兄ちゃんはね……ぱくもぐ……本当に竹内先輩を……はぐもぐ……大事にしないといけないんだから」
 食事開始からしばらくは夢中で食べていた鳳仙さんは、咀嚼の合間にそんな事を言いながら一皿目を平らげ、即座にオカワリを要求する。
 浩樹さんは素直に皿を受け取り、慣れた手付きで二杯目の皿をいっぱいにして渡した。
 食いしん坊な義妹が来るからと業務用の大きな鍋一杯にビーフシチューを作ったという話だが、この調子ではそれでも果たして足りるかどうか。
「なんだ、藪から棒に」
 のんびりとお茶を啜ってから、浩樹さんはそう言った。会話のテンポとしては異様に長い間だが、勢いよく食事中の鳳仙さんにはこれが普通なのかも知れない。
「ほら、これだもん。美術部ならみんな知ってるのに、本人だけは鈍感なんだから」
「ちょっと、鳳仙さん。まさかアレを言う気じゃないでしょうね……?」
 不安に思い遮ろうとした私に向けて、鳳仙さんは有無を言わせぬ笑顔を返した。
「恥ずかしくても、辛くても?」
「……話すし聞きます、とことんまで」
 それを持ち出されては、もはや反論の余地は無い。
「とことんまで♪」
 楽しげにそう付け加え、とろとろになるまで煮込まれた和牛肉の塊を口に頬張り、ゆっくりと味わい飲み下してから鳳仙さんは改めて話し始める。
「お兄ちゃん、私が入学した頃にはもう、やる気無かったよね。一年近くもそんな状態で、名門の美術部から退部者が続出さえして、クビにならないのを不思議に思わなかった?」
「いや、まあなぁ……。後任が見つからなかったんじゃないのか」
「仮にも撫子学園の美術教師ですよ。やりたがる人はいくらでも居る、というか順番待ち状態ですよ」
 溜め息交じりの私の言葉に、浩樹さんはう~んと唸る。まだ分からないらしい。
「ここで問題です。もし、そんな顧問を快く思わない『成績優秀』『人格者』『水彩の悪魔』と三拍子揃った部長が理事長に直談判したら、どうなったでしょうか?」
 最後のだけは加えないで欲しかった……。しかし、触れると余計に弄られるに違いないので、私は忍耐力を総動員し何とかスルーする。
「まあ、クビだろうなぁ」
 私の葛藤などには全く気付かぬまま、浩樹さんは他人事のように答えた。
「じゃあ、どうしてそうならなかったの?」
「麻巳がそうしなかったからだろ」
「他の人がするでしょ。部長だって、事情を聞かれるよ」
「むぅ……」
「ここで二つ目のヒント。部長が、全く逆の行動をとったらどうなるでしょう?」
「逆って……擁護するって事か?」
 浩樹さんがこちらに言葉を向けた。私は何故か申し訳ない気持ちになりながら、小さく頷く。
「先輩はきっちりした人で、駄目な人は放っておけずに怒るけど、そんな人もちゃんと中身を全部見て評価してくれる。好きになってくれる。最初で全部を決め付けないで、いつも相手より一歩多く踏み込んで、より良い関係を築こうとしてくれる。そんな人だから……お兄ちゃんとよく似た魅力を持つ人だから、私もお似合いだなって思って。他の誰かならともかく、部長ならって。お兄ちゃんを幸せにしてくれると信じられるから応援しようって、そう決めたの」
「エリス……」
 気付くと浩樹さんは、涙を溢れさせながら鼻を鳴らしていた。娘の成長を喜ぶ母、といったところだろうか。兄でも父でもなく咄嗟にそう思ったのだが、何だかピッタリな気がした。
「そうは言っても、十年越しの思いだからね。ちゃんと立ち直るには、凄く大変だったけど」
 えへへ、と無理に笑ってみせる鳳仙さんも、今にも涙を溢れさせそうに見えたが、何とかそれを堪えてみせた。
 完全に吹っ切れた訳ではないのだろう。だが、少なくともフランスでの生活を経て、自分の気持ちに何らかの決着が見えたのは事実だと思う。だからこそ今、彼女はここに居るのだ。
 次は私の番だ。応えなくてはならない。先輩として、ライバルとして。
「今度は私の話も聞いてくれる?」
「うん。……でもその前に、お兄ちゃんオカワリ」
 一瞬前が幻かと疑いたくなる元気一杯の要求に、私と浩樹さんは揃ってズッコケそうになった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/04/03(金) 21:30:37|
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