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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

半泣きツリ目系(オリジナル) 第一話

 幼馴染の篠座紅子は、一緒に過ごした幼児期から高校に入るまでの十数年間、実にぼんやりとした少女だった。
 自分が話題の中心であるのにボーッとしていて聞き逃したり、何もないところで躓いたり。細かいウッカリの例を上げればキリがない。とはいえ、それだけならまだ良かった。
 義務と感じる事柄には集中し過ぎてしまう性質で、だから学生の義務だと考えている勉強には異様なまでに熱心。
 必然的に学業優秀、運動も生まれつき(球技を除けば)得意。加えて、本人がコンプレックスに感じる程に目尻がクッキリ上向いていて、容姿だけを見れば『性格は少々キツそうだが、いかにも優秀なクールビューティー』だ。
 つまり優秀であるが故、その人当たりが冷たく見える容姿が故に、普段のボンヤリがクールに見えてしまう。ただ聞きそびれたから聞き直しただけでも、不機嫌そうに見えてしまう。そもそも人見知りだから、慣れない高校生活も友達が出来るまでは殆ど自分から喋らない筈だし、話さないから尚更友達も出来ない。
「で、クラスで慕われてはいるけど、どちらかというと一目置かれている感じで普通の友達が出来ないと」
「うん……」
 中学時代は、幼稚園から一緒に育った連中がいくらでも居た。だから学年が変わり新顔が増えても、本性はいずれ周囲全てに伝えられ、理解してもらえた。
 しかし高校ともなれば話が違う。それでも同じ高校へ行く友人が普通なら居るものだ。
 普通なら居るものなのだが、繰り返すが紅子は極めて頭が良い。そして義務感が強い。親の期待もあって、地元で一番の進学校へ入った。知り合いもゼロではないが、残念ながらクラスは別。
 俺としては男の知り合いが居るよりは(別の意味で)安心なのだが、さりとてコイツを放置する不安が拭える訳でもない。
「まあそのうち分かるだろ。隠せるほどピンとしてられないからな、紅子は」
 幼馴染として、ずっとそのボンヤリのフォローをし続けてきた俺だから分かる。コイツは義務となれば頑張るが、それでも人格を偽れる程には――つまり24時間どころか学校に居る半日の間さえもたない。どこかで必ず緩む奴なのだ。
「でもね、頑張らないといけないから、ボンヤリは出来ないの」
「なんだよそりゃ。どうせそのうちボロが出るだろ」
「だから、出せないの」
 誰の目にも勝気に見える顔が更に俯き、泣きそうに歪む。慣れていてもアタフタしそうになる表情だが、こっちまで冷静さを失えば収拾が付かなくなるので、俺は湧き上がった感情をグッと飲み込んだ。
 それにしてもコイツときたら、なんと無防備なのか。幼馴染とはいえ思春期真っ只中の男子中学生の部屋に突撃してきて――そう、コイツはこう見えて俺より一つ年上なのである。じゃなきゃ危なっかしくて誰が一人で進学校なんぞに行かせるものか。目下のところ俺も同じ高校を目指して猛勉強中だが――ベットの上に枕を抱きしめながら座っている。
 座っているその姿勢も意識して目を逸らさないと以下略な制服姿で、しかも抱きしめている枕は普段俺が使っているもので、つまりそのなんだ。非常に危ないのである。




Sketches and company(ブタベストさん)


「それで、何がどうなってボロが出せないんだ?」
 無意識の行動に何を反応しているのか。さり気なく頭を振って余計な考えを追い出しつつ促すと、紅子は目尻に浮いた涙を拭いながら告白する。
「たっくん。私ね、委員長さんになったの」
「お、思い切ったな。まあ良い傾向だし、頑張れ」
 ちょっとした危機感。子供が親の手を離れて行く、嬉しいのと共にそれ以上に感じる寂しさ。加えて得体の知れない焦燥感を感じながらも、俺は辛うじて平静を保つ。
 そんな俺の反応を不思議そうに眺めながらも、紅子は嫌々をする子供みたいな仕草で首を振った。
「違うの。立候補が誰も居なくて、先生が決めたの」
「へ?」
「しっかりしてそうだから、って」
「お前な。だから言ったじゃないか、そういう時は背中を丸めてろって」
「だって……。それは、身体に悪いんだよ」
 そんなだから俺より背が高いんだ。いや、俺が低いのもあるけど。
 160cm台後半で年上の紅子と、165cm強の一年遅れな俺。コイツが少しくらい小さく見せてくれなければ、一緒に並んで街を歩けないじゃないか。
 いや、コイツに不満をぶつけるのは筋違いか。何が何でも俺の背が伸びなければならない。早くコイツの背を追い越して告白しなければ。そうすれば、コイツだって少しは心強く思ってくれるはずで――。
「どうしたの、たっくん?」
「いや何でもない」
「話して。私はお姉さんなのに、たっくんに助けられてばかりいるから。今日も、聞いてくれただけで凄く助かったんだよ?」
 何も助けになってやれなかったのに、そんな事を言われたら逆に困ってしまう。
 しかし、どうやら義務という名のスイッチが入ってしまった様子だった。そうでもなければこんな積極性を見せるわけがないので間違いない。先程までの情けない姿が嘘のようにキリリと目尻を吊り上げながら身を乗り出してくる。こういう時のコイツは、生まれつきの容姿にぴたりとハマって、有無を言わせぬ迫力があった。いわゆる保護者的なやつだ。
「俺がもう少し背を伸ばしたい、なんて今更言っても意味がないだろ」
 こうなっては頑として聞かない紅子だから、この場を収める為にはそう答えるしか無かった。背が伸びないから告白出来ないのだから、嘘という訳ではない。
 嘘ではないし、どうしようもない問題だから引き下がってくれるだろう。そう期待したのだが、紅子はますます真剣な眼差しになって詰め寄ってくる。
「お姉さんの目は誤魔化せないのよ。嘘じゃないけど、全部じゃない。そうでしょう?」
「どうして、こういう時に鋭いんだ」
「どんな時?」
「いつものだよ。分からない振りしろよ」
「……っ。そ、そうなんだ」
 長い付き合いだから、知られてしまうアクシデントも何度か有った。俺の気持ちは、正式では無いにしろ既に伝わっている。こういう言い方をすれば、こちらの気持ちを察して紅子はいつも引き下がってくれた。
 真っ赤になったほっぺたを冷ます様に掌を当てながら、紅子はまたベットに腰掛ける体勢に戻る。先ほどと違うのは、抱えている枕に顔を埋めている事くらいか。……あれ、今晩も枕に使うつもりだったんだけどな。寝られるかどうか不安になってくる。
「あ、あのね」
「なんだよ」
 照れ隠しくらいの意味しか無いが、少々険のある声が出てしまった。小心者の紅子はビクリと肩を震わせたが、それでもめげずに言葉を続ける。
「たっくんは、その、どうして背が要るって思うの?」
「男だから」
「それだけ?」
「理屈じゃないんだ。俺は守りたいから、もちろん出来る限りあらゆる意味で強くなるけど、誰からも強く見える様にだってなりたいんだよ。目の前の人参が有った方が早く到達出来るし、早く食っちまったら意欲も鈍るだろ」
 言ってしまってから、食うって表現は無かったな、と思い直す。
 幼い頃からベッタリで育ったせいで、見たくも無い――事もないが見てはいけないものも見てしまった経験は何度か有る訳で。若さから来る逞しい想像力が、事あるごとにそういった光景を脳裏に浮かばせる。もっと気をつけねば。
「私はね、いいんだよ」
 紅子が枕から顔を上げた。見たことも無い大人びた表情に、俺は思わず息を飲む。
「お前は関係無い。自分が、そんな半端は嫌なだけだ」
「うん。だから待ってるね」
 逃げる様に顔を背けた俺に向けて、まだあの表情でいるはずの紅子がそう付け足した。
 ――まったく。こういうやりとりは、この時期の男子には少々毒が過ぎる。本当にコイツは分かっているのかいないのか。ついに脱ぎ掛けの姿が脳裏に浮かぶが、俺は慌ててそれを掻き消した。
「とはいえ全裸じゃない辺りが所詮中学生ってなもんだが……」
「どうしたの。まだ悩んでる?」
「いや、その」
「ふふふ。でも我慢できなくなったら、少しくらい摘み食いしてもいいんだよ」
「なっ……!?」
「ほっぺたくらいなら、許されるんじゃないかな?」
 照れているのが俺ばかりなので、少し調子に乗ったらしい紅子がお茶目なつもりで言ったその言葉に。
 やっぱりコイツはお子ちゃまだ、と確認する事で俺はようやく平静さを取り戻した。
「まあ最悪でも一年の辛抱だろ」
「うん。頑張ってね」
 頑張るのはお前だ、と言おうとして、しかし考えてみればより深刻なのは確かに俺なのだった。何しろ、自分の学力よりだいぶ上の高校を目指すことになる。
「お前も耐えるだけじゃなくて、頑張って何とかしてみろよな」
 ちょっぴり言い方を変えてみると、紅子は嬉しそうに笑った。
 この笑顔をクラスでも見せてやれば、誤解なんてすぐ解けるのに。そう思わずにはいられない、目尻の下がりきった実に幸せそうな笑顔だった。




























 >おまけ
「たっくん、牛乳持ってきたよ。これ、おいしいんだって」
「なんだよ急に」
「背が伸びないと、その、駄目なんでしょう? だから……」
「あのな。お前まで飲んだら、もっと大きくなるだろ。俺が大きくなっても追いつかないじゃないか。むしろ縮んでくれれば少しは簡単なのに」
「でも、牛乳は身体に良いんだよ」
「今日くらい飲まなくても問題ない」
「……たっくんは、小さい方が良いの?」
「少なくとも、俺は小さい方が助かる」
 紅子が落ち込んで、自分の胸に手を当てている。
「いや、違うからな」
「え?」
「そこじゃなくて、全部だ」
「ここも……?」
「そこは、その、なんだ」
 調度良い具合だ。それを簡単には口に出来ない自分の小ささも背丈と同じ位に嫌になる。
 でもまあ口に出さずとも伝わるものは伝わった様子で、紅子は照れの混ざった笑顔を浮かべた。こういう時に何も言わないのがコイツの美点だ。
 何にか分からないが負けた気がして、でも目尻の下がった紅子の表情を見られた事だけは嬉しくて、まあ俺の方こそ今日位は良いかと思い直す。
「仕方がないな。一緒に飲もう。でも、今日だけだからな」
「うんっ」
 もちろん毎朝毎晩1Lずつ飲んでいる俺なのだが、今日は3Lに挑戦する事を覚悟するのだった。

























少しでも楽しめたら、押してみてくれると作者が喜びます。





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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/05/13(木) 23:51:12|
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