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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

二人だけのバレンタイン(桐葉SS)

 今までは縁の無い一日だったが、今年からは孝平も恋人と共に過ごすことが出来るはずだった。
 前日になっても桐葉は素っ気無かったが、陽菜や瑛里華と何やらコソコソと集まっているらしいので、何も言わず期待して待つことにした。
 そして、バレンタイン当日の早朝――。



 まだ外は暗く、間違っても起きる時間ではない。だというのに目が覚めた理由はといえば、実に単純だった。
 ベッドが軋む音がして、実際に揺れもして、そして目の前には何者かの気配。息遣いまで聞こえそうな距離に、誰かが居る。
 孝平が恐怖に近い感情を抱きながら目を覚ますと、目の前には月明かりに照らされて女神のように美しい顔が輝いていた。
「き、桐葉……?」
 孝平は息を呑み、見惚れてしまう。それだけの言葉を紡ぐのもやっとだった。
 対して、覆いかぶさるように見下ろしている桐葉は感情の見えない表情のまま、愛する男の名を呼ぶ。
「孝平」
「は、はい」
 出会った頃を思い出させる威圧感に、孝平は思わず敬語になってしまった。だが、それは拒絶からのそれではなく、あまりの美しさからくるもの。
 硬直し切った孝平に対して、あくまで平然としたままの桐葉がゆっくりと口を開いた。
「貴方は……人気があるわね」
「そ、そうかな? そうでもないような……」
「あるわ。間違いなく」
「いや、まあ……特別嫌われてはいない、と思うけど」
「謙遜も行き過ぎれば嫌味ね」
 貴方も綺麗とか人気あるとか言ったら即全否定じゃないですか、などとツッコミを入れる余裕は無かった。
 とはいえ何と答えればよいのかも分からず、仕方なく素直にその疑問を本人へ向けてみると、当の桐葉はその端正な顔を不思議そうに傾けた。
「私にも、何が聞きたいのか分からないわ。ただ、今日は好いた異性に告白が許された、つまり貴方がチョコレートを大量に貰う日だと聞いて、落ち着かないのよ」
「そ、それは嫉妬して頂いていると考えて宜しいので……?」
 こう言っては何だが、桐葉の奇行はそう珍しい事でも無かった。嫉妬心は愛情の裏返し、それならそれで嬉しくもあるのだが、ここでも桐葉はやはり首を傾げる。
「どうなのかしら。そういう感情も、あまりよく分からないわ」
「ちなみに、その話は誰から?」
「確認の必要は無いでしょうけど、」
 まあ、その通りだ。あの金髪兄貴は、相変わらず余計なことばかりしてくれる――
「悠木先輩よ」
 ――違った。以心伝心とはいかず落ち込む孝平を、桐葉はやはり不思議そうに見下ろしている。
「そ、それで本日はどのような御用向きで?」
 そういえば距離が近い、しかもベッドの上という状況を思い出し、孝平はそわそわしながら尋ねる。
 すると桐葉は珍しく言いよどみ、沈んだ顔になった。
「無理には聞かないぞ?」
 孝平としては、今日という日に桐葉が夜這いに来たという事実だけでも嬉しい。その言葉は本心からだったが、桐葉はそういう訳にもいかなかった。視線を逸らしながらも、重苦しく口を開く。
「貴方に、チョコを受け取るなとは言えないわ」
「言っても構わないぞ。喜んで頷きたい」
 桐葉のお願い。それも、嫉妬心からの我侭なんて最高じゃないか。むしろ、なんとしても言わせたい孝平である。
 しかし、桐葉は頑なな様子で首を振った。
「そうして縛るような行為には、私に抵抗があるのよ」
「――じゃあ、どうすればいいんだ?」
「貴方が自主的に受け取りたくなくなれば、問題無いわ」
 桐葉は持参した袋から何かを取り出して口に含んだ。珍しく悪戯っぽい笑みに変わっている表情を堪能しながら、孝平は目の前に迫る唇を素直に受け入れる。
 甘い感触と共に、やや苦みの強いチョコレートが口内に押し込まれてきた。愛しい女の口付けを味わいながら、共同作業でそれを溶かしていく。
 舌を絡めあうのは初めてではない。何度も繰り返してきた行為だ。しかし、他の目的を持ってのそれは初めてだった。
 時間をかけてチョコレートを溶かし切り、唇を離す時は互いに名残惜しさから溜め息を漏らしてしまう。
「なんだか、興奮するな」
「お気に召したと捉えても、いいのかしら」
「ああ。もちろんだ」
「それなら……」
 もちろん続きに突入だ。これで終わる訳が無い。そう考え、期待した孝平の予想はある意味で正しかったのだが、続きと言っても更にエスカレートする訳ではなかった。
 桐葉は新しいチョコレートを口に含み、顔を近づけてくる。また二人で溶かして、食べる。繰り返し、何度も何度もそれを続ける。
 決して嫌々ではない。嬉しいし、美味しいし、幸せだ。それでも、ここに立ち止まり続けるのは生殺しという名の拷問である。
 十回目のところで、孝平は桐葉の甘すぎる口付けを静止した。
「……私に飽きたのね」
「違う。それは断じて違う」
「冗談よ」
 笑われてしまった。もちろん桐葉の笑顔を見られるのなら、いくら笑われても構わないが――ではなくて。
「そろそろ先へ進まないか?」
「駄目よ」
「どうして? それこそ俺に飽きたのか?」
「美味しいのよ。とても」
「……チョコレートが?」
 本来の意味なら、それはおかしい。桐葉は眷属で、味覚が殆ど無いはずだ。
 もちろん桐葉はそれを否定するはずだったが、答えの代わりに強引な口付けで孝平の口内へとチョコを送り込んできた。
 それだけでなく、今まで以上に激しく舌を捻じ込んできて、殆ど桐葉だけでそれを溶かし切ってしまう。
 さらに、愛しい男の体液と混ざり合ったそれを、口から吸い出して迷い無く飲み込んだ。
 妙に艶かしく動く喉元に、孝平の目は釘付けとなる。とろんとした目で見下ろしてくる桐葉の妖艶さは、本番の時をも軽く上回っていた。
「美味しいのは、貴方よ」
「断れないな、こりゃ」
「それなら、嫌になるまで食べてもらうわ」
「嫌になんてなってたまるか」
「なら、勝負ね」
 今日の桐葉は実に楽しそうに笑う。
 眷属であるから、本気の競い合い自体があまりない。こう見えて負けず嫌いな桐葉だから、勝負事が嫌いなはずもなく、純粋に勝負として楽しんでいる面もあるのかも知れない。
 かくして孝平は、いつ終わるとも知れぬ甘い闘争へと身を投じるのだった。



 朝のHR前の時間、自分の席で机に突っ伏している孝平に、美化委員の仕事を終えた陽菜がやってきた。
「孝平君、チョコレートなんだけど」
「悪いが勘弁してくれ……」
「そ、そうなんだ」
「いや、嬉しいぞ。嬉しいんだぞ。ほんとだぞ?」
「う、うん」
「でも、もうチョコなんて見たくも無いんだ。俺が貰っても無駄にしてしまう。だから、ごめん。受け取れない」
「……紅瀬さんに、一杯貰ったんだ?」
「ああ。凄かった」
 本当に、色んな意味で凄かった。
 最終的には『眷属の本気』まで発揮された舌使い――もとい口移しはもちろん、あれやこれやの『私を食べて』な作戦の数々は、どちらかというと控えめな性格をしている桐葉からは想像もつかない桃色天国ぶりだった。思い出すだけでご飯二十杯は軽く平らげられる。
「でもチョコだけは勘弁だ」
「……でも?」
「いや、気にするな。とにかく、そういう訳ですまん」
「辛かったのか?」
 興味を持ったのか、珍しく早く来ていた司が会話に入ってくる。
「いや、甘かったよ」
「手作りだったんだよね?」
 一緒に作ったのかも知れない。陽菜から確認するように尋ねられ、孝平は頷いた。
「ちゃんと美味かった。激辛とかのオチも無し。桐葉は料理も出来るし、当然といえば当然だけどな」
「じゃあ、どうして撃沈してるんだお前さんは。むしろ甘すぎだったのか?」
「味は絶妙だったと思う。まあ、甘すぎかと問われれば、そうなんだろうな……」
 数十分前まで続いていた行為に思いを馳せると、ついつい顔が緩みそうになる。慌てて引き締める孝平なのだが、二人は不思議そうにそれを見ている。
「とにかく、すまん。暫く放っておいてくれ」
 チョコの食いすぎで苦しい。だが、チョコプレイはまたお願いしたい。もちろん絶世の美女を食べ過ぎたのは本人進んで、喜んでである。現在の胸焼けも、それを思えば幸せの勲章みたいなものだ。
 胸の苦しさは恋の証。それを思えば幸せなのさ、と表情とは正反対の事を考えながら崩れ落ちる様に再び机に突っ伏す孝平。
 ちらりと背後の席を盗み見ると、張本人であるはずの桐葉は知らん顔で読書の真っ最中だった。
「……っ」
 ――だったのだが、ちらりと前に視線を向けた桐葉と目が合う。どうやら読書はカモフラージュ、照れ隠しであるらしい。
 孝平は自然と顔がにやけてしまう。それを見て、桐葉が睨んでくる。フリーズドライはどこへやら、えらく可愛らしい視線だった。
「紅瀬さん?」
 そんな不自然な桐葉の様子に気付いたのか、陽菜が声を掛ける。ビクッと肩を震わせる桐葉。
 不意打ちに驚くなんて初めて見たかも知れない。今日という日に浮ついているのは、どうやら男ばかりではないらしかった。
 しかし陽菜の用事は違ったらしく、鞄から小さな包みを取り出して桐葉へと差し出している。
「孝平君は大変みたいだから、これを後で渡しておいてもらえないかな?」
 一瞬、桐葉の表情が空白になった。本気で意味が分からなかったらしい。
 しかしそれも文字通りの一瞬で、すぐさま普段通りの表情を作ると平静を装って答えた。
「……構わないけど。孝平はごらんの通りだし、受け取るかどうか保証は出来ないわ」
「うん、そうかも知れないけど。私だけのプレゼントじゃないから、受け取ってもらえないと困るし」
「そんなこと、私は知らないわ。決めるのは孝平よ」
「それなら大丈夫だよ。孝平君の好みは分かるし、チョコなら飽き飽きかと心配して和菓子にしたから」
 和菓子イコール白ちゃん、イコール桐葉の弱点。
 用意していた完璧な作戦を軽々攻略された桐葉は、珍しく言葉が思いつかないほど混乱して押し黙っている。ここまで動揺する姿は、誰より身近に居るはずの孝平ですら初めてだった。
「じゃあ、お願いね」
「え、ええ……」
 断り切れずに和菓子の包みを受け取る桐葉。途方にくれながら孝平の背中へと視線を移し。
 その背中が、小刻みに震えているのを確認すると。
 おもむろに机の中から国語辞典を取り出し、立ち上がり、そして目の前の男の後頭部へぶん投げた。
「ごへっ!?」
 激痛の後、そっと机の上に置かれる和菓子の包み。添えられたカードには、お茶会メンバーの名前が添えられている。
 桐葉にも秘密で、皆で用意したものらしかった。白だけではない、桐葉にとって『孝平の一番の友人』であるこの集まりは、白個人を越える最大の弱点でもある。だからこそ、怒っていても扱いは丁寧だったのだろう。
「悠木さん」
「はっ、はい!?」
「保健室で休ませて貰うわ」
「せ、先生には伝えておくから」
「お願い」
 普段は足音一つ聞こえないはずの桐葉が、やけに強い音を響かせながら去っていく。
 ――強制睡眠が本当かどうかは謎だが、拗ねてしまったのだけは間違いないだろう。
 桐葉の優しさを馬鹿にしたのだから当然だった。流石にやりすぎた。
 こうなってしまうと、もはや胸焼けだろうと後頭部の激痛だろうと臥せっている場合ではない。
「陽菜悪い、もう一人分報告頼む」
 飛び起きていきなりの孝平の言葉でも、陽菜は分かっていたように笑顔で頷いた。
「頑張ってね」
「ああ。桐葉もとびっきりの笑顔で帰ってくるから、期待してくれ」
「それは楽しみだね。凄く期待してる」
「無理すんなよ。命あっての物種だぞ」
 その他、教室中からの暖かい声援(主に女子)と一部呪い染みた視線(ほぼ男子)を背に受けながら、孝平は桐葉を追って保健室へと向かった。
























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/02/18(水) 01:29:29|
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