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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

ある朝の出来事(麻巳SS)

 もはや親公認で――の割に正式な婚約もまだなのは我ながらどうかと思う――そういう意味で問題は無く、嘘を吐いて通っているという訳でもない。今更言うまでも無く放任主義な両親は、私の人を見る目は特に信じてくれているし、実際に浩樹さんを見て知っているから、恥ずかしながら色々とバレてはいるものの怒られはしないのだ。
 もちろん父は拗ねたりしていて、相手をするのが面倒ではあるものの、むしろ興味津々の母の方が厄介なくらいである。今更何も無いとは信じてくれないだろうし、それは仕方の無いことだとも思うのだが、まさか詳細を語る訳にも行かず私は逃げの一手だ。それも含めて、母には遊ばれているだけな気もするが。やはりあの人には敵わない。
 ――まあ、そんな訳で。私は昨日も大学帰りに浩樹さんの部屋へ寄って、そのまま朝を迎えてしまった。


 ベッドの中で身体を起こす。まだ太陽の位置はそれほど高くない。なのに、目尻を擦りながら身体を起こすと、隣に浩樹さんの姿は無かった。
 それでもまだ、愛しい温もりが残っていないかと彼の寝ていた場所に頬を当ててみる。
「……?」
 あれ、と思って手でも擦ってみる。冷たい。
 改めて時計を見ると、まだ六時半だった。ぐうたらな――特に鳳仙さんが居なくなってから、保護者としての義務感が無くなったせいか遅刻ギリギリに起きる事の多い彼にしては珍しい。
「というより、おかしいわ……」
 あまりに意外な出来事だったので、思わず思考が口から漏れてしまった。
 しかし、何があるという事も無いだろう。早朝に目覚めて、そのまま寝付けないという事は私も経験がある。それで絵でも描いていてくれれば理想だけれど――。
 ともかく私は起きて、まずは顔を洗うことにした。


「浩樹さ~ん?」
 部屋から出て、リビングの方向へ呼びかけてみる。間を開けずに返事が返ってきた。
「なんだ、目が覚めたのか。後で起こしてやろうと楽しみにしてたのにな」
 声と同時に本人も顔を見せる。彼はすっかり身なりを整えていた。
「今日は何かあるんですか?」
「ああ。美術部の特別講師が来るんだとさ。言ってなかったか?」
「聞いてませんよ。もう、そういう大きな予定は報告してくださいと、いつも言っているじゃないですか」
「すまんすまん」
「それで、誰が来るんですか。また柳画伯ですか?」
 それともまさか鳳仙さんとか、と言おうとした瞬間。
 彼は私を指差して、
「なんと、竹内麻巳画伯だ」
「……はい……?」
 意味が飲み込めずに呆ける私を差し置いて、彼は腕組みしながらうんうんと大袈裟に頷いて見せた。
「さすがは理事長。まだアマチュアとはいえ桜花展銀賞の大物新人だからな。プロから学べるのはもちろんだが、確かにこういうのも有りだろう」
「きっ、聞いてないですよ!?」
「だから忘れてた。すまんな」
「だって、今日は大学の講義もあるんですよ!? 聞いてないから何も準備なんてしてないし――」
「お前、普段から絵の描き方教えたりしてるだろ。俺より余程上手いぞ。準備なんて要らんだろ」
「そんな、責任の無い立場とは訳が違いますっ! ああもう、ええと、そうするとアレとアレとアレをああして……準備が一杯で間に合わないわ。とにかく一度家に戻らないと」
 何より、こういう場合はどんな格好で行くかが大問題である。こうしては居られない。とにかく着替えないと。顔を洗う時間すらも惜しい。
 ――焦って部屋へ戻ろうと振り返った私の襟首を、浩樹さんが後ろから摘んだ。
「なっ、なにしてるんですかっ。ふざけてる場合じゃないでしょう!?」
「いや、あのな。ええと、こんな急で授業なんて出来るのか?」
「やるしかないなら、仕方ないじゃないですか」
「いやあ、しかしだな。俺も始めての授業は酷いもので――」
「受けていましたから、嫌というほど知っています。良い先生が来たぞーって、皆に言いふらして恥かいたんですからね」
「いや、その、それはすまなかった」
「もういいです。私自身の未熟が招いた事ですから。一人で舞い上がる癖は直さないといけませんよね。――それはそれとして、そろそろ離してもらえます?」
「だから、その、な。大変だろう、授業をいきなりとか」
 なんとも歯切れの悪い台詞に、私はようやく不信感を抱く。
 持たれていた寝間着の襟を強引に引き離して振り返ると、私は疑わしい目で浩樹さんを見上げた。
「ちなみに私、色々と事情があって美術の授業を教えるのとか、考えているんですよ。だから準備さえ急げば何とかなります」
 淀みなく言った私とは対照的に、彼は誤魔化すように視線を逸らし、何やらそわそわしだした。
「今からなら、その、断る事も出来ると思うんだが」
「当日にそんな事をしたら迷惑です。特に浩樹さんには大迷惑でしょう? そんなのは嫌ですから、私が頑張ります。それで済むじゃないですか」
「そ、そうは言ってもだな……」
「ところで、理事長は本人にも大学にも話を通さずに全て上倉浩樹個人に丸投げするような人物でした?」
 精一杯目に力を込めて、顔が触れ合いそうなくらい詰め寄る。すると彼は観念したように唸ってから、
「……すまん。本当は麻生画伯が来るんだ」
 案の定、彼は項垂れながら白状――って、ええっ!?
 同じ道を歩む人々と比べて極端に少ないであろうが、私にも尊敬する画家というものは居るのだ。プロではないながら上倉浩樹――つまり目の前の彼が一番ではあるものの、それに次ぐくらいの人だ。
 何より私は現在の完成度より好みで絵を選ぶ傾向があるので、過去のゴッホより今の浩樹さんや麻生画伯の方が上なのである。――え、柳画伯? そういえば昔は好きだったな……じゃなくて。
「う、嘘はいけませんね」
 ともかく、そうとなれば話は変わってくる。
 自分で言うのも何だが、私は真面目な生徒だ。しかし大学は高校時代より授業の融通は利くし、何より美術の大学に通っておいてプロ画家とお近づきになれる機会をスルーなど矛盾もいいところである。
 つまり、選択の余地など無い。
「反省してます」
 座り込み、正座しながらしょんぼりと見上げてくる浩樹さん。年齢を考えるとシュール過ぎるけれど、これが愛する人だと可愛く見えて許してしまいそうになるから不思議だ。
 でもここは、簡単に折れてはいけない。
「要りません」
 私は理性を総動員して、あと少し赤くなっていそうな顔を隠す意味もあって、顔を背けた。
「いや、こういうのは可愛い麻巳の反応をだな――」
「言い訳になりませんよ、そんなの」
「……じゃあ、どうすればいいんだ?」
「嘘を現実にしちゃいましょう」
 ピンッと元気良く指を立てつつ、私は力強く言いきった。


 その後、慌てて顔を洗い、歯を磨く。
 そうしながら、ふと気付いた。昨日、脱衣所の洗い物籠に入れておいた衣服一式が無い。一時限目の授業が無い日だから、朝のうちにここで洗おうと考えていたのに。夜のうちは、つまりその、色々と忙しかったし――。
 とはいえ、細かい事に拘っていられる状況でもないか。そう思って忘れかけたその時、リビングの方から浩樹さんの声が響いてきた。
「こっちの準備は出来たぞー。一度家に帰るんだろ。付き合うから急げよ」
「は~い」
 応えながら、ふと気付く。
「しかし歯磨き一つに随分時間かけるなぁ。昨晩の事を考えれば、当然といえば当然だが」
 もちろん、軽いセクハラトークなんてどうでもいい。
 私は荒々しくうがいをして、口の中の歯磨き粉を洗い流してからリビングへ飛んでいった。
「ん、どうした。そんなに慌てて」
「――浩樹さん、まさかとは思いますけど」
「ああ、もしかして洗濯物のことか。ついでだから洗っておいたぞ。俺も麻生画伯となると興奮してたのか、早く目覚めて暇だったしな」
 少しは埋め合わせになったとでも思っているのだろう、彼はニコニコしながら得意気に言った。
「そっ、その、もちろん服だけですよね……?」
 せめて、それだけならと。私は一縷の望みに賭けたのだが、
「心配するな。ブラもショーツも、靴下だって染み一つ無くピカピカだ。ほれ」
 彼が気軽に指差したのはベランダ。そこには、私のお気に入りの白いワンピースと、薄ピンクの――いわゆる勝負下着が、朝の爽やかな風に吹かれて小さく揺れている。
「あのですね、浩樹さん」
「どうした……って、本気でどうした!? 今の会話でどうしてそうなる!?」
 俯きながらプルプル震えている私に怯えてか、彼の声にも震えが混じる。
「乙女の下着に、手を触れましたね……?」
「いや、その、な。もう見慣れているし、良いかと思ったん――」
「……見慣れてる? それは、見飽きてるということですか」
「違う、違うぞ、まずは落ち着け。つーか乙女ではないだろ、どう間違ってもっ!」
 この期に及んでお約束のツッコミとはさすがである。もちろん、私は聞く耳を持たないが。
「そういう倦怠期の夫婦みたいな関係になるのが嫌だから絶対禁止だって言ったじゃないですかああああああああああああっっっ!」
 私の絶叫が朝の平和な空気を切り裂き、夜明け直後の空に大きく響き渡った。


 で、その後。
 長々とお説教した挙句、二人揃って大遅刻し、麻生画伯に日本古来の低く低く頭を下げすぎた姿勢で謝ったのは、また別の話である。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/04/01(水) 00:00:00|
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