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竹内麻巳SS倉庫

Canvas2というゲームで、美術部部長の竹内麻巳のSSを掲載していく予定です。

Chapter 4-1

 土曜の昼過ぎ、私は予定通り早めに帰宅し、自宅の喫茶店で働いていた。
 レジを打ち、お客さんを見送ってから、テーブルに残ったカップをさげ、すぐ店内に戻り、テーブルを拭いて。
 ――そこで、軽やかな鐘の音が響く。お客様が来店した合図だ。私が小走りで店の入り口に向かうと、
「やあ、竹内」
 来店したのは上倉先生だった。気安い笑顔で挨拶してくる先生を、私は職業的な笑顔で迎える。
 それらはいつもの事だったが、今日はその後が少しだけ違っていた。
「いらっしゃいませ。お二人様ですね」
 私は内心の動揺を押し隠し、表情だけでも平静を装いながら言った。
「いや、とりあえず親しげな挨拶でも交わしてからだな」
 私の意図が読めなかったのか、先生は見当違いなことを言ってくる。
 もう一度、今度こそはと思いながら、私は語調を僅かに強めて言い直した。
「お二人様ですよね?」
「違うだろ、なあ、たけう――」
「お・ふ・た・り・さ・ま・で・す・ね?」
 私が先生の言葉を掻き消すように、彼の後ろをチラチラと見ながら言うと、ようやく後ろを振り向いてくれた。そこに居る金髪の少女を目にして、先生はやっと私の態度の意味を悟り、大げさに驚いてみせた。
「なっ――。なんでお前がここに居る!?」
「一緒に帰ろうと思って探してたの」
 そう気軽に切り返し、彼女は――鳳仙さんは、無邪気な笑顔で上倉先生の腕にしがみついた。
「もう逃がさないんだから」
「ちょ、お前……! 分かったから、とりあえず離れろ!」
 先生は慌てて注意するが、鳳仙さんは従う気配が全く無い。校外でまでいつもの押し問答を始める二人に呆れはしつつも、私は彼女の意識がこちらに向かないことに安堵していた。
 とはいえ店の入り口で騒がれても困るので、
「ではお客様、ご案内します」
 少し強めにそう言って、二人のやり取りを強引に終わらせる。そのまま歩き出す私に、彼らも慌てて付いてきたのだった。

 窓際のテーブル席に案内すると、二人は向かい合う様に座った。鳳仙さんは隣に座りたがったが、先生が強引に引き剥がして向かい側の席に押し込んだのだ。
 一応、先生は何も言わずに黙ってくれていた。約束を忘れて連れてきた訳でも無さそうなので、私も事故だと思って平静を装うことにする。
「ご注文は、いかがなさいますか?」
 常連さんは大抵座ってすぐ注文する。先生もそうなので、私は間を置かずに言った。
 鳳仙さんはすぐにメニューと睨めっこを始めるが、すぐに決まるものでもなさそうだった。
「えっと。そうだなぁ……。竹内部長、何かオススメとかってありますか?」
 鳳仙さんが、何気なく聞いてくる。
「そうですね、コーヒーなら何でもおいし……って、えぇっ!?」
 私は普通に答えようとしたが、続きは悲鳴のような声になってしまった。
 大げさなリアクションまで付けて驚き固まってしまった私の反応に、何か失礼をしたと思ったらしい。彼女は慌てて言い直した。
「すみません。えっと、じゃあ――竹内先輩?」
「そんな、あの……どうして?」
 訳も分からず聞き返す私だったが、
「……ぶっ」
 遂に吹き出した先生を見て、ようやく悟った。この人はきっと、後の展開を予想しながら、悪ふざけのつもりで放置していたのだ。
 静かな店内なので、先生は必死に笑いを押し殺すようにしている。しかし、しゃくり上げるのだけは止められない様子だった。私は突然の事態に思わず呆然とそれを眺めていたが、先生が落ち着いてくるのと同時に立ち直り、
「せ・ん・せ・い?」
 約束を破ったことへの糾弾の意味を込め、凄みを利かせて言った。
「いや、すまん。前に竹内が居ない時に来た事があってな。エリスが知らんうちについてきてて……。その時、ウッカリ言っちまった」
 先生は、顔の前で拝むように両手を合わせながら言った。
「そんな。それじゃまさか……!」
 私は最悪の事態を予想して顔を青くするが、先生はそんな私を落ち着いて宥める。
「まあ、まあ、とりあえず落ち着け。心配は無い、口止めなら俺がしといた。他人に話すなら本人の了解を取れ、その話をするのもこの店で部長に会った時だけってのがルールだってな」
「お兄ちゃんの言う事は分からなかったんですけど、とりあえず部長とお話してから、ということだけは納得したんです」
 鳳仙さんが後を継いで言った。
「ケーキ食わせたら、それだけは簡単に了承したんだよな」
 私が怒るよりもホッとしているのに安心してか、先生はからかうように言った。それに対し、鳳仙さんは不満そうに頬を膨らませる。
「もー、お兄ちゃん! それは言わないでっていうのに」
「そんな約束したか?」
「普通は言わないものなの!」
 二人の会話を聞きながら、私は密かに溜息をついた。
 秘密が概ね守られている様なので、この程度は仕方が無いと諦めよう。鳳仙さんなら茶化したりはしないだろうし、変な目でも見ないだろう。口が軽い、つまり信用出来ない人間でもない。
 それにしても、知っている人間がどんどん増えている気がする。人の口に戸は立てられないと言うが、今後も大丈夫だろうか。現に先生も漏らしてしまったわけだし。少し心配になってきた。
「あー、そうだ部長。エリスは食い物で釣っておくに限るぞ」
「そんな事ないもん。何も無くても、私は約束を破ったりしないよ」
「必死さが違うだろ。――なあ竹内、どうしても秘密にしておきたいなら、ここは買収しておくに限るぞ」
「……それで、自分にも寄越せという訳ですか?」
 私が呆れて言うと、
「よく分かってるじゃないか」
 先生は偉そうに胸を張りながら言った。
 教師が生徒に奢らせる、という図式に何も違和感を感じないのだろうか。確かにこの前、そうしたばかりだけど。
 ――と、そこまで考えて、私はイイコトを思いついた。
「先生、ここは半額という事で手を打ちませんか」
「何故に。それなら要らんし」
 アッサリ断る先生に、私は尚も続ける。
「――約束、破りましたよね。この前ケーキ食べたのに」
「…………」
 無言を返す先生だったが、私は彼の額に浮かんだ汗を見逃しはしなかった。それを強引に肯定と判断し、にこやかに告げる。
「半額で二つ、定価で二つの合計四つ、ショートケーキをご注文ですね。ありがとうございます」
「ちょっと待て。どうしてそうなる!?」
「鳳仙さんは、三つでも四つでも嬉しいわよね?」
 先生を無視して鳳仙さんに尋ねると、
「はい!」
 と、彼女は元気よく答えた。すでに食べる気満々、今にも涎を垂らしそうな勢いだ。いまさら何も無しとなったら色々と面倒そうな感じ。
「だ、そうですよ」
「いや、違うだろ。俺はお願いされる立場じゃないか」
「……先生がそういう態度なら、仕方ありませんね。信用出来ないなら全員に知られるのも時間の問題、ヤケになるしかないじゃないですか。桔梗先生に有ること無いこと話して差し上げてもいいんですよ?」
 ここは教頭先生や理事長代理と言うべきところを、私はあえて現実味のある相手を選んだ。この辺なら美術部の存亡に関わったりはしないだろうし、聞き様によっては冗談とも限らない。
「ちょ、ちょっと待てお前! 何を喋る気だ!?」
 果たして、私の考えは正しく先生にも伝わったらしい。彼は途端に慌てだした。
「仕事をサボって毎日のように喫茶店通い、そこのウェイトレスさんをナンパするのが日課。私も困ってるんです……という感じで」
 私が本当に困った顔で溜息混じりに言うと、顔色を変えたのは鳳仙さんだった。
「お、お兄ちゃん!? まさか部長のことが……」
「だーっ! エリス、お前も簡単に信用するんじゃない! 竹内も、捏造情報を垂れ流すような真似はやめろ!」
「あら、概ね事実だと思いますけど。来店する度に、私を雑談に誘うじゃないですか。そんなだから、父も勘違いするんですよ。分かってます?」
 捏造というより、印象を変えているだけ。事実は同じなのだから、嘘とまでは言えない。しかも、その印象は既に一人歩きを始めている事実であるから、完全に否定するのは難しいはずだった。
「ぐっ……!」
 私の鮮やかな切り替えしに、先生は苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る。すると、興奮した鳳仙さんが割って入った。
「ねえ、お兄ちゃん! どういうことなの!? 霧さんや朋子ちゃんや……さらにさらに可奈先輩や美咲先輩まで居るのに。それでも飽き足らず、部長にまで手を……」
 丁度いいので、私は彼女の言葉に乗ることにした。軽蔑するような目で先生を見ながら言う。
「それは聞き捨てならないですね」
「エリス、出鱈目言うんじゃない! 竹内もそんな世迷言を信じるな!」
 心外そうに反論する先生だったが、
「お兄ちゃん!」
「……先生?」
 猛烈な勢いで詰め寄る鳳仙さんと、冷たい笑顔が逆に怖い感じでプレッシャーを放つ私、二人で圧されてはさすがにかなわない。ついに観念したのか、先生は苦し紛れに言った。
「ええい、分かった。分かったから、ケーキの十個でも二十個でも持って来い!」
 やっと出てきた目的の言葉。その時を待っていた私は、もちろん見逃すことなどしない。
「かしこまりましたー。それではケーキ二十個ということで」
 私はにこやかに言った。急に笑顔になった私を見て、やっと企みに気づいたのか、先生は恐る恐る聞いてくる。
「ちょっと待て、お前らまさか……」
「ありがとー、お兄ちゃん」
 見れば、鳳仙さんまでニコニコしている。彼女には途中から分かっていたらしい。ともかく、私の悪巧みが達成された瞬間だった。
「お兄ちゃん。みんなとやけに仲がいいって、少なくとも美術部では有名な話なんだよ」
「先生モテすぎー、って男子部員が羨ましがってます。今更、そんな話の一つや二つで誰が慌てるんですか」
 呆れながら言う私と鳳仙さんに、先生は悔しそうに拳を握り締めた。
「くぅ……っ。生徒に手玉に取られるとは……」
「真面目に指導をしていない証拠ですね」
「お兄ちゃん、しっかりしないと。私たちも不良になっちゃうかも知れないよ?」
「もういい! お前らの話なんて金輪際聞いてやらん!」
 向こうを向いて頬杖を付き、完全にへそを曲げてしまう先生だった。
 さすがにちょっと悪戯が過ぎたか。反省するとともに、私は少し譲歩することにした。
「仕方ないですね。それでは、定価でケーキ二つ、というところで手を打ちますか」
 そもそも二十ものケーキが用意されていないので、さすがにその辺りは初めから冗談である。デザート系を頼むお客さんはあまり多くないので、うちのような小さな個人店舗に余るほど作っておく余裕など、あるわけが無い。
「鳳仙さんも、それでいい?」
「そうですね。食べ物の恨みは恐ろしいって言うし、そのくらいで許してあげます」
「……なんで最初より高い上に、そんな偉そうなんだお前ら」
 そっぽ向いてたくせに、話は聞いていたらしい。先生がこちらを見もせずに呟いた言葉を聞き逃さず、私は言った。
「その程度で渋るからです。ちゃっちゃと払わないなら、もっと重くなっていきますよ?」
「雪だるま式の借金みたいな言い方するな。分かった、俺の負けだ。ケーキ二つとコーヒー二つ、両方とも適当なの持って来い。お前が選べ。あとはもう知らん」
「かしこまりました~」
 ご機嫌斜めなままの先生を気にもせず、私は笑顔で答え、注文を伝える為にさがった。
 まあ、どうせコーヒーとケーキを出せば、先生のご機嫌はものの数分で逆転する。何だかんだで兄妹揃って食い意地が何にも勝るところが、いかにも血筋という感じがして面白い。
 遠くから見ていても、二人が楽しそうに言い合いをしている様は、美術部の風景をここに持ち込んだ感じがして、何だか不思議な気分だった。気持ちがふわふわして、足取りも自然と軽くなる。だというのに、心のどこかで暗い呟きを聞いた気がして、私は自問自答した。もちろん、そんな要素はどこにも無い。きっと気のせいだろう。
 暫くして父のコーヒーが出来上がると、用意していたケーキとともにトレイに載せて、私は二人の元へそれを運ぶ。
 コーヒーを出す時、それはいつもの事なのに。常に変わらず幸せそうな表情を見せてくれる先生には、何を出しても私にとって楽しみな瞬間だった。






























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テーマ:二次創作 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/04/04(水) 03:05:09|
  2. 第四話
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