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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

猫姫様(麻巳&朋子SS)

「この公園には猫姫様の伝説があるんですよ」
 二月も終わりが近いある日の事、喫茶店・やどりぎにて。竹内はメイド姿のまま、休憩時間に俺を半ば強引に店の前の公園へと連れ出した。
「なんだそりゃ。猫又か何かか?」
 適当に質問をぶつけてみるが答えはなく、ただ意味深な笑みを返される。
 仕方なく誘われるままついていくと、小さな丘のようになっている芝生の真ん中を占領する一団を目撃した。
 一団、といっても人間ではない。野良猫が集まってにゃーにゃーと大集会である。ただし、真ん中で懐かれている奴だけは種族が大きく違う――というか、人間だった。真っ黒なゴスロリのフリフリドレスに身を包んだおさげ髪の少女が、スケッチブックにひたすら絵を描いている。
 もちろん『猫の一団』にコイツを加えるのには相応の理由が有った。その頭には猫の耳、スカートの裾からは尻尾まで覗いている。
「なるほどな」
 もはや説明されるまでもない。猫に囲まれた猫姿の少女。これが猫姫とやらでなければ、一体誰がそうだというのか。
 そんな猫姫様は、猫に囲まれほっこりした表情で眺めたり、真剣な表情で絵を描いたりと本人なりには忙しそうだ。
 やはりこの姿は、猫の警戒心を解く為のアイデアなのだろうか。
 アレで猫が猫と認識してくれるとはとても思えないが、幾分残念な要素をも併せ持つ文学少女なので、或いは本気なのかも知れない。実際に猫も寛いでいるし、少なくとも警戒心を解くのには多少の効果はあるのだと主張されれば、真っ向からの完全否定は難しいところだ。
「彼女、猫を描かせたらちょっと凄いですよ。それでよく猫を描きにここへ来るんですが、餌をやりながらモデルにしていたら、いつの間にか集まるようになってしまったんだとか」
「やけに詳しいじゃないか。知り合いだったのか?」
「いえ。鳳仙さんを間に挟んで、お互いの存在くらいは知っていましたけど」
「という事は、出会いはここだったのか」
「はい。私も店の常連さんから話を聞いて、休憩がてら様子を見に来たんです。本物の猫と同じで最初は人見知りされたんですけど、この格好が幸いしたらしく、色々とお話を聞いたり……」
「なるほどな。恥ずかしい格好同士で馬が合ったのか」
「さりげなく失礼な人ですね。まあ分かってましたけど」
 やれやれ、と肩を竦める竹内。――と、そこで険のある声が割って入った。
「何しに来たのか知らないけど、わざわざ邪魔しに来た挙句に無視されてるあたしの立場は?」
 歩きながら話していた俺たちは、ハッとして前を向く。
 すると、とっくに猫姫様の目の前に到着していて、その姫はといえば大層ご立腹であそばされた。
「え~と、なんだ。久しぶりだな」
「一昨日の部活前に、エリスちゃんと一緒に会ったばかりでしょうが。ホント薄情な奴だわ。分かってたけど」
「……よく覚えてるな」
「アンタと違って若いだけよ」
「二十年も経てば大した差じゃなくなるな」
「ふっ、ふん。アンタとそんなに長く付き合ってやる義理なんて無いわ」
「そりゃ残念、っと……」
 座っている猫姫様の背後に回り、描いている絵を覗き見る。
「へえ……」
 多少デフォルメされた可愛らしい小動物は、毛皮まで丁寧に描き込まれていて、レベルの高い撫子美術部員の絵を見慣れている俺にとってすら感嘆の声を漏らすほどだった。
「な、なによ。勝手に見てるんじゃないわよ」
「上手いじゃないか。驚くに値するぞ、これは」
「そりゃ、猫ばっかり描いてますから? ――他はからっきしだけど」
「そういうのも道としては有りだと思うぞ。特に猫なら、それなりの需要はある。本気で将来を考えてみたらどうだ。美術部に顔を出すなら歓迎するぞ」
「そ、そんなに良いかな。この絵……?」
 照れ隠しなのか、しきりに頭のネコミミを触る姫様。
 見ていると得体の知れない感情が湧き出してきて、何かがしたくてムズムズしてくる。――もちろん竹内の目の前でそんな事を出来る筈がないので、無理矢理にでも我慢だ。
「か、かなり良いと思うぞ。ところで可愛いな、その耳」
「え、そ、そう、かな?」
 驚いたように目を見開き、継いでもじもじしている姿は非常に危険である。ああ、頭撫でたい。
「あらあら、二人だけでズルイわね。私も仲間に入れてくださいな」
 そこで竹内が割って入り、サッと姫様のネコミミを奪って頭に付けた。
 すると奪い返そうとするかと思いきや、姫様は尻尾も自ら外して竹内に渡してしまい、平然と新しい一組を取り出す。この落ち着きぶり、いつもの事なのだろうか。
 最初の、今は竹内が身に着けるネコミミと尻尾はシャムネコ。後から出した、今は姫様が付けている一組はアメリカンショートヘア。片やメイドネコミミ娘、片やゴスロリ猫姫様。オマケに周囲には寛ぎまくっている猫の集団。
 なんという異次元。本気でなんだこれは。平日の公園が何時の間にこんな不思議空間に?
「まさに猫マニアだな」
 俺はどう反応すればよいやら迷った挙句、こんなマニアックなアイテムを複数持ち歩いている姫様に、お約束のツッコミを向けてみる。
「うるさいわね。アンタに批評される筋合いは無いってのよ。あたしはあたしの道を行くの」
 するとこちらもお約束でプリプリしてくれたので、平和そのものの日常にホッとしつつ冷静さも取り戻せた。
「そんな他人の道を一緒に歩むのも、たまにはいいかもな」
 よっ、と座って、俺は持参したスケッチブックを取り出した。
 竹内も隣に座り、同様にスケッチブックを開く。もちろんネコミミと尻尾は付けたままである。
「ね、猫を描くの……?」
 俺が鉛筆を走らせると、隣でアメリカンショートヘア姫にクラスチェンジしたゴスロリ少女が呆けたように尋ねてくる。
「いけないか?」
「う、うん……じゃなくて、その、別に好きにすればいいんじゃないの。あたしには関係ないし」
「そうする」
 なんだか知らないが、お許しを得られたらしい。
 深い意味など考えず、俺は適当な猫を選んでスケッチを始めた。



 先生を挟んで逆側に座った竹内先輩が意味深な笑顔を浮かべているが、無視しておく事にした。この男にまで気付かれ、からかわれるのは御免だ。
 ――確実に、彼女は気づいているのだろう。エリスちゃんとは別の意味で聞き上手な竹内先輩が相手で、しかも猫に囲まれてのお絵かき中となると、どうしたって口が軽くなる。以前に、ついついお兄ちゃんの絵の話をしてしまった事があった。聞き上手の麻巳ちゃん、とかなんとか言っていたから、面目躍如といったところか。
 もちろん、そんな事情までは話していないのだろう。その辺の気遣いもさすがである。
 そんな彼女だが、どうやら先生に気があるのだろうとあたしは見ている。恐らく間違いではあるまい。自分が思いを寄せる男に同じく惚れている、ライバルとも同士とも取れる相手なのだから、何となく分かる。
 こんな時、普通は嫉妬しても良さそうなものだ。しかし、竹内先輩はこうして気を使ってさえくれるのだから、あたしなどとは根本的に器が違う。
 こちらの性格からして、この場をぶち壊しにする展開も大いに有り得た。彼女も分かっているはずだから、拒絶すら覚悟の上でこの場を提供してくれたのだろう。このあたしに、そんな思いを踏みにじれるほどの覚悟があるわけでもない。受け入れるのは自然な流れというものである。
「まあ、思い出はきっと今に再現されても素敵なはずよね……」
「何か言ったか?」
「なっ、なんでもないわよっ。いいから、描くなら描くで勝手に集中してなさいよっ!」
「何を怒ってるんだ?」
「猫は気紛れなんですよ」
 竹内先輩が一言添えると、彼はアッサリ納得してスケッチに戻った。さすがは飼い主、羨ましいスキルである。猫メイドに飼われる美術教師、というのもなんだかよく分からない響きだが。
「まったく、先輩には敵わないわね……」
 女二人だけが全てを理解していて、本人だけが蚊帳の外である。実に良く出来た状況で、コイツらしい鈍感さは考えるほどに笑いたくなる。こんな面白い状況、拒絶するなど考えれば有り得ない話だ。
「どうした。やっぱり嫌だったのか?」
 漏らした呟きが聞こえたのか、先生が変に気を回してくる。あたしは自分でも驚くほど柔らかく笑みを浮かべながら、ゆっくりと首を振った。
「そんな事は無いわ。ホント、願ってもない」
「嫌に素直だな」
「言っておくけど、アンタに、じゃないわよ。先輩、教えるの上手なんだから」
 ここで絵を描くようになり、時々、向こう側に座っているメイドさんにコツを教わったりしている。それがあってこその今なので、何も嘘は無い。
「おいおい。その師匠だぞ俺は?」
「だからなに? どうせ先輩が1教わって100学んだだけでしょ。偉そうにしないでほしいわね」
「ぐぬぅっ……!」
 わざとらしく悔しそうにする先生を、私は更に鼻で笑ってやった。そうして偉そうにしていれば、素直にお願いもし易いというもので、あたしは踏ん反り返りながら言い足す。
「ま、でもね。完成した絵くらいは見てやってもいいわよ」
「言ったな。度肝抜いてやるから楽しみに待ってろよ。……何しろ俺の絵はな、その昔、二人の病弱引きこもり少女を快方に向かわせた、それはもう有難いものなんだ」
 何気なく飛び出した言葉に、私は驚いて目を見開いた。
 先生も私の反応が意外だったのか、きょとんとしている。
「ふた――り? エリスちゃんだけじゃないの?」
「ああ。今までうろ覚えだったんだが。昔、エリスの他にもう一人居たんだよ。俺の絵を喜んでくれた奴が」
 いや、まだだ。まだ喜ぶな。だって、他にも居るかも知れない。こういう奴だから、無意識のうちに手当たり次第女の子をその気にさせて――
「猫を見ていて思い出した。そいつは、猫を描いてやると一番喜んだんだよな」
 ああ、間違いない。思い出してくれた。いや、覚えていてくれた。
「そ、そうなんだ。それで、その子、今はどうしてるの?」
 胸を高鳴らせながら、とぼけた問いを口にする。ああ、この時が来るだなんて。彼があの時のお兄ちゃんだと気付いてからこっち、もう何もかも諦めていたのに。
「さあな」
 ――諦めて、あれ?
「知らないの?」
「名前も知らない。何処から来て何処へ行くのか。幻だった、と言われても否定は出来ないところだ」
 あたしはすっくと立ち上がり、利き足を大きく大きく振りかぶった。そして、
「なんでじゃーーーーーーっっっっ!」
「――っ!?」
 後頭部に迫った蹴りを、彼は頭を抱え込む様に下げて間一髪の回避に成功する。冷静に考えれば虚弱で運動神経ゼロの人間が放つ蹴りなどそうそう当たる訳は無いのだが、ここは当たるのが人情というか、男気というか――。
 ともあれ渾身の一撃を外したあたしは、当たる筈だった蹴りが外れたお陰でバランスを崩し、よろけた所で標的の頭を鷲掴みにしながら何とか耐えた。
「どうしてそこで避けるのよ!」
 顔が熱い。彼の頭から手を離しつつ、誤魔化す意味もあってあたしは必要以上に声を張り上げた。
「どっかの誰かがイーゼル振りかぶるよりは鋭さが足りんので身体が勝手に避けてくれた――じゃなくて、いきなり何をする!?」
「乙女の純情踏みにじった罰よ!」
 気付けば周囲の猫達は、さすがに逃げ出してしまって一匹も残っていない。自業自得とはいえ、考えなしに短気を起こす自分に落ち込みそうになる。
 そんな気分を収める為にも、ふんっ、と荒々しく息を吐きながら大人しく座り込むあたし。どちらにしろ、二度目の蹴りは風情が無いのでやる気など無い。それより、せめて聞いておきたい事もある。
「それで。その子を探してみようとは思わないわけ?」
「確かに会えれば嬉しいが、そこまで深い関係でもないだろう。とはいえ、もし偶然に出会えたとしたら、そういう運命的なのは悪くないな」
 そんな言い方をされれば、女の子の立場では頷くしかない。
「まあ、元気にしていてくれればそれでいいさ。出来れば絵を描いて――いや、好きでいてくれればもっと嬉しいけどな」
 分かっていないからこその、とぼけた願望。
 くすくす、と二人の女だけがしたり顔で笑い合う。
「大丈夫ですよ、上倉先生」
「そうね。きっと今、この瞬間にだって楽しく絵を描いてるわよ」
「なんでそこまで分かるんだよ」
 二人の女は顔を見合わせ、そして。
 楽しげに調子を合わせ、竹内先輩のお決まりとなった指をピンと立てるポーズで、
『それは秘密です♪』
 声を合わせて言った後には、やはり互いを見合いながら笑い合う。
 一人だけ置いてきぼりを食らった先生は、それでもやはり釣られるように笑って。
 しばらく経つと、楽しげな空気を感じてか戻り始めた猫達のスケッチを再開するのだった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/02/27(金) 00:34:03|
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